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 昼にまとまった食事をする人が少ないからか、どこも中休みで店を閉めている。とはいえ何か腹が減ったときにつまむ需要はあるようで、町の中央の広場には多くの屋台が出ていて、良い匂いを振りまいている。俺たちは思い思いの軽食を屋台で買い込んで、空いているベンチを陣取った。

 食器を使わずに歩きながら食えるような物が人気のようで、ほとんどが串物だった。俺は何かの肉に調味料を振って焼いた物と、ナンとタコス皮の合いの子のような生地にケバブのような肉を挟んだ物を購入してみた。いくつもの生のハーブやスパイスを使って作られたネパールやタイ料理のような、植物っぽさの残るスパイスでピリッとした味付けがされていてなかなか旨い。

「ノリさんがたべているの、凄く良い香りがしますね。食欲をそそられます」

 俺やヒデより大分少なめに買っていたロゼは物足りなさそうな顔をしていた。

「まだ食い終わらねえし、特に予定があるわけでもねえ。追加で買ってくりゃいいんじゃないか」

「そうしようかしら」

 串や包み紙などの食べ殻を小さくまとめて、ロゼは再び屋台をのぞきに行った。

「おいヒデ、お前はいつまでへそを曲げてるつもりだよ」

 隣に座っていながら分かりやすく俺に背を向けて、一人黙々と買い込んだ揚げパイにかじりついている。

「別に」

 反抗期真っ盛りかよ。歳を考えれば分からなくもないが。

「そんなに山分けが不満だったのか」

「だって、俺の技術も何もかも、ノリさんの物じゃないか。なのになんで一方的に、報酬を俺へ半分も寄越すんだよ」

「ロゼに魔法を教えることについて話をしたときにも言っただろ。我が物にした技術はお前の物だって。俺が魔法の使い方や色んな知識を教えたのも事実だが、習得するべく努力したのはお前自身なんだぜ」

「ノリさんに追いつけるように頑張ったのは認めるけど、でもノリさんが教えようとしなかったら知ることも出来なかった。そもそもノリさんのやることは今まで見たことも聞いたこともなかったことばかりで、出会わなければ一生知ることができなかったはずなんだ。知識はそれ自体が立派な財産なんだよ」

「既に財産を分けてもらっていたんだから、それを返すためにも俺の方が多くなきゃおかしいってか」

「分かってんじゃん!」

 ヒデは振り返りながら大声で言った。

「でもなあ。俺は洞窟に帰るだけだが、お前はロゼについて世界を回るんだろ? 金が要るのはお前だろ」

「……本当にノリさんは俺らと来てくれないの?」

「そのつもりだけど」

「俺、邪魔だったかな。手切れ金かよ」

 怒ったかと思ったら今度は拗ねながら凹んだ。忙しい奴だな。

「すげえ言葉知ってるな。違えよ。お前らの修行に邪魔なのは俺の方だろ。いつまでも俺がついていて、修行になるのか?」

「私はともかく、ヒデさんにとってはなりませんね。それに、一般的に成人してどこか親方の元へ弟子入りするにも、お金は要るんですよ? 誰が払うと思います?」

 両手に串を持ってロゼが戻ってきた。

「そうなの?」

「ええ、仕事着や道具などをあつらえるためにもお金がかかりますし、まだ仕事のやり方が分からない新入りがすぐに稼ぐことは出来ません。仕事を覚えるまでの間は、実質的に親が持たせたお金で生活するんですよ」

「知らなかった」

「昨日の金はその分だと思ってくれ。な、モヤモヤが解決して良かったな」

「ノリさんは知ってたの? ……知るわけないよね、街に出たこともなかったし、この辺の文化も知らないし。なんとなく場を収めようとしてるでしょ」

 バレている。

「今後はお前も独り立ちすることだし、俺と共同で何か仕留めたら、半々ってことにしよう」

「多いって……」

「知らん! 決まりだ」

 今度は俺がそっぽを向いて煙草を咥えた。

「まあまあ、あって困る物でもありませんし。仕送りが要らないのは随分と楽らしいですよ?」

 ロゼには悪いが、ヒデをなだめるのは任せることにする。

 自分の子供のようなヒデの扱いは、会社の跳ね返った新人をあしらうのとは違ってなかなか難しかった。


「午後は何かご予定はありますか?」

「俺は特にないな。せっかくだから街の様子でも見て歩こうか、というくらいだ」

 腹ごなしに散歩でもすれば丁度良いだろう。

「あっ、じゃあ俺もついてく!」

 本人曰くド田舎の農村生まれで、街に出てくるのは初めてらしい。田舎者が都会に憧れるのは世界共通のようだ。

「ノリさんはともかく、ヒデさんはちょっと私と一緒に、もう一度冒険者ギルドへお付き合いいただけますか? 時間は取らせませんので、正式に護衛の契約を結んでおかなければ」

