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地下の広間に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

天井から吊るされた無数の燭台、怪しいフードを被った客たち。

そして壇上では、人間の魂がガラスの球に閉じ込められてオークションにかけられていた。


「……これが《魂市》か」


俺は眉をひそめる。

悪趣味もここまで来ると吐き気すらする。


「先輩、声……抑えて」


アイナが俺の腕を強く抱き寄せる。

自然と、まるで恋人同士のような距離感になる。

その温もりと甘い香りに、不覚にも一瞬気が逸れそうになる。


「……どうだ、怪しまれてないか?」


「たぶん大丈夫。でも……あ」


すぐ近くにいたフードの男が、こちらをじっと睨んでいた。

視線に気づいたアイナが、慌てて俺の耳元に囁く。


「見られてる……! どうしよう、怪しまれてる!」


「……なら、やるしかないだろ」


「え?」


「カップルらしく見せるための……演技だ」


俺は息を呑み、彼女の顎に手を添えた。

アイナの瞳が大きく見開かれる。

そのまま、俺はゆっくりと顔を近づけ──


「~~っ!」


アイナの睫毛が震え、瞼が閉じられる。

ほんの一瞬、唇が触れた。

短く、だが確かに“恋人の証”となる一瞬。


「……っ、な、何やって……!」


「演技だ。仕方なく、な」


「……っ!」


頬を真っ赤に染めたまま、アイナは俺の胸を小突く。

だがその腕は震えていて、力が入っていない。

むしろ彼女の指先が、離れまいと俺の服を掴んでいた。


「……ずるい。先輩ばっかり、余裕そうな顔して」


「余裕なんかあるかよ。心臓、爆発しそうだ」


「……っ!」


アイナはさらに真っ赤になり、もう何も言えなくなったようだった。

そんな彼女を抱き寄せながら、俺は低く囁く。


「安心しろ。演技でもなんでも、俺が守るのは本当だ」


「……ばか」


小さく吐き捨てる声が、かえって甘く響いた。


だが、その直後。

壇上に立つ異界商人が、不気味な宣言を放った。


「次なる出品は──《転生権》! 死者の魂を異界へ導く、唯一無二の鍵である!」


その瞬間、会場がどよめく。

俺とアイナは顔を見合わせた。


「……出たな、転生システムの黒幕」


「行こう、先輩。止めなきゃ!」


二人の手が、自然と固く繋がれた。

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