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異世界召喚でわかる魔法工学  作者: M. Chikafuji
Chapter 4 一般の場合
37/56

4.1 EPIC PHENOMENA

科学風ファンタジーを目指す本作、Chapter(チャプター) 4です。

前章に引き続き、少しでも雰囲気を感じ取って頂ければ嬉しく思います。



 夜、ギルドの酒場で情報交換していた所、(ラビット)獣人(ヒューマル)とメイドのふたりに絡まれた。冒険者ギルド受付職員であるソフィーさんと、近所の喫茶店で接客担当をしているUさんだ。



「ルクルクルークン、あたしの薬が切れそーだよ~~~!」


「どうかぁ…っ! このスーパーメイドUにヤクをぉ…」


「2日酔い覚ましの薬錠は店まで買いに来てください。それと重要なことですが、薬には作用と、副作用が必ずありますからね」



 最近では、調子に乗るから脱法薬をふたりに売るな、と周囲の飲食店から圧力をかけられつつある。ちゃんと合法の薬であり、僕は収益を優先するけれども。



「Uさん、喫茶店の仕事はいいんですか?」


「店長ゥのルミルミがいないので休みぃ」


「元伯爵令嬢は大変だよね。婚約破棄のうえに追放までされてんのに王都に呼び出されるなんてさー」


「断頭台の階段を上る第一幕に続き、愛憎(あいぞう)渦巻きの第二幕がぁ、開演でございますー」



 ルミさんは異世界の情報を参照できる転生者で、王都の貴族様に婚約を破棄されて追放された経緯がある。その後はこの田舎街で喫茶店をひらいていた。ところが、また何か厄介(やっかい)ごとに巻き込まれてしまったらしい。



「そしてぇ、主様(あるじサマ)のお留守(るす)酒盛(さかも)るつもりがまさかのこのザマ。ルミルミと仲良しな精霊さんにやられてねぇ…」


「貸し切りしよーとしたら速攻追い出されたもんね。あれは笑ったわ」



 げっそりした顔をつくるUさんと、あっけらかんとライトブラウンの兎耳を振って酒瓶を煽るソフィーさん。


 前に僕が同行したダンジョン調査の際、ルミさんはちょっとしたトラブルをきっかけに全属性の精霊と契約した。そのおかげで、色々と手伝ってもらえるらしい。


 黙って話を聞いていた僕の前に座る男性が、果汁の入ったグラスを回した。



「婚約破棄で追放とか実際にあるもんなのか。ひどい話だ」


「ドコのどなたか存じませんがぁ、ルミルミはのどかな方でねぇ。店長になれて嬉しき様子に心配はご無用ですな」


「今はその店を離れて王都だろ。苦労するやつはどこにでもいるもんだな」



 そう言って小さく息を吐いて、グラスを(かたむ)ける。その姿からもやはり、精神的な疲れが透けて見えた。



「ユゥこの方知らないの? ゆーめーだよ、カミサマさん」


「げげぇ! まさかあの信者達はいませんよねぇ」


「こらー、なんであたしの背中に乗っかるかな!」


 長身のソフィーさんに登って周囲を見渡すUさんに、カミシマさんは肩をすくめて返す。


「今日はもう寝かせてきた」


「ヨカッタ…」



 カミシマさんは異世界から来た召喚者だ。それがどういうわけか、神として信仰されている。


 特に、知らないうちに所持していたという奴隷たちの信仰は顕著で、この世界に実在するカミシマさん以外の神の排斥(はいせき)に命を()けているらしい。それに伴い、新しい信者の獲得にも熱心さを見せていると聞く。



「一度話を聞いたら勧誘がすごいんですよぉ。ただより高い酒は無いですな」


「あたしも誘われたことあるけどさー、ちょっとワケ分かんなかった」


 ふたりは僕たちのテーブルの余りの席に座り、店員にジョッキのおかわりを要求した。


「俺にも分からん。俺が唯一の主人で、かつ、神であることは、あいつらの価値観の全てだが、そこに理由などないからな」


「大丈夫そうですか? あまりにも辛いなら送還しますよ」


「ゴブリンになるよりマシだし、居心地は良い。そう、良いんだよ。良すぎるほどに、あいつらは良くしてくれる。しかし、しかし…」


 カミシマさんはいちど元の世界に送還されたけれど、奴隷たちによって再召喚された。そんな奴隷たちの主神が頭を抱える。


「このまま尽くされ続けたら、俺はダメな生き物になりそうだ…!」


 Uさんが杯を煽りながら僕を指差し、飲み終わると同時に露骨に息を吐く。


「ぷはー! やはりやはりぃ、事件の裏には常に術理院会員な者ぉ」


「僕たちが事件を起こすのではなく、問題の解決を試みるために事件に関与する姿が見られる、と解釈してください」



 そう答えると、カミシマさんが注文したコーン・ナッツが鷲掴みで奪い取られる。Uさんが飲むグーズビールとは、ささやかなフルーツ香とロースト香が引き立って相性が良い組み合わせだ。



