6.作戦会議
「お、お邪魔します」
翌日、すごくよく晴れた天気の中、私はお昼時に彼の家のパン屋さんを訪れた。時間帯的に一番混んでいて入りづらいだろうと予想してか、瀬名高君に事前に教えてもらった裏口から入る。前回上がった時とは違って、何となく緊張する。華美じゃなく地味じゃない精一杯のおしゃれをしてきたつもりけど、変じゃないだろうか。私が鏡の前で悩んでいるのを見かねたのか、最終的にはタンギンが「めんどくせえなあ、これでいいだろ!!」と決めてくれた。後ろで浮かんでいるタンギンがはあ、とため息をついている。相変わらず白い学ランとジャケットをはためかせて、服に負けないくらい眩しい顔でこちらを見下ろしていた。
「全く、てめえは一人じゃなんもできねえのかよ。引っ張り出された服を畳むこっちの身にもなってみろって」
「ご、ごめん。でも、決めてくれてありがとう。タンギンがいなかったら一生悩んでたかも」
「おや、夕陽ちゃん!今日は来てくれてありがとね」
裏口の隅に突っ立っていると、中から瀬名高君のお母さんである由子さんが焼きたてのフランスパンを持ちながら声をかけてくれた。緑と白のギンガムチェックの三角巾に白いエプロンがとてもよく似合う。私は急ぎ足で、売り場の奥にある厨房に向かう。奇跡的にお客さんのピークが過ぎたのか、店内にはちらほらと人がいるだけだった。
「今日はまた、お邪魔します。これ、みんなで食べてください」
「あらあら、ご丁寧に!そんな気なんて遣わなくていいのに!なんかうちの子、夕陽ちゃんを嫌に気に入ってるみたいだからねえ。ちょっと変わった子だけど、いい子だから、これからも仲良くしてもらえると助かるよ」
早起きして買ってきた小さい焼き菓子を渡すと、由子さんは笑顔で受け取ってくれた。この優しい顔を見ていれば、瀬名高君のあの優しさが受け継がれているのがよく分かる。私は大きく頷いて、奥にある瀬名高君の部屋へと階段を上がっていった。
「あ、そのワンピース、すごい似合ってるよ。これは光もメロメロかもね?」
下からそんな声が聞こえて、私は顔が熱くなるのを感じた。やっぱり男の人の部屋に上がるのは、なんとなく気恥ずかしい。でもさらにどうしようもないのが、おそらく当人はなんにも思っていないことだ。彼にとって私は、同じ主の仲間であり、一緒に『廃絶』をやっつける人なのだ。私だけが、意識してしまっている。
「おい、顔上げろよ。しゃんとしろ、しゃんと」
「わ、階段上ってる時に背中押さないでよ。それにしても、お家に螺旋階段があるなんて珍しいよね」
「あ?まあ確かにな。こいつの家も相当稼いでんだろ」
「そ、そういうことなのかな・・・・・・」
そんな会話をしつつ、私たちは瀬名高君の部屋の前まで来た。いくつか扉があったけれど、閉まっている部屋はここしかないので、おそらくここが彼の部屋だろう。彼のことだから迎えに来てくれるかもと思ったけど、由子さん曰く部屋にいるらしい。私にとって閉ざされた部屋を開けるのは大分ハードルが高い。
「ど、どうしよう。ノックして開ければいいのかな」
「それ以外に何があんだよ。てめえは意外と常識が抜けてるからな、ノックは3回だぞ」
「わ、分かった」
でも、どうしても勇気が出ない。もし瀬名高君がいなかったらどうしよう。もし迎え入れてもらえなかったらどうしよう。そもそも、この約束が私の思い違いだったらどうしよう。
「だーもー、ごちゃごちゃ考えてんな!ほら、入れ!」
その直後、頭に打撃が走り、ゴン!!と脳内に音が響く。タンギンが私を前に押したことで、瀬名高君のドアに突進してしまった。ひりひりするおでこを擦りながら、私はタンギンを睨んだ。
「た、タンギン。あまりにも豪快すぎるよ」
「てめえがありもしねえ心配ばっかぐちぐち考えてるからだろうが!ここまで来たんだ、さっさと腹括れよ!」
言い合っているうちに、ドアから光が漏れてくる。振り返ると、瀬名高君が目をこすりながら私を見た。ふにゃっと笑い、どうぞ、と手を広げている。
「ああ、椿君か。すまない、少し眠ってしまったようだ。すごい音がしたおかげで、目が覚めたよ。さあ、どうぞ。迎えに行ってやれなくてすまないね」
ふんわりと柔軟剤の香りがする。普段の制服と違って、ラフな無地のTシャツがすごく新鮮に見える。いつものハキハキとした彼と違い、ぼんやりと柔らかい雰囲気の彼に、私はぐっと胸が締め付けられるのを感じた。またタンギンのちょっかいかと思ったけど、特に何もない。爽やかな風が入る部屋に、一歩踏み出した。ふかふかのカーペットがくすぐったい。
「ご、ごめんね、寝てる時に。失礼します」
