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この学校の授業は基本的に自由参加だ。何か申請がいるとかはなく、各先生が講義や実技としてどんなことをするのか。それを調べて自分でどの授業を受けるか決める。これだけ聞けば自由すぎて人気のところに人が固まってしまうと思うだろう。しかし、そんなことにはならない。それはランク制度があるからだ。
高度なものを扱っている授業はランクの高い生徒しか受けられない。Aランクともなると、チームごとに一人、専属で先生が担当してくれる。こうなるともはや授業と言っていいのか分からないけど。僕らのチームにも先生がいた。とても知識が深く、僕らがAランクになっても成長出来ていたのは、その先生のおかげもあるだろう。
レイラ先生なんかは、授業の内容を深くまでするつもりがないのでどんな人でも受けられるようになっている。それでも、彼女自身が凄い人で授業も面白いから人気はある。僕もこの学校に入ってすぐのころは、彼女の授業を受けていた。授業の内容は講義が多くて、偶に実験的なことをする一般的な授業だ。
研究室から出た後、僕はやることも特にないし、ただ授業が終わるのを待っているのも嫌だったので、久しぶりにレイラ先生の授業を受けることにした。一度部屋に戻って準備を終える。と言っても特に必需品とかがあるわけでもないから、授業が始まるまで少し部屋で休んでいたくらいだけど。
授業が始まる時間になって、僕はレイラ先生の研究室の近くにある講義室に向かう。そこが授業のある教室だ。
入ってみると、やはりまだ人気があるようでかなりの人数が入っている。まあほとんどは新入生か、ランクの低い二、三年目の生徒のようだけど。僕は端っこの方に一人で座って始まるのを待つ。友達もすでに出来ているだろうし、この時期になるともうほとんどの人がチームに入り終わっている。そのチームで一緒に授業を受けている人も多くて、一人で受けているのは僕くらいだ。少し恥ずかしい。
しばらく座っていると、始まる時間ぴったりにレイラ先生はやってきて教壇に立った。ようやく始まるのだろう。意外と楽しみだ。彼女も、僕に気付いたようだった。
「それでは……授業を始める」
その言葉に、先程までおしゃべりをしていた人達も真剣な顔でレイラ先生の方を向いた。やはり、生徒達からも尊敬されているのだろう。
「今日は魔法適性の話だ。これも、いつも通り基本的な話なので知っている人がほとんどだろう。興味がない奴は聞かなくても構わん」
これは、僕が受けていた頃から言っていたことだ。久々に聞いてなんだか懐かしい気持ちになる。前もこれで興味を失う人はいなかったし、今もそのようだ。
「魔法の使い方は前に教えたが、どれを使っていくか迷う人もいるだろう。そこで大事になってくるのが魔法適性だ。一般的には、火、水、土、風。この四つが主要属性と呼ばれていて、ほとんどの人はこの四つのどれかに適性がある。つまり、その適性がある属性の魔法を磨いていくということになる」
例えば、レオンは火に適正があって、フランはなんと三つに適正がある。その属性の中でも、どんな風に使っていくのが得意かまであるのだが、そこは本人の気質とかにも影響されてくるのでさらに複雑だ。僕も昔に同じことを彼女から習った。
「では、復習も兼ねて実演しよう」
ここからが、ほとんどの生徒が楽しみにしている部分だろう。レイラ先生は研究者でありながら凄腕の魔法使いだ。その卓越した技術を見ることは、貴重な経験になるだろう。他の生徒も心なしかワクワクしているように見える。
「『座標――確定』 『範囲――確定』 『属性――炎』 『生成』」
手のひらを体の前で上に向けて、唱える。魔法のイメージを補強する詠唱。その中でも一番よく知られているパターンのものだ。そして、手に収まる大きさの白い炎の球体が現れる。明らかな危険な魔法。当たったら、その部位は完全に焼け死ぬであろうことは見ているだけでも分かった。
そして、その炎を自由自在に動かしたり、分裂させたりする。ここまで来ると、もはやどうやっているのか分からない生徒がほとんどだろう。大半の生徒は、見惚れて声も出ないようだった。
