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〝王〟に初恋  作者: 白米少年


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2/2

2 王にゴミ拾い

チュンチュン…


…スマホのアラームだ。これが令和の朝チュンだ。そして、今、横を振り向けば無防備な紅さんが……いない?


「…え!え?え?捨てられた?!」


ちなみに言っておくが、僕は紅さんと一夜を共にしたが、一夜を共にしたわけではない。僕は紳士だ。酔っている紅さんを襲うなどという兇行は決してしない。酔っていた紅さんに水を飲ませ、寝かせたらベッドに引きずり込まれたのでそのまま添い寝しただけだ。

「用事があるので帰りますね♡ダーリン♡」と書かれたメモすらも見当たらない。

僕は大人しくホテルを出た。ホテルで「僕は捨てられた!」と訴えたって「それは大変だったね。じゃあ、一緒に探しに行こうね。」なんて迷子センターのスタッフみたいに誰かが一緒に探してくれるはずもなく、ただただ恥を晒すばかりでみっともないということは考えなくてもわかるから。このどこにもぶつけられない苛立ち、悔しさ、切なさ、恥ずかしさを心に押し込めて、どこへ行くというわけでもなく歩く。ただ歩く。

もちろん、メッセージは送ってみた。が、返信はまだない。返信が来ることはない――そんなネガティブな予感が僕の心に纏わりついている。


つい数時間前までは仕事終わりのサラリーマンや夜遊びの若者で溢れかえっていたこの街も、朝となった今ではすっかりがらんどうだ。空き缶やらチラシやらが道端に落ちている。ああ、僕みたいに捨てられたんだな。可哀想に…。

そうだ、仲間じゃないか。試しに足元に転がっていた空き缶を拾ってみた。心做しか心が軽くなった気がする。

普段はゴミ拾いとか言う偽善的な行為は嫌悪の対象でしかなく、ただ辟易させられるのみなのだが、今は捨てられた仲間として、ただ自分の周りにいてほしかった。ああ、捨てられたのは僕だけじゃないんだ…。ゴミを拾う度、僕の心の痛みは和らいでいく。ゴミを拾いながら無心に歩いていると、地面がコンクリートからアスファルトに変わった。

アスファルト…。今は心底見たくない。アスファルトというのは、原油を精製した残りカスらしいじゃないか。普段なら、「残りカスの分際で人様の役に立つとはなかなかやるじゃないかはっはっは」くらいに軽く声をかけてやってもいいところだが、僕は今、ヤリ捨てられた身だ。紅さんの中じゃ、アスファルト以下だ。僕は何にもなれないのだ。

段々とこれも一種のヤリ捨てではないかと思ってきた。今までなら、「ヤリ捨て?それは不誠実極まりない行為ではあるが、即刻死刑になるような罪をやってのける輩もいるくらいなのだからそういうことをするやつが一定数存在するのはどうしようもない話だし、その様な輩とは違って人類の繁殖には貢献している」なんて鼻で笑いながら他人事として意気揚々と自分自身に語れただろうが、今はとてもそんなことをできる気分じゃない。いやそもそも「一回添い寝したってだけで彼氏面やめてよね」案件なのかもしれない。だが、そうだとしても友達くらいにはいさせてほしい。いや、待て。そもそも普通の恋愛がわからないからと自分の経験不足に胡座をかいてきっかけづくりとして添い寝に及んだのがそもそもの間違いだったのではないか?…そうだ。紅さん側からすれば、酔って正常な判断ができないうちに襲われたとも見えるのだ。

言葉にしようがない程のひどい気持ちだ。

…ああ、そうだ。昨日「恋」と思った感情はきっと勘違いだ。そうだそうだ。走って心拍数が上がったのを異性といたから「恋」と勘違いしたんだ。いわゆる、吊り橋効果だ。自分の脳みそがこんなつまらない勘違いをしてしまうだなんて信じたくないが、仕方ない。事実なのだ。

可変、不可変を見分ける叡智と変えられないものを受け入れる心の静けさを僕は持っていたではないか。

また、心を改めて「恋」を探しに行こう。

そうだ。あと1時間で授業が始まるじゃないか。走ろう。走って大学に行って、サークルで軽く汗をかいて、そうしてまたいつも通り「木偶の坊」のバイトに行こう。

うん。これは汗だ。僕は今走っているのだから、目と鼻が汗をかいているのだ。ごく自然で当たり前なことなのだ。


大学に着くといつもの友人たちと一緒に授業を受けた。さすがの僕も一時間走ったら息が切れて少しみっともなかったらしい。奴らはガハハハと豪快に無様な僕の姿を笑い飛ばした。不思議と僕も笑えてくる。僕の後光のおこぼれを預かろうと縋ってくるこんな奴らにさえ救われるなんて、今の僕は駄目駄目駄目の駄目駄目人間だ。きっと今、この世界で一番醜くて、一番愚かしいのはこの僕だ。

大学にいるときは紅さんのことは頭の片隅にはあっても、さっきみたいに僕の頭の全てが紅さんで塗れることはなかった。だが、「木偶の坊」に行くために飲み屋街に入れば、もう駄目だった。昨日の事で、嬉しさ、悲しさ、悔しさ、切なさ、…今まで味わった全ての感情や感覚が次々と僕を襲った。体の、特に手の末端がビリビリと痺れる。「恋」というのは、「恋」という感情なのではなくて、それまでの経験の強襲なのではないか、なんて思った。

…いやいやいや、何を言っているんだ。僕は「恋」なんてしていない。何を馬鹿なことを考えていたんだ、僕は。知りもしない感情を吟味するだなんて…実に愚かしい。下らない妄想を振り切り、「木偶の坊」の裏口を開く。


店主オーナー。こんにちは。」


「ああ」


「木偶の坊」の店主は寡黙だ。大体「ああ」しか喋らない。外にその旨の張り紙をしてあるし、大抵のお客さんはそれを気にしていない。たまに、カスハラみたいな客もいるが、むしろ静かでいいと言うお客さんの方が多い。だから、僕も静かに接客をする。もちろん、お客さんたちは普通に賑やかに楽しんでいる。だから、僕の顔にキャーキャーと黄色い声を上げる人だっている。仕方ない。不可抗力だ。そんなときはいつも「お客さん、お静かに。」と軽やかにウインクをする。気持ちが悪い?そりゃあ、そう言う君がやったら気持ちが悪い。僕だからこそ許される所業なのだ。


「いらっしゃいませ」


僕はミシュランレストランのウェイターのように接客する。もちろん、〝風〟だ。居酒屋でそのまんまだったら場違いが過ぎる。気遣いとか清潔感とかそう言う点だ。しかし、だからといって、済まし顔をしてはいるのだから、あまり知人には見られたくないわけで。特に、紅さんとかには…


「やっほ〜。来ちゃったぁ♡」


そういって身体をクネクネさせているのは、僕の高校の同級生のオカマ――鶴見大輝で、その隣りにいるのは……紅さん!?


「あ、あの…?紅さんですよね?」


「…え?だ、誰?ですか…?…て、あ!」

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