夢の侵入者
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F氏が診察室に入ると、医師はディスプレイ画面に表示された大脳の断層撮影の画像を見ていた。
「なんともないですね」
前回の受診のときに撮ったCT検査の結果だった。
「そうですか。毎晩同じ夢を見るんです。起きたときに頭の痛みを感じるんですが」
F氏に医師は顔を向けた。
「画像からは、大きな病気は確認できませんね。頭痛は、さまざまな原因が考えられます。ストレスもその一因です。痛みどめをだしておきます。少し様子を見てください」
病院を出たF氏は、その足で近くの薬局に行った。ソファーに座って待っていると、すぐに名前を呼ばれ、窓口で錠剤を渡された。
帰りのバスのなかで、F氏は鞄のなかの錠剤を確認し、これで頭痛がおさまればいいのだが、と希望を抱いていた。
その日の夜である。
F氏は布団の中に入っていたが、目は冴えていた。
薬は先ほど食後に飲んだ。頭痛は、なりをひそめていたが、まだわからない。目をつぶったが、気持ちは高ぶっている。だが、しばらくすると、薬の作用かうとうとしてきた。
そこは、綿を敷き詰めたようにふわふわした場所だった。空気に何か甘い香りが混じっていた。F氏は静かに歩いていた。前方に舞台のように一段高くなった空間が見えた。
能面のような顔をした人物が椅子に座っていた。その人物が口を開いた。
「聞け! わたしをお前の主として受け入れるのだ! しもべとなれ!」
F氏は、大きな声で拒んだ。
「いやだ! まっぴらごめんだ! あんたは何者だ!」
そのとたん、F氏の頭に痛みが走った。思わず頭を抱えてその場にひざまずいた。
F氏は目を覚ました。寝汗で身体がじっとりとしていた。また同じ夢だ。半身を起こした。肩で息をしていた。サイドテーブルの飲みかけのコップの水で喉を潤した。
額に痛みがある。何度同じ夢を見ただろう。あの能面のような表情をした人物は何者なのか。夢は現実生活をデフォルメしたものとしても、あんな人物には見当がつかない。奇妙だ、とF氏は思った。
翌週、F氏はまた受診した。
「その夢を見るたびに頭痛がするというのですか?」
診察室でF氏から話を聞いた医師がたずねた。
「はい」
「ふむ。不思議ですね。いや、実はあなたと同じ症状を訴える患者さんが複数いるのですよ」
「えっ?」
「夢の細かな内容まで同じです」
医師は、そう言って考える表情をして、沈黙した。
同じ頃、地球から100万キロ離れた宇宙空間に浮かんだ宇宙船の中では、異星人の呪術師が地球上に向けて、テレパシーを送っていた。能面のような顔をした呪術師は、すでに何日も意識を研ぎ澄まし、一心不乱に念を送っていた。呪術師を見守るのは仲間の異星人たちである。彼らは、地球人を隷属させる為に母星から派遣されていた。
武力に頼らず、地球を支配下におさめる作戦であったが、作戦は失敗だった。テレパシーに反応する地球人は一部で、しかも彼らの良心の抵抗は予想外で、夢の中で格闘し、聞き入れず、頭痛もちを増やしただけの結果だったのである。
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