⑥
「奴らだ! 阻止官だ!」
フードの客が叫ぶや否や、会場は一斉に騒然となった。
異界商人の護衛たちがこちらへ殺到し、鋭い刃と霊弾が飛び交う。
「クソッ、バレたか!」
「先輩、こっち!」
アイナに腕を引かれ、俺は会場の裏手へ走った。
霊力の矢が壁に突き刺さり、爆ぜた火花が頬をかすめる。
咄嗟にアイナを抱き寄せ、転げ込むように階段下の倉庫へ滑り込んだ。
──ガシャーン!
扉を閉めた瞬間、背後で無数の衝撃音が響く。
「……っ、危なかった……」
「息、止めて!」
倉庫は暗く狭い。
物資の木箱が積まれ、隙間はほとんどない。
必然的に、俺とアイナの体はぴったりと密着した。
「……っ」
アイナの吐息が首筋にかかる。
心臓の鼓動が、やけに大きく響く。
「……先輩、鼓動……速すぎ」
「お前のもだろ」
「ち、違っ……! これは、その……」
小声で囁き合うたびに、互いの唇が触れそうになる。
距離が近すぎて、息をするだけで甘い空気が混じり合った。
「……先輩」
「……なんだ」
「もし、ここで死んじゃったら……」
「死なせねぇよ」
即答した俺に、アイナの目が揺れる。
ほんの一瞬、彼女の唇が震えて──
ドンッ!
外から扉を叩く音がした。
「ここに隠れているはずだ!」
「……行くぞ」
「うん」
名残惜しそうに体を離したアイナの手を、俺は強く握り返した。
戦場でも、離さないと誓うように。




