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第33話 うっかり投稿した動画が「神編集」すぎて、SNSでバズりそうだったけどそんなことはなかった

「……ふわぁ。やっとできた……」


深夜2時。小暮こぐれ ゆずるは、自宅のPCの前で船を漕いでいた。 最近、配信の待機画面で流すための「ループアニメーション」を自作しようと、見様見真似で動画編集ソフトと格闘していたのだ。 しかし、素人の彼に作れたのは、フリー素材のイラストが左右に揺れるだけの、なんともシュールで地味な動画だった。


「……もう眠いし、とりあえず非公開設定でテスト投稿しておこう……」


意識が朦朧とする中、彼はマウスを操作し、動画投稿サイトのアップロードボタンを押した。 ……つもりだった。 彼は気づいていなかった。 眠気のあまり、「公開設定(全世界公開)」にしたまま投稿してしまったことに。 そしてそのまま、泥のように眠りに落ちた。


   ◇


翌朝。


「……ん? スマホが震えてる?」


小暮は枕元のスマホの振動で目を覚ました。 通知を見ると、SNSのアプリから大量の通知が来ている。


『あなたの動画が話題になっています』

『この動画、クオリティ高すぎませんか?』

『プロの犯行だ』


「え……?」


一気に目が覚めた。 慌てて動画サイトを確認する。 昨夜アップロードしたはずの「ショボいループ動画」の再生数が、ものすごい勢いで回っていた。 恐る恐る、自分の動画を再生してみる。


「……は?」


画面に映し出されたのは、彼が作った覚えのない「超大作」だった。 左右に揺れるだけだったはずのイラストは、滑らかに3D化され、美しい光の粒子パーティクルを纏って舞っている。 背景には映画のような奥行きがあり、BGMは重厚なオーケストラ調にアレンジされ、環境音まで立体音響で合成されている。


「な、なにこれ!? 誰の動画!?」


タイトルは確かに彼が付けた『テスト』のままだ。アカウントも間違いなく自分のものだ。 しかし、中身はハリウッド映画のオープニングか、最新ゲームのPVのような、圧倒的な「神編集」が施されていた。


コメント欄が加速する。 『なんだこの神動画!?』 『個人制作? 嘘だろ? ピクサーのスタッフか?』 『拡散希望! これはバズるぞ!』


「や、やばい! 違うんだ! これは僕の実力じゃない!」


小暮はパニックになった。 バグか? 乗っ取りか? それとも、寝ている間に僕の中に眠る天才的な才能が目覚めたのか? いや、そんなわけがない。


「ど、どうしよう……! 詐欺になっちゃう!」


彼が焦って削除しようとした、その時だった。


フッ……。


突然、再生数のカウントが止まった。 リロードしても、数字が増えない。 それどころか、さっきまで大量についていた「いいね」や「リツイート」が、見る見るうちに消えていく。


SNSの検索欄を見ても、さっきまでトレンドに入りかけていた『謎の神動画』というワードが、忽然と消滅している。 まるで、最初からそんな動画など存在しなかったかのように、ネットの海から「話題」だけがきれいに拭い去られたのだ。


「……え? 消えた?」


動画自体は残っている。しかし、誰の目にも留まらなくなった。 まるで**「見えない結界」**でも張られたかのように、世界から隔離されてしまったのだ。


「……ゆ、夢?」


小暮は呆然とスマホを握りしめた。


   ◇


その夜の配信。


「こんばんは、みんな。……あのね、変な話をしていいかな?」


小狐ルルは、困惑した顔で語り始めた。


「昨日の夜、うっかり作りかけの動画をアップしちゃったんだけどね。 朝起きて見たら、なんか僕が作ったのと全然違う、すっごくキラキラしたカッコいい動画になってた気がしたんだ」


ルルは首を傾げた。


「でね、みんなが見てくれてる!って思ったら、急に誰も見なくなっちゃって。 今は再生数も止まってるし、コメントもないの。 ……僕、寝ぼけて夢でも見てたのかなぁ?」


あまりに非現実的な体験に、ルル自身も「夢だった」と結論づけようとしていた。 そんな彼の言葉に対し、コメント欄の7人の怪物たちは、何食わぬ顔で反応を返した。


『admin: ……夢ではないか? 人間の記憶は睡眠中に改竄されることが多い』

『名無し: そうだよ! きっとルルちゃんが「もっとカッコよくしたい!」って願望を夢で見たんだよ!』

『ミケ: うむ。動画編集などという細かい作業をして疲れていたのだろう。ゆっくり休め』


『ドクター: 論理的に考えて、寝ている間に動画のクオリティが勝手に上がるなどという現象はありえない(物理)』

『カゲ: そうですわ。そんな「神編集」なんて、この世に存在しませんわ(微笑)』


みんな口を揃えて「夢だ」「気のせいだ」と言う。


『リョウタ: ……まあ、ルルちゃんが疲れてたなら、そういうこともあるかもな。気にすんな』


リョウタも話を合わせた。 しかし、小暮は知らない。 このチャット欄の裏側で、「なぜ動画が神格化してしまったのか」、そして「なぜ一瞬で鎮火されたのか」について、緊急の「裏サミット」が開催されようとしていることを。


「そっかぁ。やっぱり夢かぁ。 あはは、びっくりしたよ。僕が天才クリエイターになったのかと思っちゃった!」


ルルは安心したように笑った。 その動画は今も彼のチャンネルに残っているが、なぜか検索には一切ヒットせず、URLを知る者しか辿り着けない「オーパーツ」として、ひっそりと公開され続けている。

毎日0時に1更新を目指して頑張っています。


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