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第23話 同接7人の配信者ですが、あまりに運が良すぎるので「死ぬのかな?」と怖がっていたら一般リスナーに「それは徳を積んだからだ」と諭された

「……おかしい。絶対におかしい」


週末の夜。 小狐ルルは、自室で配信の準備をしながら、通帳を握りしめてガタガタと震えていた。 そこに記帳された数字が、ただの「趣味の配信」で手にするには、あまりにも大きすぎたからだ。


『ミケ』や『名無し』といったリスナーたちが投げてくる「赤スパ(高額投げ銭)」。 それが積もり積もって、今の口座残高は、彼の手取り給料の数ヶ月分……いや、ボーナスを含めても届かないような額になっていた。 副業として喜ぶには通り越して、何か悪いことをしているような気分になる金額だ。


「それに、最近のこの『幸運』……」


・迷惑メールが一晩で消滅した。

・ボロ宿がスイートルームになった。

・社食が三つ星レストランの味になった。

・月曜日が国民の休日になった。

・嫌なコラボ相手が自滅して消えた。


「こんなこと、ありえないよ。一生分の運……いや、来世の分まで使い果たしちゃってる」


彼は平凡な小市民だ。 「幸運の揺り戻し」という言葉を信じている。 これだけの良いことが起き、身分不相応な大金を手にしてしまったあとには、とてつもない不幸が――それこそ、命に関わるような厄災が待っているのではないか。


「僕、もうすぐ死ぬのかな……。癌とか、事故とか……」


ネガティブ思考が極まり、彼は本気で「遺言」を残すべきか悩み始めた。


   ◇


「こんばんは、みんな……。 今日は、最後になるかもしれないから、大事なお話をするね」


いつもの配信画面。 小狐ルルの声は、湿っぽく沈んでいた。 「最後」という単語に、コメント欄の空気が一瞬で凍りつく。


『ミケ: 何だと? 誰かに脅されたか? 弁護士団と特殊部隊を送る』

『ドクター: 肉体の限界か? 問題ない、脳データをサーバーに転送する準備はできている』

『admin: バイタル低下を検知。救急ドローンを座標へ急行させる』

『カゲ: ……身辺警護の人員を50名増員します。物理的に守ります』


「ううん、違うの。……僕ね、最近運が良すぎるんだ」


ルルは涙声で語った。 最近起きた奇跡の数々と、手元に集まってしまった怖いくらいの大金のこと。 自分のために使うにはあまりに多すぎて、バチが当たりそうで怖くて手がつけられなかったこと。


「だからね、もし僕が死んだら、このお金……全部、子供たちのために使ってほしいんだ」


彼は震える手でメモを読み上げた。それは彼が夜な夜な考えていた「遺言(寄付計画)」だった。


「近所の児童養護施設、雨漏りが酷いって言ってたから、屋根を直してあげたいんだ。 それから、『こども食堂』の冷蔵庫が壊れかけだから、一番大きくて立派な業務用のやつを買ってあげたい」


彼の使い道は、高級車でも豪遊でもなく、どこまでも具体的で、生活に根ざしたものだった。


「あとね、図書室の本がボロボロだから、新品の図鑑とか絵本をいっぱい贈りたいし……。 子供たちが『ゲーム機が古くて動かない』って泣いてたから、最新のやつを全員分プレゼントしてあげたい」


そして、彼は少し照れくさそうに付け加えた。


「残りは……僕みたいな『おもちゃの修理屋さん』になるための道具代にしてほしいな。 壊れたおもちゃを無料で直してあげるおじさんがいたら、子供たち喜ぶかなって……」


彼は本気だった。 自分の贅沢のためではなく、未来ある子供たちの笑顔のために使うことしか、この「恐怖」を拭う方法が思いつかなかったのだ。


「きっと神様が、最後にいい夢を見せてくれてるんだと思う。だから、もうすぐお迎えが来るんだよ……」


彼は本気で怯えていた。 無邪気な優しさが、死への恐怖に変わってしまっている。 怪物たちは困惑した。自分たちが良かれと思ってやった総額数百億円規模程度の支援とその金額からしたら髪の毛ほどの金額の投げ銭が、逆にルルを精神的に追い詰めてしまったのだ。


『ミケ: ば、馬鹿な。ワシはただ、孫に美味いものを……』

『ドクター: 確率密度が異常な偏りを見せている。……これが「幸運」という名のバグか?』

『名無し: どうしよう……私たちの愛が重すぎて、ルルちゃんを殺しちゃうの……?』

『フクロウ: ……因果関係の誤認ですが、本人の心理的負荷は深刻です』


彼らは「力」はあるが、「人の機微」には疎い。 どうすればいいか分からず、コメント欄がパニックに陥りかけたその時。


唯一の常識人・リョウタが、キーボードを叩いた。


『リョウタ: ルルちゃん、落ち着いて。死なないから。大丈夫だから』


リョウタは深呼吸をした。 俺は知っている。 それらの奇跡は神様の気まぐれでも、死の前兆でもない。 ここにいる「6人の怪物たち」が、ルルのために裏で世界を捻じ曲げた結果だ。