「と、こんな風に適性のある魔法ならスムーズに、また安定して使うことが出来る」
その白い炎を、手で握りつぶすように消して実演は終わった。そして、レイラ先生は手を叩いて生徒達を正常な状態に戻す。相変わらず凄い人だ
「よし次だ。適性のない魔法を使うとどうなるのか見せよう。サラ。ちょっと来てくれ」
「え? は、はい。わかりました」
呼ばれたのは前方に座っているおとなしそうな女の子だ。その子はぎこちない歩き方で前まで向かう。焦っているところが可愛い。
「そうだな……水の属性を試してもらおうか」
「……失敗しますけど、いいんですか?」
「ああ。私もサポートする。構えてくれ」
そのサラと呼ばれた女子生徒は、さっきのレイラ先生の真似をするように動いた。
「『座標――――確定』 えっと、『範囲――――――確定』 『属性は水』」
そして、彼女の手のひらに水の塊が生成されていく。それは、さっきとは違って不安定で今にも崩れそうだ。
「『せいせ―― 」
焦って最後の詠唱を唱えようとしたのだろう。すると、最後まで言い切らない内に生成されていた水の塊がどんどん膨らんでいく。適性の違いによって彼女に制御出来ていないのだ。だから生成が何度も繰り返される。典型的な不適正な魔法の例。授業で見せるには最適だ。とはいえ、水の塊はどんどん大きくなっていく。魔力をかなり吸っているだろうし、そろそろ危険じゃないだろうか。女子生徒はもう顔色が真っ青だ。それを見て、レイラ先生は素早く動いた。
「落ち着け」
そう言って、レイラ先生は女子生徒の肩に手を乗せる。これからするのは他人の魔法への干渉だろう。どれくらいの人が気付いているかは分からないが、かなり高度な技術だ。
見守っていると、次の瞬間大きく宇膨れ上がった水の塊が一気に破裂した。
僕は慣れているので驚かないが、その現象に悲鳴を上げている生徒もいた。そりゃそうだ。あの水の塊が降ってくるのは誰だって怖い。しかし、その心配は杞憂だということを僕は知っている。
女子生徒の肩から手を放してレイラ先生が魔法を発動したのが分かった。詠唱は一切ない。さすがの精度だ。何度見てもすごい。
「あれ? なんで……」
気付いたら、水の塊は消え去っていた。そんな光景を目にした受講生は、みんな驚いている。
「これが適性のない魔法を使った場合の例だ。もしこのような事態になったら、落ち付いて魔法の制御を離す。それから対処すれば十分に間に合うはずだ」
あっけにとられる生徒たちを放って、レイラ先生は解説し始めた。この適当さが人気の秘訣なのかもしれない。それに僕の受けていた頃より、授業内容が激しくなっているような気がする。僕の時は実演なんて数えるほどしかなかった。
「サラ、協力ありがとう。戻っていいぞ」
「い、いえ。貴重な体験でした」
確かに、魔法の干渉を受けるなんて貴重な体験だろう。女子生徒はそのまま席に戻って、他の生徒は実演に拍手を送っていた。
そのまま授業は進んでいって、一時間ほどで終了した。レイラ先生は数人の生徒と話して、出口へと足早に向かっていった。僕に目線でこの後来るように促しながら。
授業後の教室では、あの実演の話題で持ちきりだった。
「水の魔法、なんで消えたんだろう」
白い炎も話題になっていたけど、水魔法の消失。これが気になっている人が多いようだった。
僕だって初めの頃なら何が起こったのか分からず、とても気になっていただろう。でも、今はレイラ先生の性格から何となく予測できる。干渉したのに制御せず、めんどくさがって制御を離してから火の魔法で一気に消滅させる。その後風魔法で気体も飛ばして一件落着。正体が分かると単純なのだが、ここまでを一瞬でやってしまうのだからあの人は化け物だ。早業過ぎて、分かった人は僕以外に居なかっただろう。
それにしても、あの女子生徒が気になった。サラと呼ばれていたあの子は、元々失敗するとわかっているようだった。適性くらいもうほとんどの生徒が知っているだろうから、あの子も水の適性がないとわかっていたのだろう。でも、それにしては失敗時の焦り方がおかしい。まるで、成功して欲しいと願っていたような、そんな様子だった。
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