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22/29

第22話 同接7人の配信者ですが、コラボ相手の配信者が失礼な態度をとったらその配信者が炎上して引退した

「……あ、通話切れちゃった」


週末の夜。 小狐ルルは、初の「外部コラボ配信」を終えた直後の自枠で、呆然としていた。


相手は、最近勢いのある中堅配信者・キバザ。 「君のレトロな雰囲気が面白いから」と誘われて喜んで参加したのだが、配信が終わった瞬間の通話で、彼は冷たく言い放ったのだ。


『あー、お疲れ。ごめん、今日のアーカイブ「ボツ」にするわ』 『なんか盛り上がんなかったし、俺のチャンネルの数字アルゴリズムに悪影響出そうだから』 『てことで、非公開にしとくね。じゃ』


プツン。 一方的に通話を切られ、コラボ配信のアーカイブは即座に「非公開」にされた。 ルルが必死に準備した企画も、緊張しながら喋った時間も、すべて「なかったこと」にされたのだ。


「……ごめんね、みんな。僕がお話下手だったから」


ルルは震える声で、いつもの7人のリスナーに謝った。


「キバザさんの足引っ張っちゃったみたい。 『つまらないからボツにする』って言われちゃった。 ……せっかく見てくれたのに、アーカイブ残せなくてごめんね」


彼は、自分の存在そのものを否定されたような虚無感に襲われていた。 自分が地味で無名だから、相手の役に立てなかった。時間を無駄にさせてしまった。 その申し訳なさで、胸が押し潰されそうだった。


その時。 コメント欄にいる『名無し』――国民的トップVtuber・天塚あまつかシエルが、静かに反応した。


『名無し: ……「ボツ」? 無かったことにしたの? 貴方の時間を?』

『リョウタ: はあ!? ふざけんなよあいつ! 酷すぎるだろ!』

『ミケ: ……傲慢な若造だ。人の労力をなんと心得る』


『名無し: ……ルルちゃんは悪くない。絶対に悪くないわ』


文字だけでは伝わらないが、画面の向こうのエリカ(シエル)の瞳からは、完全にハイライトが消えていた。 彼女が許せないのは「ルルが馬鹿にされたこと」以上に、「ルルの頑張りを闇に葬り去ったこと」だった。


『リョウタ: (おい名無しさん……? 無言の圧が凄いぞ……?)』


   ◇


深夜2時。 ルルが傷心のまま眠りについた頃。 トップVtuber・天塚シエルの「公式本垢」が動いた。


彼女は、特定の個人名や配信名を一切出さず、しかし強烈な違和感を放つツイートを投下した。


『天塚シエル @Amatsuka_Ciel』

『私、コラボ相手へのリスペクトがない人は苦手だなぁ。』

『自分の都合だけで「なかったこと」にして、相手の時間を踏みにじるなんて、すごく悲しい。』

『裏でどんな態度を取ってるか、ファンは見抜いちゃうと思うよ?』


たったこれだけ。 ルルの名前も、キバザの名前も出していない。 しかし、タイミングは最悪だった。


キバザはちょうどその時、自身のSNSで『今日のコラボは機材トラブルでお蔵入りですw まあドンマイ!』と、軽い嘘の報告をしていたのだ。


シエルの数百万人のファン(特定班)が、一斉に動いた。


『シエルちゃんが珍しくお気持ち表明?』

『誰のことだ? 最近コラボをお蔵入りにした奴……』

『あ、このキバザって奴、さっき「お蔵入り」ってツイートしてるぞ』

『タイミング合いすぎじゃね? まさかコイツ、裏でなんかやったのか?』

『シエルちゃんがここまで言うってことは、相当酷いことしたんだろ』


疑心暗鬼の炎は、一瞬で燃え広がった。 さらに、キバザの過去の裏垢での暴言、スタッフへのパワハラの証拠音声、3股していた過去の醜い女性関係が次々と掘り起こされ、ネット上に拡散された。


『やっぱりコイツ、裏表激しい奴だったんだ』

『シエルちゃんの言ってた「リスペクトがない人」ってコイツのことか!』

『性格悪すぎ。登録解除したわ』


シエルのファンたちは「シエルが怒っている相手=悪」と認識し、徹底的に叩いた。 キバザのコメント欄は批判で埋め尽くされ、炎上系配信者たちもこぞって彼を取り上げた。 ルルとのコラボ動画自体は「非公開」になっているため、ルルの存在には誰も辿り着かないまま、キバザだけが業火に焼かれたのだ。


翌朝、キバザの所属事務所は「契約違反(過去の素行不良)」を理由に解雇を発表。 彼は一夜にして、配信者としての居場所を失った。


   ◇


翌日。


「……あれ?」


小暮はニュースサイトを見て目を丸くした。 昨日のコラボ相手であるキバザが、自身のSNSで『活動休止』を発表し、全アカウントを削除して消えていたからだ。


「えっ、引退!? どうして急に?」


小暮は驚いた。昨日はあんなに強気だったのに。 ネットでは「過去の素行不良がバレて炎上」と書かれているが、真相はよくわからない。 昨日のルルとのコラボ動画も公開されないまま、彼はネットの海から消滅してしまった。


「……そっか。彼も、いろいろ悩んでたのかな」


人の良い小暮は、自分が原因の一端だとは露ほども思わず、静かに手を合わせた。


   ◇


その夜の配信。


「みんな聞いて。昨日のコラボ相手さん、引退しちゃったみたいなんだ」


ルルは少し寂しそうに報告した。


「動画も残らなかったし、なんだか夢を見てたみたいだね。 ……でも、僕にはこの場所があるから、それで十分かな」


「派手なコラボとかできなくても、こうやってみんなとのんびりお話しできるのが、一番幸せだよ」


その言葉に、コメント欄のリスナーたちは深く頷いた。


『名無し: そうよ! ルルちゃんは今のままで最高なの! 余計な虫がつかなくてよかったわ!』

『ミケ: うむ。身の程知らずの若造が消えて清々しい。茶が美味いな』

『admin: アーカイブ消失により、ルルへの流入アクセスリスクも回避された。結果として最適解だ』


『リョウタ: (名無しさん……。あんたの一言で、相手を社会的に抹殺しつつ、ルルちゃんの身バレも防いだのか……。アイドルの情報操作、完璧すぎて怖えよ……)』


ルルは、自分の名誉と平穏を守るために、一人の配信者が闇に葬られたことなど露知らず。


「あー、今日も平和だなぁ。お茶がおいしいや」


そう呟いて、のんびりと湯呑みを傾けた。 画面の向こうでは、天塚シエルが「私の推しを傷つける奴は全員排除♡」とばかりに、ルルの配信を高評価いいねし、聖母のような笑みを浮かべていた。

本日のメイン登場人物


小狐ルル:コラボ相手が勝手にお蔵入り宣言したのは普通に傷ついた。

名無し:さいきょうのインフルエンサー。

キバザ:中堅配信者。7人程度の身内ノリでコメントしあってるリスナーの羽振りの良さが気になってコラボを申し込んだ。が、自身にスパチャをくれないことに白けてアーカイブを削除した。


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