「けっ、だったら魔王爆誕も止めてぇっつぅんですよぉ」


「ユゥったら勇者に指名されてご機嫌ナナメでさー。勝手に食べてごめんね」


「好きに食ってくれ。…にしてもメイドの勇者がいるという話、本当だったのか」



 先日、魔王の出現が正式に告知された。魔王出現に伴いダンジョン《魔王城》が活性化し、各地に入口が生成している。


 《魔王城》には勇者を含むパーティしか入れない。ここで言う勇者は、魔王が討伐されるまで()ける職業で、自分から転職もできるし、指名されることもある。



「悪いのはねぇ、メイドと勇者の区別もつけられないギルドなんですよぉ、ねぇソフィー!」


「知らないよー。だいたい、あたしまで無理やりパーティに入れちゃって。受付の仕事もあんのにさー」


 ソフィーさんに頭をぽふと叩かれるUさんはその腕を掴んで止め、ずれたカチューシャを戻す。


「飲み代(おご)ったでしょぉ、手伝ってよぉ。U者サマの命令だぞぉ」


「まーいーけどさ。うちのギルドのレベルじゃ、どうせ浅めのとこにキャンプはって終わりでしょ」



 《魔王城》は複数の入口から続く経路が、合流しながら最深部に繋がる構造になっている。深く進むほどに攻略難度は飛躍的に上がる一方で、浅い階層ほどやさしい。


 そのため、多くの勇者を動員した極地法(きょくちほう)が取れる。


 すなわち、道中の合流地点などに拠点(キャンプ)を設営して補給体制を整え、能力の高いパーティを前線の攻略に専念させる。最後は最強の勇者パーティがアタックをかけて攻略する。



「魔王といっても、あまり緊張感はないんだな」


「強いのは瘴気の濃い《魔王城》の奥に引きこもってますからねぇ。ただぁ、もたもたして浅いとこの瘴気も濃くなるとぉ、そりゃマズイ」


「神話の時代は外でもドンチャカやってたから大変だったらしーよ」



 強大なモンスターは、その実在の維持にも多大な魔力が必要なため、基本的には深層から出てくることはない。ただしダンジョンの攻略が遅れるほどに浅層への進出が見られ、やがては《魔王城》の外に出てくるとされている。



「そういえば、カミサマとルークンは何してんの?」


「息抜きに来たらたまたまルークンを見つけてな。せっかくだから軽く話をしてただけだ」


「僕は同僚と待ち合わせです。ちょっとトラブルで遅れているようですが」


「同僚ぅ? トラブルぅ? 危険が香るぅ!」



 今回の《魔王城》活性化に伴い、術理院会員にも依頼が来ていた。今回は大がかりなので、複数名であたることになっている。


 そうこうしているうちに、僕の魔力板が別の魔力板を検出した。表示された管理者名から、僕が待っていた相手で間違いない。


 ギルドの入口に目をやると、ちょうど扉が開いた。



「やっと来たみたいです」


「あ、あれか? 予想と全然違うぞ…」


「ありゃまぁ、力仕事が苦手そうな店主とは真逆ですな」



 緑色の全身鎧をガチャガチャに着込んだ冒険者がギルド内を見渡す。注目を浴びる重戦士に手を振ると、強者の風格を(ただよ)わせながらこちらへ歩いてきた。


 テーブルの横に立つ姿は、非常に大柄で威圧的だ。顔全体を覆う緑色のフルフェイスヘルムの隙間から、厳めしい声が響いてきた。



「現時点をもって合流だ」


「ずいぶん遅かったね」


「時間の都合をつけるのに難航してな.まったく,疲れた」


 彼が背負っていた大きな革袋が地面に置かれ、ガチャンと音が鳴る。


「とりあえず1服(いっぷく)させてくれ」


「はいはい。用意してるよ」



 彼は細長いパイプを取り出し、僕から受け取った小さい棒(カートリッジ)を手際よく充填した。それを魔法で活性化し、片側をヘルムの隙間から差し込んで、深く蒸気を吸い込む。


