1話 内務省不可解死因究明局
東京郊外、深夜2時ーー、、
「泣く子も黙る丑三つ時か…」
「何か言いましたか?」
疲れきった男の一言に、妙に生気がない
女が尋ねた。
「いや、何でもない。それにしても
奴さんの姿を見ると、男心が燻るね。
映像アーカイブで見たス○イダーマン
にソックリだ。」
「何すっかそれ。」
80年前に流行った神作も彼女は知らない。いや彼女の中に記憶というものはない。そもそも、彼女死んでいる。
「そういえばお前、脳みそ欠けてるもんな。どうやって生きて…いやゾンビだから大丈夫なのか」
そう言うと彼は分厚い手帳を開けた。
麻薬のゾンビ…死因、オーバードーズ(薬物過剰摂取)…本名→美田園真美…触れた者を薬物中毒に…
書き殴った文字の羅列を改めて読み返す。
「良く読めますねそれ…」
「おまえに自意識はあるが、アイツにも意識はあるんだよな」
「ありますよー。ゾンビならではの殺意と人間らしい良心…じゃなくて正義感?は持ってるかんじかな?」
「よく分からんな。おい聞こえるか、そこから北東5キロ先でターゲットが動いてそうだ。」
周辺の事件・事故が見える車載用ナビを見ながら
無線を走らせる。無線相手からは返事はないが、、、
男女が乗車する車から、すぐ側の鉄塔天辺に
張り付いている人影がいた。
至る所に切り傷がつき、ぐらつく「真新しい」鉄塔。バランス良く…ではなく筋力で張り付いている。
筋骨隆々の体躯ではないむしろ細い。というよりも人間としての形を保ってるのが怪しい姿。彼もゾンビだ、それもグロい。肌はどす黒いインクと真っ赤な血が混ざったような色をし、そして…
全身を網目状に赤い切り取り線が張り目がされていた。冊子によくあるアレである。
化物は先程の無線を聞き、目標の方角に向けて跳躍した。鉄塔の高さ、およそ40メートル。飛び降りて助かる高さではない。それでも躊躇はなく、さらに次に飛び移るビル群に腕を差し向け…
腕から切り取り線を発射した。我々が冊子で見る二次元的なものではなく、しっかりと三次元的に実態として線は存在した。線はビルの1つに投げれると、その表面にタトゥーのように張り付いた。そこを起点にビルに飛びつく。その連続で繰り返し、目標地点に駆けていった。
張り付いたビル群に傷跡を残しながら…
「アイツも行ったな。俺達も行くか。よだれ垂らすなよ」
「垂らしませんよ。女性に対して失礼ですよ」
「お前女だったのか知らなかったわ」
「見て分からないんですか?というかその目見えてます?」
「見えてる見えてる」
そう言うとパトカーを緊急自動運転モードにして走らせた。
街灯が照らした男の顔に肌は青白く、女は目から口から液体を垂らしながらも拭うことはなかった。
目標地点…内務省不可解死因究明局による秘匿工作により人っ子1人いない。
人はいないが、人だったものと、生きる屍男はいた。パトカーの側でスーツを羽織ったデブメガネ、彼は目標地点中心にある多重事故で燃え上がる車を見ていた。生きてるものはいない、彼は自分の能力であり死因でもある『孤独死』を使い、秘匿工作と人員救出に携わっていた。それも無駄であると分かり、延々と燃える車両群の向こう側に佇む『人』ならざるものに注意を払っていた。
男女を乗せた警察車両が到着した。
降車した2人はデブメガネに注意人物?化物?と共に
解き放った飼い犬ならぬ飼物(怪物)を位置を聞いた。
「アイツはきてる兆候はあるか?」
「討伐対象に直線的に近づいてるのは感じますね。
能力も開花直後でスピードは遅いですが…」
「能力じゃねぇだろ、Skill。キル!キル!」
「何ですかその言葉遊びは」
困った表情をするデブメガネに