「いやいや、こちらこそ。いやー、昨日は疲れたね、久々に手強い襲来だった」
ぐーっと背伸びをして、瀬名高君が寝ていたであろうシーツを畳み、手早く私たちが座れる環境を作ってくれる。赤羽さんが悪意を増幅させられている間、瀬名高君は動けないほどに黒い煙に苦しめられていた。私は昨日の光景を思い出したくなくて、差し出されたクッションの上に静かに腰を埋める。
「おや、椿君はそこまで疲れてないようだね。いやー、タンギンが君の世話を焼いていると聞いたが、関係は良好なようで、良かった良かった!」
「あのなあ。こいつ、こんな澄ました顔して意外と手のかかる奴なんだぜ?今日だって、着てく服に一時間以上もかけてうんうん唸ってやがって。餓鬼くせえなあ」
「た、タンギン!恥ずかしいから止めてよ」
顔が熱くなるのを感じて、私は手で顔を覆う。でも私の良い所は、表情が顔に出ないことだ。だからきっと今だって、真顔で澄ました顔をしているだろう。
「なるほど、だからそんな可愛らしい服を着ているわけだ!赤い顔に対して、美しい青色が君に似合っているね!」
「・・・・・・」
言葉が出てこず、私は口を結んだ。私の特徴は瀬名高君の前では効かないことを久々に実感し、私は顔を伏せる。どうしてこの人は、こんな台詞をすらすらと言えるのか。恥ずかしがっているのがバレるなんて、永遠さん以外いなかったのに。
そう言えば、永遠さんは元気だろうか。いかんせん彼が電子機器に弱いので、ラインもメールアドレスも知らない。電話番号は、発つ時に教えてもらったので、今度連絡してみようとふと考える。
すると、ぐっと頭を抑えられる。見ると、タンギンが眉根を寄せて瀬名高君に訴えていた。
「ほら見ろ、こいつただでさえぼーっとしてやがるのに、最近ボケボケしすぎてんだよ!おい盤渉、いるなら出て来いよ!こいつの目冷ましてやれ!」
応えるように、バンシキさんが瀬名高君の背中からするっと出てくる。今日も綺麗な無表情で、藍色の長い髪をさらさらと動かしている。
「・・・・・・君たちは、彼女に対してデリカシーがない」
「ああ!?あるに決まってんだろ!最近俺もこいつが何考えてるか分かって来てんだ。この俺に分かんねえことなんてねえよ!」
「・・・・・・椿、その服、良く似合っている」
「あ、ありがとうございます。シンプルに嬉しいです」
「そうだ、飲み物を持って来よう!ちょっと待っていてくれ!」
完全に眠気が覚めたのか、瀬名高君はいつもの調子ですくっと立ち上がると、颯爽と部屋を出て行った。式神たちだけしかいない空間になり、少し不思議な気分になる。
「まあ、冗談はさておいてよ。昨日のマクモの強さは、少し異常じゃなかったか?あの底抜け馬鹿だって、伊達に除怨の経験は積んでないだろ。夕陽よりあいつを潰そうって考えになるのは分かるが、にしたってあそこまで苦戦するのはおかしいだろ」
タンギンが瀬名高君のベッドに腰かけて、足を組んでこう切り出した。私もほんわかしていた気持ちを引き締め直す。除怨に初めて協力したけど、タンギンの言う通り、クラスのみんなや森林君の時とはレベルが違ったのは、肌で感じている。
「・・・・・・早々に仕掛けてきた、と言うのが私の感想だ。光は主の中でも群を抜いて強い。莫目だって、この地域に固執することはあれど、行動範囲はここに限っているわけではない。しかし最近はここに頻出し、さらに力を強めている。考えられるのは、椿がここにやって来たから。『廃絶』の頭が彼女を仲間に引き入れようとしているなら、ここ最近の頻度や強化も頷ける」
淡々とバンシキさんは言う。自分のせいだ、と脳内で変換され、すごく申し訳ない気持ちになった。つまり、私がここに越してきたから、ここの被害が増大しているということだろう。どうして『廃絶』から声が掛かっているのかはまだ分からないけど、私を中心に『廃絶』がけしかけてきている、というのは何となく分かった。
唇を噛む。せっかく手に入れた居場所なのに、また手放さなければならないのだろうか。それとも、ここで放棄するのは無責任だろうか。だとしたら、どうしたら・・・・・・
がしっと、頭を掴まれる。真っすぐ前を向いたまま、タンギンが私の頭を掴んでいた。目線だけ、私に注がれる。目を逸らしたくなるほど透き通った銀の瞳で、力強く私を見据えていた。
「てめえにいなくなられたら俺が困るんだよ。余計なこと考えてねえで、ゴミの掃除の仕方を考えろや」
その一言に、全身から勇気が湧き上がってくる。存在を認められたことが嬉しくて、自信になって来る。そうだ、いつまでも卑屈になっていてはだめだ。私は私で、今できることを精一杯やりたい。
