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異世界召喚でわかる魔法工学  作者: M. Chikafuji
Chapter 4 一般の場合
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4.20 Conclusion 結論



 早朝の冒険者ギルドにて、ひとり受付に立つシーボルは魔力板を操作しながら黒い尻尾で魔法収納を受け取った。中には113個のポーションが入っている。



「この無駄に高額な経費は、容認しましょう。物資不足で値上がりしていることは事実です」


「そんなに足りてないんだ。もしかして、西の花畑の藥草も採りつくした?」


「そんなことを気にかける余力はありません。状態は不明です」


「ちゃんと管理しといてよ。送還の魔力源に使うんだから」



 西の花畑は、以前僕が天使を召喚した際に、膨大な魔力に影響されて薬草類の群生地になった領域だ。逆に、群生地の魔力を大規模魔法に利用することも考えられる。


 思わずふぅと息を吐くと、シーボルは濃い(くま)に縁どられた目をこちらに向けた。



「そもそも西の花畑はルークンの仕事でしょう。自分で管理するのが作法というものです」


「そう(にら)まないでよ。最後の送還ができれば良いんだから」






 姬樣を背負ってやってきた花畑は、西門の外をしばらく歩いた先の、大きな虹のふもとにある。まばらに咲く色とりどりの植生は、それぞれがポーションの素材として良質だ。


 この花畑に満ちた特殊な魔力で、姬樣と僕を送還する。


 僕の命すべては、あの超階で、すべての生命を救済する対価として姬樣に支払われたから。だから、僕自身も送還する。



 設計していた魔法陣に周囲から魔力が流れて、天に掛かる虹が薄れていく。


 この場所に満ちた特殊な魔力はなくなり、花畑もただの草原に戻っていく。



「姬樣を送るには華やかさが足りないかもしれませんが」


「かしあありあは構わないの」



 柔らかく微笑む姬樣と片手を繋いだまま、少しずつ天に昇っていく。夕陽に照らされた僕たちの周りに、白い光輪が浮かんでいく。


 虹の掛からない空に惡魔な天使が昇り、情景を彩る。



「花がなくてもキミがいるの」


「喜んで頂けたら、僕も嬉しいです」



 一陣の風が吹き、魔法陣が描かれていた紙が左手を離れて流れていった。




 僕の頬を(なつ)かしい風が撫でる。流れてきた一枚の紙が右手に納まった。



「どうにか還ってこれたみたいだ……」



 記憶はないけれど、恐らく、膨大な魔力を行使した召喚魔法を利用してこの世界に還ってきたんだろう。普通は悪用を防ぐためにセキュリティをかけるから、気を効かせて設計してくれたルーンには感謝だ。


 僕が住む街の近く、虹が掛かる花畑のあった場所には、ただの草原が吹きさらされている。


 冷たい風に上着を押さえると、上空から雨雫が落ちてきた。



「ま_, __だ_, ,_ ,_」



 その猫獣人の霊は、冷たく染み透る雨から、這い出るように。



「まだ_, ._/w√L_, ,,_諦҈̸め_な_い」



 (はかな)い煙のように揺らぎながら、まるで抑揚(よくよう)のない音をささめいている。



「これは、クレインの、霊…? 今の魔法に乗ってきたのか」


「そし_て_まだ_目の前に__/ ̄’ ‘’’ ̄あった_あの命҉̷の階段_を_/ ̄|_上る_ことを_まだ諦҈̷̸め_ない」



 呪雨に枯れた草原の、あるいはかつて(うしな)われた花の霊が、クレインに集まっていく。これは、死の力を吸収する屍王(リッチ)の分霊術だ。クレインの蘇生は、裏目に出ていたのか。