無表情で語る死人肌の男。そんな事言っている間に
切り取り線の化物が到着し、事故現場に突っ込んでいった。そのスピードで炎が切り裂かれ、対峙する2つの姿がハッキリと見えた。
ス○イダーマンさながらの切り取り線の化物と
車両と人肉が混ざり混ざった人型ト○ンスフォーマーの化物の姿が…
「僕たちの味方が切り刻まれ野郎で」
「向かいの奴が交通事故のゾンビの野郎だ。一時期消滅したが、復活してるな。死にかけ?だが」
「また『ドクター』が関わってるんですか?」
「そうだ…上層部は見猿な感じで情報消してたがな」
「どこから情報を?まさか貴方はゾンビ?…いや今のはなしでお願いします」
言葉を早々打ち切ったデブメガネは
どっと流れた殺気に今から始まるバトルの噴火点を感じた。
一方で死人肌の男は勝率を高める為に、切り取り線の化物プロフィールを頭の中で巡らせた。
ーーー今朝のニュースです。環境省資源保護局紙有効活用部の工場において、男性が裁断機に巻き込まれて死亡しました。なお死亡した男性の身元は分かっておらず、内務省は捜査を進めている模様です。
続いては、またも交通事故の…ーーーーーーーーーーーーーーーー
身元不明人が死体にあがることは多い。純潔日本人を守る為のクローン技術、それによる親を持たない人造人間は世間に紛れていることは多い。
医療は進化するが、工業は停滞気味である…日本の生産構造を一言で表すとそう言われる。寿命は伸び、死亡率は激減、ただし80年前と変わらぬライフスタイル。
もちろん、固形粒子型のスマホや自動運転の一般化といった一大ムーヴメントはあったが…人々の生活は単調化してる。そんなぬるま湯に人間が満足してる中で、
現代社会ではありえない死亡事故の恐怖がゆっくりと蔓延していた。
その原因が目の前にいるゾンビ、正式名称は…忘れた。とりあえず通称ゾンビ、死んだ人間を核として、死因に通じた物質で体を構成し、その死因に由来した事象を能力として形成する。その能力を100%の他の生きてる人間に差し向ける。怨念や復讐というやつか?…
「これが終わったら、1人2人寄越してくださいね。そろそろ殺人衝動が抑えられませんから」
考えに耽ってた死人肌にデブメガネが言った。
デブメガネもヤク中ちゃんもゾンビだが、生贄と引き換えに飼い殺ししてる。いつたかが外れるが分からないが。
彼らがいつ出現したかは不明。死を隠避した人間への神への断罪かと思ったことがあったが、ゾンビを生み出す諸悪の根源は調べがついていた。
その根源に生み出された『切り取り線』
Skillは簡単に言えば、飛ばした切り取り線で
相手をぐちゃぐちゃに切り刺く。発動にタイム
ラグが必要だが…
その思考の間に戦いの火蓋が切られていた。切り取り線は腕を振るった。幾重にも赤い閃光が鞭の様に振われる。気づいた時には交通事故のゾンビに巻きつき、その身体を切断し始めていた。
デブメガネが眼鏡を上げ直し
「無抵抗ですね。余程耐久力に自信があるのか…」
「HPの1も削れてないから、無関心と言った方がいいか。」
「でも、バラバラにしてますよ。」
切り取り線が体を蝕み、身体を輪切りしていた。
「勝負有りですかね…」
「それフラグだから。」
「フラグって何ですか?旗?」
「フラグも知らねえのかよ。オタクみてぇな面してるのによ」
その会話通り、切り刻まれた身体を
事故現場の車を使い再生し始めた。
再生も途中ながら、緩慢とその腕をその場で振るった。切り取り線にも、死人肌たちにも届かないのに…
切り取り線には熱源を感じる機関はもうない。元々あったが、あの事件で抜き取られてた。だから上から降ってくるトラクター、唐突に現れた車両に気づかず飲み込まれた。
瞬間爆せる…