だが、それを言えばルルはもっと怖がるだろう。 「君のリスナーは、国家転覆レベルの危険人物たちだよ」なんて言えるわけがない。


ならば、どう説明するか。 どうすれば、この優しすぎて臆病なおじさんを安心させられるか。 リョウタは、自分の娘に言い聞かせるように、優しく言葉を紡いだ。


『リョウタ: あのね、それは「運」じゃないよ』

『リョウタ: ルルちゃんが今まで積んできた「とく」が、帰ってきただけだよ』


「……徳?」


ルルが涙を拭いて画面を見た。


『リョウタ: そう。ルルちゃん、いつも配信で俺たちの愚痴を聞いてくれるじゃん?』

『リョウタ: 壊れたラジオを直してあげたり、みんなに「おつかれさま」って言ってくれたり。 今日だって、頂いた大金を自分の贅沢じゃなくて、子供たちの雨漏りや冷蔵庫のために使おうとしてる』


リョウタの指が走る。


『リョウタ: そんな優しいことを考えてる人に、バチなんて当たるわけないだろ? そういう「日頃の行い」がポイントみたいに貯まってて、それが今、利子をつけて返ってきてるんだよ』


リョウタは、あながち嘘ではないと思った。 実際、ミケもadminもカゲも、ルルの何気ない優しさに救われて、その恩返しとして力を振るっているのだから。 それは形を変えた「徳の還元」だ。


『リョウタ: だから怖がる必要なんてない。「あ、俺頑張ったからご褒美もらえたんだな」って、堂々と受け取ればいいんだよ』

『リョウタ: 神様がいるとしたら、君を殺すためじゃなく、もっとたくさんの子供を笑顔にするために奇跡を起こしてるんだ。俺はそう思うよ』


その言葉は、コメント欄の怪物たちの心にも染み渡った。 そうだ。我々は、ただ彼の善性が報われる世界を見たかったのだ。


『ミケ: ……リョウタの言う通りだ。孫よ、お前はそれを受け取る資格がある』

『ドクター: 「徳」……未定義のエネルギーだが、事象の因果関係としては論理的だ。肯定する』

『名無し: そうよ! 貴方は世界一イイ子なんだから、世界一幸せになって当然なの!』

『フクロウ: ……善因善果。貴方の善行の結果です。胸を張ってください』


皆がリョウタの嘘(方便)に乗っかった。


「……そっか。徳、なのかな」


ルルの表情から、恐怖が消えていった。 死の前兆ではなく、自分が頑張ったご褒美であり、託された力。 そう言われると、ここ最近の奇跡が、とても温かいものに感じられた。


「よかったぁ……。僕、生きてていいんだね」


ルルは安堵して、へにゃりと笑った。


「ありがとう、リョウタさん。 そっかぁ、僕、いいことしてたんだなぁ。えへへ」


彼は涙を拭い、今度は希望に満ちた声で言った。


「じゃあ、頂いたお金は『徳のお裾分け』として、やっぱり子供たちのために使うことにするね! 僕ね、今度の週末に早速、新しい冷蔵庫を注文しに行くよ! あと、壊れたおもちゃを直すための工具セットも買うんだ。……僕、『ルルおじさんの修理屋さん』になるのが夢だったから!」


その無邪気な笑顔が戻ったのを見て、怪物たちは一斉に胸を撫で下ろした。 そして、この場を収めた功労者に対し、称賛を送った。


『ミケ: ……リョウタ。貴様、なかなか良いことを言う』

『admin: 感情データの解析および誘導、完璧だ。評価する』

『カゲ: リョウタさんには、お礼に最高級のお中元(影山ブランド牛)を贈りますね』


『リョウタ: やめろ、住所特定するな。俺はただ、一般市民として当たり前のことを言っただけだ…!』


リョウタは画面の前で額の汗を拭った。 数々の違法行為や権力乱用を、「徳」という美しい一言で強引にまとめ上げた自分に苦笑いする。


「まあ、ルルちゃんが笑って、子供たちも救われるなら……それでいいか」


こうして、世界を巻き込む一連の騒動は、一人の一般リスナーの機転によって「神様のご褒美」として美しく着地した。 ルルはその後、週末ごとに近所の施設へ通い、ピカピカの冷蔵庫と自分の修理道具で子供たちを笑顔にする「足長おじさん」活動を始めたという。

本日のメイン登場人物


小狐ルル:もらったスパチャはできる限り奉仕活動に出してく聖人ライバー。本業を持ってるからこそなせるのである。専業の人が生活の糧でいただいているのには特に忌避感はない。


リョウタ:もしかしたら前世はどこかの教祖だったのかもしれないぐらいの言いくるめスキル。ルルと同じ金銭感覚の持ち主。


その他のリスナー:超人過ぎてこの金額のスパチャはお小遣いだった。ちょっと反省している。なお、ほかの支援についてはばれなければよいと思っている。

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