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異世界召喚でわかる魔法工学  作者: M. Chikafuji
Chapter 4 一般の場合
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4.5 Graham's number 巨大数

本項には図表があるため挿絵表示ONを推奨します。



 現在の10↑10階層は100億階層だ。今の状態で階段を用いると、10↑10↑10階層に行くことになる。これは、1の後ろに0が100億個つながった数に値する。



「このままいくと次は10↑10↑10階層。ランク3になるよ」


「消耗していないうちにランク8に潜り,上ってくる方がいいだろうな」



 ランク8まで行くとなると、どういう操作を行えば良いか。


 ランク3の10↑10↑10では、10の後ろに↑10が2つある。これを10個に増やしたものを10↑↑10と表記して、これがランク6。


 10↑↑10を10個つなげたものを10↑↑↑10と表記して、これがランク7だ。


 ただし、↑↑↑を↑↑↑↑にしてもランクは7のまま。↑の数を100億に増やしてもランクは7のままだ。


 ランク8以上に行くには、もう少し複雑な操作が必要になる。



定石(じょうせき)通り、G数の定義を流用しよう」



 例えば図のように、2次元や3次元の超立方体について、頂点を結んだ辺と対角線を2色で塗り分けることを考える。今のように次元が低い場合は、同じ平面にある□の中に、必ず2色が混ざるように塗り分けることができる。


挿絵(By みてみん)


 ところが次元が大きくなると、線を結んでできる□の数がどんどん増えていくので、やがてどうやって塗り分けても、全ての線が1色になってしまう□が出てくるようになる。


 ここで、いったい何次元になるまで、2色の塗り分けができるのか、というのが問題だ。


 近年ではその次元は、2↑↑↑6であると示されている。一方で、初めにこの問題を考えた者は、G数という答えを提出していた。


 G数は非常に大きい数だったので、歴史的な意味合いもあって、僕たちはランク8の目安にしている。G数は、以下のように作る。



 初めに、3↑↑↑↑3を作る。次に、↑の数が3↑↑↑↑3個ある数を作る。


1番目:3↑↑↑↑3

2番目:3↑……(全部で3↑↑↑↑3個)↑3


 そして3番目の数を作る場合には、↑を、2番目につくった数だけ並べる。


 これを64番目まで繰り返したものがG数となる。



 ここでの具体的操作としては、10↑↑↑↑10階層からスタートして、現在の階層分だけ↑の数を増やすことを64回行う操作を考える。このくらいの数になってくると、3が10に変わったくらいでは大きさのランクは変わらない。


 現在は既に10↑10階層だ。だから、まずはランク7の10↑↑↑↑10まで行って、そこを起点に64回再帰する操作に変更し、ランク8の階層まで飛ぶことにした。


 僕が設定を終えると、エピックマンが雄々しく叫んだ。



「マイティ・マジカル・ジェットパック,起動!!!」
















 目的のランク8の階層に着いた僕達には、さっそく問題が生じていた。



FAILURE(失敗): Using create(地図)_map(生成)


 ゴーレムの地図生成機能が強制終了した。何かが僕たちに介入しているのだ。


「クレイトン+かな?」


「奴だったら反応があるはずだが….ん,何かいるな」


 エピックマンが部屋をキョロキョロと見渡す。


「何もなくない?」


「確かに何かいる.ワンダーランドの英雄,エピックマン=レジェンドハートは誤魔化されん」



 少なくとも僕かエピックマンのどちらかの認識が間違っている。しかし現状では、中立なゴーレムの探知は阻害されていて頼れない。まずは現在おかれている状況を確認するため、解析機器を立ち上げる。


 はじめに、試料を何も入れずに3回測定した。

 結果、それぞれ桁違いにでたらめな値が得られた。



較正(こうせい)エラーだ。このままだと測定もできない」


「既報の準ダンジョンと同様の傾向だな」



 術理は僕たちの住む世界で成立する法則を利用することが多い。ところが超自然的魔力が介入すると、世界の法則が少し変わってしまうことがあり、術理が使いにくくなるのだ。


 そして、最近報告され始めた準ダンジョンでは、通常と異なる法則が成立していることが多い。こういった場合に、術理院会員としてどのような対策が考えられるか。



「任せろ.このエピックマンがいる」



 その重鎧の胸部を叩いて地面に膝を付くと、どこからともなく、耳慣れない勇猛な音楽が鳴り渡り始める。弦楽隊のアンサンブルは徐々に壮大に響き、勇武に(たかぶる)るホーンや戦う者達のコーラスが満ちていく。



