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一度荷物などを置くために自室に戻ってから、約束通りレイラ先生の研究室に向かう。近くまで辿り着いて、朝に来た時みたいに声を掛けようとした時だった。
「私のことはもう放って置いて!! 前にも言ったけどもう退学になってもいいの! 私は王女だから退学になっても何も困らないし、あなたから施しを受ける筋合いもないでしょ!!」
部屋の中がどうなっているのかは分からないけど、誰かが怒鳴っているのが聞こえる。僕としては早く中に入りたいのに、これでは声を掛けづらい。勝手に入るわけにもいかないし、盗み聞きするようで気が引けるけどしばらくここで待っていよう。
「そうイライラするな。私も上司から頼まれている以上何も動かないわけにはいかん。それに、私自身もお前の才能が活かされないのは勿体無いと思っている。これで最後でいい。今回だけは私の言うことを聞いてくれないか?」
今度はレイラ先生の声だ。生徒にこんな態度で接する彼女は珍しいな。内容はよく分からないけど余程の事なのだろうか。
「才能才能って…………。私は私のやりたいようにやるわ! 私の才能をどう使うかも私が決める」
なかなか解決はしなさそうだ。レイラ先生も困っているようで大きなため息が聞こえる。どうしよう。いつまで待つことになるのだろう。それとも、話を聞きに行ったりした方がいいのだろうか。
「もう話すことはなさそうね。……行くわよノエル」
「ごめんね先生。フィアが納得したなら私も協力するから。……サラもまた明日ね」
意外にも話は早く終わったようだ。中から、出口の方へと歩く二人分の足音が聞こえてくる。
あれ。よく考えたらどんな顔でいればいいのだろう。考えている間足音が止まるということもなく、とうとう研究室の扉が開く。
中から出てきたのは二人の少女だ。一人は顔の白い肌が少し赤みがかっている。先ほど怒っていた声の正体だろう。綺麗な金色の髪に美しい容姿。高貴な雰囲気が漂っている。
もう一人は対照的な銀色の髪に可愛らしい姿。並ぶと絵になる二人だ。そんな感想を考えていてもどうしようもなく、僕らは対面してしまった。
しかし、僕が恐れていたような反応は帰ってこなかった。金色の少女が僕がいることに驚いて、それから口を開いた。
「ごめんなさい。聞こえていたなら忘れてほしいわ。少し恥ずかしいから」
微笑みながらそう言われたら混乱してしまう。さっきの印象とは程遠く、こんな綺麗な少女からあの怒声が出るとは思えない。別人かと疑っているくらいだ。
「こちらこそ、盗み聞きしちゃったみたいでごめんね」
「いえ、気にしないで。……それでは失礼するわ」
「じゃあね先輩」
そそくさと少女達は去っていった。銀髪の少女は最後に笑顔で手を振ってきた。元気そうな子だ。それと、なんで僕が先輩だとわかったのだろうか。
まあいいか。本題を忘れてはいけない。早く研究室に入ろう。
「レイラ先生! 入りますね」
「ああ……レンか。すぐに入ってくれ」
返事はすぐに来た。結局チームを組んでくれそうな人は来てくれるのだろうか。さっきの騒動を見る限り、そんな話をしていたようには聞こえなかったけど。
僕は扉を開いて中に入った。するとそこに居たのはレイラ先生と、さっきの授業でサラと呼ばれていた生徒だ。
「すまんな。待たせたか?」
「いえ、大丈夫です。少しだけだったので。それで、その子がチームを組んでくれる子ですか?」
さっきの授業で見た感じ、新入生に思える。まだ入学してから半年も経っていない。そんな大事な時期の生徒が、進んで僕みたいな人と組みたいとなるのは考えにくい。
「そうだ。サラ、こいつがレン。二個上の先輩だ」
「サラです…………」
自己紹介の後の沈黙が長い。見た目通り大人しい子みたいだ。見た目は可愛らしいし、もっと自信を持ってもいいと思うのに。
「僕が三年生のレン。本当に僕とチームを組んでくれるの?」
「こ、こちらこそ。わたしなんかが上級生とチームを組ませてもらえるなんて、本当にいいんですか? 何もできませんよ?」
こんなに自己評価が低い人はこの学校で初めて見た。これからこの子は卒業まで上手くやっていけるのかだろうか。でも、この子となら僕は上手くやっていけそうとも思ってしまう。気の弱い子に取り入る悪い男みたいでちょっと嫌だけど。
「それなら大丈夫だよ。僕だって何もできない欠陥魔法使いだから」
