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第2話 同接7人の配信者ですが、チーターに襲われたらゲームの物理法則が変わりました

「よし! 今度こそ勝つぞー! おー!」


深夜1時。僕は気合を入れてマウスを握り直した。 今夜プレイしているのは、世界的に大流行しているFPSゲーム『バレット・ストーム』。 ランクマッチに潜って3時間。……悲しいことに、現在5連敗中だ。


「いやー、みんな強いねぇ。さっきの人とか、壁の向こうが見えてるみたいだったよ」


僕はランク『ブロンズ』の底辺帯。 反射神経もエイム(照準)も平凡な、ただのエンジョイ勢だ。 それでも、仲間と協力して勝利を目指すこのゲームが、僕は大好きだった。


『ルルちゃん、ドンマイ』

『今の相手、動きがおかしかったな』

『回線相性じゃない?(すっとぼけ)』


コメント欄には、いつもの7人がいてくれる。 深夜だというのに、みんな付き合いが良い。


「ありがとう! 次のマッチング始まったよ。味方さんよろしくね!」


画面が切り替わり、試合が始まる。 今回は攻撃側だ。僕は慎重に角を曲がり、敵の拠点へ向かおうとした。 その時だった。


ダダダダダッ!!


「うわっ!?」


出会い頭、一瞬で視界が真っ赤に染まる。 ヘッドショット。即死だ。 キルカメラ(相手視点の映像)が表示される。 相手のプレイヤー名は『G_G_E_Z』。 彼は僕を倒した後、その死体の上で高速で屈伸を繰り返していた。のちに聞いたところ、いわゆる「煽り行為」らしい。


『ボイスチャット: おいおい弱すぎんだろw 配信者? 引退しろカスw』


スピーカーから、汚い言葉が聞こえてくる。 さらに、彼はありえない速度で回転しながら、壁越しに僕の味方全員をヘッドショットで沈めていった。


「あちゃー、やられちゃった。すごいなぁこの人! 弾が全部頭に吸い込まれてるよ!」


僕は感心して声を上げた。


「回転しながら撃つなんて、どれだけの動体視力があればできるんだろう。僕も練習したらあんなふうになれるのかな?」


『いや、ルルちゃん。それは……』

『オートエイムだ。不正ツールだよ』

『チーターだ。最悪のゴミだな』


リスナーのみんな(特にリョウタさん)が怒ってくれている。 でも、僕は首を横に振った。


「うーん、でもツールのせいにするのは良くないよ。もしかしたら、彼なりの『挨拶』かもしれないし! 次はもっと上手く避けてみせるよ!」


僕は本気でそう思っていた。 どんな相手でも、リスペクトを忘れてはいけない。それが僕のポリシーだ。


「よし、ラウンド2! 対戦よろしくお願いします!」


僕は前向きに再出撃ボタンを押した。 ……画面の向こうで、**「ゲームの神様」**がブチ切れているとも知らずに。


   ◇


──裏側(北米某所・最新鋭サーバーセンターの管制室)──


「……挨拶、だと?」


無数のモニターに囲まれた部屋で、黒パーカーの青年(HN:admin)は、氷のように冷たい声で呟いた。 彼は、この『バレット・ストーム』を運営するプラットフォーム企業の創設者兼CEOだ。


「俺の推し(ルル)が、貴重な睡眠時間を削ってプレイしているんだ。それを、薄汚いスクリプトごときで汚すとは……」


彼はキーボードを叩き、瞬時に『G_G_E_Z』のログを解析した。 ウォールハック、オートエイム、加速チート。役満だ。 通常ならアカウントBANで終わりだが、adminの手は止まらない。


「BAN? ……ぬるいな。ルルちゃんは『彼と遊びたい』と言っている」


青年の口元が、サディスティックに歪んだ。


「なら、遊ばせてやろう。**俺のルール(管理者権限)**でな」


彼はコンソール画面を開き、現在進行系のマッチサーバーに直接介入した。 書き換えるのは、物理演算エンジンのパラメータ。 対象は、チーターの射撃判定のみ。


「Enter。……さあ、神罰の時間だ」


   ◇


ゲーム内、ラウンド2。 再びあのチーターが、壁を突き抜けて突っ込んできた。


「来たね! 今度こそ当てるよ!」


僕はサブマシンガンを構える。 チーターは空中で回転しながら、僕の頭に照準を合わせ、トリガーを引いた――はずだった。


ポシュッ、ポシュッ、パァン!


「……え?」


チーターの銃口から飛び出したのは、凶悪な銃弾ではなく、**色とりどりの紙吹雪と、回復アイテム(ポーション)**だった。 僕の体に当たると、減っていた体力がみるみる回復していく。


『ボイスチャット: は!? なんだこれ!? ダメージが入らねえぞ!? バグか!?』


チーターが狼狽している。 逆に、僕が適当に撃った弾丸は、まるで磁石のように彼の頭に吸い込まれていった。


ズドン!


「あ、当たった!?」


『ボイスチャット: ぎゃあああ! なんで俺だけ即死なんだよふざけんなクソ運営!!』


チーターが倒れる。 それだけじゃない。彼がリスポーン(復活)するたびに、地面がトランポリンになって彼を空へ弾き飛ばしたり、持っている武器が勝手にバナナに変わったりする。


「すごい! 見てみんな! この人、手品を見せてくれてるんだ!」


僕は目を輝かせた。


「最初は厳しかったけど、今は僕を楽しませようとしてくれてるんだね! 銃から花火が出るスキンなんて初めて見たよ! 優しいなぁ!」


『……ルルちゃん、ピュアすぎて眩しい』

『admin、やりすぎだw(草)』

『徹底的に玩具にしてるな』


コメント欄がなぜか盛り上がっている。 結局、その試合は僕たちが圧勝した。 チーターさんは最後まで空を飛んだり爆発したりして、場を盛り上げてくれた(と、僕は思っている)。


「対戦ありがとうございました! いやー、面白い人だったね!」


僕が笑顔でリザルト画面を閉じた、その瞬間。 画面の隅に、システムログが一瞬だけ表示された気がした。


『System: Player [G_G_E_Z] has been terminated. Hardware ID blocked permanently.』


「ん? 何か出たかな? まあいいや!」


   ◇


試合終了後。 adminは満足げに、紅茶を一口啜った。


「環境浄化完了。……ついでに、彼が二度とネットゲームに接続できないよう、主要プロバイダにもブラックリストを共有しておいた」


彼はモニターの中のルルの笑顔を見て、優しい指つきでコメントを打ち込む。


『admin: ルルちゃんの「信じる心」が、奇跡を起こしたんだね。GG(Good Game)』


『ルル: adminさんありがとう! ゲームって奥が深いねぇ!』


そう、ゲームは奥が深い。 特に、世界最強の管理者が味方についている場合は、**「無敵モード」**が標準装備なのだから。

本日のメイン登場人物


小狐こぎつねルル:儚げな銀髪の狐耳少女のアバター。声はボイチェン。本人は枯れた社畜おじさん。ゲームの腕はそこまでない。


admin:Ste〇mのような世界最大のゲーム配信プラットフォームの創設者兼CEO。若き天才プログラマー。効率厨。ルルちゃんの「媚びない、欲がない配信」だけが唯一の癒やし。

自社のデータベースをハッキングしてルルの個人情報を完璧に把握している。

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