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政務会議が修羅場だと聞いていたのに、全部イチャつきの延長だった件 ~胃を痛める新米文官の受難~

作者: ななかまど
掲載日:2025/09/04

 王宮勤めを始めて、まだひと月も経たぬ頃だった。


 若輩の臣下エリアスは、初めて国王夫妻が臨席する政務会議に同席することになり、控えの間で緊張に身を固くしていた。


 その時、向かいに座っていた先輩の大臣補佐が、低い声でぽつりと告げた。


 

「……いいか、これから目にすることに惑わされるな。」


「惑わされる……?」


 

 エリアスは背筋を正した。まさか、この国を支える二人が深刻な不和に陥っているのか。


 

「陛下と王妃殿下は、時に激しく意見を戦わせられる。だが……決して口を挟んではならん。我らの役目は、ただ見届けることだ。」


「し、しかし、それでは国の方針が決まらないのでは……?」


「決まるさ。最後には必ず。」


「……なぜですか?」


 

 先輩は、意味深に目を細め、ため息をひとつついた。


 

「――あれはな、我らが口を出す次元の話ではないのだ。」



 それだけ言い残し、先輩は黙り込んだ。


 

(……いったい、どれほどの確執なのだ? 俺はこれから、国の命運を左右する場に立ち会うことになるのか……)


 

 エリアスは胸を高鳴らせながら、会議室の扉が開く音を聞いた。


 会議室の扉が開き、エリアスは深く頭を垂れた。


 目の前には、国王アルヴァンと王妃セリーヌが、互いに静かに座している。


 その表情は昼の太陽のように穏やかで、だが冷静そのもの。


 

「まずは、地方に導入する新作物の件だ。」


 

 アルヴァンの声は低く、落ち着いている。



「我は豆類の導入を推す。土地に適し、備蓄にも向く。」



 王妃セリーヌもまた、声を荒げず、しかし凛とした声で返す。


 

「しかし、麦こそ国民に馴染み深く、栄養的にも優れておりますわ。」



 エリアスは筆記用紙を握りしめ、息を飲んだ。


 

(……静かだ……。 声を荒げない……! だが……互いに譲らない……!!)



 二人の目が一瞬、交わる。鋭くも冷静な視線。

 

 理路整然と、しかし決して後退しない。



「豆類は収穫効率に優れ、貯蔵も容易だ。」


「麦は食文化を支える重要作物。民の生活を考えれば譲れませんわ。」



 エリアスは心の中で動揺した。



(……なんて……深刻な議論なんだ……! 国家の命運がここで決まる……!)



 しかし、会議室の隅にいる古参の宰相は、淡々と資料に目を落としているだけ。将軍も、机の下で書類を整理している。


 先輩補佐の言った通り――「見守るだけでいい」――が、意味を理解するにはまだ早すぎた。


 エリアスは筆先を震わせながら、二人の言葉を記録し続けた。議場には沈黙が流れる。思考が交錯する、濃密な沈黙だった。


 セリーヌがゆっくりと椅子から身を乗り出す。



「麦は、気候の変動にも比較的強く、安定した収穫が見込めます。飢饉の際にも、民を支える力があるのです。」



 アルヴァンは頷きながらも、すぐに反論を重ねる。



「それは確かに一理ある。しかし、豆類は土壌を肥やす。長期的に見れば、農地の持続可能性を高める。民の未来を守るには、今こそ転換の時ではないか。」



 セリーヌの瞳がわずかに細められる。冷静さの中に、揺るぎない意志が宿る。



「民の未来を守るには、今を支える基盤が必要ですわ。麦は、すでに民の食卓に根付いております。新たな作物を導入するには、教育と時間が必要です。」



 議論は一時間近く続いたが、しばらくして再び静寂が訪れた。エリアスは最後の一文を記し終え、そっと筆を置いた。


 アルヴァンは深く息を吐き、椅子にもたれかかる。セリーヌは視線を落とし、静かに手を組んだ。


 そして、老練な宰相が立ち上がり、決定を告げる。



「王国評議会の結論として、地方に導入する新作物は——麦とする。」



 その言葉が空気を切り裂いた瞬間、誰も声を荒げることはなかった。ただ、静かに受け止めるだけだった。


 アルヴァンはわずかに眉を動かし、セリーヌの方を見た。



「……貴殿の論は、確かに民の現実に寄り添っていた。」



 セリーヌは微笑を浮かべ、頭を下げる。



「陛下のご提案も、未来を見据えたものでした。いずれ、豆類も導入すべき時が来るでしょう。」



 互いに表情を崩すことなく、冷静に、論理を積み上げていく。


 そんな様子の二人にエリアスは汗をかき、終始心臓が破裂しそうだった。



(……この二人、本当に譲らない……!その内、国が割れるかもしれない……!!)