「でも、私は本当に何もできませんよ? 足を引っ張ることになります。私でいいんですか?」
何度も警告する彼女の暗い目を見ていると、不思議な感情を抱いた。
僕には今、この子が考えていることが少しだけ分かる。チームに入れてもらって退学を避けたい気持ち、そして失望されることを恐れている気持ち。その二つが混同しているのだろう。思えばそれは、少し前までの僕が感じていたことだ。
Aランクを目指していく上で、元仲間の三人には凄い才能があった。瞬く間にどんどん成長していく三人に失望されたくない。それも、一つの頑張るためのモチベーションになっていたように思える。今となっては意味もないけど、それでもこの子の感情を読み解く役には立った。そう思えばなんだか少し気が楽になった。
ああ。僕は、この子を……いやサラをもう仲間にしたいと思っている。出会ってまだ少ししか話していない。でも、昔の僕を見ているようで放って置けなくなった。仲間になったら決して見捨てない。それを伝えよう。
「信じられないなら何度でも言うよ。大丈夫。僕は君がいい。いや、君じゃなきゃだめだ。だから、僕と仲間になってくれないかな?」
悩む時間は少しだけ長かった。それでも、彼女は顔を上げて僕の顔を真っ直ぐに見た。
「そんなに言ってくれて、私、返せるものなんて何もないですけど、それでも感謝の気持ちだけ伝えさせてください。ありがとうございます。偉そうかもしれないけど、信じます。レンさんの事……」
僕が想像するより、遥かにその選択はサラにとって難しかっただろう。それに答える為に、僕は笑顔で話しかける。
「よろしくサラ」
「よろしくお願いします!!」
よし。伝わってくれて本当に良かった。少しして、お互いの顔を見て笑いあった。僕らはとても気が合いそうだ。
レイラ先生はやり取りを見て、安堵しているように見えた。
「これで一人目は解決だな。良かったよ。本当に」
「一人目? どういうことですか?」
それに、その言い方では僕の件が解決したということでもなさそうだ。
「元々、お前にはサラも含めて三人とチームを結成してもらうつもりだった。だが、二人とは話も出来ずに交渉が失敗してな。金の髪と銀の髪の女子生徒だ。来る時にすれ違わなかったか?」
十中八九あの二人の事だろう。
「ええ。その二人ならほんの少しだけ話しました」
「そうか。まさかお前の話さえできないとは思わなかったんだ。……作戦を練り直す必要がある。その間は二人で活動してくれ」
確かにチームの人数は多い方がいいし、レイラ先生が僕を心配してくれているのは分かる。でも、そんなにあの二人にこだわる必要はあるのだろうか。
「別に二人でもやっていけますよ。規定は二人からですし。なんでその二人を加入させたいんですか?」
レイラ先生が答えようとしたとき、横から声が聞こえた。
「それは……私から説明させてください。」
驚いた。サラが会話に割り込んでくるとは思わなかったのだ。理由を知っているのだろうか。
「実は、私はチームに入れてもらえなくて退学になりかけのダメな生徒なんです。……そして、私とは違った理由で退学になりかけているのがあの二人です」
サラの雰囲気から、そうではないかとは思っていた。でも、あの二人もそうだとは思わなかった。それは雰囲気もそうだし、感じる魔力量が明らかに多かったからだ。僕は人よりかなり魔力量が少ない。だからこそそれに対する感知力が高くなった。あの二人の魔力量は凡人のそれではないことは、少し話しただけでわかった。
「お願いします。二人もチームに入れてあげてくれませんか?」
僕が許可することではないと思うけど、そう言うのなら僕もサラに協力してあげたい。会話を盗み聞きしていたから、特に金髪の少女に特別な事情があるのは知っている。それでもサラは二人もチームに入ってほしいのだろう。二人との間柄がどういうものかは分からないが、僕を信じてくれたサラを裏切るわけにはいかない。
「もちろんいいよ。それに、僕のチームであると同時にサラのチームでもある。だから、これからも思ったことは伝えてね」
「ありがとうございます!!」
サラの満面の笑みが嬉しい。これから頑張っていこう。
「そういうことだ。まあしばらくは二人になるだろう。私が残りの二人の説得をしてみるが、協力して欲しいときは追って伝える」
「分かりました」
「それじゃあ解散していいぞ」
そうして、僕らのチームの初顔合わせは終わった。
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