暴走の犠牲者達の運命
毎度間が空いて申し訳ありません、ちょっと長めですが楽しんでもらえると幸いです。
コーヒーの準備を忘れずに!
「フェルディナント殿をお連れしました」
内からセブ爺に案内された先の扉が開けられる。
「中へお入りください」
そう言われるままに中に入る。
中に入った瞬間、頭をガツンと殴られたような衝撃を受ける。
「フェル殿、こちらは第九十九代目魔王ヒルダ様です。フェル殿、フェル殿!」
何か言っているが頭に入ってこない。
入った瞬間から視界は全て奪われて、何て表せばいいのか分からなくて言葉が出なくて、ただただ目の前の彼女に何か言葉をかけないとと思って、そしてなんとか言葉を搾り出す。
「ヒルダ、綺麗だ……」
「ちょっと、フェル!?えっと、その……ありがと……」
消え入るような声で頬を赤らめながら言って俯くヒルダから目が離せない、えっと、こんな時なんて言えばいいんだっけ?
「うおほん!」
ビクリッ!!
その咳払いに二人は驚き小さく跳ねる。
「フェル殿!此方第九十九代魔王であるヒルダ様です、普段ならくれぐれもご無礼のなきようにという所ですが、貴方には無意味ですのでするべき話だけは忘れぬようにお願いいたします」
その言葉に苦笑いを浮かべながら頷く。
「ヒルダ様、此方今代の勇者であるフェルディナント殿です、積もる話もあるでしょうが、お勤めの方よろしくお願いいたしますぞ」
そう言われたヒルダは気を取り直したのか首肯すると俺に向けて真剣な顔を向けてくる。
「フェル、勇者と魔王、お互いこのような立場で再会する事になるとは思っていなかった、君はどういう用向きで我らを訪ねたのだ?随分荒っぽい訪問の仕方をしてくれたようだけど、その意図も教えてもらいたいと思っている」
さっきまでの空気を払拭するような、ひりつく様な真剣な空気に俺の目も覚める。
そしてヒルダの言葉を咀嚼し、一拍、二拍と間を明けることで言葉を整理して口を開く。
「此方の用向きとしては君達魔族の真意を知るために話をしたいと思って此処に足を運ばせてもらった。訪問の仕方については邪魔されずに一番早い方法を取りたかった為にこのような手段をとらせて貰った、領内を騒がせてしまって申し訳ない」
そう言って頭を下げる。
「謝罪を受け取ろう、しかし、今回の事で受けた被害は小さいものではない、君が暴れた結果どれだけの被害が出たか、わかるかい?」
その言葉に首を振る。
「やっぱり、そんな事だろうと思った、セバス、お願いできる?」
「畏まりました」
溜息をつきながらセブ爺に話を振ったヒルダに応えてセブ爺が一歩前に出る。
「それでは報告します、先ずは国境付近警備の兵士達、彼らはフェル殿に跳ね飛ばされる事により空中浮遊を楽しんだ末に近くの茂みに落下、掠り傷を負うことになりました」
真面目な顔をして読み上げるセブ爺なのだが……ヒルダの顔がえ!?っていう驚きに変わっている。
驚いている顔も可愛いなぁ……
「次に、と、フェル殿!魔王様に見惚れてないでちゃんと聞いてください!」
そうしてセブ爺が報告を読み上げていく。
その間に読み上げられたどれもが、骨折より酷い怪我を負ったものはいないという報告だった。
それを聞いているヒルダの顔は驚きの連続で、それは次第に安堵の物へと変わっていった。
そして報告は進む。
「続いて王都郊外で対峙した四魔将ですが、端的に言いますと重症です。」
その言葉にヒルダの表情は一気に曇り、瞬きが一気に増え、苦しそうな表情を浮かべる。
「……続けてくれ」
苦しげに絞り出した言葉に頷いてセブ爺は口を開く。
「詳しく報告します。先ずはアミーとファルネスの夫婦ですが、全力で攻撃を仕掛けたモノの全く効果が無く、気合一発で纏めて吹き飛ばされて仲良く水龍の親子の棲家にホールインワン、気絶している所を引き上げられた後に子供達に戯れつかれて濡れ鼠のまま引き回されて大風邪をひいて熱を出して寝込んでおります」
「え……?」
またも予想外の報告に目を丸くするヒルダ。
「尚職務復帰には3週間程の療養が必要ですので大人しく一緒に寝込んでいるように申し付けております。まぁ新婚夫婦なので暫くしたらアミーの長期離脱も可能性として考えておくべきでしょう」
そう言って一端口を閉じるセブ爺。
「え、長期離脱……それって……」
そう言って頬を染めるヒルダ。
「若い男女が二人で一緒に寝込んでるんだ、珍しい事じゃないだろ、そんな事で動揺してるようじゃ先が思いやられるねぇ」
エルダが俺とヒルダを見ながらヤレヤレという風に言葉を放つ。
その視線にどうにも居心地が悪くて視線が下を向いてしまい暫くの沈黙が場を支配する。
「うぉっほん!」
それを破ったのは咳払い、それを放ったセブ爺は空気を踏み潰しながら笑顔で言葉を放つ。
「それでは残るアロケルとブネの親子の方も報告いたしますぞ」
「あ、ああ、続けてくれ」
動揺の抜け切っていないヒルダの言葉にセブ爺は読み上げを再会する。
「では不詳の娘婿アロケルのほうから、アロケルはフェル殿に真っ向勝負を挑みました、そして全身全霊を以って挑み、限界を超えて闘い続けた結果、魔力が枯渇、幸い生命力が強いので命に別状はありませんが、ブネによってベッドに放り込まれた後はそのまま寝ているそうです」
ゴゴゴゴゴ
そんな音が聞こえるほどの何かがヒルダの後ろから吹き上がる。
修羅がいる!修羅が!