 その緊迫した空気を、昼の光の下、エリアスは必死に記録した。


 見直した筆記用紙の上には、びっしりと論理の応酬が並んでいた。


 その翌週、エリアスは再び会議室に呼ばれた。


 前回の初出仕での緊張は、まだ抜けきらない。控え室で先輩補佐の言葉を思い出す。



「……黙って見守れ。それが我らの役目だ。」



 エリアスは深く息を吸い、会議室の扉を開く。


 今日の議題は【北方との外交関係強化策】。


 アルヴァンは書類を前に置き、穏やかな声で述べた。



「北方の王国とは、交易品の安定確保が急務である。特に木材と穀物の供給を優先するべきだ。」


 セリーヌは静かに眉をひそめ、反論する。



「しかし、文化交流の促進こそ先決ですわ。彼らの民衆に信頼を示すことが、後々の交易をより円滑にする手立てとなります。」



 声は穏やかだ。怒鳴るでも、声を荒げるでもない。しかし、言葉一つひとつに鋭さがある。


 冷静な論理の応酬だが、互いに一歩も譲らない。



「木材と穀物の確保を後回しにするわけにはいかぬ。」


「文化を軽んじれば、いずれ交易の信頼も損なわれますわ。」



 エリアスは手元の筆記用紙に、必死で要点をまとめる。



(……また、譲らない……! 国が傾く……!?)



 議場の空気は張り詰めていた。エリアスは筆を走らせながら、二人の言葉に耳を澄ませる。


 アルヴァンは書類に目を落としながら、静かに言葉を継ぐ。



「北方との交易は、我が国の冬季備蓄に直結する。木材は暖を取り、穀物は命を繋ぐ。これを怠れば、民の生活は脅かされる。」



 セリーヌはゆっくりと首を振る。声は柔らかいが、芯は揺るがない。



「それでも、民の心を得ずして交易は続きませんわ。北方の民が我らを信頼し、心を開いてこそ、長きに渡る安定が築かれるのです。」



 アルヴァンは眉をひそめ、少し身を乗り出す。



「信頼は結果として築かれるものだ。まずは実利を示し、誠意を行動で証明するべきだろう。」



 セリーヌは微笑を浮かべたが、その瞳は鋭い。



「誠意とは、相手の文化を尊重することから始まります。交易品を求めるだけでは、我らが“利用するだけの国”と見なされかねませんわ。」



 エリアスは筆を止め、思わず息を呑んだ。



(……どちらも正しい。だが、どちらも譲らない……!)



 前回よりも会議のスピードは早く、理路整然と交わされる議論に、胸の鼓動はますます早くなる。


 しかし、宰相や将軍は、相変わらず冷静に書類を整えるだけだ。先輩補佐は静かに微笑み、目で「落ち着け」と示す。


 会議室の空気は張り詰めているが、誰も慌てていない。


 エリアスだけが、汗をかきながら「これは国家の存亡に関わる戦いだ」と信じ込むのだった。


 アルヴァンは一拍置き、静かに言葉を紡ぐ。



「では、文化交流は後に続けよう。まずは民の命を守るため、木材と穀物の確保を急ぐ。外交の第一歩は、国の安定からだ。」



 セリーヌはしばし沈黙し、そしてゆっくりと頷いた。



「……陛下のご判断、承知いたしました。ですが、文化使節の派遣は、交易協定の締結後すぐに行うべきですわ。民の心を繋ぐために。」



 アルヴァンはその言葉に、静かに微笑んだ。だが、その微笑みには不思議と冷たさを感じる。



「それは約束しよう。交易の安定の後、文化の橋を架ける。王国の未来のために。」



 その瞬間、宰相が立ち上がり、決定を告げる。



「では、本日の議題に関し、王国評議会は陛下の提案——交易品の安定確保を優先する方針を採択いたします。」



(毎回、この熱量で評議会が行われているのか……?これについて行けない自分が悪いのか……?)



