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21.和解

「夕陽!!夕陽、目を覚ませ!!」

体が揺さぶられて、必死に私の名前を呼ぶ声が聞こえる。私は重い目を開けると、そこにはタンギンが目を見開き、真剣な顔で私に呼び掛けていた。私と目が合って、彼はほっとしたようにふっと体の力を抜いたのが分かる。目をずらすと、彼が横たわった私の体を抱えてくれているのが分かった。立ち上がろうとしても、なぜか力が入らない。

「タンギン、今、どうなってるのかな・・・・・・」

「それは、こいつらに聞け。俺も言いたいことがいっぱいあるんだよ」

タンギンはそう言って、前を睨みつけた。彼の金の髪から水滴が滴り落ちて、私の頬に当たる。すごく冷たい感触に、それがさっきの水流の水なのか、汗なのか、今は分からなかった。

彼の視線の先には、さっき見た大きさの違う二人の影があった。日光が彼らの背後に照り、逆光で姿は見えない。でも、ここが伏見稲荷の頂上であり、現実の頂上ではなく、どこか別の空間の頂上であること、そしてこの不思議な現象は、彼らの仕業であることは、何となく分かった。視界の端には同じように、目を閉じたままの瀬名高君とレイちゃんが横たわり、同じように式神たちが二つの影を捉えている。バンシキさんもショウゼツさんも、今まで見たことないほど顔が強張っていた。


「やあ、断金。久しぶりだね。この前の会議は、君は珍しく出席したらしいじゃないかい。生憎僕は参加できなかったんだけど、聞いたところだと、廃絶の術が重なることは不可能だと、解明したとか。素晴らしい、よくやったね」

影の大きい方から声が聞こえる。彼の声には聞き覚えがある。鈴のような声に、意識の芯を突かれるような、低い声だ。不思議と身を委ねたくなるけど、タンギンが私を抱えている指にぐっと力を入れたのが伝わって、我に返った。

「別にあんたに褒められるために言ったんじゃねえよ。俺はあんたに関わりたいわけじゃない。なのに、なんだ、この仕打ちはよ。主に眷属を乗っ取らせるなんて、非常識にもほどがあんだろ」

タンギンの返事に、影の小さい方の人がぷっと噴き出す。さっきまで喋ってた人は低い声だったけど、こちらはちょっと高い。というか、何となく誰かに似ている気がする。

「くっくっく、非常識って、あなたが言うんですか?問題児のくせにいつも会議に出ず、僕たちの警告を無視してきたあなたが?笑わせるのもほどほどにしてくださいよ」

彼の言葉に、タンギンが明らかに苛ついているのが雰囲気で分かる。私はこのままではタンギンがブチ切れそうな予感がして、何とか重い体を起こした。まだ立ち上がるほど体力は回復していない。さっきまで大洪水が起こっていたはずなのに、手に触れたなぜか地面はざらりと乾いていて、タンギンの白いジャケットが茶色く汚れている。埃や汚れが大嫌いで、見かけたらすぐティッシュで拭きまくる彼が、私を支えるために服を汚してくれていると思うと、私とタンギンも仲良くなれたんだと実感して、嬉しくなった。

「おい、まだ座ってろよ、顔が青いぞ」

「う、うん。ありがとう・・・・・・・この人たちは、シンセンさんとその主さん、だよね」

私の言葉に、タンギンは私の背中を支えてくれたまま、黙って頷く。私は改めて、鳥居と太陽が立ち上る彼らの方を見た。

ようやく目が慣れてきて、堂々と立っている彼らの姿が視認できる。背の高い方は、間違いなく私がお祭りの時に碁色神社の中で出会った、長い赤髪に緑の瞳を持ったあの人だった。光と影のコントラストがハッキリとしている今、彼の後ろ髪が片方は外側に跳ね、もう片方はぱっつんと真っすぐに切りそろえられていること、耳から垂れ下がったイヤリングの金属が右は歯車型、左は短冊型と、左右で色々とアンバランスなことが見て取れた。飾りがでかい分、太陽が金色を反射して目を刺してくる。彼は私と目が合うと、にやりと左右対称に唇を引き結んだ。廃絶のように悪い感じはしないけど、彼が持つオーラは決して友好的なものではない。

