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 いつもの狩りの装備は、2人とも作業着を着て、俺だけリュックを背負って、それだけだ。といっても服は寝間着か作業着しかないから着替える必要もなく、リュックを取ってくるだけで良い。

 この先迷宮の看板の前で、俺らは顔を見合わせた。ヒデの顔が少し強ばっていた。俺もそうだろうか。

「中がどうなっているか分からないが、安全が優先だ。行くぞ」

「うん」

 緊張してはいるが前向きな気配が返事に潜んでいた。

 いつもの狩りと同じく俺が先頭に立って、迷宮に入った。

 見た目には洞窟と変わるところはないが、嫌な寒気を感じて鳥肌が立つ。

「嫌な雰囲気だね」

「ああ、そうだな」

 周囲を警戒しながら、言葉少なに歩みを進める。

 懐中電灯に動く物が照らされた。トカゲだった。

 だが、大きさが普通でない。頭の先から尻尾の付け根までがヒデの身長と同じくらいある。ぎいと鳴いて襲いかかってきた。

 俺は思いのほか落ち着いたまま、トカゲが踏みしめようとした地面が沼になる想像を現実に叩きつける。飛びかかろうと四肢に力を込めたトカゲが急にぬかるんだ地面に足を取られた。バランスを崩して腹をついたトカゲの頭を、俺の後ろから飛び出したヒデが思いっきり飛んでから踏んづけた。

 ぼきりと骨の折れる音がして、トカゲが動かなくなる。

「仕留めたみたいだけど、これどうするの?」

 念のため、解体ナイフで首を切ってから、食べられないよな、とヒデが呟く。

「隅にうっちゃっとけば、勝手に迷宮が吸収するだろ。先に進むぞ」

「分かった」

 大きいだけに重たかったが、魔法を節約するべく2人で両端を持ってトカゲを通路の端に寄せてから通路を更に奥へと歩いて行く。

 短時間のうちにウサギやネズミ、でかいクモの魔物に出くわしたが、魔法を使って難なく切り抜ける。すると、細い通路が分岐しているのを見つけた。懐中電灯で通路の先を照らしてみると、古びた宝箱が置いてある行き止まりだと分かった。

「開けてみようよ」

「気をつけろよ、宝箱に擬態した魔物かもしれねえからな」

 元の世界にはミミックというモンスターが出てくる小説を思い出しながら応えると、ヒデが慌てて伸ばしていた手を引っ込めた。

「そんなのいるの?」

「さあ? 迷宮なら何でもありだろうと思って言ってみただけだ」

「脅かさないでよ」

 正面に立たず、横からヒデが宝箱を開けると、すぐに後ろへ飛び下がった。

「ただの宝箱だったようだな」

 宝箱から牙や舌が出てくることはなく、なめらかに蓋が開いた宝箱が動き出すことはなかった。

 近くによってのぞき込んでみる。

「いいもの、入っていそう?」

 ヒデも寄ってきて中を見た。

「お宝かは分からんが、剣のようだな」

 さやから飛び出た持ち手の部分の金属が鈍く光を反射している直剣が底で転がっていた。持ってみればずっしりと重みを感じる。片手で振れそうだ。

「僕にはちょっと重いかな」

 渡してやると、まだヒデには上手く振り回せないようだった。

「なら俺が使うか。剣の振り方とか知らねえが、なんとかなるだろう」

 元の通路を進むと次に現れたのはまた巨大なネズミだった。某ゲーム小説のスキルを思い浮かべながら剣を振るうと、ほのかに青い光をまとった剣が右上から左下へネズミの胴を斬り捨てた。

「一撃だったね。あと、ちょっと光らなかった? 魔法武器だったのかな」

「さて、どうだろうな。にしても、そろそろ食えそうな魔物が出てきて欲しいもんだが」

 剣を振って血を振り落とすと鞘に収める。

「ネズミはちょっと食べたくないよねー」

 ヒデにも軽口を叩く余裕が出てきたようだ。ずっと緊張し続けていると、いざというときに思った通りの動きが出来ないこともあるし、なにより疲れてしまう。ほどほどの緊張感を持ちつつ、油断せずに真っ暗な坑内を歩いて行く。閉所恐怖症や暗所恐怖症でなくて良かったと心から思った。