 さらに数日後、建国祭の催し物を巡る会議。


 アルヴァンは落ち着いた声で提案する。



「開幕は軍の行進で始めるべきだ。国の礎を示すため、兵の士気を誇示せねばならぬ。」



 しかしセリーヌも冷静に応戦する。



「民が望むのは華やかな祝祭ですわ。踊り子や演目で国の豊かさを示すべきでしょう。」



 昼間の会議室には静かな緊張が漂う。


 声は荒げず、理屈を積み上げるだけ。


 エリアスは「……またもや譲らない……!」と背筋を震わせる。


 だがしかし、やはり先輩補佐や宰相、将軍は平然としている。


 「これが日常か……。」とエリアスは悟るが、依然として理解できず胃を押さえるしかなかった。





◇ 





 建国祭の議論の後、エリアスは会議室を出て、廊下で先輩文官ベルナールに呼び止められた。



「おい、どうした。顔が青すぎるぞ。」


「い、いや……国王陛下と王妃殿下の議論が……あまりにも……。」



 エリアスは言葉を詰まらせ、手で胃を押さえる。


 ベルナールは静かに笑った。



「ふむ……そうか。君はまだ青いな。」


「青い……ですか?」


「君が胃を痛めるほど悩むのは当然だ。だが、よく聞くんだ。言葉の端々に、真実は隠れている。」



 ベルナールの言葉にエリアスは首をかしげる。



「……真実、ですか?」


「そうだ。陛下と王妃の議論を、単なる表面的な言い合いだと思って聞くな。彼らが本当に望むものは、声の奥に潜んでいる。」



 エリアスは慎重に頷いた。



(……言葉の裏を……見抜け、と……?)



 それから彼は、次の会議ではただ筆記するだけではなく、国王夫妻の声のトーン、間、視線、微妙な呼吸まで注意深く観察するようになった。


 どんなに冷静に理路整然としていても、その奥にあるものを――確かめようと。


 ベルナールは背を向けながら、小さく言った。



「よく聞けば、すぐに答えは見えてくるものだ。」



 エリアスは胸の奥で、なぜか少し期待している自分に気づいた。



(……あの二人の、本当の姿……? 見てみたい……!)









 その機会は、直ぐに訪れた。


 北方国境の新兵訓練や防衛施設の配備計画を巡る会議。



「新兵の訓練は効率を最優先すべきだ。士気の維持と迅速な戦力化が急務である。」



 国王アルヴァンの提案に対して、王妃セリーヌは静かに眉をひそめ、論理的に応酬する。



「しかし、民や兵士の安全も考慮せねばなりませんわ。過酷な訓練は、逆効果になりかねません。」



 声は穏やかだが、互いに譲らない。


 エリアスは筆記用紙を握りながら、ベルナールの言葉を思い出す。



(……声の間、視線の動き、手のわずかな動き……本当に国家の危機なのか?)



 王が資料に手を置く瞬間、王妃はそっと眉を緩める。



(……互いの安全を気遣っているだけ……?)



さらに次の日、宮廷の大広間を新装飾する議題。



「大広間には格式を重んじた装飾を施すべきだ。王都の威厳を示すため、伝統は守らねばならぬ。」



 アルヴァンの提案に、またしてもセリーヌが表情を変えずに反論する。



「ですが、民が見て楽しめる華やかさも必要ですわ。国民の喜びも忘れてはなりません。」



 声は冷静だが、言葉の間や手の動きに微妙な温かみがある。


 エリアスは観察に集中する。


 王が資料を静かに押さえ、王妃は手元の絵案を差し出すその仕草――



(……表面上は意見が対立しているけど……。もしかして互いが相手の喜ぶ空間を考えている……?)



 エリアスは思わず息を呑んだ。なんだか嫌な予感がする、と。


 さらに数日後、新しい学問奨励金や図書館設立の議題が持ち上がる。



「効率的な人材育成のため、実用的な学問を優先して支援すべきだ。」


「ですが文化や芸術も大切ですわ。民の心を豊かにする学問も奨励すべきでしょう」



 エリアスは筆記用紙に向かいながら、声の抑揚、資料の扱い、指先の動きにまで目を光らせる。



(……相手が喜ぶ方向を支援させたいだけ……? 本当に国家の危機じゃないのか?)