「やあ、初めまして、じゃないんだったね。君の記憶は消したはずなんだけど、断金の力でなぜか思い出せちゃったみたいだね。それも、君が廃絶に気に入られている証拠なのかもしれないね?」

「随分なご挨拶じゃねえか。こいつは別に自分から廃絶に突っかかってるわけじゃねえ。それに、人の主の記憶を勝手に消すなんて、てめえらしくねえぞ」

タンギンが横から口を挟んでくる。シンセンさんは腕を組んで片腕を顎に当てると、ちょっと困った顔をした。彼の一挙手一投足に目が引き付けられてしまう。横で、少年とも少女とも言い難い子がくすくすと笑っていて、嫌な気分になった。まさか式神最強の存在からこんなに嫌われているとは。

「僕らしくない、かい。断金、君が僕の何を知っているんだい?会議にも出ず、自分が選んだ主を死に追いやってきた君が、誰かのことを理解できるようになったのかい?」


シンセンさんがそう言った瞬間、私は自分の体が地面に触れたのを感じた。顔を下に向ける間もなく、彼はシンセンさんに近づくと、彼の胸倉を掴んでいた。目を急に太陽の方向に向けたので、逆光で彼らの表情は分からない。でも、今は分かりたくなかった。私はまだ本調子じゃない体の奥に、ふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じていた。

「・・・・・・てめえ」

シンセンさんは苦しそうに眉間に皺を寄せつつ、タンギンの手を掴み返している。甘んじて攻撃を受け入れているようで、なんだか二人が怖く感じた。

「ぐうの音も出ないかい?君は、自分以外を自分だと思い込んでしまっているんだよ。式神は黒く染まってしまった人間の気持ちを浄化し、元の平穏な状態に戻すためにいる。しかし、君のやっていることは、主を自分の意のままに扱い、力だけを搾取する独裁者だ。だから主は心を悪意に侵されたまま、追い詰められてしまう。違うかい?」

タンギンが悔しそうに歯を食いしばっているのが分かる。タンギンが今までの主に何をしてきて、どういう接し方をしてきたのか分からないから、私が言えることは何もないかもしれない。でも、私と過ごしてきた彼の温かさに、私は何度も救われてきたのだ。私は唇を噛み、膝に力を込めて立ち上がる。

「・・・・・・神仙さん、言い過ぎっす。何も断金さんも、悪意があって主を追い詰めてきたわけじゃないんすから」

「・・・・・・それに、私たちは彼と主がどういう経緯でそうなってしまったのかは知らない。憶測で物を判断するのは、危険だ」

未だに目を覚まさない瀬名高君とレイちゃんの傍でずっと黙っていたショウゼツさんとバンシキさんが、絞るような声で言う。すると、シンセンさんの横にいる子供がははっと笑った。その子はよく見ると水色のセーラー服にズボンを着ていて、さらに性別が分からない。

「そんなこと言って、主が精神も身体も擦り切れているのに除怨しようと引っ張りまわして、弱っているのにも気づかなかったんでしょ?あなたのやってることは、廃絶と同じですよ。なのにどうして、そんなに堂々としていられるんですかあ?」

私はその瞬間、その子の前に走っていた。目の前に立ち、自分より小さいその子を見下ろす。自分がどうやってこんなにすぐ彼の元へ行ったのかは覚えてない。まるで瞬間移動でもしたかのような景色の変わり方に、私自身驚いていた。でも今はそれどころではない。こんなに自分の式神を悪く言われて、黙っていられるはずがない。私は普段あまり怒ったりはしないけど、今はかなり苛ついている自覚がある。

