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第27話 同接7人の配信者ですが、好きな漫画が打ち切りになりそうで悲しんでいたら出版社ごと買収されて連載再開した

「……嘘でしょ。ここで終わり?」


週の半ば。 小暮こぐれ ゆずるは、コンビニで買った週刊少年誌を読みながら、愕然としていた。 彼が毎週楽しみにしていた漫画『ブリキのパン屋さん』の最終ページに、無情な「ご愛読ありがとうございました! 先生の次回作にご期待ください!」の文字が躍っていたからだ。


「まだ伏線も回収されてないし、主人公の夢も叶ってないのに……」


その漫画は、派手なバトルも色気もない、地味な職人漫画だった。 しかし、丁寧に描かれるパンの描写や、不器用な主人公の成長が、小暮の疲れた心に沁みていたのだ。 おそらく、読者アンケートの順位が悪かったのだろう。数字が全ての商業誌では、売れない作品は容赦なく切られる。


「いい作品だったのになぁ。……続き、読みたかったなぁ」


彼は雑誌を閉じ、まるで親友を失ったような喪失感に包まれた。


   ◇


「こんばんは、みんな。……今日はちょっと悲しいことがあって」


その夜の配信。 小狐ルルは、沈んだ声で語り始めた。


「僕がずっと応援してた漫画がね、今日で終わっちゃったんだ。打ち切りってやつだね」


ルルはその作品の良さを熱弁した。 絵は派手じゃないけど温かいこと。読むと明日も頑張ろうと思えること。 そして、それが「人気がない」という理由だけで、世界から消えてしまう無念さ。


「僕がもっと友達に勧めたり、単行本を何冊も買って配ったりできればよかったのかな。 好きなものが、数字の波に飲まれて消えちゃうのは……やっぱり寂しいね」


彼は自嘲気味に笑った。 「僕の配信もそうだけど、やっぱり世の中、目立って数字を持ってるものが正義なのかなぁ」


その寂しげな呟きは、コメント欄にいる「流行の女神」と「デジタルの支配者」の心に火をつけた。


『名無し: ……「数字がないから消える」。そんなの、私が許さない』

『admin: 分析終了。当該作品のポテンシャルを評価。……現在の市場評価は過小評価アンダーバリューだ。プラットフォーム側の判断ミスと断定する』


『名無し: ねえadmin。貴方の会社の電子書籍部門、まだ余力あるわよね?』

『admin: 肯定する。サーバーリソースおよび資金には無限の余裕がある。……やるか?』

『名無し: ええ。ルルちゃんが愛した世界を、黒字化メジャーさせましょう』


『リョウタ: おい。エンタメ界のトップとITの王様が何企んでるんだ。出版業界がひっくり返るぞ』


   ◇


翌日。SNSの世界。 フォロワー数数百万を誇る天塚シエル(名無し)の公式アカウントが、一枚の画像を投稿した。 それは、打ち切りになった『ブリキのパン屋さん』の表紙画像だった。


『天塚シエル @Amatsuka_Ciel』 『最近読んだ中で一番泣けた漫画。どうしてこれが終わっちゃうの? 信じられない。』 『もっとこの世界を見ていたいな。……ねえ、みんなもそう思わない? #ブリキのパン屋さん』


その影響力は絶大だった。 「シエルちゃんが推してる漫画!?」「読んでみようぜ!」「マジだ、これ隠れた名作じゃん!」 数百万人のファンが一斉に書店と電子書籍サイトに走り、単行本は瞬く間に全国で完売。トレンド一位を独占した。


時を同じくして、出版社の本社ビル。 編集長たちが、突然の「買収提案」に騒然としていた。


「Nebula Corp(adminの会社)からの緊急オファーだ! 我が社の出版事業部門を、相場の3倍の価格で買収したいと言っている!」


さらに、オンライン会議の画面に現れたadminは、淡々と条件を突きつけた。


『買収の条件は一つだけだ。 本日付で連載終了した『ブリキのパン屋さん』の連載再開。 および、同作者への原稿料の300%アップ、アニメ化、ゲーム化を含むメディアミックス展開の確約だ』


「な、なぜそこまで……!? あの作品はアンケート最下位で……」


『私のデータ分析によれば、あれは「今の時代に必要な癒やし」だ。 現に今、SNSを見てみろ。世界中で話題になっている』


編集長がスマホを見ると、そこにはシエルが巻き起こした大ブームがあった。 需要は爆発している。資金は無限にある。 出版社に断る理由はなかった。


「……わ、分かりました! 直ちに連載再開の手続きを!」


こうして、たった一人の「ファンの嘆き」が、インフルエンサーによるブームと、IT巨神による資本注入を引き起こし、死んだはずの作品を蘇らせた。


   ◇


数日後。


「えっ……ええええ!?」


小暮は、ネットニュースを見て絶叫した。 『奇跡の復活! 打ち切り漫画が異例の連載再開! 大手IT傘下でアニメ化も決定!』


記事によれば、電子書籍サイトでの爆発的な売上と、謎の巨大資本のバックアップにより、連載が続くことになったという。 しかも、作者のコメントには「一生分の運を使いました。最高の環境で描き続けます」とある。


「すごい……! こんなことってあるんだ! 神様っているんだなぁ……!」


彼はボロボロ泣きながら、予約ボタンを押した。


   ◇


その夜の配信。


「みんな聞いて! 奇跡が起きたよ!」


ルルは、今までで一番嬉しそうな顔で報告した。


「あの漫画、連載再開するんだって! しかもアニメにもなるんだよ! 僕の『好き』が間違ってなかったんだって思えて、すっごく嬉しい!」


「世の中、捨てたもんじゃないねぇ。応援してれば、届くこともあるんだね!」


ルルは無邪気に喜んでいる。 その笑顔を見守るコメント欄には、流行を作った歌姫と、業界を再編したCEO、そして震える一般人がいた。


『名無し: ふふっ、よかったわね! きっとルルちゃんの「好き」の力が世界を動かしたのよ(物理)』

『admin: ……投資対効果(ROI)は予測以上だ。アニメの独占配信権も我が社で確保した。……悪くない取引だ』

『ミケ: ほう、アニメ化か。ならばスポンサー枠は我が社が買い占めよう』


『リョウタ: (マッチポンプが過ぎる……。でもまあ、名作が世に残ったなら、今回は「良き文化破壊」とするか……)』


ルルは、自分の涙がきっかけで、一つの出版社が買収され、メディアミックスの巨大プロジェクトが動き出したことなど露知らず。


「あー、楽しみだなぁ。来週も読めるんだ……」


そう呟いて、幸せそうに雑誌を抱きしめた。 その漫画は後に、社会現象となる大ヒットを記録し、adminの会社に莫大な利益をもたらすことになる。

毎日0時に1更新を目指して頑張っています。


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