「まだ先_は遠く_感҈̸҉̸覚_もなく_何も_見҈̷えなくなって_も_あともう1歩_だ_け」



 魔王みたいだとは思ったけれど、そんな。

 視界を覆う豪雨の中、かつての仲間の面影を残す分霊は、生への妄執を呟く。



「まだ_諦҈̷めない」


「こんな街の近くで屍王(リッチ)に出くわすなんて、聞いたことないけどな」



 ダンジョン内からこれほどの分霊を這い出させるとは、さすがクレイトン+の設計だ。ただ、後始末くらいは自分でしておいて欲しい。











 そのときは風雨にあおられながら街の近くの森にいた。そもそもの目的は、《魔王城》から抜け出してきた屍王(リッチ)の分霊に対応することである。


 分霊は弱くても、十分な魔力があれば屍王(リッチ)に復活することができる。


 さっきの分霊は召喚魔法の余波を魔力源にして回復したようだけれど、まだ完全じゃなさそうだ。街の方に侵出しても、誰かがどうにかするだろう。


 ただ、このまま街外で屍王(リッチ)が復活すると大変だ。魔力源になりそうな領域には、この森の中で心当たりがある。



「この先だったな」



 雨は木々に遮られて弱まってはいるものの、陽が落ちかける頃合いもあって視界は悪い。


 そんな森を進んでいくと、ぽっかりと視界が開けた。

 不規則に並ぶ切り株の間で、重鎧に身を包んだ戦士が雨に濡れている。



「俺はワンダーランドの英雄,エピックマン=レジェンドハート!」


「エピックマン。なんて心強い味方だ」


「術理院会員の不始末にするわけにはいくまい」


 ワンダーランドの英雄は、(たくま)しい声で続ける。


「うむ.これより我々は勝利の構造をとり,分霊からの魔王復活を禁制する!」


「わかった。そうそう、クレインの分霊は向こうの方に出たよ」



 ここは、あの刻に特殊な魔法を用いた跡地だ。特殊な現象が起きた領域に、執念の(にじ)むクレインの分霊が来たのなら、何かを起こしても不思議はない。


 もちろん、分霊から屍王(リッチ)すなわち魔王が復活することも十分に考えられる。



「系の構築は俺に任せて,雨が上がったら森を抜けろ」


「そんなに自信あるならエピックマンに任せるけれど」


 雨空を見上げたままのエピックマンは、ガントレットをこちらに広げた。


「大規模な魔法現象の前後関係を扱う上で,これ以上ルークンの魔法に影響されたくはない」


「手伝った方が早く終わると思うけど、本当にいいの?」


「まぁ,薬草でも摘んでいるんだな」



 エピックマンの言う勝利の構造を崩すと大変そうだから、指示に従うことにする。ちょうど、ポーションの調製で材料が足りなくなっていたところだ。






 やがて、林冠から覗く空には厚い雲の代わりに、沈みゆく夕陽から(かす)かに差す茜が見えた。


 雨も上がったし、完全に陽が落ちる前に街に帰ることにした。
















=======================

クエスト・コンプリート!

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 冒険者ギルドは正式にクエスト達成を宣言した。最前線の勇者たちによって魔王が成敗されたということだ。多くの冒険者が(うたげ)に参加する(かたわ)ら、僕たち術理院会員も集まっていた。