「ありがとう、タンギン。私も、もう苦しんでいる人を見たくない」
「よし。まずは、現状整理だ。あの阿保、さっさと帰ってこねえかな。あいつの絵は破壊的だが、図にするのはいいアイディアだからな」
褒めているのかけなしているのか分からないことを言い、タンギンが扉を注視する。丁度タイミングよく、瀬名高君が扉を開け放って現れた。完全に調子を取り戻したのか、元気100パーセントの声だ。
「みんな、ジュースを持ってきたよ!!僕の拘りとしては、この美しく削られたキューブ状の氷だね。さあ、刮目してくれ!」
ディーラーさながら素早く机にグラスを並べ、瀬名高君は私の隣に腰を下ろす。確かに普通の製氷機では作れないくらい整った正方形の氷が赤いジュースを透かしていて、とても綺麗だ。昔職人が氷をナイフで削っているのをテレビで見たことがあるけど、もしかして瀬名高君が削ったのだろうか。式神たちも、彼と氷を見比べている。
「ん?これは普通に製氷機の氷だよ?」
「まあ、あの絵でこれ作れるわけがねえもんな」
「はっはっは!僕は美術の評価だけは2だよ!」
そんなこんなで、広げられた大きめの紙に瀬名高君が棒人間を描く。その上に「マクモ」の文字と悪い表情を付け足して、議長のようにみんなを見回した。
「さて、少し真面目な話をしよう。椿君がここに来て約1か月が経ったが、今までより『廃絶』が現れる頻度が高くなっている。今までは来ても月に1、2回だったが、今月は日影町だけで4回も確認されている。加えて、『廃絶』のメンバーであるマクモ自身が姿を現すのは、極めて稀だ。しかし、彼は最近見てほしいナルシストかのようにやって来る。ここまではいいかい?」
私は瀬名高君の話を聞いて、改めて私が今の問題の原因なのだな、と実感する。きっと瀬名高君も気付いているのだろうけど、優しさなのか、この現状の理由には触れなかった。私はぐっと拳を握りしめて、片方の手を上げた。
「マクモさんは、今までは姿を見せていなかったってこと?」
「ああ。というか大抵の場合は、彼らの仕事が早すぎて、僕らが悪意の発生源に辿り着いた時にはもう退散している状態だった。だから今は、手を抜いているから遅いのか、純粋に姿を見せたいだけなのか、僕には分からないな」
「・・・・・・そうだったんだ。敵の強さも、今までとは違うの?赤羽さんの時はすごく強かったのは、私でも分かったけど」
瀬名高君が口を開く前に、バンシキさんがすっと手を上げた。彼は考えて言葉を万全に状態にして話すので、しばし沈黙が訪れる。その間に、瀬名高君は『廃絶』の襲来の頻度やマクモさんの出現を、今までと今で比較した表を作ってくれていた。タンギンはつまらなさそうに、カラカラとストローでジュースをかき混ぜている。
「・・・・・・今まで光が触れてきた悪意のレベルを、数値化すると、1から6までだ。光たちのクラスで発生したものや、少年少女たちのものは2。しかし、先日のものは4.5くらいだ。断金が手早く除怨していなければ、5に膨れ上がっていたかもしれない」
「・・・・・・参ったな」
瀬名高君が苦笑いをして、動かしていたペンを止める。昨日のが最高レベルだったと思っていたけど、半分だったとは、私も笑ってしまうそうなくらい途方に暮れてしまう。タンギンがふん、と息を吐き、ちらりと瀬名高君を見た。
「お前、盤渉に認められるなんて、中々の手練れだな。いつ頃からこいつと会ったんだ?」
彼はパッと嬉しそうに笑った顔を一瞬であれ?という顔にして、腕を組んだ。本当に表情が豊かで羨ましい。
「うーん、いつ頃だったっけ、バンシキ?確か、中学の時にはもう一緒にいたような・・・・・・」
「・・・・・・」
バンシキさんは黙ったまま、タンギンを見た。何か逡巡しているのか、中途半端に口を開いたまま固まっている。私は純粋に気になって、声をあげた。
「瀬名高君は、やっぱりバンシキさんと信頼関係が築けているから、強いのかな。まあ、強い弱いって、他に主と式神がいるかも分からないから、何とも言えないかもだけど」
「え?他にもいるぞ?」
「え!?」
瀬名高君がきょとんとして発した言葉に、私はつい大声を上げてしまった。てっきり主は彼しかいないと思っていたけど、他にも式神と共にいる主がいるとは。
「そんなにびっくりするだなんて、椿君はリアクションが大きくていいね!僕だけでは全国の悪意を除怨して回るには体が足りないからね。他にも、僕が知っている限りでは3人はいるはずだ。彼らとはしばらく会っていないが、元気にしているだろうか」
「そ、そうだったんだ・・・・・・もしかして、主が同じ地域に固まるって、除怨の効率はよくないのかな」