その子はちょっと驚いたように目を見開いたけど、ふと笑ってまた意地悪そうに顔を歪ませた。近づいてみると分かるけど、彼は男の子であること、そして今の発言は言い過ぎた、と後悔していることが見て取れた。でも、それでも許せない。

「な、なんですか。近いですよ。どいてください」

「・・・・・・タンギンに、私の式神に、謝って。今の発言は、取り消して」

「どうして僕が・・・・・・大体、この人が自分の主に寄り添ってこなかったのが悪いんでしょ!?その結果が、主を死なせてきたんじゃないんですか!?」

「死なせてきたって、何人?そもそも、本当に死んでいるか、あなたには分かるの?」

私はふつふつと込み上げてくる怒りを抑えられなくて、口から勝手に言葉が出てきてしまう。相手はまだ幼いのだし、今のはまずいと思ってくれているのは分かるので、一回落ち着こうと深呼吸した。でも相手には、私が顔色一つ変えずに、ただ静かに怒っているのに怯んだのか、目を泳がせてシンセンさんの方に視線を向けた。私はそうはさせまいと、顔を傾けて彼を覗き込む。彼の顔は少し涙目だったので、ちょっと可哀そうになってくる。

「な、なんですか!別にあなたのことを悪く言ってるわけじゃないですよ!なんでそんなに怒ってるんですか!シンセン、そうでしょう!?」

「甘楽、今の言葉は悪意があったね。僕は君の肩は持てないよ」

「な、シンセンまで・・・・・・」

「・・・・・・甘楽さん。タンギンは確かに、最初は人の気も知らずに邪魔ばっかしてきたり、ちょっかいかけてきたり、ひどいことを言ってきたりした。でも、彼は優しかった。顔の変わらない私を煙たがらず、理解しようとしてくれて、会話をしようとしてくれた。実体化は体力を費やすのに、家事を代わりにやってくれて、両親のいない私の生活を支えてくれた。マクモさんやホウキョウさんからも何回も守ってくれたし、心細い時はずっとそばにいてくれた。そんな彼が、人を死に追いやるわけない。私は自信を持って言える。私はタンギンを信じてる」

「夕陽・・・・・・・」

タンギンの声が聞こえる。少年は私をまっすぐ見て、目を見開いていた。困惑と後悔が浮かんでいるその目は誰かに似ているような気がした。私は膝に手を突いて彼と目線を合わせると、吹いてきた風でなびく髪を耳にかけて、彼を見つめ返した。

「あなただって、自分の式神が悪く言われたら嫌でしょう?人にされて嫌なことは、人にはしないで」

「・・・・・・」

少年はぐっと顔を歪ませて、所在なさそうに下を向いた。少し言い過ぎたかもしれない。私は姿勢を戻すと、下を向いたまま少し震えている彼を見下ろした。背丈からするに、小学生くらいだろうか。でも、式神最強のシンセンさんの主が小学生だなんて、想像できない。すると、トントン、と肩を叩かれた。振り返る前に、誰だか分かる。そこには、照れ笑いを押し殺そうとしているタンギンが唇を噛んで、視線を斜めに向けていた。不満そうに口をへの字にしつつ、太陽のせいにも見える赤い頬をして、ついにこちらを向いた。

「・・・・・・お前、喋りすぎ。いつものぼけっとしたお前はどこいったんだよ」

「だって、タンギンが悪く言われて、耐えられなかったから。久しぶりにこんなに怒ったよ」

「・・・・・・今、椿は怒っていたのか」

「普段怒らない人が怒るとマジで怖いって噂、本当だったんすね・・・・・・・俺、ヒヤヒヤしたっすよ」

式神がこちらを向いて話しかけてくると、その場にパンパン、と拍手が響き渡った。シンセンさんが楽しそうに手を叩いている。タンギンはぐっと一歩下がりつつ、まっすぐ彼を見つめた。シンセンさんはこちらに近づいてきて、私の方を見ていた。やっぱり彼の緑の瞳に引き付けられてしまう。