その正体はヒルダの後ろに直立しながら笑顔を浮かべているアイラさん。
その一見穏やかに見える笑顔に反して纏う雰囲気はどこかで見覚えのあるもので、あれ?なんか寒気が……
「続いて可愛い孫娘のブネですが、アロケルが倒れた後に魔王城に向かうフェル殿の周囲を飛び回り縦横無尽の魔力攻撃を行いましたが、一切効果なく、疲れて動きが鈍った所を……」
言葉を区切った所で沈黙が落ちる、いや!俺そんな風になるような事してないからな!
「ど、どうなったのだ?」
緊張感のある声で沈黙を破ったヒルダの声にセブ爺が答える。
「はい、息継ぎに口を開いた所にフェル殿の一撃が入りまして……」
「入って。入ってどうなったのだ?」
「フェル殿が城につくまで足をバタつかせて悶えていたそうです」
消沈したように言うセブ爺にヒルダの視線が厳しくなる。
「フェル、まだ幼いブネに何をしたんだ?私の可愛い妹分に」
笑顔のヒルダがアイラさんと同じ様な空気を纏って俺に言葉を向ける。
「いや、俺は」
「俺は?何をしたんだ?」
「疲れているあの子を見て」
「見てどうしたんだ?」
いつの間にか間近に詰め寄ってきたヒルダの詰問が続く中その空気は唐突に破壊される。
「お姉ちゃんただいまー!あ!勇者のお兄ちゃんだ!あのシュワシュワの飴美味しかったよ!」
ガチャ!というドアを開ける音と共に響いた元気のいい声がその元凶だった。
その声にヒルダは目をぱちくり、呆気に取られて呆然とする。
呆然としている顔も可愛いなぁと思っていると元気な声が響く。
「あれ?お姉ちゃんどうしたの?お兄ちゃんにお顔近づけて?」
コテンと首を横に傾げる黒髪ショートの十歳位の女の子、それがさっき外で出会った四魔将のブネである。
「えっと、ブネ、身体は大丈夫なのか?外で悶え苦しんでいたって……」
驚きから回復出来ないまま問いかけるヒルダ。
「なんのこと???」
覚えがないブネは逆に首を傾げて頭の上にはてなマークを増産する。
「フェルに口に何か入れられて手足をバタバタさせてたって……」
そう言ったところで頭に電球が光ったように合点のポーズをとったブネは満面の笑顔で口を開く。
「そうそう!お兄ちゃんのくれたシュワシュワの飴ちゃんおいしかったの!お兄ちゃん!あれまだないの!?」
そう言って此方に駆け寄って来たブネを見てヒルダが俺に顔を向けてくる、これはどういうこと?っていう顔だな、うん。
「出発する前にうちの村の名代が持たせてくれたんだよ、子供の魔将に食べさせたら戦わなくて済むからもってけって、ほら、ちび達と分けるんだぞ」
ヒルダに説明してからブネに袋毎飴を渡すと彼女は双子の幼児と一緒に飴を口に入れて楽しみはじめる。
「美味しさに悶えていたブネは飴で懐柔された為戦闘不能になりまして、四魔将は制圧され、敵にはなれないという意味で重症です」
悪戯大成功という顔でニッコリと笑うセブ爺、してやったりな表情のエルダにヒルダは気が抜けたのか崩れ落ち……させねえよ!
「あ。フェル……その、ごめん」
崩れ落ちそうなところを抱きしめたので昼だの顔が間近で、ちょっとバツが悪そうにヒルダは顔を伏せる、
「気にすんなって、あの二人の悪巧みは今に始まった事じゃないだろ?」
「そうだけど、ごめんね」
「おう、受け取ったから、この件はこれで終わりだ」
「うん……ありがと」
そう言って胸に顔を埋めるヒルダ、それを見守る育ての親達にちびっ子集団。
凄く居心地が悪いこの空気、どうしよう……
そう思っていた所で救いの手はやってくる。
「ヒルダ、お楽しみの所悪いけどちょっといいかい?」
エルダがヒルダに問いかける。
「あっ……」
我に返ったヒルダが顔を紅くしながら振り向く
「え、えっと、どうした?」
「ああ、ブネも帰って来た事だからアイラを行かせてもいいかい?さっきからソワソワしててみちゃいられないからねぇ」
そう言ってアイラさんの方を見ると慌てたように手を振って口を開く。
「いえ、そんなことは!」
「何いってんだい!さっきから百面相してる事位みんなきづいてるんだよ!」
「うぐ……」
反論するが一蹴されて言葉に詰まる彼女にヒルダの頬が緩む。
「いってらっしゃい、アイラ。ちゃんと看病してくるのよ?」
そう言ってちょっと悪戯気に笑うヒルダにバツが悪そうにアイラさんが頭を下げて退出していく。
「産休とるなら早めにいうんだよ!」
「もう!お母さん!」
頬を膨らませて紅い顔で駆け出すアイラさんを見送る。
そしてセブ爺が扉を閉めて戻ってきて一息ついて空気が落ち着くのだが。
「さてフェル坊、あんたが此処に来た目的を教えてもらおうかい?」
エルダの一言が緩んだ空気に緊張感を呼び戻すのだった。
ということで次はどう動くのか、彼の大暴走はまだまだ続く。
因みにヒルダの服装は濃紺のブラウスと白の膝丈のスカートにブレザー、黒のタイツといった軍服チックなやつです(語彙力
フェル君はファンタジー世界の軍服といったところですが、詳細はご想像にお任せします。
絵心無いので皆様の妄想力に期待!