愛されなかった私が幸せになるまで
初めてなのでお見苦しいところもあると思いますが、よろしくお願いします。
気がついたらその他カテゴリーで週間一位になっていました(2021.5.23)拙い作品ですが、たくさんの人に読んでいただいてとても嬉しいです。ありがとうございます。
それはそうと、その他カテゴリーで合っているのでしょうか……毎回悩んで最終的にその他にしてしまいます。
私たち3人は、仲の良い幼馴染だった。
老舗料亭の娘の私
和菓子屋の息子のケイジ
呉服店の娘のナナオ
年はケイジが私のひとつ下。ナナオがひとつ上。
街の商店街周辺に住む子供たちはみんな仲が良かったけれど、私たちは特別仲がよかった。
私が11歳になった頃、ケイジは寄宿学校へいってしまい、ひとつ上のナナオも幼い頃からの許嫁の家で花嫁修行をすると街をでていってしまった。大きな商家なので覚えることが多いのだと言う。
それでも商店街にはたくさんの子供たちが残っていたし、女学校へいけば友達もたくさんいた。
おてんば娘、明るくて元気な料亭の娘シイナ。
そんな私とケイジの婚約が14の時に急に決まった。
ケイジの家の和菓子屋が従業員の横領により経営が苦しくなったため、うちから金銭的な援助を受ける為の政略結婚の名の下にケイジは家の貢物になった。
私は幼い頃から、ケイジがずっと好きだったから。
周りの大人たちもそれを知っていた。大人たちの思惑と、私の恋心が今回の政略結婚にぴたりとはまった。ケイジとナナオが両思いなのは知っていたけれど、ナナオには許嫁がいたし先日15歳になって相手と結婚式を挙げたところで、ちょうどいいとばかりに決まってしまった。
ケイジのお嫁さんになれる事が嬉しくて嬉しくて、私は色々なことから目をそらした。
ナナオが嫁いだ先の街で2人が時々会っていることも、ナナオのお腹の中の子が本当は誰の子なのかと言うことも、ケイジが私みたいな騒がしい女は好きではないと言っていたことも、私に少しも笑いかけてくれなくなったことも、ぜんぶぜんぶ蓋をした。
まだ子供だった私は、結婚さえしてしまえば、私がずっとケイジを想っていれば、子供ができれば、夫婦に家族になれるとそう思って夢見てしまった。
私とケイジの結婚式の当日、運の悪いことに盗賊団が街を襲撃した。
大きな店の子どもの結婚ということで、大掛かりな準備をしていて街への出入りも多かった。そんなみんなが少し浮き足立っていたところを狙われたのだ。
教会に入り込んできた盗賊団たちは若い女を狙って攫っていこうとする。
甲高い悲鳴と怒号、人のうめく声逃げ惑う人たち、血飛沫、人が倒れる音。
私は足がふるえて動けなかった。
怖かったからじゃない。
一番奥にいた私のところへ盗賊たちがきた時私の目に入ってきたのは、お腹の大きなナナオを必死に守るついさっきわたしの夫になったはずの男の姿だった、その場面を見てしまったからだ。
あぁ、
最初から私は、2人の恋の当て馬だった。
恋愛を盛り上げるためのちょっとしたスパイス。
真実の愛を取り戻すための障害物。
ヒロインを彩るための引き立て役。
それが、私、だったのだ。
綺麗な花嫁衣装に身を包み、大好きな人のお嫁さんになれると喜びに身を振るわせていた私は何と滑稽だったことだろう。
神へした結婚の契りの誓いは、履行されることもなく消えていった。
私はどさくさに紛れて、冷静に当たりを見回しその場にいた盗賊団の中から下っ端ではなくそこそこ力のありそうな人を探し声をかけた。
「あなたについて行きます」と。
高級料亭は表向きは落ち着いていて優雅だが、厨房など裏側は慌ただしい。予期せぬ事態やお客様のトラブルなども時々は起こってしまう。私はそんな場面を小さい時から見ていたので荒れた場面でも少しだけ落ち着いていられた。
目の端の方で、私の夫は私ではない女を庇いうずくまっていた。床に血溜まりを作りながら背中や頭を蹴られたり殴られたりしている。
私の夫に庇われた女は、私の夫の名を呼びながらやめて!と泣き叫んでいる。
彼らはこの物語のヒーローとヒロインなのだろう。
きっと助かって子供と3人何とか幸せになる結末を迎えるのだと思う。
愛されなかったけど大好きだった夫と、夫を奪っていったけれど憎めない幼馴染。
2人が結ばれるのであれば、物語の中の私の役目はもう終わりなのだ。
散り際は素早かった。時間にすると30分もないぐらいだったのだろう、盗賊団たちは嵐のように街を襲い、街を守ろうとした男たちを傷つけ若い女と金目のものを奪って蜘蛛の子を散らすように去っていった。
私が声をかけた男は、下っ端ではないなと思っていたが実に盗賊団の頭だった。すっきりとした顔のいい男で盗賊団のカシラにはおおよそ見えない。
花嫁衣装を着ながらあの場面で泣き叫びもせず、自分からついていくと言った私のことを面白がり、気に入ったようだった。
