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この学校でチームに分かれて行うこと。それは魔法戦闘だ。ランクごとに分かれて週に一度行われるそれは、魔法のみを使って相手を全員戦闘不能状態にするまで続く。つまり、魔法による喧嘩と言っても過言ではない。それこそが一番技術を発展させると、学校側は考えているのだろう。
そして、それを促進させるためのランクによる格差、そして退学という処置を徹底的に行っている。退学になる条件は大きく分けて二つある。一つ目が、チームに入っていない人を退学にするというもの。新入生には半年くらいの猶予があるが、その後は一定期間チームに所属していない状態が続くと退学になる。誰からも誘われない無能。また、チームに入れてもらう努力もしない見込みなしの生徒と判断される。
二つ目。これがこの学校の一番の特徴だろう。魔法戦闘による各クラスのリーグ戦が毎週行われているのだ。FからAまでのランクごとに分かれて魔法戦闘を行い、一定期間ごとに結果を集計。上位のチームがランクが上がって、下位が下がる。そして何より、最低ランクのFランクのリーグ戦で最下位付近になると、問答無用で退学になる。だから、一部の例外を除いてFランクの学生は大体死に物狂いで勝利し、Eランクに上がって保険を作ろうと必死だ。新入生のかなりの数がここで落とされている。
そして、サラもその中の一人だったということだ。
とりあえずサラがどんな魔法を使えるのか知りたかった。なのでチームを結成した次の日、二人で練習室を借りた。その場所は魔法を自由に使うことが出来て、失敗しても硬い壁によって防がれて物的被害が出ることはない。
そんな部屋が何十個とあるのだからこの学校はさすがだ。
「今日はよろしくお願いします」
「うん。僕の方こそよろしく。……それで、最初に聞いておきたいんだけど、サラは何の属性の魔法が使えるのかな?」
昨日の授業で水に適性がない事は分かってる。残る主要属性は三つだ。
「それが、あの、言いづらいんですけど……」
話しづらそうだけど、どうしたんだろう。この学校の生徒は基本的に才能豊かだ。だから二属性に適性がある人なんて普通にいる。まあ三つはさすがに珍しくなってくる。そんな感じだ。でも、一つだったとしても恥ずかしがることはないと思う。そういう人の方が多いし。適性の数が実力には直結しない。当然有利にはなるけど。
「僕を信じて。別に怒ったりしないよ」
少し迷ってから、サラは口を開いた。
「あの…………私、適性のある魔法がないんです」
え、そんな人がいるのだろうか。見たことがない。
「それは……」
「黙っていてすいません。今までこのせいでチームに入れなくて、それで、言えませんでした」
サラは申し訳なさそうで、しかも怯えている。これが、サラが退学の危機である理由か。自身が無かったのもそのせいだろう。そりゃ魔法を使えないとなると難しいだろう。でも、解決策はある。
「サラ、落ち付いて。怒ってないから。…………それに、適性属性が本当にないかはまだわからないよ。」
もうサラが入学してかなりの時間が経ってるし主要属性は全部試したことがあると思う。それで、サラには全ての属性に適性がなかったのだろう。でも、主要属性意外にも魔法は存在する。もちろん二属性に適正がある人よりも更に珍しくなるけど、この学校で僕はいろいろな魔法と出会った。サラにも可能性はあるだろう。それを片っ端から試していけばいい。
「どういうことですか?」
「魔法の属性はサラの思っているより多いってことだよ」
僕の言葉に、サラは驚きはしなかった。存在は知っていたのだろう。そして、乗り気でもなさそうだった。
「私も……主要属性意外に魔法があることは知っています。でも、その属性が何か調べることは出来ませんでした。それに分かったとしても、適性があるかはまた別の話で……そんな才能が私にあるとは思えません」
サラも必死で努力していたのだろう。そして、ランクが低かったから知ることも難しかったということか。僕が彼女に出会えて、本当に良かった。
「……そういえば、サラの事情は聞いたのに僕のことは話してなかったね……。僕は、前までAランクのチームにいたんだ」
僕の告白に、サラは目を見開いて驚いていた。名前だけなんだけどAランクという称号はそれだけこの学校で凄いものだ。
「じゃ、じゃあ。なんで、私なんかと……」
出来るだけ人に言いたくはない。でも、サラも勇気を出して話したのだから、僕も答えなければいけない。
「僕は、仲間に追い出されたんだ。それにサラは知らないかもしれないけど、上級生の間では僕の名前は結構有名だ。寄生してランクを上げる汚いやつとしてね」
どんな反応が返ってくるのか少し不安だった。でも、サラの顔を見れば安心できた。この目はレオン達とは違う。仲間に向ける目だ。
「そんなの……許せません。昨日会ったばかりですけど、レンさんがそんなことをする人じゃないって私にはわかります」
サラにそう言ってもらえたことが凄く嬉しかった。やっぱりサラがいてくれてよかった。レイラ先生にも、もう一度感謝したい。
「その事はもういいんだ」
「でも……」
「僕は、サラに出会えたからそれで満足してる」
その言葉に、サラは私もだというように笑顔で答えてくれた。
「ともかく、そんなことだから僕は知識だけならAランク級なんだ。だからサラに魔法の適性があるって信じてるし、サラにもそれを信じてほしい」
「私に……まだ期待してくれるんですか?」
「もちろんだよ。仲間だから、僕はどんなことがあっても見捨てないって、昨日誓ったんだ」
「……ありがとうございます」
とりあえず、試したいのは主要属性の次に有名な魔法群。それは稀属性と呼ばれている珍しい種類のものだ。サラが落ち着いたのを確認してから、一つずつ使わせてみよう。
僕の言葉に、サラも元気を出してくれたようだった。
「今から、珍しい属性を試していこう。僕の言った属性の魔法を、言ったとおりに使ってみて」
「はい! わかりました!」
まず試してみる属性は『雷』。かなり強力で、それでいて汎用性が高い。そんな属性だ。
「属性は『雷』。イメージは昨日の授業と同じで球体で行こう」
僕は、さらに詳細を教えた。
その後、すぐにサラは構えて集中し始める。僕は、彼女の肩に手を置いて失敗した時の為に干渉の準備をする。
そして、詠唱が始まる。
「『座標――――確定』 『範囲――――確定』 『属性――雷』 『生成』」
雷の生成は上手くいっていなかった。少しも生成されない。元々、稀属性の魔法は運用が難しい。適性がないとこうなるのだろう。
「うーん。駄目みたいだね」
「魔力は減っていないですし、まだまだ大丈夫です! 次はどうすればいいですか?」
「『雷』はもう駄目だったから、次の属性にどんどん行こう」
「は、はい」
サラに挫ける様子はなかった。一個一個適性がない事を突き付けられることはなかなか無い。だから辛いものだと思う。それを耐えるとは素直に凄い子だ。
そうやって僕たちは何種類も魔法を使っていくことになる。そして僕は、最後にサラのとんでもない才能を目にすることになる。
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