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異世界召喚でわかる魔法工学  作者: M. Chikafuji
Chapter 2 ある転生者の場合
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2.6 Topology 位相幾何


 |̸҈̴̳̥̥̦̅́̃̃ͣͤ͞͡狂҈̸̷̵̺̻̼̳̆̅́̂́̂怖҉̷̴̴̯̮̤̄̆̅̋̎̏̒͡͠の袋小路に追い込まれて怯えるお嬢様とメイドさんに振り返り、僕は魔法収納のバッグから魔導書を取り出した。



「精霊達が協力してくれるなら、何とかなると思います」


「待ってました諸悪の根源! 結果を伴わなければ斬首ですよぉ! 斬首ぅ!」


 僕の肩に腕を回して真っ青に笑うメイドさんが厳しすぎる。締め上げをほどき、魔導書から特殊紙に魔法陣を転写する。


「精霊たちの住む領域を経由して、ダンジョンの別の場所に移動します」



 僕達は今、4次元以上の空間迷路の中で3次元的に迷ってしまっている。これは、例えば紙に書いた迷路の中にいるような状態に例えられるだろう。

 迷路から出ようと紙の端に行っても、紙の裏側に行ってしまったり、反対側の端にワープしたりしてしまったりして、うまくいかない。


 そこで、紙の外に住んでいる協力者につまみ上げてもらって脱出する。


 普段だったら、閉曲面の基本群というのを計算して、空間の特徴を掴む必要がある。この作業はかなり時間と手間がかかるので、詳細な手法は成書を見てもらうことにし、今回はズルをする。


 多数の精霊達が幻想域にいるので、手伝って貰えればどうにかなるだろう。高次元の幻想域に住む精霊たちなら、3次元の実域に住む僕たちを移動させる魔法も扱えるはずだ。


 精霊と対話ができる大教会徒がいて助かった。


 データもなしに成功するイメージが沸かないけれど、精霊もかなりの数がいるようなので、きっと大丈夫だろう。


 僕は魔法陣が僕たちを取り囲むように、紙から床面に大きく射影した。



「まともに準備している時間はありませんが、この魔法陣にみんなの魔力を込めるよう伝えてください」


「いつのまに…って、ただの大きな四角…?」


位相幾何(Topology)では球を表します。今は説明より、行動した方がいいでしょう」



 魔法陣は僕たちを囲む4角形、ここでは球の展開図を意味する。ここでの4角形は、パン生地みたいに伸ばしたりくっつけたりできると定義したものなので、辺同士をくっつけて形を整えれば球にできる。


挿絵(By みてみん)


 例えて言うなら、僕達は柔らかい球に包まれ、精霊たちの助力を得ることで、この袋小路から脱出する。



「早く速く疾くはやくゥ!!!」


「ちょ、ちょっと、目から血が出てるわよ!」


「注ぎ込んでんですよぉ、なけなしの全魔力を! ヤバ! なん! です! 今! 全精霊達に告ぐゥ! その涙さえも魔力に変えんですよぉ!」


「い、いくらなんでもやりすぎじゃあ…」


「順調ですね」


「!?」



 4次元空間では、リリームパンを割らずに中身のリリームだけを取り出すことができる。ちょうど3次元空間に住む僕達が、紙の上のパンくずをつまめるように。


 そして今、成功を示す魔力光が空間に浮かんだ。



「ふぅ、何とか間に合いましたね」



 魔法陣が強く光を発し、お嬢様とメイドさんが白い輝きの中に消えていった。







 お嬢様とメイドさんが。





 僕は、




【Ḕ̸̅ⱂʳо̸̲̄͡ɹ Մ̷̴אʞ/̸͚ͦͦͦɰɰ̵ɴ̴】




【∄ʳɤ̀̏҈̸ȱ̸℞_͜͠ႶӥҚ҈̸̳̳̲͚Ό̸Ԝ̸̷̲͍͚̥̅̄ͫͫ͜͠ո̷̴】




【⁅Ꮁ҉̸ᵧ꙰/̸_̇̅ᵠᵑᶄ͢ὂ̷̅ᾣ̸̶ῂ̸̄】




【҉̸Ǽ̶ȑᴙ̸Ǿ͡ʁ̸꙱ Џ̸ᶇₖḰ̷̴̲̃ṍ̳͚͌Ꮤℵ҉̸̷̯̃̄̅】


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   勝

   利

   の

   !