 国王が目を細めて資料に目を落とし、王妃もそっと資料を受け取る。


 二人の冷静な応酬の裏に、静かに互いを思いやる気持ちが透けて見えた。


 エリアスは思わず背筋を伸ばす。



(……どうなってるんだ?あれは初日の緊張のせいで見えてなかっただけなのか……?)









 ある日、エリアスはいつもより業務が立て込んでしまい、帰宅時間が大幅に遅くなってしまった。


 辺りはすっかり暗くなり、外に出ると空には輝く星たちが浮かんでいた。


 遠くに、月光に照らされ美しく光る噴水が目に入り、そこが昼間はたくさんの花たちに囲まれた庭園だと気づいた。



(夜の庭園もきれいだな……。せっかくだし、少し覗いて帰ろうかな。)



 エリアスは、これまでの会議での疑問を胸に、ふと庭園に足を運んでいた。



「……あの冷静な議論の間に交わされる、無駄に熱い視線や手の動き……。本当に国家の危機じゃない気がする……。」



 そんなことを考えていると、噴水の近くには先客が居た。


 そこにいたのは、正に今思い浮かべていたばかりの国王アルヴァンと王妃セリーヌ。


 しかし、昼間とはまるで違う空気が漂っている。


 アルヴァンは微笑みを浮かべ、セリーヌの肩に手を添える。



「セリーヌ、明日の祭りでは、この花壇の薔薇を君の好きな位置に並べよう。」



 セリーヌは目を細め、少し恥ずかしそうに微笑む。



「……陛下、それは私のために?」



 アルヴァンは頷き、手を軽く握る。



「もちろんだ。君が喜ぶ顔を見たいだけだ。」



 エリアスの口が自然と開く。



(……え、なにこれ……。)



 セリーヌもそっと国王の手を握り返し、囁く。



「では、私は陛下の大好きな麦の収穫祭も計画しますわ。」



 アルヴァンは吹き出しそうになりながらも、にっこり笑った。



「おお、それは楽しみだな……君が考えたのなら、最高の祭りになるだろう。」



 エリアスは思わず後ずさる。



(……やばい……国王夫妻、昼間は冷静な議論の仮面をかぶって、夜はラブラブ……! 本当に国家の危機じゃなかった……!)



 月光の下で二人は楽しげに話し、笑い、手を取り合う。


 エリアスはあまりの衝撃に、空いた口がふさがらなかった。


 頭の中にこれまでの会議の様子がフラッシュバックする。



(え?……あの、冷戦状態です!みたいな雰囲気はいったい……?)



「ところで、皇太子もずいぶんしっかりしてきた。そろそろ弟か妹がいても良い頃ではないか?」



 セリーヌは驚いたように目を見開き、そして頬を赤らめる。



「……まぁ、陛下ったら。こんなところでそんなことを……!」



 アルヴァンは笑いながら、彼女の肩をそっと抱いた。



「王国の未来の話だ。真面目な議題だろう?」



 セリーヌは小さくため息をつきながらも、笑みを隠しきれなかった。



「……ええ、真面目な議題ですわね。」



(あ、これ以上聞いたらダメなやつだきっと。)



 エリアスは音を立てないようにそろりと後ずさり――が、石畳に足を滑らせて「カツン」と靴音が響いてしまう。


 二人が振り返る前に、エリアスは顔を真っ赤にして、まるで追っ手から逃げるかのように走り去った。 


 庭園の出口に差し掛かった時、暗闇で見えなかったが誰かとぶつかってしまう。



「わあ!すいません!次から気を付けます……!」



 そう叫びながらエリアスは庭園を抜け、急いで自宅へと帰って行った。


 エリアスは自宅に戻ると、玄関先で深く息をついた。


 そしてこれまでの筆記用紙を見返しながら庭園での光景を思い出す。



「ちょ、ちょっと待てよ……?」



(豆類は、王妃が好きな豆スープのため……?麦は、国王が昔から麦パンが好きだから……?)



