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第26話 同接7人の配信者ですが、スマホの充電が遅いと言ったら街中のカフェが全席急速充電対応になった

「……あぁ、もう。全然増えない」


平日の昼下がり。 外回りの営業中、少し時間が空いた小暮こぐれ ゆずるは、古びた喫茶店に入って眉を下げていた。 スマホの充電が残り10%を切っていたため、慌ててコンセントのある席を探して充電器を挿したのだが……。


「お店の電圧が低いのかな? 30分経ってもまだ15%だよ」


安物の充電器と、古い建物の設備のせいか、充電速度が亀のように遅い。 これでは、次の客先へ移動するまでに安心できる量まで回復しない。 現代人にとって、スマホのバッテリー切れは社会的な死に等しい。


「はぁ……。もっとこう、座った瞬間に『ギュン!』って満タンになるくらい、どこでも簡単に充電できればいいのになぁ」


彼は残量の減っていく画面を眺めながら、切実に溜息をついた。


   ◇


「こんばんは、みんな。……今日はちょっと、お外でヒヤヒヤした一日だったよ」


その夜の配信。 小狐ルルは、昼間の「バッテリー不安」について語り始めた。


「外でお仕事してると、充電がないとすごく不安になるよね。 カフェに入っても席が空いてなかったり、充電スピードがすごく遅かったりして……」


ルルは、申し訳なさそうにボヤいた。


「僕のわがままだけど、街中のどのお店に入っても、席についただけでパッと充電できたらいいのに。 そうしたら、バッテリーを気にせず、もっとバリバリお仕事できるのになぁ」


それは、デジタル社会に生きる誰もが抱える小さな不満。 しかし、コメント欄にいる「政財界のトップ2」にとっては、それは単なるボヤキではなく、「国家の生産性を向上させるための提言」として受理された。


『フクロウ: ……「充電待ち時間の損失」。国民全員が毎日数十分を無駄にしているとすれば、GDPへの影響は甚大です』

『ミケ: フン。確かに、社員が電源探しに彷徨う時間は給料泥棒と同じだな。効率化が必要だ』


『フクロウ: ミケさん。貴方のところの技術力で、これを解決できれば……国としても動く価値があります』

『ミケ: ほう? ならばワシが「最強のインフラ」を用意しよう。……フクロウさん、法整備と予算は任せたぞ?』


『リョウタ: おい待て。お前らが組んだら日本が変わっちまうぞ(ガチで)』


   ◇


数日後。永田町。 衆議院議員・剣崎塔子フクロウは、経済産業省との会議で、熱弁を振るっていた。


「デジタル田園都市国家構想の要は『電力への常時アクセス権』にあります! 国民が外出先で充電難民になり、業務効率を落としている現状は、行政の怠慢であり、経済損失です!」


彼女はルルの言葉を、巧みに「国益」へと翻訳した。


「直ちに『次世代充電インフラ整備法案』を提出します。 全国の飲食店、公共施設に対し、急速充電設備の設置を支援。 これにより、国民の労働生産性は飛躍的に向上し、経済効果は数兆円に上るでしょう!」


「し、しかし財源と技術が……!」

「ご安心を。民間最大手が採算度外視で手を挙げています」


同時刻。御子柴重工本社。 御子柴厳蔵ミケは、役員会議で不敵な笑みを浮かべていた。


「政府が補助金を出すそうだ。我が社の最新特許技術『サンダー・チャージ・システム』を全国に売り込むぞ」


それは、テーブルに置くだけで従来の10倍の速度で充電できる、軍事用技術を転用した超高性能システムだ。


「初期投資はかかるが、この規格が日本の『標準』になれば、今後数十年、我が社はライセンス料だけで莫大な利益を得られる。 国は生産性が上がり、我々は儲かり、そして……ルルはいつでも充電ができる。 誰も損をしない、完璧なビジネスモデルだ!」


政治家は「支持率と国益」を。経営者は「市場独占と利益」を。 二人の怪物は、ルルの笑顔のために手を組み、猛烈なスピードで日本改造計画を推し進めた。


   ◇


それから、季節が一つ変わる頃。


「……あれ? この喫茶店、改装したのかな?」


小暮は、久しぶりにあの古い喫茶店を訪れて目を丸くした。 ボロボロだったテーブルが、真新しいハイテクな天板に変わっている。 そして、店の入り口には**『政府認定:次世代急速充電スポット』**という金のステッカーが貼られていた。


「へぇ、すごい。座ってみよう」


彼がテーブルにスマホを置いた瞬間。 「フォン!」という軽快な音と共に、画面に見たことのないエフェクトが走った。


『Super Rapid Charge Mode』 『残り時間:1分で完了します』


「えっ!? はやっ!?」


見る見るうちにバッテリーの数字が増えていく。 コーヒーが運ばれてくる前には、すでに100%になっていた。 周りを見渡すと、サラリーマンたちが「これなら外でも仕事が捗るな!」「助かるわー」と口々に称賛している。


店長も嬉しそうだ。 「いやぁ、政府の補助金でタダ同然で導入できたんですよ。おかげでお客さんが増えて、売上も右肩上がりです!」


街を歩けば、至る所に充電スポットが増えていた。 日本という国が、短期間のうちに「世界一モバイルワークが快適な国」へと進化していたのだ。


   ◇


その夜の配信。


「みんな聞いて! 日本の技術ってすごいね!」


ルルは、フル充電されたスマホを手に、興奮気味に報告した。


「街中のカフェが、魔法みたいに充電できるようになってたんだ! 置いた瞬間に満タンになるの! これでもう、外でお仕事するのも怖くないよ。政府の人と、作ってくれた人たちに感謝だねぇ!」


ルルは無邪気に喜んでいる。 その笑顔を見守るコメント欄には、支持率を上げた政治家と、過去最高益を叩き出した経営者、そして呆れつつも感心する一般人がいた。


『フクロウ: ……国民(貴方)の声が、国を動かすのです。便利な世の中になって何よりです』

『ミケ: フン。インフラへの投資はリターンが大きい。良い商売だった(株価を見ながら)』

『admin: 電力供給網の最適化を確認。この国のモバイル端末稼働率が世界トップになった』


『リョウタ: (ルルちゃんの「わがまま」が、巡り巡って日本のGDPを押し上げてやがる……。これぞ「損して得取れ」の究極系か……)』


ルルは、自分の「充電遅いなぁ」という一言が、日本のエネルギー政策を変え、経済を活性化させたことなど露知らず。


「あー、便利だなぁ。明日もお仕事がんばろっと!」


そう呟いて、嬉しそうにスマホを撫でた。 その安心した顔こそが、怪物たちが得た、金銭や名誉以上の「報酬」だった。

毎日0時に1更新を目指して頑張っています。


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