 午前中は身分証の発行と買い取りで終わってしまい、言われてみれば今後の手続きをしていない。

「それはすぐやらなきゃいけないの?」

「ええ、早ければ早いほどいいですね。旅道の付き添いに必要な経費なら買い物をするにも色々割引も効きますし、便利ですよ?」

 そう説明されても、ヒデは俺のことを見ながらそわそわしている。

「待っててやるから行ってこい」

「本当だね。抜け駆けしてどっか行っちゃダメだからね」

 言質を取られてしまった。

 ちょっといかがわしいところにも行ってみたかったんだがな。この世界では成人と言えど、俺の感覚からしたらまだ16の子供を連れて行くわけにはいかない。

「分かったから心配すんな」

 そもそも俺の性癖だとちょっとばかり特殊なところだし。この街にはなかったと思って我慢しておくか。


 時計が無いから分からないが、30分ほどで二人が戻ってきた。

「よし、ちゃんといる」

「まだ疑ってたのかよ」

 俺を指さしてヒデが言った。親離れできるか心配になってきた。

「お待たせしてしまいましたし、案内しましょうか」

「そうだな。知っている人が一緒の方が有り難い」

「ねえ、最初はどこに行くの?」

「どこに何があるのかも知らねえよ。時間つぶしなんだし、適当に近いところから巡っていけば良いだろ」

「そうですねえ、お二人にはどのようなところが面白いでしょうねえ」

 ロゼにガイドを丸投げしたら、楽しそうに首をかしげた。


 まず連れて行かれたのは魔道具店だった。

 街のでんきやさんみたいな店構えで、店内もそれを彷彿とさせる。

「冷蔵庫だって! 洗濯機だって! いいなー。この扇風機って風を起こすだけだよね、何のためにあるのか分からない物もあるけど」

 食べ物を冷やして保管したり、汚れた服を洗ったり、世界をまたいでもこのような需要は変わらないようだ。

「汗をかいたときに風が吹くと涼しいでしょう? 室内でも外にいるような風を浴びられるようになるのよ」

「へー。でも夏しか使えなくない?」

「冬は後ろの箱に熱くした石や熱を出す別の魔道具を入れれば、温風が出るのよ」

「なるほど!」

 ドライヤーと扇風機が合体したような機械が一般的らしい。元の世界とはちょっと違う進化を遂げている物もある。

「動力はどういう仕組みなんだ?」

「魔石という、魔力をため込んでおける鉱石を組み込んで使うの。魔力がつきたらそれを交換するのね」

 詳しく聞いてみると、充電池のような仕組みになっているらしい。充電、より正確には補充は魔力さえあれば誰にでも出来るが、効率を上げるのが難しいらしい。使用済みの魔石は回収されて、補充は熟練の魔法使いが老いて一線を引退した後の内職として行なわれているそうだ。

「ノリさんくらい膨大な魔力があれば効率なんて気にしなくても良さそうじゃない?」

「あまり乱暴にやると、魔石自体が破裂してしまうのよ。容量と大きさの規格が決まっているから、規格を満たすだけの高密度で、かつ破損して使えなくならないように補充をしなくてはいけないの」

「副業になれば良いなと思ったんだが、素人には出来ねえのか」

「そもそも魔法を使える人にとっては、自分で魔法を使った方がずっと効率が良いのよ。数十年前までは魔法をまともに使える人がずっと少なかったから、ある程度までの威力なら町中でも魔法の使用が認められていたし。魔石の規格化も難しかったし高価だったけれど、それから比べればずっと安くなったので、町中では魔法の使用も禁じられても十分な需要を満たせるようになったわ」

「魔法が使える側としては便利になったのか不便になったのか悩みどころだね」

「そうねえ。体制側だった身としてはなんとも言いづらいけど」

 最後の部分は小声でささやいた。

「それで、何かめぼしい物はあったのか」

「自分で魔法を使えばいいっちゃいいんだよね。町の外に出ている時間の方が今後も長そうだし、町中でどうしても欲しいものって言われるとなあ」

「まあ、今すぐに買わなくちゃいけないわけでもありませんしね」

 初任給のような物を受け取り、初めて自分の金を持ったばかりだというのに、ヒデは堅実だった。

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