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第16話 第1回・裏サミット開催 ~議題:3分以内に子狐ルルの引退を阻止せよ~

『admin: 3分待て。トイレに行ってくる』


ルルの配信画面でそのコメントが流れた、0.5秒後。 俺、リョウタのスマホが、見たこともない通知音を鳴らした。 画面には真っ黒な背景に、白い文字だけが浮かんでいる。


『招待状:緊急対策会議(Level 5)』 『参加者:admin, Mike, Nameless, Kage, Ryouta』


「……は?」


俺が呆然としている間に、画面は強制的に通話アプリへと切り替わった。 ノイズの向こうから、加工された音声たちが響く。


『――状況は極めて深刻だ。諸君、緊急招集に応じてもらい感謝する』


冷静かつ機械的な声。間違いなくadminだ。


『前置きはいい。要点を言え、ハッカー』


重厚で尊大な、老人の声。これがミケか。


『ちょっと! ルルちゃんが引退するなんて嘘よね!? 私、明日からどうやって生きていけばいいの!?』


ヒステリックだが、どこか鈴を転がすような美声。名無しだ。


『……現在、ポコポコ動画運営会社の社長の自宅付近に潜伏中。指示があれば、物理的な説得(脅迫)も可能です』


氷のように冷たい女性の声。カゲ……お前、マジで現地に行ってたのか。


俺は震える手でマイクボタンを押した。


「あ、あの……これ、俺もいていいんですか?」


『当然だ、リョウタ。お前は唯一の「常識人枠」として、我々の暴走を止めるストッパー(安全装置)の役割がある』


adminが淡々と言う。 いや、無理だろ。このメンツを止めるなんて、核ミサイルを素手で止めるようなもんだ。


『議論の時間は残り2分40秒しかない。手短にいこう』


adminがキーボードを叩く音が響く。


『議題は「ルルの引退阻止」。 原因は「サイト消滅」および「本人の自己評価の低さによる移籍拒否」だ。 彼は、自分が大手サイトにふさわしくないと思い込んでいる。 したがって、「彼を新しい場所に移す」という案は却下される』


『ならどうする? 私が彼専用の新しい動画サイトを作ってやるか?』


ミケが提案する。


『否。彼にとって「ポコポコ動画」というブランドと、あの古臭いUIこそが「安心できる実家」なのだ。 新しい家を用意しても、彼は「僕には豪華すぎる」と言って逃げ出すだろう』


『あぁ……わかるわ。あの子、変なところで謙虚だものね』


名無しが溜息をつく。


『結論を言う。……サイトごと買い取る』


adminの声に、迷いはなかった。


『ポコポコ動画の運営権を取得し、サービス終了を撤回させる。 さらに、UIや使い勝手は一切変えず、裏側のサーバーだけを最強のものに入れ替える。 これなら、ルルは「運良くサイトが存続した」としか思わない。彼の引退理由は消滅する』


なるほど。論理的だ。 だが、スケールがおかしい。


『問題は二つ。 一つは、運営会社との交渉にかかる「時間」。 もう一つは、負債まみれの企業を買収し、インフラを整備するための「資金」だ』


『金?』


ミケが鼻で笑った音がした。


『くだらん。いくらだ? 10億か? 50億か?』


『見積もりでは、負債処理とサーバー強化を含めて約80億円』


『安いな。私のポケットマネーで足りる。……おい秘書! 今すぐNebula Corp.の指定口座に振り込め!』


『!?』


俺はスマホを取り落としそうになった。 80億が、秒で動いた。


『資金の問題はクリアだ。次は交渉だが……』


『それなら、私が』


カゲが静かに口を挟んだ。


『運営会社の社長には、脱税と裏帳簿の証拠があります。 今から私が「訪問」し、この資料を見せれば、30秒でハンコを押すでしょう』


『……おい、カゲ。それは犯罪だ』


リョウタ(常識人枠)として、一応ツッコまなければならない。


『安心してください。あくまで「友好的なM&A」の提案です。……私の家の顧問弁護士団と、影山家の「力」も添えて』


『よし。ではカゲは現地で契約をまとめろ。ミケは資金を流せ。 私はその間に、ポコポコ動画のスパゲッティコード(クソプログラム)を解析し、新サーバーへ移行させる』


『私は!? 私は何すればいいの!?』


名無しが叫ぶ。


『お前は、この買収劇がニュースにならないように、裏からメディア統制を敷け。 ルルの目に「買収」の二文字が入れば、彼は「僕のせいで大ごとになった」と恐縮して逃げてしまう』


『了解! 芸能界のコネと、私の事務所の圧力を使って、この件は「ただのシステムメンテナンス」として報道させるわ!』


『作戦開始。……残り時間、45秒』


そこからは、カオスだった。


『入金完了!』 『契約書、押させました(物理)』 『サーバー移行、完了。……クソッ、なんだこの非効率なデータベースは! 全部書き直してやる!』 『ネットニュースのトップ記事、差し替えさせたわ!』


俺はただ、呆然とそのやり取りを聞いていた。 世界を動かす権力者たちが、たった一人の狐耳おじさんのために、全力を出している。 滑稽で、馬鹿馬鹿しくて、そして……最高に熱い。


『……残り3秒。 全員、配信画面に戻れ。 そして、「何食わぬ顔」で反応するんだ。いいな?』


『承知』

『フン、人使いの荒いハッカーだ』

『あー、ドキドキした!』

『……任務完了。撤収します』


プツン。 通話が切れた。


俺は震える手で、ポコポコ動画の画面に戻った。 ちょうど、ルルが「あ、戻ってきた?」と言ったタイミングだった。


画面がリロードされ、『サービス継続』のお知らせが表示される。 ルルが「えっ? え?」と驚いている。


俺は、キーボードに指を走らせた。 この、愛すべき怪物たちと、鈍感な主人公に合わせて。


『リョウタ: (お前ら……まさか……)』


いや、ここはこうだ。


『リョウタ: すげえ! 奇跡起きたな! よかったねルルちゃん!』


画面の中で、ルルが花が咲いたように笑った。 その笑顔を見て、俺は確信した。 80億円も、社会的圧力も、ハッキングも。 この笑顔が見られるなら、確かに「安い」のかもしれない、と。


これが、第1回・裏サミットの全貌。 世界は、おじさんの知らないところで、おじさんを中心に回っていたのだ。

本日のメイン登場人物


admin:裏サミット進行担当。買収の提案・実行とシステムメンテナンスを実施した。

ミケ:裏サミット資金調達担当。adminの実施内容についてポケットマネーで行けた。

カゲ:裏サミット交渉担当。やはり日本国籍持ちはツヨイ

名無し:裏サミット広報担当。ビックニュースにならなかったのは彼女のおかげ

リョウタ:裏サミット驚き担当。我々(ヤムチ。)視点にもなってくれた。



次回より0時投稿にシフトできればと思います!

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