 そして、なんと地面から大剣が自生してきた。



 エピックマンは立ち上がりながら大剣を引き抜くと、宙を斬るように回転させて持ち替え、(きら)めく腕甲から伸びる剣先を斜め前方に掲げた。



「これより,エピック・ワールドが幕を開ける!」



 雄渾(ゆうこん)なる宣言と共に、妥当な測定結果が得られるようになった。



「すごい。通常通りに検出可能になった」


「測定が困難ならば,測定が可能な系を構築すればいい」



 各地に出現していた準ダンジョンからは、特殊な法則を反映した(Quasi)結晶(crystal)がいくつか採掘された。これらは術理院に送られて研究が進んでいる。

 最近では準安定構造についての知見も増え、超自然的魔力が介入しても、ある程度測定ができる系が構築できることも分かってきているようだ。



「この系なら僕にも見える。さすが、エピックマンだ」


「さて,神秘な方のお出ましだ」



 僕たちの後ろからゆったりとした拍手が聞こえてくる。


 パチ、パチ、パチ。



「驚いた、驚いた。來たよ。ワンダーランドの英雄が、術理院會員がやってきたよ。」



 振り返ると、顔の片側を龍の仮面で隠した何かが立っていた。


 純白と漆黒の折り重なった衣を纏う5体は、(ほの)かに青白い光を発している。そしてその裏に、引き裂かれたように風穴が空いた片翼と、鎖に巻かれた刺々しい尾が見えた。


 それは僕たちに2足歩行で近寄ってくる。古びた仮面の眼からひとすじの青い残像を残し、鎖に縛られた龍尾を酷く重そうに引き摺りながら。



「エピックマン君に、そちらの君は初めましてだ。マリノフ君に封印されたイズマルダが初めまして。」


「冒険の神に封印って、神話時代の半神がなんでこんな階層に」


「半神の実在可能階層はランク21のはずだが,ランク8で遭遇とは…!」



 神話時代には様々な種族が2陣営に別れての、大きな戦争があった。


 勝った種族たちは僕たちの住む世界の神を成し、負けた(ほう)は半神として世界から追い出されたと伝えられている。



「敗北は半神、勝利が冒險神か。くくく、良いね、大戰は良いものだね。」


 黒爪を有する方の片手で龍の仮面を押さえた奇妙な笑い方は、何故だか闘争心の高さが表れているように感じられる。


「神話時代の大戦を再現するのであれば、僕たちのいない領域でお願いします」


「駄目だ、ははははは。それは駄目だよ。」



 仮面に隠されていない片目の瞳孔が縦に開いた。後ずさる僕を(かば)うように、エピックマンが不可視の盾《滑らかな面》を構える。


 イズマルダ半神は5本の指がある方の手を開いた瞳にかざすと、瞳孔は元に戻った。



「大戰は初めてかい。始まっているよ、大戰は。もう遲い、おそかったよ。イズマルダ達は待ち草臥(くたび)れた。混沌を。この混沌を。くく、はははは。」


「俺はワンダーランドの英雄,エピックマン=レジェンドハート! まだ遅れは取り戻せるはずだ!」


「術理院會員のエピックマン君。大戰は變えられない。過去から現在に続く一條(いちじょう)の道はかえられないよ。」


「イズマルダよ.空間的な方向では少なくとも横,縦,奥行きの3次元を認識するのに対し,時間的な方向が過去から未来への1次元のみに留まるというのなら…」



 エピックマンは不可視の盾を降ろし、右の剛腕を真横に広げた。



「新たな1歩を踏み出すため,俺が時を切り拓く!!!」


「ははは。過去、現在、未來とは違う時間軸か。面白い。面白い術理があるものだね。」


 躯体(からだ)に灯る青白い光が、徐々に小さくなっていき、ゆったりと言葉が紡がれていく。


「術理院會員はどうして術理を使えるんだろうね。誰が決めたのかな。術理院會員だけが術理を使えるなんてね。」



 術理院会員だけが術理を使えるとは、誰も決めていない。術理は、理解すれば誰でも使えるようになる。


 誰でも。何であっても。理解さえすれば。

 


「ぜひ術理を見せて貰いたいね。それを學び今を大戰にするよ。この混沌に乘じるイズマルダ達は。」


「術理を学習した上で大戦を起こすか.考えを改める気は…ないようだな」



 神話時代の半神たちが好戦的な状態で《魔王城》の外に出て行けば、非常に大きい被害が出る。好ましくは勇者たちがいる階層にさえ行ってほしくない。


 しかし、本当に術理を使う半神ならば、僕たちが対策するのは難しい。


 同じ原理の術理を同時に用いるとき、多くの場合に魔力の強い方が優先される。僕たちと半神では、まともには勝負はできない。



「ただし、ああ、殘念だね。未だ戰力のないイズマルダは去るしかないとは。ああ、さらなる混沌の果てにまた再会したいね。お互いに殺されないといいね。」



 鬱陶(うっとう)しげに鎖の巻かれた龍尾を震わせると、イズマルダ半神は片手の爪で鱗を1枚剥ぎ取り、空中へ展開した。



盟友(とも)顯在()れ、陽狩(ひか)りに墮ちた眩止(くらや)みよ。」


【Caution: Magion Detected】


 圧倒的な魔力放射で歪む風景に消えていくイズマルダ半神。


「とりわけ、エピックマン君。惰弱なる竜共を討てたエピックマン君。いつか封印の解かれたイズマルダは、とりわけ君との戰鬪(・・・・・)に焦がれるよ。」



 龍の仮面を不気味に歪ませた去り際を見届けたエピックマンが、雄々しい兜をおさえた。



「術理を使う半神と戦闘(たたか)うことになるとは…」


「ドラゴン狩りなんかしたから、龍の半神に目を付けられたんじゃないの」


「そういうことは,担当エリアに《ドラゴンケイブ》が出現してから言え」


 渋い雰囲気のエピックマンを尻目に、僕は魔力応答を確認する。


「これは召喚魔法の応答に近いな。何かがやって来るみたい」


「ルークンの専門か.ならばここは任せるぞ」



 僕が返事をする前より早くエピックマンは動いた。まるでマントを(ひるがえ)したかのように。すると何も着けていない緑鎧の背部から、なんと赤いマントが出現してはためき出した。



「俺はマイティ・ガジェットと共に追跡を行い,半神が封印されている間にどうにかしてこよう」


「ちょっと。エピックマンがゴーレム持ってったら、合流はどうするのさ」


「これから考えれば良い!」


 ゴーレムを小脇に抱えての剛毅(ごうき)な返答と共に、勇ましい音楽が鳴り響く。


「さあエピックマン,ワンダーランドの英雄よ! 永遠なる事象の地平面を超えていけ!」



 そしてエピックマン=レジェンドハートは虚空へ飛び立っていった。


 僕の目の前には、半神の召喚魔法に伴って放射される魔力で歪曲する情景だけが残された。




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