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最狂だといったな?最狂でも勝てないものはあるのだよ!

間があいてすみません、更新です。

「勇者は未だ健在だぞー!」


「ひるむな!奴は手負いだ!我々で魔王様を守るのだ!」


「勇者覚悟ーー!ぐああああ!」


 二人の渾身の一撃がぶつかり合って舞い上がった土煙の中を前に進む内に聞こえてきた声と共に魔族の戦士が突撃してくる。


 それを掴んでは投げ掴んでは投げ……邪魔されるのは嫌なのでちょっと強く投げてしまったがまぁ大丈夫だろう。


 投げるのも億劫になったのではたき落としたりして前に進むと戦士達の人員も尽きたのか静かになり、土煙の向こうに立ち尽くす影が見えた。


「うあああああああ!!」


 命を搾り出すような声に土煙が吹き飛びヒルダの泣きそうな顔が見える。


「ったく、なんて顔してんだよ、美人が台無しじゃないか」


 ついそんな言葉が口をついて出る。


 それが聞こえたのか、毒気を抜かれたような顔で目があ・・・っぶね!


 目が合った瞬間に全身の力が抜けるのが見えて全力でその小さな身体を受け止める。


 背中で地面を削りながら何とか地面との間に割り込む事に成功。


「全く、昔から無茶しすぎなんだってお前は」


 無茶しすぎだし心配かけさせられてハラハラするんだけどそれが自分本位じゃない優しい性格なんだから怒るに怒れないじゃないか。


 皆までは言わずに苦笑いで誤魔化すと信じられないような顔のヒルダが口を開く。


「フェル……君?」


「おう、約束どおり、とはいかなかったが、迎えに来たぜ」


 平和はまだきちゃいないが、それでも見つけたんだから仕方ねえよな。


 再会が嬉しくてヒルダの顔をじっと見る、昔の可愛さを残したまま成長し綺麗になったその姿を。


「フェル君……フェル君!……う、うあああああああああああん」


 間近で目と目が合って数瞬、胸に顔を埋めながら泣き出す彼女を抱きしめる。


「待たせて悪かったな」


「ううん、信じてたから、でも、もうダメだと思ったら、それがフェル君で、昔と変らなくて、うわああああああん」


 そう言って声を上げて泣くヒルダの頭をあやすように撫でながら言葉を交わす。


 どこにもいかずにずっと一緒にいてと、そういわれて頷く。


 そうして漸く泣き止んだ彼女は安心したような笑みを浮かべる。


 そして力が抜けたと思ったら。


「すぅ、すぅ」


 という寝息が聞こえてくる。


 昔もあったなと思いながらその寝顔を見守っているとさっき投げ飛ばした魔族の面々が復帰してきたのか辺りを微妙な空気が漂う。


 なんというか、どうすんのこれ?っていう困った感が満載の空気感、何も言えねえよ!


 しかしその空気も長くは続かない。


「ほっほっほっ、姫様も、ああ今は魔王様でしたな、まだまだお若いですなぁ」


「なぁにいってんだい、それにしてもやってくれたね、フェル坊、やりすぎだよ!」


 微妙な空気を破壊する聞き覚えのある声。


「ほら!おまえたち!ぼさっと突っ立ってないで片付け!」


「フェル殿お久しぶりでございます、立ち話も無粋ですのでご案内します、こちらへ。ああ、魔王様の事はお願いしますね?」


「ほら!ぼさっとしないで着いてくる!ヒルダが風邪ひいちまうだろ!」


 白髪の混じった茶髪の侍女服っぽい何かを着たご婦人がテキパキと指示を出し、白髪の執事服を着た紳士が俺達の前に立ち一礼して手を向ける。


 この二人、村に居る時にヒルダの家で彼女を世話していた二人であり、後で聞いた話だが先々代の親友夫婦だとか。


 俺からしたら怖い鬼婆と終始笑顔なのに敵わない爺さんって事で幼心に敵わないという気持ちを植えつけられている二人である。


「誰が鬼婆だい!」


 いや口に出してないんだけど!