 シーボルは窮屈(きゅうくつ)そうに椅子に納まりながら魔力板をせわしなく操作している。



「クレイトン+の分体、クレインが魔王になってたのは驚いたよ」


「今後は再発防止のため、分体は蘇生などせず殺しておいてください」


「情というものを少しは学んだらどうだ.術理院外で生活するなら」


 全身鎧のエピックマンは、パイプにカードリッジを充填して活性化し、出てくる香気を吸っている。


「感情は耳や尻尾の挙動に反映されているはずです。クレイトン+の学習モデルは、日常生活を送る上では十分な精度があると自負しています」


「俺は,そういう部分を言っているんだ」



 エピックマンは呆れたように首を振り、シーボルは不服そうに椅子の背から出した尻尾を振った。



「何はともあれ、無事に解決できてよかったよね」


「そうだな.ルークンの方、魔神は大丈夫だったのか?」


「かなり宿主に引っ張られていたみたいだからね。どうにか振り切って、神々の世界に置いてきたよ」



 言語も理解できたし、宿主である魔王の性質に近かったのが幸いだった。あまりに抽象的な世界だと、僕が戻れなくなる恐れもあったから。



「僕としては、やっぱりクレインを助けられなかったのは残念だな」


「《魔王城》対応のコストとしては妥当な線でしょう。それに好意的に解釈すれば、クレインはクレイトン+の中で生きていると言えます」



 得られた知見で分体が高性能化できれば、クレイトン+総体として生存期間が延びる、という意味らしい。


 今回は貴重なデータが得られたと魔力板を凝視するシーボルに対し、エピックマンはパイプをくゆらせて天井にのぼる白い蒸気を見上げる。



「せめて散り際は美しく改善しておいてくれ.あの諦めの悪さには参った」


「簡単に生存を諦める弱小ではなかったからこそ、勝利の構造とやらが実装できたのではないですか。あのいい加減なアイディアを」


「僕は良い考えだと思うよ」



 勝利の構造は、対称性(Symmetry)のある魔法現象の流れを組み立てることで構築された。


 かなり前のことだけれど、僕は薬草を採取しにいった帰り道で神話級モンスターのドラゴンに襲われたことがある。そのときの主要な魔法現象の流れは次のように整理される。


・ブレイドメル近郊で強大なモンスターが出現

・嵐が起こる

・天使が召喚され、同時にモンスターが姿を消す

・虹が掛かり、花畑が生成

・天使が送還される


 そして、直近の流れは次のように整理される。


・惡魔が召喚される

・花畑が消滅し、虹が消える

・惡魔が送還され、同時にモンスターが姿を現す

・嵐が止む

・ブレイドメル近郊で強大なモンスターが消滅


 対称性(Symmetry)のある一連の前後関係が、僕たちの構築した勝利の形だ。特定の枠組みの中に嵌めて振る舞いを制約する。魔力制御の基本の、素直な応用と言えるだろう。



「結局、ルークンの暴発召喚の魔力で挟み込んだだけでしょう」


「そう簡単に言ってくれるな.長距離での時系列の調整には苦心したんだ」


「暴発っていうのもやめて欲しいな」



 魔力が(あふ)れていたのは事実だとしても、大部分は制御されているのだ。


 小言を気にも留めずに魔力板を操作するシーボルは、渡していた活力剤を尻尾で器用に口元に運んでひと息に飲み干した。



「まあ、手法と過程がどうであれ、勇者が攻略するまで《魔王城》が自然な構造を保ったのは良かったですね」


「うむ.魔王も成敗され,大枢機卿からの依頼は達成というわけだ」



 大教会からの依頼は《魔王城》攻略に協力して欲しいというものだった。それに対し僕たちは、《魔王城》を攻略可能な状態にする、という目標を設定していた。



「ただ、術理院に提出するレポートには考察も載せないと」


 今回のレポートは共著で、筆頭著者は担当エリアの観点から僕に決まっている。


「私の分は先ほど送付しましたので、確認を宜しくお願いします」


「うわ、もう仕上げたのか。相変わらず早い」


 魔力板には既にクレイトン+からレポートのデータが届いていた。


「レポートの作成を常に意識していれば、自然と最適化されていきます」


「エピックマンも見習って、途中でも良いから早く出してよ。まとめるのは僕なんだから」


「レポートは論理構成,すなわちストーリーが命だ.良いアイディアはしばしば,締め切り間際の極限に(ひらめ)く」



 こだわりを物語るのは長所とも言えるけれど、共同取り組みでは計画に合わせて欲しい。


 さしあたり、これまでを振り返って全体の構成を考えることにしよう。




Chapter 4 一般の場合 終了です。


本作は、SFとファンタジーの融合である科学風ファンタジー(Sciencial(サイエンシャル) Fantasy(ファンタジー))を目指した長編です。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

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