⑦
ギィィ……と扉が軋む音。
外の護衛たちが力任せにこじ開けようとしている。
「先輩、どうする?」
「やるしかねぇ」
俺はアイナの手を握ったまま、深く息を吸う。
胸奥に宿る《魂干渉》の力を解き放ち、周囲の空気を震わせた。
「来るぞ!」
ドンッ、と扉が吹き飛び、屈強な護衛がなだれ込む。
だが俺の視線は、その奥にいた──
顔を隠した女幹部に釘付けになった。
「“阻止官ユウト”ね。高値がつくわよ、その魂」
不気味に微笑む彼女が投げた短剣から、異界の呪符が展開する。
魂を強制的に“異世界チケット”に変換する禁呪。
まともに喰らえば、即異世界行きだ。
「ふざけんな!」
俺は青白い光を纏い、斬撃のように空間を裂いて呪符を弾き飛ばした。
だが、横でアイナが怯えたように俺の袖を掴む。
「先輩……守ってくれるんでしょ?」
「当たり前だ。お前だけは絶対に行かせねぇ」
言葉に偽りはない。
だけど、アイナの瞳にほんのり熱が灯るのを見て、胸がズキリとした。
これは戦場の緊張感だけじゃない──。
「ちょ、ちょっと! 戦闘中に見つめすぎです!」
「……見惚れただけだ」
「そ、そういうの今言う!? わ、私だって……!」
顔を真っ赤にして言葉を詰まらせるアイナ。
その瞬間、幹部の呪符が再び放たれた。
「アイナッ!」
俺は彼女を抱き寄せ、体ごと床に転がり込む。
背後で呪符が爆ぜ、倉庫の壁がえぐれた。
「先輩……」
「泣くな。ここからは反撃だ」
俺とアイナは息を合わせ、立ち上がった。
魂市を揺るがす、決戦の幕が上がる。




