第18話 同接7人の配信者ですが、月曜日が憂鬱だと嘆いたら、政府が「臨時国民の休日」を閣議決定しました
「……はぁ」
日曜日の夜11時。 この世の全ての社会人が最も絶望する時間帯。 小狐ルルもまた、配信画面の中で、この世の終わりかのような深い溜息をついていた。
「明日、月曜日かぁ……。仕事、行きたくないなぁ」
画面の向こうにいるVライバー、子狐ルル(中身:中年男性)は、デスクに突っ伏してぐだぐだと管を巻いていた。 明日は朝から大事な会議と、納期に追われる作業が山積みらしい。 いわゆる「サザエさん症候群」の末期症状だ。
『リョウタ: わかる。マジでわかる。胃が痛い』
『ミケ: 仕事など、部下に任せて休めばよい』
『フクロウ: ……社会を回す責務。心中お察しします』
ハンドルネーム『フクロウ』。 彼女は最初期からいる「同接7人」の一人であり、常に丁寧な敬語を使う真面目なリスナーだ。 その正体は、与党の要職を務める現職議員・剣崎塔子であることは、まだ誰も知らない。
「だよねぇ……。みんな同じだよねぇ」
ルルは天井を仰いだ。 そして、子供のように無邪気な、しかし叶うはずのない願望を口にした。
「あーあ。急に政府が『明日は国民全員休み!』とか閣議決定してくれないかなぁ。そしたら、一日中布団の中で本を読んでいられるのに」
ルルは力なく笑った。
「なんてね。そんなことしたら、日本の経済が大変なことになっちゃうか。わがまま言っちゃダメだよね。……よし、配信終わったら明日の準備しなきゃ」
彼が諦めの笑みを浮かべた、その時。 コメント欄に潜む**「怪物たち」が、静かに、しかし論理的に**反応した。
『admin: ……待て。計算終了』
『admin: 現在の国民の疲労蓄積値と、明日の気圧配置によるメンタル低下をシミュレートした結果、明日の生産性は著しく低下する。「ミスによる経済損失」が「稼働利益」を上回る予測だ』
『ミケ: ほう。つまり、無理に働かせるより、休ませた方が長期的には得ということか?』
『admin: 肯定する。明日は全停止し、リカバリーに充てるのが最も効率的な「投資」だ』
その論理を聞いた瞬間、**フクロウ(塔子)**の眼鏡がキラリと光った。
『フクロウ: ……経済合理的根拠は揃いましたね』
『フクロウ: ルル様。その「わがまま」は、国益にかなっています』
◇
深夜1時。永田町、議員会館。 静まり返る廊下を、ヒールの音を響かせて歩く女性がいた。 剣崎塔子。通称「永田町のフクロウ」。
彼女は、あくまで「国のための判断」として、総理執務室への直通回線を開いた。 ルルの願いを叶えることは、結果として日本を救うことになると信じて。
「……総理。剣崎です。緊急の提言がございます」
『こんな時間に何だね? 外国の牽制か? 為替介入か?』
「いいえ。『臨時国民休息日』の制定についてです」
『は?』
総理大臣の寝ぼけた声が聞こえる。無理もない。 だが、塔子は冷静にデータを提示した。
「AIによる最新の試算が出ました。国民の疲労はピークに達しており、明日強行稼働した場合の『過労・ヒューマンエラーによる経済損失』は甚大です。 逆に、明日を休息日とし、英気を養わせることで、週後半の生産性は120%に向上。結果としてGDPはプラスに転じます」
『ば、馬鹿な! 今から休みにするなど……財界が納得するわけが……!』
「ご安心ください。経済界の合意は取れています」
彼女は、別の回線で繋がっていた財界のドン、 御子柴厳蔵からのメッセージを読み上げた。
「御子柴会長より、『社員をゾンビのように働かせるより、一日寝かせて馬車馬のように働かせた方が効率が良い。明日は全グループ企業を休業とする』との確約を頂きました」
『なっ……!? 御子柴の爺さんが!?』
「さらに、システムの安全性確保のため、明日は行政サーバーのメンテナンスも行います」
謎のハッカー・adminが、既に「セキュリティアップデートのための計画停止」を準備していた。 これにより、物理的にもデジタル的にも、明日は「働くことが不合理な日」となった。
「総理。これは『働き方改革』の決定打です。 国民の健康を守り、かつ経済も回す。……歴史に残る英断かと」
『…………』
総理は唸った。 データは完璧。財界も賛成。システムも止まる。 ならば、反対する理由はどこにもない。
『……わかった。閣議決定だ。明日は「国民メンテナンスデー」とする!』
翌朝、午前6時。
「……うぅ、起きなきゃ」
ルルは重い瞼をこすりながら、ゾンビのようにベッドから這い出した。 憂鬱な月曜日の始まりだ。 トーストを焼きながら、何気なくテレビをつける。
『おはようございます。ニュース速報です』
アナウンサーが、晴れやかな顔で原稿を読み上げていた。
『本日未明、政府は緊急の閣議決定を行いました。 国民の生産性向上と健康維持を目的とし、本日付で**「臨時国民休息日」**が制定されました。 専門家の試算によると、この休息による経済効果は数兆円のプラスになると見込まれています』
「……え?」
ルルは焼けたトーストを床に落とした。 画面には、総理大臣が自信満々に会見している映像が流れている。 『えー、休むことも仕事です。明日のために、今日は寝ましょう!』
「う、嘘……? 本当に?」
スマホを見る。 会社のグループチャットには、社長からのメッセージが入っていた。 『政府の方針および御子柴グループの指導により、本日は全社休業とする。……みんな、しっかり休んで英気を養うように!』
「や……やったぁぁぁぁぁ!!!」
ルルは歓喜の雄叫びを上げた。 サザエさん症候群が、一瞬で吹き飛んだ。
「すごい! すごいよ! まさか本当に叶うなんて!」 「しかも経済効果があるんだって! 僕が休んでも、誰にも迷惑かからないんだね!」
彼はパジャマのままベッドにダイブし、二度寝の至福を噛み締めた。
◇
その日の昼。 のんびりと始まったルルの「休日突発配信」には、普段は仕事で忙しいはずの「怪物たち」も集まっていた。
『フクロウ: ……素晴らしい休日ですね。これも合理的な判断の結果です』
『ミケ: フン。社員どもが元気になれば、明日からの利益も増えるというものだ』
『admin: バイタルデータ正常化。予測通り、国民の幸福度が上昇している』
『リョウタ: (すごい……。ルルちゃんのワガママを叶えたのに、誰も損してない……。これが天才たちのやり方か……)』
ルルは幸せそうにコーヒーを啜りながら言った。
「あー、幸せだなぁ。日本政府も会社の人たちも、みんな優しいねぇ。 おかげで元気出たよ! 明日からまた、お仕事頑張れそう!」
その前向きな言葉を聞いて、フクロウこと剣崎塔子は、議員会館の仮眠室で安堵の息をついた。 推しの笑顔を守り、かつ国益も守った。これぞ政治家の本懐。
こうして、たった一人の「行きたくない」という呟きが、結果として日本経済を救い、国民全員を幸せにした「伝説の神采配」として語り継がれることとなった。
本日のメイン登場人物
子狐ルル:サザ〇さん症候群だったけど、結果的にはっぴー。
フクロウ:月曜日の昼間から推しの配信が見れてはっぴー。




