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僕らの通う魔法学校で、広大な施設となっている試合会場。そこが少し離れた場所にある理由は、一般の人も見ることが出来るようにという気遣いからだ。高位ランクの戦闘は綺麗で見世物にもなるので、街の観光ポイントにもなっている。だから街には観光客もたくさん来るし、とても賑わっていると思う。僕らが暮らすこの街の名はティンベル。この国でも有数の大きな街だ。
そして、そんな街を一緒に歩くこと。ただそれだけがフィアの僕に対する要求だった。サラもそうだったけどちょっと予想外だ。昇格祝いなんだしもっと高価な物とかをイメージしてたけど、これは僕が変わっているのかな。
「レン、見てあの出店。異国の料理だって。……珍しいわね」
そうして店を指差してはしゃぐフィアを見ていると、可愛いものを見ている気持ちになれて嬉しい。
「そんなものまであるんだね」
僕も街について詳しいというわけではない。というより全く知らないと言った方がいいくらいだ。
「レンはあまり街を出歩かないの? 私はノエルと来たりしてたけど」
「僕は魔法一筋だったから、あまり興味なかったんだ」
魔力が人より少ないと知ってから、僕は必死だった。ただ解決策を探しながら、チームでの試合も手を抜けない。時間はいくらあっても足りなかったくらいだ。だから遊んでいる余裕がなかった。
「ふーん。そういうところがやっぱりレンらしいというか、凄いところよね」
「凄い?」
言っている意味が分からない。ただの魔法オタクみたいな発言だったと思うんだけど。
「ずっと努力し続けられるところよ。サラもそうだけど、あなたたちはどこかで休憩することを知らないんじゃないかと偶に思うわ。私なら無理ね」
それはフィアが天才だったというだけじゃないだろうか。
「多分、僕は努力しなければならなかっただけだけじゃないかな?」
その言葉を聞いてフィアは笑う。
「努力しなければならない人なんていないわよ。妥協して、諦めて、どこかで折り合いをつけることだってできるんだから」
色々な経験をしてきたからこそ言える言葉だ。少し大人びて見える。
「あ! あっち行ってみましょ」
次に興味が惹かれたものを見つけたのかフィアは歩いていく。さっきとは逆で幼い子供のように。そして、そんなフィアの後ろをただ僕は着いていった。
僕らは昼食を食べた後も、ただ街を歩いている。
「フィア、どこか目的地とかはないの?」
「最後に寄りたい場所はあるんだけど、他には決めてないわ。私、こうして何の目的もなく歩く事が好きなの」
意外だ。もっと、豪華な趣味とかがあるのを想像してた。
「なんで?」
「うーん。説明するのが難しいわね…………例えば、あれを見て」
そうしてフィアが指差したのは二、三人の遊んでいる子供たちだ。特に何の変哲もない。
「あの子たちがどうしたの?」
「まあ特別あの子たちがどうっていうわけじゃないわ。ただ、あの子たちにもそれぞれの家があって、親はそれぞれの仕事をしてて、そうやって居場所があって楽しく暮らしている事を想像すると、こっちまで楽しくならない?」
フィアの過去に由来する思いなのだろう。心の居場所に対する敏感さ。それは、きっと普通の人生に対する憧れなどから来ている。
「他にも、普通の店で働く人とかを見ているのも新鮮で、私にとっては歩いているだけで楽しいことだらけだわ」
そう言い切るフィアが、どこか綺麗だった。僕には分からないけど、フィアが笑顔でいてくれることが一番良い。
そうして僕たちはいろいろな場所を歩き続ける。そして、街の端まで辿り着いて、フィアがどこを目指して歩いていたのか分かった。
「ここは…………孤児院?」
外装は少し古臭い教会のような見た目だ。たくさんの子供の声が聞こえてくるので、すぐにわかった。このような教会と孤児院を組み合わせた施設はどの町にも存在する。
「そう。レンと一緒にここに来たかったの」
何故孤児院に訪れたかったのか。それは分からないままだけど、僕はフィアに続いて中に入っていく。すると、前にも来たことがあるのかフィアを見て驚くことはなく、この施設で働いているだろうシスターさんが話しかけてくる。見たところかなりの年配の方だ。
「レフィア様、また来てくださったんですね。ありがとうございます。子供たちも喜びます」
こういった対応を見ていると、やはりフィアが王女だということを思い出す。
「私の方こそ、いつもここで元気を貰っています。今日は友人もいるんですけど、いいですか?」
「もちろんです。レフィア様のご友人なら歓迎しますよ」
そう言われたので、僕はそのシスターぽい人にに挨拶して、フィアの後に続いた。