 鎧の周りに、(ほの)かに甘い香りが漂った。



「ふー,生き返る.それでルークン,こちらの方々は?」


「知り合いだよ。待ってる間に会ったから話していたんだ」



 この前レポートに書いたカミシマさんに、ギルド指定勇者のUさん、そのパーティメンバー兼ギルド受付職員のソフィーさん、と順番に紹介する。



「すまないが,同席させていただく.俺の名は,」


「あ、あのー! そのヨロイ、もしかして、《別詠み》のエピックマン!?」



 兎耳をぴこぴこ動かしながらの前のめりな問いかけに、緑色の重鎧を装備するエピックマンは吸っていたパイプを机に置いて立ち上がった。


 そして、大きなガントレットを握り込んで天に突きあげ、仰々(ぎょうぎょう)しく答える。



「《別詠み》とも呼ばれる俺の名はッ! ワンダーランドの英雄,エピックマン=レジェンドハート!!」


「やっぱり! あたし、ファンです!!」


「このエピックマンを呼ぶ声を無視することはできんな」



 ソフィーさんはキラキラした目でガントレット越しに握手している。エピックマンのファン? 銀星5等級の2つ名持ち冒険者とはいえ、他のギルドにファンがいるようなものだろうか。



「ソフィー、その草虫色の鎧の者、そんなに凄いんですかぁ?」


「《別詠み》のエピックマンって言ったら、『メガ・ゴブリンクラーケン ~ワンダーランド最終決戦~』の作者だよ!!」


「あぁ、この前の映劇の」


「俺たちも観たな、それ」



 何というか、あまり客受けしなさそうなタイトルだ。


 ひとりテンションの高いソフィーさんと、冷めた表情のUさんとカミシマさんの対比から、評価が分かれる作品と推定される。僕が前に召喚した星霊のレオニス君とかは、とても気に入るかもしれない。



「六大枢機卿の五席、《㊙》も絶賛の、スゴいアクション映劇なんだよ!」


「そう言って貰えると,苦心した甲斐(かい)があったというものだ」



 どこか遠くを見つめるエピックマン。


 彼の作品には恐らく、大枢機卿の試練が関連しているのだろう。そうでもないと、術理院会員がメガ・ゴブリンクラーケンを(つく)り出す理由がない。


 エピックマンは椅子に座り、再びパイプを手に取って(ほの)かに甘い蒸気を吸う。



「しっかし初めて見ましたよぉ。術理院会員な者が集まるのなんてぇ」


「今回の依頼は我々にとっても非定常だ.理由の1つには,これが挙げられるか」


 床の革袋から、色とりどりの楕円板が机に取り出された。カミシマさんが青い1つを手にとり、指でたたいたり明かりに透かしたりしている。


「軽いわりに随分(ずいぶん)硬いな。それに、発光してるのか?」


「わー、これドラゴンの鱗だよ。もしかして、袋の中全部!?」


「《ドラゴンケイブ》は踏破され,ダンジョン外の個体も全て管理下に置いた.一方,超自然的に神話時代のダンジョンが出現する事例が相次(あいつ)いでいることは大きな懸念(けねん)だ」



 この街の近くでも、神話級のモンスターが出たり、神話級災害の規模でモンスター大量発生が観測されたりしている。



「29代目となる魔王出現は、超然現象が増えてきたことと前後関係があるのが特徴的です」


「そこで,超然現象に慣れた術理院会員として,我々を含めた3名が《魔王城》への対応を依頼されている」



 今回の依頼は大教会からお願いされた。術理院と大教会はそれぞれ異なるアプローチがとれるから、何かと助け合うこともあるのだ。


 1服(いっぷく)するエピックマンに、糸目の横に汗を垂らせたUさんが質問を投げかけた。



「一応聞いてみたりぃ、もうひとりとはどんな者ぉ?」


「王都全域を担当している,クレイトン+という男だ.通称は《正体不明》」


「それ、怪談のギルド職員じゃん。いっつも働いてるけど誰も見たこと無いっていう」


「なあ、術理院会員って変人ばっかなのか…?」


「今頃気付いたんですぅ?」



 ただでさえ広い王都でギルド職員をしながら術理院会員としての仕事をもこなし、幽鬼のような姿で極限を生きているのがクレイトン+だ。僕は定期的に活力剤や眠気覚ましなどを販売しているのでよく知っている。



「《別詠み》、《正体不明》、それに《外錠》でしょ? ちょっと凄いパーティだよね」


「《外錠》って、僕のことですか? いつのまにそんな…」


「結構広まってるぞ。俺達が遭った神の中でも、知ってる奴がいたくらいだ」


「「私たちが名付けました!!」」



 肩を組んで爽やかな笑顔を浮かべるU者パーティ。その手にはさっき売り渡した薬錠の入った小瓶が握られていた。


 名称はともかく、僕たち術理院会員のみで構成するチームであるから、冒険規定から大きく乖離(かいり)することは間違いない。


 同僚のエピックマンを見ると、ちょうど香気を吸い終わった所のようだ。



「ご馳走様.ルークン,クレイトン+とは現地で合流だったな」


「えー、もう帰っちゃうの? 映劇の話とか聞きたいのにー」


「悪いな.明日の準備がある」


「僕も準備のために帰ります。皆さんごゆっくり」



 残念そうに折りたたまれた兎耳を背に、荷物をまとめたエピックマンと酒場を後にした。




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