   俺

   様

   が

   登

   ぅ

   ぅ

   ぅ

   場

   ぉ

   !

   !



 出現とともに周囲を()いた小さな星霊が、圧倒的な白熱の中央で天を仰いでいた。



「レオ君か…。ちょうど助かったよ、ありがとう」


「こっちもやべぇ戦いだったぜ…。あんなのは、ワンダーランドの英雄と冒険して以来だな」



 背中までトサカのついたパーカーはあちこちボロボロだ。レベル65535の星霊がこんなになるなんてどんな相手だったんだろう。



「にしてもよールークン、あんなのいるならちゃんと言えよな!」


「あんなのって、どんな?」


「なんか変なヤローにパズルやらされてよー、こんなのを床に隙間(すきま)なく並べろってのがどーしてもできねーのよ」



 レオ君が両手で5角形を描く。正5角形では平面を埋め尽くせないので、特殊な方法を考える必要がある。かなり難しそうなパズルだ。



「ニヤニヤしながら見てきやがってよー。ムカつくからぶっ飛ばしてやろうと思った。でもな、そういう時こそ天才の俺様は(ひらめ)くわけだ!」


 鳴らした指先から白炎が生じる。


「床の形を変えれば隙間が無くなるってな! そんでもって、俺様の必殺絶技をドカンと決めてやったわけだな!」


「それ、ありだった?」


 僕の言葉に(まゆ)をハの字にして腕を組む。


「それがよー、ヤローもどっかいっちまったんだよ。いい考えだと思ったのによー」


 このような景色になったのだろう。壁も天井も床すらも、まばゆい白熱に変わってしまった。


「そこからだな。"ちーと"だとか、"ぺなるてぃ"だとかで、この器より強いやつがワラワラ出て来たのは」


「僕たちと似た流れだ。マスターがいるタイプのダンジョンだったのかな」



 ダンジョンは、まれにダンジョンマスターと言われるものが管理・運営していることがある。そこでは、独自の特殊ルールの中で探索することを強いられる。



「まー、それで散々逃げ回ってた。で、そんな時に、ルークンの転移魔法を見つけたんだなー。それをちょっくら利用させてもらったぜ」


「今回は構成が甘かったし、相乗(あいの)りしやすかったかもね」



 特に工夫しなければ転移魔法はかなりの魔力放射を伴うので、これを2次的に利用して別の魔法を実現することができる。


 普段は悪用を防ぐためにセキュリティをかける。でも、今回は何もしていなかったから、レオ君の魔力なら相乗りはできただろう。



「マジで助かったぜ。そんで元の世界から魔力を補給したってわけよ。魔力はデカければデカいほどデカいからな!」


「魔力を補給って。せ、星霊界から…?」


「ちょっとだよ、ちょっと! 他の星霊と一緒くたにすんなよ、加減のできる俺様だぜ?」



 ちょっとだけだぜ、と片目を(つぶ)って指でわずかな隙間を作るレオ君。星霊の1番ザコいがレベル65535なので、そのちょっとが、途方もないスケールになることは確かだ。比較として、僕のレベルは31である。



「ちゃんとダンジョン残ってるだろー。奴らを焼き飛ばせるギリギリのとこを攻めたんだぜ!」



 完全勝利だ! と小さな親指を立てるレオ君。


 方法はともかく、抱えていた問題は解消されたと見よう。こんがり焼き上がった空間を冷ましたあと、僕達も帰ることにした。














 ダンジョンから出ると、近くの樹の側にふたりを見つけた。



「お嬢様、あれが術理院会員な者の生き方なんですよぉ。術理を深く知るがゆえに、不完全な術理が失敗することを、一番に理解してしまうのですな」


「だって、私たちは大丈夫だったじゃない…」



 木陰で(ひざ)を抱えるお嬢様を、メイドさんが(なぐさ)めている所だった。



「世界に満ちるᚕᚕの暖かな感覚を、術理院会員な者はほとんど信じることができません。私たちがイメージひとつでできることもぉ、彼らは時間をかけて分析と計算をしないといけないのですー」