「ん?」

 何か聞こえたのだろうか。急に立ち止まったヒデを振り返ってみると、猫耳をせわしなく動かしている。

「どうした」

「しっ、静かにして」

 俺も極力音を立てないようにして耳を澄ませた。

 キキッと、高い鳴き声が聞こえた。

「コウモリか?」

「ノリさんにも聞こえた? 何かこの先にうじゃうじゃいるみたい」

「早めに気づけて良かったな。訓練の甲斐があったじゃねえか」

「鬼のようにしごいておいて、よく言うよ」

 警戒しながら進むと、先の通路が途切れている。どうやら広い空間に出るようだ。

「いくぞ」

「うん」

 忍び足で空間に出る。懐中電灯を天井に向けると、遙か高いところから数え切れないほどのコウモリが一斉に飛び出した。

「うわあ、気持ち悪っ」

「しゃべってねえで、火を出すぞ」

「もうやってる、っての!」

 ヒデは上へ伸ばした両手から勢いよく大きい炎を出現させた。照らされたコウモリが慌てて避けるのが見える。

「強く目を閉じて、耳をふさげ!」

 俺は昔見た映画に出てきた音響閃光手榴弾を想像する。

「分かった!」

 返事を聞いて、まだ何も持っていない右手で握った何かを精一杯高く遠くへぶん投げた。

 さん、にい、いち。

 腹に響く音とともに、ぎゅっと目をつぶっていても目の前が真っ赤になるような強烈な光が炸裂した。

「び、びっくりした! なにアレ!?」

「魔法だ! それ以上は悠長に説明してる時間なんぞ今はねえ!」

「それもそうだよね!」

 閃光と爆発音で気絶し地面に落ちたコウモリをヒデが炎で焼いていく。

 俺が水銀灯を天井に現わすと、空間の全体像がやっと明らかになった。直径は20メートルほどの球の、下から3分の1が埋まったような場所にいるようだ。コウモリはまだまだ沢山飛んでいて、ひっきりなしに俺たちへ向かって襲いかかってくる。

「キリがねえな」

 俺が一匹ずつ風の魔法を応用した圧縮空気を飛ばして撃墜し、地面に落ちたコウモリをヒデが片っ端から処理をする。

「思いついたことを試したいから、ちょっと交代して」

「おう、頼んだぜ」

 ヒデは半秒ほど飛んでくるコウモリ共を睨み付けると、腕を伸ばして目の前で手を叩いた。腕の延長にいた左右のコウモリが、空中で見えない壁に激突したように動きを変える。ヒデの腕に合わせて壁が次々とコウモリを叩き、中央で集まり押しつぶされてバラバラと墜ちていく。

「ぶは、一気に魔力を持っていかれちゃった」

 手前から奥まで一直線に並ぶ気絶したコウモリを燃やしてとどめを刺しながら、よろけた体を支えてやる。

「大丈夫か、無理すんなよ」

「平気、もう一回ならいける」

「この量なら一匹ずつ狙撃した方が早い、変えるまで何があるか分からない迷宮で魔力を使い切らない方がいい」

「そっか。じゃあ僕は右半分をやる」

「なら俺は左半分だな」

 地面で燃えているコウモリの死骸を浮かせ、ひたすら飛んでいるコウモリにぶつけていく。やがて空間に響く甲高い鳴き声が聞こえなくなり、地面はコウモリの死骸が一面を覆い隠していた。

「何匹ぐらいいたんだろう」

「知らねえが、百や二百じゃ利かねえだろうな」

 空間の隅に寄せると、山と積み上がった。

「おなかすいた」

「ここじゃ食いたくねえから、もう少し進もうか」

「それもそうだね」

 入口の反対側にあった通路に入り、体感で5分くらい歩いたところで握り飯3個ずつの弁当を広げた。


 真っ暗な洞窟の中で、時計もないから時間が分からない。

「ずっとくねくねしてるね」

 坑道が直線でなく先が見通せないから、距離感も失ってしまう。

「ご飯を食べてから魔物も宝箱も全く見なくなっちゃったけど、どこまで行くの?」

 あの広いドーム状の部屋以来、かなり歩いたはずだが、くねくねとした単調な通路が続くだけで、虫の一匹も出てこなくなってしまった。それまでは常識的なサイズのムカデやヘビもいたのに、それすらも見かけない。

 目印になるようなものが全くないから、今日はここまでにして帰ろうというタイミングが見つからない。

「……引き返すか」「アレ?」

 二人の声が被った。

「何か見つけたのか」

「うん……気のせいかもしれないけど。まだ結構先に、大きい魔物が何頭かいそう」

「ならそこの様子を見てから帰るとするか」

「なにもなかったらごめん」

「いいさ」

 緩いカーブを通り抜けると、通路の先にある曲がり角の先が明るくなっていた。

「明るい、よね」

「ああ。それにここまでで道が曲がっているところはあったが、角になっているところはなかったな」

 警戒しながら一本道の角を折れると、暗闇に慣れた目にはまぶしいくらい明るい空間に出た。

 外に出たわけではないのに、地面の中とは思えないほど広い。サッカーコートがいくつも取れそうな巨大なプラネタリウムのような丸い天井には太陽のような物が輝いている。石造りだった通路の地面は線を引いたように先が芝の生い茂る土になっていた。

「あれ、なにかな」

 ヒデが指さす先には、遠く近くに何頭かの茶色い牛が草を食んでいた。

「牛に見えるな」

「やっぱり、そうだよね」

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