 思わず額に手を当て、椅子に深く沈み込む。



「…まさか、これまでの全てが?」



エリアスは筆記用紙をぎゅっと握る。



「……う、うそだ……全部……昼間の議論は、相手を喜ばせるためだけの戦略だった……! 本当に国家の危機じゃ……なかった……!」



答え合わせで頭がパンクしたエリアスは、膝に置いた筆記用紙を抱えたまま深いため息をつく。



(……無理だ……昼間の冷静な会議と、夜の庭園……全部相手を喜ばせるためだけの戦略だったなんて……!)



現実逃避したくなり、布団に潜り込む。


目を閉じても、二人の手を取り合う姿、笑顔、微笑ましいやり取りが頭の中でぐるぐる回る。



(……寝よう……夢の中なら、もう少し心を落ち着けられるかもしれない……。)



布団に包まれ、筆記用紙を抱えたまま、エリアスは深い眠りに落ちていった。









翌朝、評議会に向かう前に庭園を通り抜けるエリアス。頭の中はまだ昨夜の答え合わせでいっぱいだ。



「……ああ、もう……心臓がもたない……。」



ふと、茂みの向こうから冷静な声が聞こえた。



「おや、エリアス。こんな時間に一人でどうした?」



振り返ると、そこには皇太子マリアスが立っていた。


昨日の庭園での件を知っているかのような、軽く含み笑いを浮かべた表情。



「で、殿下……?え、ええと、その……その……。」



エリアスは思わず口ごもり、頭が真っ白になる。


マリアスは腕を組み、にやりと笑う。



「ふむ、やはり君は昨夜ここで見てたんだな。国王夫妻の真意が見えたか?」



エリアスは真っ赤になり、顔を両手で覆う。



「な、なんで知って…?って、ち、違います!偶然、通りかかっただけで……!」



マリアスは肩をすくめ、からかうように言う。



「まあ、君の驚きようは見ものだな。昨夜君がぶつかったのは僕だよ。」



「なっ!も、申し訳ありません……!」



エリアスは動揺しつつも、筆記用紙を抱え、皇太子に向かって頭を下げる。



(……昨日の夜のこと、全部バレてる……!? どうしよう……!)



冷静な皇太子の一言一言が、エリアスの頭をさらに混乱させる。



「まあ、仲睦まじいことは悪いことじゃないしね。むしろ国の安定に繋がる。それに……。」









エリアスは席に座り、昼間の議論の“本当の意図”を思い出していた。


国王アルヴァンと王妃セリーヌが話し始めると、エリアスの耳にはもう、昼間の理路整然な言葉ではなく、ただの惚気にしか聞こえなかった。


「南方の果実を交易に……」

「西部の羊を……」


(……ああ、もう……全部お互いを喜ばせるための戦略……!)



エリアスは額に手を当て、完全にウンザリした表情で座っていた。


周囲の若手臣下たちは、そんな彼の顔を見て気づく。



「……あ、こいつ、昨日何か見たな……。」



議場の中に小さなざわめきが走ったという。


会議が終わると、先輩文官ベルナールがにやりと笑いながら近づいてきた。



「ほう、エリアス君。これまでの観察、役に立ったかね?」



エリアスは筆記用紙を抱え、溜め息をつく。



「……国家の未来を憂えて胃を痛めた自分が馬鹿だった……!」



ベルナールは笑いながら肩を叩いた。



「これが我が国の最強の夫婦仲だ。昼も冷静、夜はラブラブ……安心していい。」



エリアスは一瞬考え込み、そして小さく笑う。



(……確かに、昼間の会議の心配は杞憂だった……この国はきっと安泰だ……。)


手の中の筆記用紙をぎゅっと握りしめ、頭を抱えつつも、どこか安堵した表情でエリアスは立ち上がった。











その時、ふと思い出したのは、庭園でチラリと見かけた皇太子マリアスの顔。


彼は両親を羨ましそうに見つめていた――



「それに……。自分も、いつかこんな妃を迎えたいな……。」



その光景を思い返すと、エリアスはぞっとした。



(……ということは、僕たちの世代も、王位を譲ったあとも……この“惚気合戦”を延々と聞かされる未来が待っているのか……!)



それでも、頭を抱えながら、どこか安心した気持ちが湧いてきた。



(……まあ、この国は本当に安泰だ……。)


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