「言わなくてもわかってんだよ!」


 ……もう何も言うまい。


 ご婦人の方はエルダ、紳士の方はセバス。


 この二人に先導されて俺は魔王城に足を踏み入れる事になったのだった、ヒルダを横抱きに抱えたままで。


 後から聞いた話ではこのときに緘口令が敷かれたとか。


 曰く「騒がしていた問題は魔王様の手によって片付き、原因はエルダとセバスの手によって魔王城に連れて行かれた」これ以上の事実はないとのことだ。


 これで片付くのかと思ったのだがセバス曰く

「ほっほっほ、エルダに逆らうのは魔王様に逆らうよりも勇気がいりますので大丈夫ですぞ」

 とのこと。


 なんでも大体の魔族の兵はエルダの薫陶を受けるそうで、骨の髄まで恐怖を叩き込まれるとか……こっちの方が魔王じゃねえかよ!








 美しい通路は見晴らしが良く作られており、行く先や周りの手入れや清掃も欠かされていない。


 十人が悠に並んで歩ける広さで白色の石畳が敷き詰められ、左右を腰の高さ生垣が仕切る正門を入る。


 扉の前を守護する兵士が二人を見て敬礼し、扉を開ける。


 エントランスの左右には侍女服と執事服を着た使用人達が列を作りその間を歩く。


 その非常に気まずい人の列の間を抜ける。


「ふぅ……」


「この程度で疲れたのかい?相変わらず軟弱だねぇ」


「いやいや、なんであの生暖かい目線の間を平然と抜けてこれるんだよ!気まずいったらありゃしないよ!」


「なんだ、そんなことかい」


「ほっほっほ、エルダ、流石に若者にはあれは厳しいですぞ」


「その程度で音を上げられちゃこの先持たないんだけどねぇ」


「まぁまぁ、何事も慣れですぞ」


「そんなもんかねぇ」


「そんなものです」


 そんな夫婦の会話を聞きながら歩く。


「ああフェル君、これは爺の戯言ですが、あの目線は、ヒルダ様のお人柄故です、貴方のこれからの振る舞いによっては槍の襖に変りますのでお気をつけくださいね」


 そうにこやかに告げるセバス爺の目線は笑っているもののどこか笑っていない、空気が一瞬凍る。


「んー……フェル君……あーん……」


 空気を読まない寝言が零れる。


「ほっほっほ、今夜は豪勢にしないといけませんのう」


 高笑いするセバス爺の言葉に苦笑いしか返せない俺だった。


 



「私だ、扉をあけな」


 いくつもの階段を昇りいくつかの扉を抜けた先でエルダが呼びかける。


 鍵を開ける音がして扉が開く。


「お母様、その、姫様は……」


「ああ、ヒルダならそこだよ」


 その言葉とともに此方を指すエルダ。


 その動作と共に開けた視界には侍女服を着た女性が目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。


「ひ、姫様!?」


 その言葉に後ろからぴょこっと顔を出す幼い子供達


「「姉さまーーーーー!?」」


 姿の似た男女の子供達も目が合うと驚いた表情で固まる。


「「ね」」


「ね?」


「「姉さまが男の人つれてきたーーーー!」」


「はっはっは」

「ホッホッホ」


「ちょっ!二人とも!お父さんとお母さんまで!もーーーー!」


 ドタバタと繰り広げられる会話についていけない、そして。


「んん……フェル君……?」


 長い睫毛が震えて薄っすらと目が開く。


「お、おう、大丈夫か?」


「うん、だいじょうぶ……え?」


 寝起きで状況が把握出来ていないのか首を傾げて瞬きを一つ。


 そして動く目線。


 それがエルダ達や子供達を捉えると動きを止める。


「え、えっと、これは、その……きゅう」


「ちょ!おい!ヒルダ!」


 赤面して目を回してしまったヒルダに焦る俺、それを見て高笑いを上げる老人二人にキャッキャと喜ぶ幼児二人、そしておろおろとうろたえる女性。


 うん、カオスだ……

エル「いやぁ二人とも若いねぇ」

セバス「どうぞ、ブラックコーヒーです」

エル「ああ、ありがとう、口の中が甘くなってしまっていけないねぇ」

セバス「ほっほっほ、これが若さってやつですなぁ」

エル「そうさねぇ、このまま二人が穏やかに幸せに暮らしてくれると私も安心なんだけどねぇ」

セバス「そうですねぇ、そうなってくれればいいのですが……」

エル「最後はハッピーエンドに、そうじゃなければあいつも浮かばれないからねぇ」

セバス「老体に鞭打ってでもなんとかしましょう」

エル「そうだね」


お読み頂きありがとうございます、彼らの未来が気になる方は↓の☆☆☆☆☆を★★★★★に近づけてくれるとがんばれます!

仕事の関係で遅筆ですが時間見つけてがんばります。


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