「いや、そんなことはないさ!強い式神は主からある程度離れても除怨できる!それに、長年主をやっている僕からしたら、一緒に経験を積んでいった方が、今後君が一人で『廃絶』に立ち向かう時に役立つことが多いだろうと思うしね。それに」
瀬名高君は一旦言葉を区切って、私の手を取った。大きくて温かい手が触れて、じわじわ熱くなってくる。
「僕はずっと一人で頑張って来たから、君とこうして悩みを共有したり、作戦会議を開けて、とても嬉しいし、心強いよ!!一人じゃないということは、安心して、より自分を強く保てる。悪意にさらされても、僕には椿君がいると思える。こんなに嬉しいことはないね!!ありがとう、椿君!!」
ずっと求めてきた、一緒にいてくれて、私の気持ちを分かってくれる人からの直球の感謝の言葉に、私は自然と手が震えてしまった。何か言おうと口を開こうとした時、タンギンが私たちの手ごとがしっと掴み、ぐいっと体を机に戻してきた。バンシキさんの発言の準備が整ったのか、静かに手を挙げている。
「・・・・・・一旦、各地方の主に相談を持ち掛けてみるのもありかもしれない。もしくは、主を増やすか、だ。断金の強さは私たちの中でも群を抜いているし、私も光も決して弱いつもりはない。しかし、あれを各地で起こされると厄介だ。『廃絶』も莫目だけではないし、他の奴らが動き出している可能性もある」
そして、バンシキさんは少し眉を下げて瀬名高君を見た。彼もバンシキさんの様子に気づいたのか、私の手ごと腕を下げて、じっと言葉を待っていた。
「・・・・・・光。残念だが・・・・・・最近、双調からの連絡がない。おそらく、彼の主は・・・・・・」
「・・・・・・っ」
瀬名高君の顔が一気に青ざめ、彼が驚愕しているのが嫌でも分かる。ソウジョウ、というのは、別の式神の名前だろうか。彼は表情が分かりやすい分、こういう時は見ているこちらも悲しくなって、胸がぎゅっと痛くなった。バンシキさんは先を言わなかったけど、タンギンの今までの主の話を聞いて、何となく想像はついた。
「・・・・・・人の悪意は怖えからな。発散する方はただ黒を吐き出すだけだが、受け取る方は、精神状態によっては感化されちまう。やばい時に増幅された悪意を受けたら、死にたくもなるだろ」
「た、タンギン。そんな言い方は良くないよ・・・・・・」
重苦しい空間に、容赦のないタンギンの声は響いて、私は彼を見上げた。瀬名高君に握られた手ごと掴んだままの彼の手に、ぐっと力がこもる。冷たくないけど冷徹な光を帯びた彼の銀の瞳に、私はひるみそうになった。
「良くねえもなにも、事実だろうが。悪意を発するのは人間なのに、それを祓うのも人間だなんて、除怨の儀式自体がおかしいんだよ。辛い感情なんて誰だって抱くのに、なんで別の奴らのも受け負わなけりゃなんねえんだ」
彼の言葉は、決して私や瀬名高君を責めているわけではなく、人の力を借りて悪意を祓う自分自身に言い聞かせているように聞こえた。彼はじっと私を見ているはずなのに、私を超えたどこか遠くを見つめている。
人間は誰しも悪意を抱くし、除怨は人の力を借りなくてはいけないのだから、それは仕方ないんじゃないか。タンギンが悪いわけじゃない。私は色々な考えが溢れてきて、何を言葉にしたらいいか分からなくなった。息を吸っても、喉の近くで止まってしまう。
「・・・・・・でも、こうしていても何も変わらないさ」
隣で黙りこくっていた瀬名高君が、ゆっくりと顔を上げている。優しく微笑んで、彼は私たちを見回した。彼は私とタンギンの手に、バンシキさんの手を持ってきて重ねる。不意に、カランとグラスの氷が崩れた音がした。
「仲間の死は、いつだって悲しいものだし、慣れない。けど、一層近くにいる仲間との時間が大切に思えるのも、また事実だ。僕たちは決して負けない。崩れそうになった時、支え合っていこう。こうして傍にいるのだから、僕たちならできるはずさ」
瀬名高君が目を閉じて、決意を語るかのように言った。長く伸びたまつ毛の先が少し揺れている。私はみんなの顔を見た。
バンシキさんは瀬名高君を心配そうに見つめ、ゆっくりと目を閉じていた。タンギンはちらっとバンシキさんを見た後、瀬名高君に視線を戻した。睨んでいるというよりは、どうしたらいいのか分からないというような、何とも言えない顔だ。私が見ていることに気づいたのか、視線がぶつかる。目の前で並んで見える式神の二人は、どちらも人形のように綺麗な目で、整った顔で、白い服を着て、少し透けている。
私は考える。存在は違うけど、こうして悲しみを共有している。手が震えていてもなお鼓舞しようとする瀬名高君を、みんな心配している。なんて温かい人たちなのだろう。私は心から、彼らと一緒にいたい、と思った。
