最狂勇者、モノのついでに平和を築く事を宣言する。
ソファーに両手を広げて全力でもたれかかる。
シンプルながらもしっかりとした作りで質のよいソファーは疲れてだらけきった全身を程よい抵抗で包み込む。
俺は今魔王城の中の貴賓室と呼ばれる場所でだらけていた。
なんで貴賓室かって?そんなもの決まっているだろ?
追い出されたんだよ!
なんでかって?
「魔王様のお召し物を変えますので殿方は退室してくださいね」
って笑顔でアイラさんに言われたんだよ、あのおどおどしてポワポワしてた侍女服の娘さんに。
何ともいえない迫力に有無をいう事が出来なかったよ!
あれは絶対に鬼婆から受け継いでいるね!
「いえいえ、あれは私とエルダあってのものでございますよ」
そこ!心を読まない!
「口に出ておりますので」
出してねえよ!
「ほっほっほっ」
高笑いしながら目の前のローテーブルにお茶を用意するセバス。
「ねえじいじ、なにおはなししてるの?」
「執事の嗜みですよ、イーノ」
「んー、わかんない!」
そう言って朗らかに笑うのはヒルダの部屋から出てきた小さな男の子――名前はイーノという――。
エルダと同じ茶髪にくりくりとした大きな瞳の男の子。
子供用に作られた執事服っぽい服装を着ている5歳位の可愛い盛りのセブ爺の孫だそうで、なんとあのアイラさんの愛息で、3代揃って魔王家に仕える予定になっているそうだ。
なのになんでこんな振る舞いかといえば今は魔王城になれるために子供らしく過ごせるようにという期間であるらしい。
お手伝いをしようと頑張る姿は当然の如く可愛いもの好きのご婦人方の琴線に触れ、可愛がられているらしく、ヒルダも例外ではない。
アイラさんは恐縮していたらしいが、魔王様をお姉ちゃん呼び出来る位だから相当……というわけでもなく、ここに来る子供達は最初はこういう風に皆可愛がってるらしい。
そのおかげで若い使用人や見習い達からは主君であると同時に姉として慕われていて非公認の親衛隊がいるとかなんとか。
夜は気をつけてくださいね?と笑顔で言うセブ爺の言葉には引きつった笑みしか出なかったよ。
そうしてだれている内にお茶を置いたセブ爺が俺の向かい側に座り口を開く。
「さてフェル殿、先ずはここに来た用向きを聞かせてもらえますか?大体は予想がつきますが」
「ああ、いいぜ」
答えた先のセブ爺の顔は笑っていたが、それはどこか底冷えのする、目の奥の笑っていない笑みであった。
そこから先に何を話したかは端折らせてもらうぜ。
簡単に言えば「勇者になったけど魔族が悪っていう決めつけが信じられなかった、勇者に任じられた直後にあんな事があるくらいだからな。平和な世界が訪れればいいのだから魔王に会って確かめる為に走ってきた」っていうことだな。
「それはまぁ、なんというか、貴方らしいというかなんというか」
そう言って呆れを口にするセブ爺。
「じいじ、どうしたの?」
首を傾げるイーノ君、うん、子供は素直でいいなぁ。
そのイーノ君を膝に乗せて言い聞かす爺孫の構図を見て思う。
こういうところは人族も魔族も変わらない。
そしてセブ爺の話を聞いて理解したイーノ君が口を開く。
「ふぇるおにいちゃんはぼくたちをいじめるの?」
それは何の裏もない、真っ直ぐな問いかけ。
幼いだけに何の配慮も、ひねりもない、核心だけを問う言葉。
それに返す言葉はもう決まっている。
あの時ヒルダから出た心からの言葉、あれが嘘のはずないからな、だから俺は胸を張って答える。
「それはないよ、俺は人族と魔族の喧嘩の仲裁をしようと思っているから」
軽く言ったが、それは重い言葉。
その証拠にセブ爺が珍しく焦っている。
表向きにはニコニコと表情を変えていないけどな、発する雰囲気が一瞬乱れた。
さっき心を読まれたお返しと言っては何だが、スカッとしたぜ!
「フェル殿、軽く言われましたが、言葉の重さはお分かりで?」
「ああ、十年前から求めてきた物をこの手に掴むだけの事、出来なくて何が勇者だ」
聞き返すセブ爺に啖呵を切る。
しかしこの啖呵は俺の本心、十年前から目指してきた物が手を伸ばせば届く所にきたんだからな。
俺の望みの為に世界を平和にする、その為に、今までどおりにつっぱしるだけだ。
それを伝えられたセブ爺は呆れた口調で、しかし楽しそうに口を開く。
「全く貴方という人は、ヒルダ様といい貴方といい、変わりませんなぁ」
ホッホッホッと笑いながら嬉しそうに笑うセブ爺にイーノ君も楽しそうに真似をする。
その姿に和んでいると扉が叩かれる。
「失礼します!」
それは伝令兵であり、彼は二つの報告を持ってきた。
「報告します!魔王様の準備が整いましたのでお連れしろとのことです」
敬礼しながら口を開く彼に頷くセブ爺に促されて俺も席を立つ。
「それとこれをセバス様にお渡ししろとのことです」
「わかりました、ご苦労様です、職務に戻って下さい」
「はっ!」
そう言って踵を返した彼は足早に部屋を離れる。
「セブ爺、それは?」
渡された物が何か、俺には分からなかったので聞いてみる。
「ああ、これですか?後でのお楽しみです」
そう言ってニッコリと笑うセブ爺に悪い予感が止まらない。
「さあ、ヒルダ様がお待ちですので、こちらへ」
そんなことは露知らず、いや、知っててワザとスルーしながら案内を始めるセブ爺についていく以外、俺に出来る事はなかった。
エル「さて、あの紙はなんだったんだい?」
セブ「これですか?これはヒルダ様にお伝えしないといけない大事なことです」
エル「ほうほう、ああ、これか」
セブ「はい、こういう結果になりました」
エル「しかし上手くやったもんだね、呆れたもんだ」
セブ「不器用ながら一生懸命に考えた結果でしょうから大した物です」
エル「まぁこれならなんとかなりそうだね」
セブ「ええ、誠に喜ばしい事です」
エル「さて、それじゃあコーヒーを煎れてこようかね」
セブ「そうですね、次回はほうっておくと死人が出そうなので、準備しないといけませんね」
エル「そういうこと、さていこうか」
セブ「お供しますよ」
何か気になった方は気になったって言ってもらえると嬉しいです!
次回、いよいよあの台詞が出る!カモ