盗賊の拠点へ戻り、私はそこでメイドの真似事のようなことをした。掃除や洗濯をし、食事係に美味しくなるコツを教える。そんなことをしながら、私と盗賊団の頭の距離は近くなり、愛されることに飢えていた私たちは、当然のように慰め合い愛し合った。
それが本当の愛なのかはどちらもわからなかった。
でもそれも、自分たちらしいと2人は穏やかにお互いの心の隙間に入り込んだ。
貯めこんだ物やお金を全て分配し、盗賊団を解散させた後私たちは遠く離れた国まで移動し、そこで夫婦として暮らすことにした。
夫は鍛治職人へ弟子入りし、私は町の食堂の一つで給仕係の仕事についた。育った高級料亭とはまるで違うが楽しく仕事をし、新しい街へと馴染んでいった。
あの街の情報は国を超えてからは何も聞こえて来ない。時々、あの2人を、家族を思い出すだけだ。国を二つ跨いだので、ここまで元盗賊団の頭を追って来る者もいないだろう。
そう、思っていたのに。
あれから8年が過ぎ、私たちは穏やかにこの街で暮らしていた。長女は6歳、長男と次女は双子で2歳になった。
「おかあさん、お客さんきたよ」
庭先で遊んでいたキリナがそう声をかけてきた。私は長女の後ろにいた人物を見て息を呑んだ。
頬は痩け目は落ち窪んで顔色はどす黒いがすぐにわかった。かつて、ほんの一瞬だけ私の夫だった男なのだと。
最近は国交が開け、街道も整備され国を跨ぐ移動も珍しくなくなった。私を知っている誰かがこの街に来てもおかしくはない。私の髪はピンクがかったプラチナでとても珍しかったから。
私はあの時盗賊団の襲撃で攫われた。
若い女たちは攫われ慰み者にされた後、遠い場所で娼館に落とされるか奴隷として売られるかしている。時々は私のように盗賊の誰かと結婚する娘もいただろう。
少なくともあの時は私の他に5人ほど攫われたはずだ。
あの周辺の町や村では、子供が攫われたり消えたりしたら、死んだものとしてしまう。
私も死んだものとして処理されているはずだった。
あの街から国を二つ超えたこの場所へ来るまでは街道が整備された今でも4ヶ月ぐらいはかかるだろう、ピンクプラチナの髪の私によく似た女がいたと言う情報だけでこの元夫はここまできたのだろうか。
元夫は私の顔を確認した後、ポツリポツリと話しだした。
結婚がなくなり実家の和菓子屋が潰れたこと。シイナに対して不誠実だと、私の親や街の人たちから糾弾され居場所がなくなったこと。2人で逃げたが貧乏な暮らしに耐えられずにナナオが商家の夫のところへ戻っていったこと。2人の子供だと思っていたお腹の子が実はケイジとも夫とも違う男の子供だったこと。当然ナナオも子供も受け入れられずにまたケイジのもとへ戻ってきたが、そのうち金持ちの男を捕まえ子供を捨てていってしまったこと。その後捨てられ娼館へ落ちたこと。
その捨てられた子どもは私を失った料亭の両親が引き取り養子として育てていること。
「シイナは俺のことが好きだから何をしてもいいと勘違いしてしまった。表面だけの言葉に騙され心地の良い方へ流れてしまったんだ。あの時シイナが消え結婚がなかったことになって馬鹿な俺は何も考えずに喜んでしまった」
こんなバカな男だったのだろうか。確かにあんなに好きだと思っていたのに。私の方も表面だけしか見えていなかったのだ。
それでも、あの商店街の小さな広場で戯れて遊んだ子ども時代の記憶はキラキラと輝いている。
3人で転げ回ったあの優しい空間は決して表面だけのものではない。いつまでも私の心の中で色褪せないのだ。
私は結局最後まで何も言葉を発さなかった。元夫は謝罪をするとそのまま静かにいなくなった。
あの顔色とフラフラした足取りではきっともう長くはないのだろう。
黙り込んでしまった私にキリナは袖を掴んで心配そうに見上げてくる。
そうだ、今の私にはこの子達がいる。愛し愛される確かな存在がいるのだ。
愛されなかった、選ばれなかった虚しさや、寂しさはもうない。
「ちょっと考え事しちゃったわ、そろそろ夜ご飯を作ろうか、キリナは教会に双子を迎えに行ってきてちょうだい」
2歳の双子は昼間は近所の教会へ行っている。小さな子どもたちを日中預かってくれているのだ。
キリナがそこの孤児院にいる男の子のことを気にしているのを私は知っている。
その幼い恋心が、この先どうなるかなんて私にはわからない。
だから私は見守り少しでも良い方向へ行くように導いてあげようと思っている。あの時私の両親もそんな気持ちで私とケイジとの婚約を結んでくれたのだろうと今ならわかった。
もしも上手くいかずに泣くようなことがあれば、私の話をしてあげるのもいいだろう。少しばかり規格外ではあるけれど。
心が引きちぎられるような悲しいことがあっても愛を知ることができるのだと。
「全てを捨てて逃げ出したって良いのよ。ママはそれで幸せになれたのだから。」
最後はそう締め括るのだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