「・・・・・・私も、みんなとなら、できると思う」
瀬名高君がパッと顔を上げる。彼の目からポロっと、涙が零れた。式神たちも、少し驚いたようにこちらを見ている。私はお腹に力を込めて、口を開いた。
「表情が変わらない私の気持ちを分かろうとして、一緒にいてくれるみんなが、私はすごく大切。失いたくない・・・・・・『廃絶』が強くなっている理由は、私のせいなのかもしれないけど、それでも・・・・・・私は、みんなとなら立ち向かえる。一人でも多くの人を救って、苦しい感情から解き放ってあげたい。一緒に、頑張りたい」
今は、強がりでもいい。今まで支えてくれた人たちのピンチに、私も抗いたいし、『廃絶』に一矢報いたい。こんな思い、人生で初めてだった。段々と体中に血が巡っていって、私は握られていた手を握り返した。
すると、タンギンがぷいっと顔を背けた。繋がれた反対の手で、膝に手をついている。
「・・・・・んなん、当たり前だろ」
「え」
「この俺がいるんだから、負けるわけがねえんだよ。この元気馬鹿もいるし、盤渉だっている。俺らが『廃絶』をぶっ潰す。改めて言うほどのことでもねえよ」
「タンギン・・・・・・」
「・・・・・・彼は、私たちなら大丈夫だ、と言っている。私も、そう思う。光は今まで多くの困難を乗り越えてきたし、椿や断金もいる。だから、大丈夫だ」
バンシキさんも続けて、瀬名高君の手をぎゅっと握る。固く込められた力に応えるかのように、瀬名高君はふっと笑った。袖で目元を拭き、いつものようにパッと笑う。この笑顔が見たかった。
「・・・・・・そうだな。こんな力強い仲間がいるんだ。僕たちは負けないさ!!きっと『廃絶』を倒し、みんなに笑顔を届けられる、そんな存在になってみせる!」
「その意気だよ、瀬名高君。私も、早く力になれるよう頑張るね」
「てめえはもうなってるっつうの。つうか、力になりてえんだったら肉食え、肉」
ぎゅっとタンギンにほっぺを引っ張られて、痛さと共に嬉しさが込み上げてくる。瀬名高君が声を上げて笑っていた。バンシキさんも、静かに微笑んでいる。
この時間を大切にしたい。またこうやって、みんなと笑って喋りたい。
「しんみりしてしまってすまないね。さあ、作戦会議に戻ろうか!なんなら僕が一筆、君たちの似顔絵を描いてあげよう!!」
「はあ!?必要ねえよ!作戦会議に戻れ!!」
言い合っている彼らを見て、ふと思う。あんなに明るかった瀬名高君が、こんなにも沈み込んでしまったのも、昨日マクモさんの攻撃を受けた反動なのだろうか。ずっと眠そうにしていたのも考えると、『廃絶』と立ち向かうには、主にはかなりの負荷がかかるのかもしれない。これからメンタルも鍛えなきゃな、と私はクッションに座りなおした。
「『廃絶』に立ち向かう策としてはとりあえず、新たな式神を呼んで主を増やすことかな。ヒョウジョウに話を聞いて、状況を整理するとか」
「あとは、俺らの力を強めることもありじゃねえか?敵対した時、またあのくそみてえな力に当たった時、潰れねえように」
瀬名高君がみんなの意見を紙に書き留めていく。私はふと気になって、手を挙げた。
「はい、椿君!」
「その、ソウジョウさんって人には会えるの?こっちに来てくれるのかな」
「・・・・・・式神は、主の死後や主から一旦離れると、49日間は療養期間として眠る必要がある。私たちは毎月、集まって会議を行っているが、先月の会議にも双調はいなかった。そういえば、勝絶も不在だった」
「そうだったのか。俺行ってねえから分かんねえわ」
「・・・・・・」
バンシキさんの無言の圧に慄きつつも、瀬名高君のメモに視線を向ける。まだまだ知らないことがいっぱいあるなあ、と思いつつ、私は険悪なムードの式神たちに声をかけた。
「ねえ、その療養するとことか、会議する場所ってどこなの?そこに行けば、もしかしたら別の式神がいるかも」
すると、みんな一斉にこちらを向いて、あ、という顔をした。あまりの素直な反応に、私も言葉に詰まってしまう。瀬名高君がカタン、とペンを置いて、意気込むように立ち上がった。
「よし!我々は『廃絶』に対抗する手段として、自身の力のレベルアップと、仲間を増やすことを実行していこう!まずは新たな式神へ挨拶だ!よし行こう!!」
「おい、どこ行くか知ってんのかよ!待て!」
こうして、少し日が陰った頃合いを見計らって、私たちはタンギンたちが案内する場所まで歩いてきた。と言っても、そこは瀬名高君の家から10分くらいのとこで、私の家からも近い場所だった。
