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僕らは毎日練習を重ねた。そしてその度にサラは成長していく。入学してから停滞していた時間。それが一気に爆発したかのような成長速度だ。連携も高まってきて、かなり順調な滑り出しだと思う。
その日の練習が終わって、僕が自室への帰り道を歩いている時だった。
「リーダー。……少し話をさせてもらえないですか?」
その声をもう近くで聞くことはないだろうと思っていた。か細い声で、僕のことをリーダーと呼ぶ生徒は一人しかいない。元仲間の一人で双子の妹。フレンだ。
決定的に僕らの運命を分けたあの時、フレンは何も言って来なかった。それでもどんなつもりで僕の前に現れたんだ。僕に酷いことをしたという自覚はないのだろうか。
「……僕はもう君達のリーダーじゃない」
そう言って立ち去ろうとする。僕はもう彼女達のことがどうでもよかった。あの時は彼女たちの事を応援しようとも思った。でも、それは僕がショックで気が動転していたことと、まだあのチームに未練があったからだ。今思えば、チームに貢献していないなんてことはありえないはずだ。追い出すのはあまりに理不尽すぎる。
でも、サラに合わせてくれたことだけは感謝している。今思っているのはそれだけだ。
「待ってください。お願いします。少しでいいんです」
あまりにもしつこい。話を聞かなければ部屋までついてくる可能性もある。レフィアにこの姿を見せたくはなかった。
「分かった。ここで立ち話でいいから。手短にお願いするよ」
僕が聞いてくれたことにとりあえず安堵したようだった。その後、息を大きく吸って、フレンは口を開く。
「…………こんなことを言うのはあまりに都合が良すぎるのは分かってます。でも、私たちのチームに戻ってきてくれませんか。リーダーがいないと、やっぱり私たち……」
意味の分からない話に驚いてしまった。あんな別れ方をしたのに戻ってきて欲しい? 都合が良すぎるどころの話じゃない。それに、レオンがそれを認めるとは思えない。彼はプライドの高い男だ。
「聞いて損したよ。それをレオンには言ったのかい?」
「それは…………」
フレンは引っ込み思案なところがあった。気の強いレオンに進言出来るとは思えない。
「僕も忙しいし、君達もやる事はたくさんあるだろう。だから、もうお互いかかわるのは止めにしよう」
「レオンさんの事は何とかします。何より、リーダーも入るチームがなくて困っているんじゃないですか?」
その言葉は、まるで僕を助けてあげるからとでも言いたげだった。冗談じゃない。
「僕はもう他の人とチームを組んだ。君に心配される筋合いはない。僕はもう行くよ。話は聞いたしね」
「そんな……見捨てるんですか?」
どの口が言うんだ。
「君は何か勘違いしてる。僕が見捨てたんじゃない。君たちが僕を追い出したんだ」
今度は、もう追いかけてこなかった。
自室に帰ると、そこには二人の少女がいた。一人は言うまでもなくレフィアだ。この部屋で僕と一緒に住んでいる同居人。僕は異性と同じ家で暮らすのに最初慣れなかった。でも、今はもう慣れた。レフィアは最初から自由気ままだったけど。
二人目は、あの時にレフィアと一緒にいた銀髪の少女。名前はノエルだったと思う。二人は仲が良いらしいんだけど、この部屋に来ているのを見たことはなかった。
「おかえりレン」
何もこちらに状況を説明しないレフィア。やはり王女だからそこらへんの気遣いは出来ないのだろうか。それとも、ただ単に抜けているだけなのか。適当に僕も返事しておく。
「ねえフィア? どういうことなの?」
銀髪の少女は、僕がここにいる理由を知らないようでレフィアに尋ねている。
「ああ、そういえば言ってなかったわね。こっちが同居人のレン。それで……こっちは私の親友のノエルよ」
一度会ったことがあるし、この子の話はレフィアから色々聞いている。だから初対面といった感じはあまりない。僕らはお互いに目を合わせて会釈した。少し気まずい。そして、更にその少女は質問する。
「……聞きたいのはそこじゃなくて、なんで自然に同居してるの? どう考えてもおかしいと思うんだけど」