「ルークンは、ルークンは、時間がないからって」


「ええ」


 座ったままで顔を上げて、流れ行く雲を見つめるメイドさん。


「こうなることを、薄々感じていたのかもしれませんねぇ…」



 と、メイドさんが目まぐるしい速度で首をこちらに向けた。ダァっと汗を流しながら口をあんぐりあけた姿は、横で下を向いたままのお嬢様との対比が激しい。


 陽光を背に、お嬢様達の前に歩いていく。



「……ナゼ」


「どうかした……!? あのシルエットは!」


「何故ぇ…何故…! あの状況でぇ! あり得ないのでわ!!」



 僕は羽織っていた上着を右腕で(ひるがえ)した。続いて肩に乗っていたレオ君が、僕の腕に火炎を纏わせる。


 親指と中指でパチンと音を鳴らしながら腕を振り上げると、灼熱の火炎は、逆光で落ちていた僕たちの影とともに、空へ昇っていった。


 旋回する上昇気流に踊る草葉の中で、僕達は声高らかに宣言する。



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クエスト・コンプリート!

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「決まったな!」


「久しぶりだなぁこういうの」



 お嬢様とメイドさんが震える手で僕を指差す。



「う、うしろ…うしろに…」


「…? 後ろ?」


 振り返ると【Eŗӷor:̷ UnԞnow̄͢˿n】がある。


「…かような試練、たかがメイドさんには厳しいものがありますなぁ...」


「遠くを見つめない! 諦めちゃだめよ!」


 レオ君がふたりの目の前に飛んでいく。


「何を慌ててんだ? クエスト終わったんだし、早く打ち上げにいこーぜ!」


「だだだって、あ、あれ!」



 お嬢様が指をさす方に。

【Ꭼ̏rӻоГ ᑗ͠n̯ͦͦͬͮ̎͒̑̐̑̑̒͒ͣͤ̌̆̄̃̐͐͑͒ͧͬ͡ᏥᎧᏔn̯̏͟】

 あれが僕の後ろに。

【|̸̿̄̅̃ͦͧͨͫͫ̀̐͒͒̊̏̎̾̿̚҉̸̷҈̸̶̳̅̅̄͟͞͡Ȩ͑͂ɍɍorȖ̯̼nʞ҉̸҈̵̴̸̳̰̺̼̫̆͟͡͠kη̸̷ό̸̷Ϣ̸̷̳̄̅͟͞Ϟ/̸/̷̸̶̷̸͢͠/̸̷̶̸̷̐̄】

 どうして僕の後ろに。


 何故か。



「珍しい材料だったので、サンプリングしてきたんですよ。完全に壊れる前に保存できてよかった」


「術゜理゛院↺↺会員゛は☈ごれだがら゜ぁ↑!!」


「どっから声だしてるの…?」


 レオ君が表れる直前、接触した際に()っておいたものだ。かなり不安定な物質だけれど、ダンジョンの外にも一応持ってこれた。


「具体的に何が脅威なのかしっかり解析しておかないと、同じ問題に直面した際に進歩がありませんからね」


「あ、あ、あ、危ないでしょ! 街中に火山持ってくるようなものじゃない!」


「それって危ねーのか?」



 首を(ひね)るレオ君の意見は参考にならないので無視するとして、僕もさすがに、このままで持って帰ろうとは考えていない。サンプルは僕が採取した時点よりも大きくなってしまっているから、ちゃんと魔法で格納する。


 お嬢様とメイドさんはぽかーんとした表情で、シュルシュルと縮小して魔法収納のサンプルケースに仕舞われる様子を眺めていた。


 物質としての大きさが顕著に変化するのは特殊な魔力体だからだ。あのダンジョンとは異なるこの世界であれば、精密制御された魔法で対応できる。



「この世界でこういう魔力体を管理できるように、道具や施設は設計してあります。リスクはゼロにはなりませんが、十分に小さくはなりますよ」


「なるほどぉ。それである日、ふとしたトラブルを発端に暴走したブツが街を吹っ飛ばしてパニック大災害になるわけですねぇ?」



 まるで悪党を見る目だ。


 とりあえず、冒険者ギルドに戻ってクエスト結果を報告することにした。



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