③
保護した女性を待機班に引き渡し、現場の鎮静化を確認する。
残ったのは俺と──まだむくれている新人、篠ノ井アイナ。
「……で、どうして黙ってんだよ」
「別に。答える義務ないし」
「新人の分際で“魂市”なんて単語を口にできる時点で、ただの研修生じゃねぇ。上に隠されてんだろ、何か」
「……先輩こそ、口うるさい。
さっきだって無茶して鎖に絡まれて……死ぬかと思ったんだから」
「お、心配してくれたのか?」
「ち、ちがっ……! 現場で死なれたら、私の査定に響くってだけ!」
わざとらしく顔を背けるアイナ。
だが、その頬がうっすら赤く染まっているのを、俺は見逃さなかった。
「ふーん。新人のくせに、先輩を心配できる余裕あるんだな」
「だから違うって言ってるでしょ!?」
声を張り上げた瞬間、足元の瓦礫に躓き、アイナがよろける。
思わず俺は手を伸ばした。
彼女の身体が腕の中に収まり、数秒間の沈黙。
「……」
「……」
至近距離で、アイナの瞳が俺を射抜く。
反射的に離れようとするが、アイナの指が俺の袖を掴んでいた。
「……その……ありがと。落ちるとこだった」
「どーいたしまして」
「勘違いしないでよね。別に、手……握ってて欲しいとかじゃ、ないから」
「言ってる時点でだいぶアウトだぞ」
「~~っ!」
アイナは耳まで真っ赤にして飛び退くと、必死に話題を逸らした。
「と、とにかく! “魂市”の件、報告あげなきゃ! 行くよ先輩!」
そう言って先に歩き出す背中は、さっきよりも速い。
……新人のくせに、ペース乱されっぱなしだ。
俺は小さく苦笑しながら後を追った。