「私に聞かれても、学校側が決めたとしか言えないわよ。逆にノエルは何でそんなに騒いでるの?」
「普通に考えておかしいよ。男女がひとつ屋根の下で一緒に暮らすなんて。しかもフィアは王女だよ?」
「王女だからって別にいいじゃない。そういうの私が嫌いって知ってるでしょ?」
「フィアはいいかもしれないけど、先輩はどうか分からないよ。フィアはわがままだし。王女だから色々気を使ってるかもしれないよ?」
「それこそノエルには関係ないでしょ? それにレンはそんなこと思ってないわよ。そうよね?」
ここで僕に回ってくるのか。急に争い始めたから、部外者として面白く見てたのに。二人からの視線で凄く答え辛い。
「まあ、僕は気にしてないよ。レフィアがそんなに王女らしくないこともあってすぐ慣れたから」
「ほら見てみなさいよ」
勝ち誇った顔で偉そうにしているレフィアを見るのは珍しい。これはこれで意外と似合っている。
「うう……なんか負けた気分になって悔しい。確かにフィアが王女らしくないことには賛成だけど……。でも先輩聞いてくれる?、フィア、この前街で猫に逃げられて凹んでたんだよ。本当気品がないというか。そういうところが面白いんだけど」
「分かるよ。レフィアは意外と面白いところが多いよね」
「そ、そんなの今関係ないじゃない。言わなくてもいいでしょ?」
面白い二人だ。二人がこんなにじゃれ合えるのは、お互いが気を許し合っているからなのだろう。親友というのはこういうものか。場の空気は暖かいし、今の内にこの子とも仲良くなっておきたい。サラが頼んできたのはこの子もなのだから。
「ノエル、でいいかな?」
「うん。呼び方はなんでもいいよ」
先輩、と僕を呼ぶ姿からノエルは僕のことを年上だと知っていると思う。でも、あまりそういうことを気にせず話せる子なのだろう。その部分はレフィアと似ている。僕としてもその方が接しやすいし良かった。
「分かった。それで、ノエルはいつからレフィアと仲が良いの? 見る限り小さい頃からの幼馴染みたいに見えるんだけど……」
「あはは。そう見えるなら嬉しいな。私達、この学校に来てから初めて会ったんだよ。それに直接二人で話したのはフィアが最初のチームを辞めた時だから、三か月前くらいかな」
意外だ。もう長年の友達のような雰囲気なのに。よっぽど気が合ったのだろう。それに、最初のチームを辞めた時。この言葉を見逃す事は出来なかった。
「レフィアもチームに入っていた時があったんだね」
「そうだよ。フィアは才能があったから凄い人気で、新入生はみんな一度はフィアのことを誘ったんじゃないかな?」
「ノエルも人気だったじゃない。というかノエルの方が人気だったと私は記憶してるわよ」
前にも感じたけど、彼女たち二人はの魔力量はかなり多いと思う。それこそ僕なんか比にもならな
いくらい。魔力量が多いというのはそれだけで強さだ。僕が感じている魔力量が本当だったのなら、サラのような特別な事情でもなければ上級生のチームにスカウトされてもおかしくないと思う。
だから疑問だった。彼女たちも退学になりそうなのだとサラは言っていたけど、何故そうなっているのか。理由があまり思い浮かばない。
「なら、なんで今はチームを組んでないの?」
「ああ、それはね――」
その情報が聞けると思った瞬間、にこやかに話していたレフィアが突然止めに入った。
「待って!」
そうなることが分かっていたのだろう。驚くこともせず、ノエルはレフィアのほうを見て微笑んだ。
「そうだよね。私の口から話す事じゃなかったよ」
「そうね。でもレンが私たちをチームに入れたがっていることは分かってたし、いつか聞いてくるだろうからいずれ話そうとは思っていたの。丁度いいし今日話すわ」
一歩前進出来ると思っていいのだろうか。
「それなら、私はいない方がいいよね。今日はもう帰るよ」
「……ありがと」
「私はフィアの親友だから……気にしなくていいよ」
以心伝心というやつなのだろう。僕が口を挟むべきではない。
「バイバイ先輩。また会おうね。フィアもまた明日」
そうやってノエルが出て行って、レフィアは一度息を大きく吸ってから話し始めた。




