④
《魂市》の開催場所は、都心にある廃ホテルの地下。
俺とアイナは潜入のため、夜の街を歩いていた。
「……なあ、本当にこの格好で行くのか?」
俺は自分の姿を見下ろした。黒のジャケットに、妙にピッタリしたシャツ。
普段スーツ姿の阻止官には慣れたが……これは明らかに“デート仕様”だ。
「当たり前でしょ。魂市は“生きてる人間”が客として紛れ込むんだから、自然に見せないと」
隣で歩くアイナは、ワンピース姿だった。
普段の制服や戦闘用装備とはまるで違う。
正直、目のやり場に困る。
「……似合ってるな」
「っ!? な、何急に言ってんの!」
「いや、偽装カップルに見せるんだろ? なら褒めとくのも仕事のうちだ」
「そ、そういうのは演技で言うものでしょ!? 素で言うとかずるい!」
耳まで真っ赤にして俺を睨んでくる。
どう見ても可愛いのに、本人は必死に怒っているあたりがまた……。
「ほら、腕組んで。カップルっぽく見せないと怪しまれるから」
「お、おう……」
差し出されたアイナの腕に、自分の腕を絡める。
近い。思ったより距離が近すぎる。
アイナの体温が、直接伝わってきて心臓が跳ねる。
「……なんか緊張してね?」
「してねぇよ」
「耳、赤いけど」
「……それはお前だろ」
言い返すと、アイナはさらに顔を背けて、足早に歩き出す。
俺も無言でついていった。
手を離そうとしたが、アイナの腕は意外としっかり絡みついたまま。
──仕事のため。仕事のためだ。
そう自分に言い聞かせる。
ホテルの地下への階段に辿り着いた瞬間、
アイナが小声で囁いた。
「……もし、バレたら」
「?」
「……そのときは、ちゃんと守ってよ。彼氏役なんだから」
息が詰まった。
普段の反抗的な態度と違う、か細い声。
これは、ただの“偽装”の一言じゃない。
「……任せろ。彼氏役でも、阻止官でも、守るのは得意だからな」
俺が答えると、アイナの唇がかすかに震え、そして微笑んだ。
──その笑顔に、思わず見惚れてしまう。
だがその瞬間、地下から漏れる異様な気配が俺たちを包んだ。
甘い空気は一瞬で消え、戦場の緊張が戻る。
「行こうか。魂市へ」
「……うん、先輩」
互いに腕を絡めたまま、俺たちは暗い階段を降りていった。