「いや、お見事だったね。主と式神の信頼関係は、こうでなくては。うちの主が失礼したよ、椿夕陽さん。君は予想以上に主の素質があるんだね。素質と言えば、盤渉と勝絶の主たちも、だね。特にそこのお嬢さんは、あの碁色神社の娘だろう?勝絶と組むとは思っていなかったけど」

「まあ、力っつうよりはパワー型の俺にはもったいない子っすよね。レイさんの主としての才能を無駄にしちゃってるっすけど、俺は俺なりに頑張ってるんで!」

ショウゼツさんはそう言うと、いまだに横たわっているレイちゃんの手を握りつつ、明るく言った。でも、顔が強張っている。シンセンさんは遠回しに、二人は合っていない、と言いたいのだろうか。それに、自分の主を操られてしまったのだ、いい気はしないだろう。

バンシキさんがシンセンさんを見つめ、口を開く。普段は仏のような彼だけど、今は少し目が鋭い気がする。

「・・・・・・神仙、お前は変わったな。いつもは主が誰であろうが、興味を持たないはずだ。しかし今は、勝絶や断金にいやに関わってくる。何があった?」

「君にそんなことを言われるだなんて心外だ、盤渉。僕にも僕なりに考えがあってね。君のことだから、分かってくれていると思っていたけど。まあ、廃絶の長から目を付けられている存在が、僕たちの中でも一番の問題児と組んでいるのは、僕としても注目せざるを得ないわけだ」

シンセンさんは私をちらっと見てそう言った。だからあのお祭りの時、一目私を見に来たのだ。記憶を消したのは、私がタンギンに自分と会ったことを知らされたくなかったからだろう。でも、タンギンの話では、主と式神は一定の距離じゃないと離れられないらしい。ということは、この少年もあの時こっちに来ていたのだろうか。もしくは、関西に主を置いても力を使えるほど、シンセンさんの力が強大なのか。

小さい男の子の方に視線を向ける。その瞬間、私はぎょっとしてしまった。その子は、目に今にもこぼれそうなほど涙をためながら、ふるふると肩を震わせていたのだ。子供の相手を全くしたことがない私はどうしようかとみんなに視線を向ける。

「てめえが受け持ってんのは関西であって、こっちには関係ねえだろ。それに、今まで誰とも関わり合いになろうとしなかったおめえが、なんで急におれらに興味を持ったんだよ」

「そんなの、敵の糸口を掴めそうだからに決まってるじゃないかい?実態も構成も不明で、敵であることしか分からなかった廃絶が、とうとうこちら側に仕掛けてきたわけだ。式神の長として、見逃すわけにはいかないよ」

「・・・・・・お前は長を嫌がっていたはずだ。どういう風の吹き回しだ?」

「会議も、みんなの話を聞いてすぐにどっか行っちゃうじゃないっすか。急に来られると、びっくりするっすよ」

式神たちはもう彼らだけで話してしまっているし、瀬名高君たちは一向に目を覚ます気配がない。私はとりあえず今まで永遠さんが子供に接していた様子を必死に思い出しながら、しゃがんで彼を覗き込んだ。彼は一瞬びくっとしたけど、気まずそうに私から目を逸らした。

「・・・・・・なんですか。僕が泣いてるのを見て、楽しいですか。僕が意地悪なこと言ったからですか」

「・・・・・・ううん。あなたが、甘楽君だよね?タンギンが勝手にシンセンさんに手紙を送った時、返事を返してくれた」

「そ、そうですが。あれ、やっぱりあいつが勝手に送ったんですね。なんとなくそうだろうとは思ってましたけど」

甘楽君は目をセーラー服の裾で拭いつつ、私を見た。小学生にも中学生にも見える彼はそこまで小さくはなかったけど、大きく芯のある目と長いまつ毛が震えていて、すごく幼く見えた。

