第34話 第3回・裏サミット開催 ~議題:検索アルゴリズム操作による「デジタル隠蔽工作」~
それは、配信が終わった直後のこと。 ルルが「夢だったのかなぁ」と納得して眠りについた頃、ネットの深淵にあるチャットルーム『第3回・裏サミット』には、重苦しい空気が流れていた。
管理者・リョウタが、疲れた様子で口火を切った。
『リョウタ: ……さて。反省会を始めようか』 『リョウタ: まずは「犯人」だ。 ルルちゃんが投稿した動画を、勝手にハリウッド映画レベルの神動画に加工したのは誰だ?』
チャットルームが一瞬静まり返る。 そして、一人の人物が淡々と挙手(アイコン表示)した。
『admin: ……私だ』
『リョウタ: やっぱりお前か! 何をしたんだ!』
『admin: 弁明させてくれ。 昨夜、サーバーのログを監視していたら、ルルから動画ファイルがアップロードされた。 中身を確認したところ……画質は720p、フレームレートは不安定、配色は色彩理論を無視したものだった』
adminは、技術者としての苦悩を語った。
『admin: ……耐えられなかった。 私の管理するネットワークに、そんな「非効率なデータ」が存在することが許せなかった。 だから、Nebula Corpで開発中の「次世代AIレンダリングエンジン」を、ほんの少し通しただけだ』
『リョウタ: 「ほんの少し」で、フリー素材が3Dホログラムになってオーケストラが流れるか!』
『admin: AIが「投稿者の意図(理想)」を読み取り、最適化した結果だ。 まさか、ピクサーを超えるクオリティで出力されるとは……計算外だった(少し自慢げ)』
『ミケ: フン。素晴らしい出来だったぞ。ワシは感動して、関連会社の広報部に「このクリエイターを囲え」と指示を出しかけた』
『名無し: 私も! 「すごすぎる新人発掘!」って拡散しちゃった! ……でも、それがマズかったのよね』
『リョウタ: そうだよ! 朝起きたら「世界トレンド入り」しかけてたぞ! 「正体不明の天才美少女」とか騒がれて、特定班が動き出してたじゃないか!』
ルルは平凡な一般人だ。 もし、あの動画がきっかけで身バレしたり、あるいは「実はAIで作らせた」とバレて炎上したりすれば、彼のガラスのメンタルは粉々に砕け散る。 「身の丈に合わない評価」は、時として凶器になるのだ。
『カゲ: ……ええ。ルル様が有名になるのは良いことですが、有象無象の薄汚い視線に晒されるのは許せませんわ。 ましてや、「特定」などさせてたまるものですか』
ここで、事態を収拾した「実行犯」たちが口を開いた。
『リョウタ: で、あのバズりまくってた動画を、一瞬で「なかったこと」にしたのは?』
『admin: ……それも私だ。 検索エンジンのアルゴリズムに介入し、当該動画のURLを「検索除外」指定した。 どんなキーワードで検索しても、一般層には絶対にヒットしない設定だ』
『フクロウ: 私も手を貸しました。 総務省のサイバーセキュリティ部門を通じて、主要SNSの運営会社に「不具合による表示エラー」として、トレンドからの削除を要請しました。 ……「国の要請」となれば、彼らも動かざるを得ません』
『名無し: 仕上げは私! 「さっきの拡散、間違いでした~!」ってツイートして、さらに大量の自撮り画像を投下してタイムラインを流したわ。 ファンの意識を、動画から「私の可愛さ」に逸らしたの』
『ドクター: 見事な連携だ。 デジタル、政治、群集心理……三方向からのアプローチで、情報は完全に「封印」されたわけだ』
リョウタは天井を仰いだ。 検索エンジンの操作。国家権力によるトレンド削除。トップアイドルの情報操作。 ルルの「うっかり投稿」一つを消すために、この国の情報インフラが総動員されていた。
『リョウタ: ……やりすぎだと言いたいところだが。 今回ばかりは、ナイス判断だったよ』
もしあのまま動画が残っていれば、ルルは「自分の実力じゃない」という罪悪感に押しつぶされていただろう。 「夢だった」と思わせるのが、一番の優しさだ。
『ミケ: うむ。孫にはまだ、穏やかな日常が必要だ。 世界に見つかるのは、もう少し先でよい』
『カゲ: ふふっ。あの動画は、私の個人サーバーに永久保存しましたわ。 毎晩、大画面で鑑賞させていただきます』
『admin: ……次回からは、AIの補正レベルを「Low」に設定しておく。 ……いや、やはりそれでは私の美学が許さないな。どうしたものか』
『リョウタ: (admin、お前だけは反省してくれ……)』
こうして、第3回・裏サミットは閉幕した。 ルルのチャンネルに残る、誰にも見つけられない「幻の神動画」。 それは、怪物たちの歪んだ愛と技術力の結晶として、ネットの海を漂い続けるのだった。
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