「私たちの姿は普通の人間には見えないが、神聖な空気の中、安心して会議を行える場所がある。それが、神社だ」
やって来たのは、この前レイちゃんと一緒に帰った時に来た、よく散歩で前を通る神社だった。木がわさわさと生い茂っている様子は、こうして見ると少し怖い。大きな鳥居の前に建てられている石に名前が彫ってあるけど、苔が文字を侵食していて読めない。
「ここで、バンシキさんたちは会議をしているんですか?」
「・・・・・・場所は時によってさまざまだ。だが、比較的ここが多い。現に、丁度療養が終わった式神が、ここにいるようだ」
「え!?」
辺りを見回す。さわさわと揺れる葉っぱの隙間から、目を細めたくなるほどの光が漏れている。過ごしやすい気温だけど、まだ太陽は輝いている。特に何も感じないけど、このままふと後ろに倒れて眠くなるような、そんな安心感が充満している気がする。
「僕も感じているよ。みんなで探してみようか!おーい、式神ー!いたら出てきてくれないかー!」
「せ、瀬名高君。そんな大っぴらに呼んでいいのかな」
そんなこんなで、私たちは神社中の、入ってはいけないであろう場所以外を探すことにした。傍でダンゴムシでも探すように石をひっくり返しているバンシキさんに、私はしゃがみ込んでこっそり耳打ちをする。
「バンシキさん。瀬名高君が面識のある主と式神たちって、どんな人たちなんですか?この地域じゃないってことは、関西とかにいるんでしょうか」
彼はゆっくりと私に視線を向けるとまた逸らし、思案顔でしばらく黙っていた。口を開いた彼が顔を上げると同時に、彼のサラサラの髪がするりと肩から滑り落ちている。
「・・・・・・そうだ。光が知っているのは、ヘを司る勝絶、トを司る双調、そして、ハを司る神仙だ。主はそれぞれ、中年の男性、若い男性、若い女性だ。今は神仙のみが関西にいる」
聞き覚えのある言い方に、私は思い出す。司る、という言葉は、確かタンギンが除怨の時に言っていた。あの時読み上げていた単語は上手く聞き取れなかったけど、もしかしたら式神たちの名前なのかもしれない。
「そうなんですね。同じ主が全国にいるって、変な感じです。シンセンさんだけで、関西は大丈夫なんでしょうか」
「それは問題ない」
きっぱりと言い切ったバンシキさんに、私は視線を向ける。彼はいつものように真顔で、冷静に口を開いた。ガラス玉に近い透明な美しい瞳が光っている。
「彼は、私たちの中で一番強い。彼がいれば、力を付けた『廃絶』にも立ち向かえるだろう」
彼にここまで言わせるシンセンさんに、私は期待と恐怖で胸がドキドキしているのを感じた。会ってみたいけど、一人で関西全域を除怨しているであろう彼とその主に、私は少し怖さも感じた。怖いというより、畏敬だ。
「・・・・・・タンギンより強いんでしょうか」
「ああ。神仙の次が断金だ。私なんて、足元にも及ばない」
「そんなこと・・・・・・」
「んなことはないんじゃないすかね。盤渉さんだって、十分お強いでしょ」
聞いたことのない低い声に、私は上を見上げた。木の葉の陰から漏れ出る光を大きな体格で遮っていて、姿が見えるのに時間がかかる。声の主は、まだ私が会ったことのない、男の人のようだった。彼はにかっと口を大きく開けて笑っている。木にぶら下がるように逞しい手を突き、優し気な顔で紅い目を光らせ、短く切り揃えらえた深緑の髪をした彼は、肩から掛けたジャケットをかけ直し、私たちを見下ろしていた。彼の耳に付いている、鎖のような金のピアスが鋭利に光っている。
「お久しぶりっす、盤渉さん。お元気でしたか」
「・・・・・・勝絶。久しぶり」
バンシキさんから出た言葉に、私は声を上げそうになる。この人がショウゼツさんか。おそらく、ここに来てから気配を感じていた式神だろう。式神はみんな白い学ランを着ているから判別しやすいけど、彼はいわゆる短ランで、六つに割れた腹筋が嫌でも目に入ってしまう。バンシキさんは立ち上がって、嬉しそうに口元をふと緩めた。私もつられて腰を上げる。
「いやー、意外と療養期間って長いっすねー。俺、暇すぎて雲の形を物に例える名人になっちゃったっすよ。あー、体も鈍ってるかもなー」
「・・・・・・君は、相変わらず元気そうだ。私も元気だよ。この前の会議にいなかったから、まさかとは思っていたが」
「そうなんすよ、主と別れちゃって!」
元気に話すショウゼツさんに、私はすっと胃が冷たくなるのを感じた。この人の素性が知れないから、主の死を何とも思わない怖い人かもしれない、と悪い予感が走る。人の命を何とも思っていないタイプかもしれない。