更に中に進んでいたのは、大勢の子供だった。十人以上は確実にいる。親から捨てられたり、親がいなくなってしまった子供たち。それを保護しているのだ。
「わー王女様だあ。また来てくれたの?」
「そうよ。嬉しいでしょ?」
フィアはフランクに子供と接している。慣れているのがよく見て取れた。こう見るとお姉ちゃんがよく似合っている。
「嬉しい! 一緒に遊んでくれる?」
「いいわよ。今日はこのお兄ちゃんと一緒に凄いものを見せてあげる」
僕に目線を送ってくる。何が言いたいのかは伝わった。僕も子供は好きだから仲良くなりたいし、魔法を披露しようか。
気付くとフィアが他の子供たちの注目も集めていて、僕に視線が集まっていた。
「みんなよく見ていてね」
精一杯の笑顔を維持して、僕は魔法を使う。
『座標確定』『範囲確定』『属性――火』『生成』
使ったのは火の魔法。至る所に、綺麗な花のような火を咲かせる。見たことが無い綺麗なものに、子供たちは呆然としていた。
「わあ…………綺麗」
「すごーい! どうやってるのー?」
火が消えた後、瞬く間に僕の周りに子供たちが集まってくる。とりあえずは成功かな。
「待って待って。私も披露するから見ててね!」
そう言ってフィアも魔法を披露する。次にどんなことが起こるのか、孤児たちは興味深々のようだった。
「『氷結』」
フィアが使ったのは水の魔法。氷の結晶が宙に浮かんで、光を反射してとても綺麗だ。これも受けたようで、大盛り上がりだった。
掴みが上手くいってよかった。そのおかげですぐに仲良くなれて、僕たちは子供たちと遊び続けた。
「ごめんねみんな。楽しそうにしているところ申し訳ないんだけど、お祈りの時間よー」
しばらくそうしていると、さっき見たシスターさんが子供たちに声を掛ける。
「ごめんフィア。お祈りの時間って?」
知らなかったので尋ねると、直ぐに答えは返ってくる。
「ここは一応教会だから、神に祈りを捧げる時間があるの。子供たちは毎日この時間に神に感謝しながら祈る。見て、習慣付いてるでしょ?」
子供たちはさっきまでの喧騒が嘘のように礼儀正しく話を聞いている。
「私もしてくるから、ちょっとそこで見てて」
フィアは子供たちに混ざっていく。そして、祈りが始まる。
その姿は、いつものフィアだとは思えないほど高貴な雰囲気と、見惚れるほどの綺麗な所作だった。
いつも忘れかけるけどフィアは王女だ。教養の高さと、生まれながらのオーラ。それは間違いなく王族のものだった。
そんな不思議な体験を終えた後、時間も無くなってきたので僕らは孤児院を出た。
「私、孤児院には昔からよく行くの」
帰り道、おもむろにフィアが話す。
「昔からっていうのは?」
「初めてはただ父親からの命令で行ったわ。国が弱者にも優しい事へのアピールとして最適だから、王都の孤児院に私自らの足で向かった。そこで子供たちへの援助や祈りをポーズだけでもして来いって言われたの」
それはなんというか、僕には分からない話だった。酷い話だと思ったけど、王族としての当たり前が分からないから軽々しく口にできない。
「だからあんなに綺麗な祈りが出来たんだね」
「ありがとう。でも、あんなの形だけよ。私神様なんて信じてないから」
驚いた。あんなに真剣そうに見えてたのは、実は違っていたのか。
「でも、祈り自体は大切なものだと思うわ。あれは、孤児院にいる子供たちを一つにすることが出来るの」
「つまり、みんなで同じことをして一体感を得るみたいな感じかな?」
「そう。孤児院を子供たちの居場所にする為のものなんだと思う」
居場所。フィアの口から時々出る言葉だ。きっと大事なことなんだと思う。フィアにとって何よりも。
「私は馬鹿だったから、祈りを一生懸命すれば孤児院に居場所が出来るなんて思ってたの。実際はどこまでいっても外部の人間にしかなれなかったけど…………。子供たちは私の事を王女様って呼んでたでしょ?」
「それは…………」
どう口にしていいか分からなかった。でも、言わなければならないことがある。僕は伝えたい。
「今のチームはフィアの居場所だよ。どんな時でも安らげる居場所であり続ける」
仲間を大切にする。それは僕の中で絶対だと誓った。
「ふふ、ありがとう。私が今日レンと一緒にあそこに行ったのは、感謝を伝える為だったのよ。私をチームに入れてくれて、居場所を作ってくれてありがとうって。本当に感謝してるわレン。…………あなたと出会えてよかった」
僕はフィアをお祝いしてあげたかったのに、そんな風に使ってくるとは思わなかった。本当に、フィアは優しい人だ。あの時救ってあげられてよかった。
そうしてそのまま帰って、僕とフィアの昇格祝いは終わった。
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