「あと、僕そんなに小さくないです。あやすみたいにしゃがみ込んでこないでください」

「み、見下ろしたくないし、中腰だと疲れちゃうから・・・・・・甘楽君は、何歳なの?」

「13歳です。これでもクラスでは背が高い方なんですよ」

「そ、そうなんだ」

こちらを睨みつつもきちんと目を合わせて話してくれる彼に、私は悪い子ではないのだと実感した。中学生の時の記憶は特にないので、彼が年齢に対して大きいのか小さいのかは分からないけど、ちょっと嘘を吐いてそうだな、と感づく。さっきから私が察する能力が高いのか、彼が分かりやすいのか分からない。

すると、ぐらっと地面が揺れる。バランスを崩し地面に倒れかける寸前で、私の腕をタンギンと甘楽君が同時に支えてくれた。二人とも目が合って、不快そうに整った顔をぐっとしかめている。

「なんですか、僕だって支えられますよ」

「うるせえ、ガキ。こいつに触んな」

「ああ、すまない。神聖な場に空間を置くのは、長くは持たないんだ。ここはじきに崩れる」

シンセンさんが他人事のように呟くと、さっきまで輝いていた太陽が一気にぐいっとオレンジになって傾き、周りが途端に暗くなった。かと思いきや、また水の音が聞こえて、シンセンさんたちが立っていた場所にあった鳥居から一気に水が現れ、私たちに覆いかぶさってきた。私はその光景に一歩も動けず、ただ見ていることしかできなかった。でも、ぐっとタンギンが手に力を込めてくれたので、私はぎゅっと目を瞑りつつ、彼の手を握り返した。

世界が暗転する。





瞼越しに光が差してきて、恐る恐る目を開けると、そこは伏見稲荷神社の頂上だった。街を見渡せる絶景を、雲がいくつか残る空が照らし、まさに神々しい景色が広がっていた。両脇を見ると、連なっていた鳥居が終わり、その中心には崖に並ぶ墓石にも似た石が荘厳な雰囲気を称えて祀られている。そこにある鳥居は赤ではなく石本来の色で、ところどころ苔むしていた。冷たい風が一気に吹き抜け、ここがこの山のてっぺんなのだと実感する。

「ここは・・・・・・」

「シンセンの術が切れたんです。もうここは現実ですよ」

甘楽さんの冷静な声をよそに、近くではレイちゃんと瀬名高君が同時にくしゃみをして起き上がっていた。確かに数は少ないけど、私たちの他にも頂上を上り切った人達が荒い呼吸を整えたり、嬉しそうに頂上からの景色をカメラに収めているのが見える。

「「へっくしょい!!」」

「お、起きたっすね!良かったー・・・・・・レイさん、猫缶食べたくなんてないっすよね?」

「うん?あれ、ここは・・・・・・ショウゼツ、急にどうしたの?」

「・・・・・・この様子だと、何かあったようだね。バンシキ、教えてくれないか?僕はいつも重要な時に眠りこけてしまうね・・・・・・」

「・・・・・・光は悪くない」

「ほれ、てめえも大丈夫か?」

タンギンの声にハッとすると、私は彼と、横で微笑んでいるシンセンさんを見た。こうして見ると、タンギンの方が彼よりも背が高いのだと気づく。なおさらシンセンさんの性別が分からなくなってしまう。彼は私と目が合うと、苦笑しつつ低い声で言った。

「椿夕陽さん、君には試すような真似をしてしまって申し訳ないね。君がもっと性格が捻じ曲がっていて、式神のことなどどうでもよさそうに扱っている人間なら、どんなに処理が楽だったか分からないよ」

