④
《魂干渉》──それは、物理ではなく“魂”に直接作用する、俺たちリジェクターの戦術だ。
《アザーロード》の放った黒炎の魔弾を、ギリギリの距離で躱しながら、俺は接近戦を仕掛ける。
「遅い」
アザーロードの仮面が僅かに揺れた瞬間、視界が歪む。
しまった──!
脳に直接響く異音が走り、次の瞬間、俺の意識は引き裂かれたような感覚に包まれた。
「っ……クソ、“魂揺動”か……!」
魂そのものに干渉する攻撃。
防御不能。心の“核”に揺さぶりをかける、異界神特有の干渉技だ。
そして、脳裏に“見せられる”。
──俺の過去。
* * *
数年前。
俺には、一人の親友がいた。
名前は、ハル。
陽キャで、頭も良くて、みんなに好かれてて……でも、誰よりも脆かった。
「なあ、ユウト。異世界って、さ……もしあったら、行ってみたいと思わない?」
笑いながら言ったその顔を、俺は忘れられない。
──その一週間後、ハルは飛び降りた。
俺は、間に合わなかった。
異世界へと旅立った彼の魂を、引き戻す術は、当時の俺にはなかった。
「そんなの、ありえないだろ……!」
誰が決めたんだ?
誰が、救われる魂と、逃げ出す魂を分けた?
“死んだら異世界”なんて、そんな都合のいい再出発──許されるはずがない。
俺は、誓った。
もう誰も、死んでまで救われた気になるような世界に渡らせない、と。
* * *
「──悪いが、もう昔の俺じゃないんでな」
幻影を振り払うように、俺は地を蹴り、アザーロードの前へ一気に躍り出る。
《魂打》の刀身を両手で構え、一直線に突き出した。
「《魂貫通》!」
魂の波長を刃に集中させ、相手の精神核を貫く技。
アザーロードの身がぶれ、仮面が亀裂を生じた。
「……ほう。貴様が、あのときの少年か」
「覚えてたかよ、チート神」
「貴様は、良い“触媒”になり得る。いずれ、貴様も異界を求める時が来よう」
「来ねえよ。俺の人生は、現実にしかねえ!」
再び飛び込んだ俺の一撃が、仮面を割った。
アザーロードの正体は……人だった。
正確には、元・人間。かつて転生した魂が“神”に変質した存在──異界が作り上げた「人間の成れの果て」だ。
「……愚かなる選択だ。だが、次は、また別の者が来よう」
アザーロードの身体が、砂のように崩れて消えていく。
転生ゲート、消滅。
干渉、遮断完了。
魂の波動、正常範囲──任務、完了だ。
俺は深く息を吐き、インカムに手を当てた。
「こちらユウト。新宿地下構造、対象消滅。魂の回収および転移痕跡の浄化を要請」
『了解、すぐ向かう。……無事で良かった。』
「ま、なんとかね」
振り返れば、まだ世界はどす黒くて、めんどくさいことだらけで。
だけど、誰かが“生きる”ことを諦めない限り──俺は戦う。
異世界転生? ハーレム? チート?
──そんなの、こっちで作ればいいじゃん。
誰かが言った。現実はクソだって。
だけど、だからこそ、人生は面白い。
▶次回予告:第二章「異世界斡旋屋、現る」
異世界への転生を“商品”として仲介する地下組織《斡旋屋》が暗躍を始める。
転生願望者を誘拐し、魂を売買する闇のビジネス。
ユウトは少女・アイナの魂を救うべく、最大級の異界介入戦へ挑む。