「もういい歳だからっつって、引退したんすけどね。めっちゃいい人でしたよ!何でもお孫さんが生まれたらしくて、これからゆっくり遊ぶのが楽しみだっつってました!いやー、嬉しい限りですわ!」
彼はそう言ってカラカラと照れるように頭を掻いて笑った。私は唖然とする。この短時間で、ショウゼツさんはすごくいい人だというのは分かった。驚きなのは、ショウゼツさんは主が死んだから療養していたのではなかったということだ。円満に関係を切ることも可能だということ、人は死んでいないという安心感に、つい息が漏れる。だったらソウジョウさんの主も、死んだとは限らないはずだ。
「ん?このお嬢さんは誰っすか?新しい主さんっすか?」
バンシキさんの隣にいた私に、ショウゼツさんが気づいてじっと見つめてくる。彼は身長はタンギンとそこまで変わらないけど、何せガタイがいいので、別の圧を感じる。私は一歩後ずさりしつつも、緊張して張り付いていた喉を動かして挨拶した。
「は、初めまして。椿夕陽と申します。タンギンの主です。よろしくお願いします」
「おおー、お嬢さんが噂の断金の主さんっすか!いやー、もっとゴリゴリのマッチョな奴かと思ってたけど、こんな可憐な人だとは驚きっす!どもー、初めまして、俺はショウゼツって言います!勝利の勝に、絶対の絶!よろしく、夕陽さん!」
すっと差し出された手に、私は両手を伸ばす。すると大きくてごつごつしている手にがちっと掴まれ、彼はぶんぶんと元気よく振ってくれた。脳もシャッフルされかねない勢いだ。やっぱり力は強いらしい。
「椿君!!」
鋭く聞こえてきた瀬名高君の声に、私は振り返った。ショウゼツさんを見つけた、と報告しようと口を開いたけど、彼の後ろに立っていた人物に、私はつい固まってしまった。
「・・・・・・うちに、何か用?夕陽ちゃん」
レイちゃんが、白と赤の装束に身を包み、身長一杯ある箒を手に持って立っている。彼女の目は疑問と、少しの嫌悪の色を帯びていた。この目は、私が一番嫌いな目だ。私は咄嗟に体が震え、ショウゼツさんの手を離す。
「せ、瀬名高君。どうしてレイちゃんがここに・・・・・・」
「椿君。今日はもう帰ろう。僕たちはただ散歩をしに来ただけなんだ。もう涼めただろう?良かった、ここはとてもいい所だ!」
ぺらぺらと喋って、瀬名高君は私の手を引っ張って鳥居に向かった。途端に手が熱くなって、悲鳴を上げそうになる。でもここは、大人しく彼に従っておいた方がいいだろう。状況は良く分からないけど、あまりいい雰囲気じゃないのは感じ取れた。
「偶然だったね、碁色君!じゃあ、僕たちは行くよ。また明日、学校で!」
「ちょっと待ってよ!!」
レイちゃんが私の肩を掴む。もしかしたら嫌われたんじゃないか、という不安が襲ってきていたけど、振り返った時に見えた彼女の顔は赤く、何かを我慢しているように見え、私たちは足を止めた。
「・・・・・・いずれはバレると思ってたけど。ここ、私の家だって知ってたから来たの?」
「え?ち、違うよ・・・・・・この神社が、レイちゃんのお家なの?」
つい素直な疑問が出てしまう。私の反応が予想外だったのか、レイちゃんはキョトンとしていた。瀬名高君は私たちの反応をガン無視して、堂々と胸に手を当てている。
「もちろん知っていたさ!ここは『碁色神社』だからね、君のことを思い出さずにはいられないさ!でも僕たちが来たのは君に会うためじゃない。たまたまここを通りがかっただけさ!決して誰かを探しに来たわけじゃないとも!あ、人扱いでいいのかな?」
瀬名高君、余計なこと言わないで!!と叫びたくなるけど、案の定レイちゃんはむっとした顔で、私たちの肩をがしっと抱え込んだ。巫女さんのような可愛い服の袖の紐が肌に当たって、足をくすぐる。
「うちが神社だって、絶対クラスのみんなには言わないでね。言ったら怒るから」
パッと私たちから離れて、レイちゃんはちょっと涙目になりながら、頬を膨らませて去っていった。でも急にぐりんと引き返してきて、私を指差してくる。頬を赤くして懸命にこっちを向こうとしている彼女は、照れているのか怒っているのか分からない。
「夕陽ちゃん、そのワンピースめっちゃ可愛い。今度、一緒に服見に行こうね」
「う、うん?」
走り去っていく彼女を、私たちは茫然と見続けていた。急な出会いと謎の忠告に、頭が混乱しっぱなしだ。でもきっとレイちゃんは、私たちのことを嫌ってはないだろう。その事実だけで、少し安心できる。
「あいつ、何だったんだよ。人を指差しやがって、失礼な奴」
横から一部始終を見守っていたであろうタンギンが、刺々しい声で呟いている。ハッとして、私は瀬名高君を振り返った。
「ねえ、ショウゼツさんいたよ」
「君は意外と切り替えが早いね、椿君?」