「・・・・・・もしかして私、殺されそうだったんでしょうか」

彼は私の返事には応えず、こちらに近づいてきた。素早くタンギンが私たちの間に入るけど、意にも介していない様子で見下ろしてくる。彼の佇まいは間違いなく強者のもので、でも掴みどころのない、不思議な人だった。じーっと見られるのには慣れていなので、視線を逸らす。すると、甘楽君が私たちを物珍しそうに見ているのが見えた。そんなあんぐり口を開けなくてもいいのに。

「椿夕陽さんは不思議な人だね?僕と組めば、誰が廃絶の長なのか、すぐに分かっていたと思うけど」

「それは、俺じゃあ力不足ってことが言いてえのか?」

「そんなことは一言も言ってないさ。ただ、断金は僕に手紙を寄越してくるくらいなら、今まで起きていた主との関係を、事細かに話すべきじゃないか、と思ってね」

「てめえ、回りくどいことしやがって・・・・・・そういうとこが気に入らねえんだよ!!!」

タンギンがシンセンさんに掴み掛かっているのをよそに、甘楽君が私をじっと見ているのに気が付いて、彼に顔を向けた。性別も年齢も分かると、それなりに彼がしっかりして見えてくる。

「シンセンが人間に興味を持つなんて、信じられません」

「そ、そんなに珍しいことなんだね。シンセンさん、優しそうだけど」

「そういうんじゃないんです。彼は、自分以外に興味がないんです。人間が悪意に感化されていても、彼は一瞬で何人もの人を除怨できてしまう。各地に行くのが面倒くさい時は、鬱岐で力を使って、関西中の悪意を祓ってしまうこともあります。彼にとっては些細なことでしょうが」

「そ、それは・・・・・・シンセンさんもすごいけど、甘楽君にも負担がかかるんじゃない?」

私は驚愕して喉が張り付くのを感じつつ、彼を見下ろした。彼は頭に?を浮かべたような顔をしながら、顔を上げる。柔らかそうな髪が、風でふわりとなびいた。

「いえ、別に」

「・・・・・・すんごい子がいたもんね」

振りかえると、レイちゃんと瀬名高君が若干引き気味でこちらを見ていた。瀬名高君に至っては、目を輝かせて甘楽君を見ている。すごい、と尊敬と好奇心があふれ出た様子だ。二人とも元気そうで良かった。

「君はそんな幼いのにすごいな!!ああ、失礼、年齢は関係ないね。僕は瀬名高光、身長は178センチ、体重は61キロ!実家でパン屋を営んでいて、最近僕も厨房でパンをこねているんだ!よろしく!!」

「あんた、相も変わらずすごい自己紹介ね。でも、君可愛いね。名前は?何歳?」

レイちゃんが可愛い子供を見る目で見てきたのが気に食わなかったのだろう、甘楽君はむっと顔をしかめて、つんとそっぽを向いた。こう言ってはなんだけど、この動作が子供っぽい。

「ふん、人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るものではないですか?あと、その目やめてください。いくら碁色神社の人だからって、容赦はしませんよ」

「・・・・・・なんで私が碁色神社の人間だって知ってるの?・・・・・・まあいいや。碁色レイ、高校1年生。ショウゼツの主です。君は?」

レイちゃんはきょとんとした顔で所々体に付いた土を払いつつ、甘楽君を見た。もう自分の家に付いて触れられることは克服したようだ。私も彼を見る。手紙には諸事情で書けない、とあったけど、彼の苗字を私はまだ知らない。甘楽君はまだ不満そうにしつつも、口を開いた。と同時に、杖を突きながら片方の鳥居から観光客がやってくるのが見える。すごい息が荒く、ここまで苦しそうな声が聞こえてくる。

「僕の名前は台心甘楽。私立鬱岐中学校の1年生です」

みんなが目を見開くのと、丁度名所の見回りに来た台心先生が、ふらふらな足取りで山頂に辿り着くのが同時だった。




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