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第15話 配信サイトがサービス終了!?僕が引退を決意したら、運営会社が買収されました

「えー、みんな。今日はちょっと、悲しいお知らせがあります」


いつもの配信時間。 画面の中の小狐ルルは、愛用の工具ドライバーを端に寄せ、申し訳なさそうに狐耳を垂らしていた。 コメント欄の流速が、ピタリと止まる。


『ミケ: なんだ? 誰かにいじめられたか?』

『名無し: ……(無言の威圧)』

『カゲ: 対象および座標、特定準備中』


「ち、違うよ! 物騒だなぁみんな!」


ルルは慌てて手を振り、一枚の画像を画面に出した。 それは、彼が利用している弱小配信サイト『ポコポコ動画』の公式トップページのお知らせだった。


『【重要】サービス終了のお知らせ』

『諸般の事情により、来月末をもちまして全サービスを終了いたします』


「……こういうことなんだ。ここ、もうすぐ無くなっちゃうんだって」


ルルは寂しそうに笑った。 このサイトは、サーバーも弱く、機能も古臭い。 大手の動画サイトに押され、ついに資金繰りがショートしたらしい。


『リョウタ: マジか……。ポコポコ動画、過疎ってたもんなぁ』

『ミケ: なんだ、そんなことか。なら移籍すればいい。機材が必要なら私が……カンパしてやろう』


ミケさんの言うことはもっともだ。 普通の配信者なら、YouTubeやTwitchなどの大手サイトに移行すればいいだけの話。 技術屋である彼なら、OBSなどの配信ソフトの設定くらい造作もないはずだ。


しかし、ルルは困ったように首を横に振った。


「ううん。僕、ここで引退しようと思うんだ」


『『『!?』』』


コメント欄が阿鼻叫喚に包まれる。


「だってさ、僕がやってるのって、ジャンク品の修理とか、古本の朗読とか……すごく地味でしょ?」


彼は、作業机に置かれた半田ごてや、煤けた部品を優しく撫でた。


「ここは『知る人ぞ知る』って感じの静かな場所だったから、僕みたいなおじさん……あ、いや、僕みたいなアバターでも許されたと思うんだ。でも、大手サイトは違うよ」


彼の脳裏には、流行りのVtuberたちがゲームで絶叫したり、華やかな企画をしている姿が浮かんでいた。


「あんなキラキラした場所に、僕の居場所はないよ。……このサイトと一緒に、ひっそり終わるのが、僕らしくていいかなって」


それは、あまりにも謙虚で、そして頑固な職人気質ゆえの決断だった。 彼は本気で、「自分のような地味な存在は、表舞台に出てはいけない」と思い込んでいるのだ。


「みんなと会えなくなるのは寂しいけど……。来月まで、最後まで楽しくお話ししようね」


ルルがそう締めくくろうとした、その時だった。


**『admin』**のコメントが流れた。


『admin: ……少し待て。情報ソースを確認してくる』


「え? adminさん? 公式のお知らせだよ?」


『admin: 3分だ。トイレに行ってくる』


「ええ? 今? 自由だなぁ」


ルルがきょとんとしている間に、裏では世界を揺るがす通信が行われていた。 北米のデータセンターにいる天才ハッカー(Nebula Corp CEO)・アレンと、日本の財界を牛耳る重鎮・御子柴厳蔵。 二人の怪物が、水面下で手を組んだのだ。


   ◇


――3分後。


「あ、戻ってきた? おかえりー」


ルルがのんびりと言った瞬間。 画面に表示されていた『サービス終了のお知らせ』のページが、勝手にリロード(再読み込み)された。


パッ。


画面の文字が変わっている。


『【重要】サービス終了撤回のお知らせ』

『新運営体制への移行により、サービスは継続されます。先ほどのお知らせは誤報でした。』

『新オーナー: Nebula Corp.(協力:Mikoshiba Heavy Industries)』


「……え?」


ルルは目をぱちくりさせた。 さっきまで「終了」と書いてあったはずの場所が、「継続」に変わっている。 しかも、サイトのロゴが心なしかスタイリッシュになり、サーバーの回線速度が爆速になっている気がする。


「えっ、えっ? どういうこと? 継続? 終わらないの?」


ルルはパニックになりながらコメント欄を見た。 すると、リスナーたちはまるで「たまたまそうなった」かのように、白々しくコメントを打ち始めた。


『admin: ……どうやら、どこかの物好きな企業がスポンサーについたようだな。運が良かったな』


『ミケ: ほう。世の中には、見る目のある金持ちがいるらしい。これで引退する理由はなくなったな?』


『名無し: わぁ! すごい奇跡! 神様が見ててくれたんだね!(棒読み)』


『カゲ: 正当な評価です。このサイトは存続すべき文化遺産ですから』


『リョウタ: ()』


一人だけ事情を察したリョウタが顔を引きつらせているが、もちろんコメントには出さない。


「す、すごい! こんなことあるんだ!」


ルルは画面に齧り付いて喜んだ。 まさか、自分のリスナーたちが裏で数十億円を動かし、サイトごと買収したなどとは夢にも思っていない。 ただ、「奇跡が起きた」と信じ込んでいる。


「よかったぁ……! 本当によかったぁ!」


彼は、涙ぐんで笑った。


「じゃあ、これからもここで、みんなとのんびりお話しできるんだね。……ありがとう、神様!」


その無邪気な笑顔を見た瞬間、裏で暗躍したスポンサーたちは、それぞれの場所でニヤリと笑みを浮かべた。 「神様か。……悪くない響きだ」と。


こうして、弱小サイト『ポコポコ動画』は、謎の超巨大資本によって救済され、「世界一過疎っているのに、なぜか世界最強のサーバー強度を誇る」という奇妙なプラットフォームへと進化を遂げた。 その真実を知るのは、ここだけの秘密である。

本日のメイン登場人物


子狐ルル:まさかの工具持ってる系Vライバー。自分でもニッチな配信を行っている自覚はあった。自身の配信プラットフォームがあわやなくなるかと勘違いしたうっかりさん。

admin:Nebula Corp の CEO。この度、気が向いたのかある会社の買収を行うことにした。

ミケ:御子柴重工のトップ。ポコポコ動画の協力会社のトップでもある新事実が発覚した。


ポコポコ動画:新オーナー: Nebula Corp.(協力:Mikoshiba Heavy Industries)

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