「よお勝絶、てめえ主となんかあったのか?」
「久しぶりっすね、断金さん!相変わらず意地悪な聞き方っすねー!お孫さんのお世話したいからっつって、円満に関係を解除しましたよ!俺も幸せっすわ!」
「・・・・・・そうか。そういうこともあるのか」
ショウゼツさんとタンギンの会話を聞いて、瀬名高君がぽろっとこぼす。私は彼に向かって深く頷いた。彼の手に触れようとしたけど、恥ずかしくなって上げかけていた手を引っ込める。
「きっと、ソウジョウさんの主も、大丈夫だよ。今はとにかく、出来ることを頑張ろう」
「・・・・・・椿君。ありがとう。君がいてくれてよかった」
温かくて太陽のような笑みが返ってくる。彼が笑ってくれるだけで、こんなにも安心できるんだ、私も頑張りたい、と心から思う。
「え、この人たちお付き合いしてる感じっすか?俺たちお邪魔っすかね?」
「はあ!?付き合ってねえよ!!」
「なんで断金さんが答えるんすか。まあ、なんかいいっすね、楽しそうで!」
こうして、私たちはひとまず神社を出ることにした。瀬名高君と初めて会った横断歩道の前で立ち止まり、お互い顔を見合わせる。信号機の点滅を受けた彼の顔の明るさと、ずっと白くて影のともらないバンシキさんたちの顔がすごく対照的に思えた。
「すまない、夜は家の手伝いをすると母に言ってしまってね。椿君も帰りが遅いと親御さんも心配するだろうし、ひとまず今日はお開きにしようか」
「は?こいつ、親いね・・・・・・」
「そ、そうだね。で、ショウゼツさんは・・・・・・・」
余計なことを言いそうになったタンギンを遮って、私はショウゼツさんを見上げる。ん?と首を傾げて笑顔を見せてくれたけど、彼はどこにいるつもりなのだろうか。また神社に戻るのだろうか。
「うーん、ひとまず椿君に付いていったらどうかな?『廃絶』襲来の確率的には君の方が狙われやすいだろうし、二人も式神がいれば滅多なことは起きないだろう」
瀬名高君の提案に、私はぶんぶん首を振って、全力で抵抗した。家に男の人が二人もいるだなんて、慣れないし気まずいし手に負えない。最近やっとタンギンが風呂以外一緒にいることに慣れてきたのに。ちらりと横を見ると、ショウゼツさんが悲しそうに自分の厚い胸元を抑えていた。
「そ、そんなに露骨に拒否られると、心にくるものがあるっすね・・・・・・」
「それより、おめえの体力的に負担じゃねえのか?式神を二人も従える主なんて聞いたことねえぞ」
「・・・・・・光も、前回『廃絶』から受けたダメージから回復したとは言い難い。可能なら、椿に任せたい」
「お、俺もしかして家なき子っすか?」
半泣きなショウゼツさんを横に、私はいたたまれなくなって、降伏の意味も込めて手を挙げた。今日はなんだか挙手してばかりだ。
「わ、私の家で良ければ・・・・・・」
「ほんとっすか!!ありがとうございますっす、夕陽さん!!」
「いいか、てめえはこいつに構ってないで、早く寝ろよ!」
「断金さん、いつの間にお母さんになったんすか?」
そんなこんなで瀬名高君と別れた私は、自宅に帰り、タンギンが作ってくれた晩ごはんが並んだテーブルを挟んで座る式神たちを見ていた。今日は鮭ときんぴらごぼうとお味噌汁だ。私が麩が好きと言ったからか、お豆腐よりも多い大量の麩が浮かんでいる。水分を吸いまくってほぼ茶碗が白い。でも、出汁が効いたお汁が麩を噛むたびに染み出てきて美味しい。
「いやー、それにしても夕陽さんがこんなひっろい家で一人暮らししてたなんて驚きっすね!で、断金さんが家政婦さんをやっていると!」
「はあ?誰が家政婦だよ。こいつ、ほっとくとろくに飯も食わねえし、体力ないと俺が除怨できねえだろうが。こいつのためじゃねえ」
「はいはい、素直じゃないっすねえ!美味しいっすか、夕陽さん?」
「ああ!?」
元気な会話に、心が温かくなって、より一層目の前のご飯が美味しく感じる。食卓が騒がしいだなんて経験、もしかしたら初めてかもしれない。家族団らんの記憶なんて、昔過ぎて覚えていないけど、こうして不思議な仲間と食卓を囲めるのは、すごく嬉しかった。
「はい、すごく美味しいです。ありがとう、タンギン」
「だ、だからてめえのためじゃねえって!ほら、勝絶もいて疲れてんだ、もっと食え!!」
「あはは、食堂のおばちゃんみたいっすね!!」
「誰がババアだ!!」
あっと言う間に布団にくるまって、私は横でショウゼツさんと小声で喋っているタンギンを見つめる。心地いい疲れがどっと来て、目を閉じた。新しい式神と、みんなとこれから過ごすことを考えて、私は自然と笑みが零れ、そのまま眠りについた。




