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 昇格を知らされた日からしばらく経って、僕はサラにとあることを伝えた。


「昇格祝い?」


「うん。めでたいことだし、いつもの感謝も含めて、何かして欲しい事、買って欲しいものとかはない?」


 サラたちには本当に感謝してる。だから、何かしてあげたいと思って、フィアとノエルにも既に伝えてある。二人は考えておくと言っていた。凄い出身の二人だから、少し怖い。


「いいんですか?」


「遠慮しないでいいよ」


「でも、うーん。して欲しい事…………」


「悩むなら後日でもいいよ。僕はいつでも大丈夫だから……」


 そんなに重く考えなくても、軽い欲しいものとかを言ってくれればいいのに、優しいサラはやはり悩んでくれる。いろいろと考えているのだろう。


「あ、決まりました」


 もう思いついたのか。僕としてはもう少し悩むと思っていたので、少し意外だ。


 そして、サラが言ったのは思いもよらないものだった。


「私と……模擬戦してくれませんか? 一対一で」


 とんでもないところを責めてくるなあ。そんなお願いが飛んでくるとは思っていなかった。


「なんでそんなこと? 別にいつでもやってあげるよ?」


 僕の言葉を聞いて、真剣な顔をしてサラは答える。


「いつでもできるような練習じゃなくて、本気で戦ってほしいんです。私、前の模擬戦が忘れられません。あの、拮抗した真剣勝負の楽しさ。もう一度、あれを味わいたいんです。私にとって一番すごい魔法使いはレンさんですから、魔力を節約しないといけないのは分かっていますけど一度だけお願いできませんか?」


 サラにそんな言い方をされると、僕は断れない。


 最近、ますます戦闘狂の気質が出てきているような気がする。これも、最初つまずいてしまったことによる反動だろうか。


「分かった。明日でもいいかな?」


「はい。ありがとうございます」


 サラはニッコリと笑って満足そうだ。






 次の日、僕とサラは練習室に来て、笑顔で向かい合っていた。


「始めるよ……」


 声を掛けると、サラも頷く。よし、先手は僕から行こう。


『座標確定』『範囲確定』『属性――火』『生成』


 いくつもの火の玉を生成して攻撃する。こうすれば、どれか一つに絞らなければ、返されることもなくなる。魔法を一回撃つごとにカウンターを食らっているとこちらも溜まったもんじゃない。魔法の内容を知っているからこその対策。これからどんどん有名になっていくだろうから、対策もされるはずだ。


「それはもう考えてます」


 そうされることが分かっていたのだろう。サラの魔法が滑らかに発動する。


「『座標交換』」


 その声が聞こえた瞬間、僕の周囲の空間が歪む。そう来たか。


 空間の歪みががなくなると、目の前から火の玉が飛んできているのが見える。サラは、僕と場所を入れ替えたのだ。


 初めて敵として食らったけどこれはやりづらい。


「そういう発想か。面白いね。でも……」


 そんなことで敗れてあげるわけにはいかない。


『座標確定』『範囲確定』『属性――土』『生成』


 僕の生成速度なら間に合う。土の壁を作って、全ての火の玉を的確に防ぐ。この間見たダンクさんの真似だ。


「やっぱり、このくらいでは終わりませんよね。次は私から行きます」


 そう言って、サラは手を前に出して唱える。


「『属性――空間』『生成』」


 この間見た四角い空間が生成される。あれに捕まると、僕だってどうなるか分からない。だけど、幸いそれほど速く飛んできてはいない。余裕で避けられる。


 そして、僕が避け切ったと思った時だ。


「『座標交換』」


 サラの詠唱が再び聞こえる。同時使用まで既に出来るようになったのか。成長の速さが凄まじい。


 再びサラの攻撃が、僕の直前に舞い戻ってきた。これが空間魔法の強さか。相対してみて分かるいやらしさだ。


 それでも、僕はサラにだけは負けてたくない。


『座標確定』『範囲確定』『属性――風』『生成』


 ヒューラさんがこの前していた風魔法での緊急回避。それを使って躱す。上手くいってよかった。


「まだです!『放出』」


 サラは必死の形相で叫んで、また魔法を使う。そうして起こったのは空間からの放出。空間魔法の中にさらに攻撃を仕込んでいたのか。面白い。


 でもそんな最後の抵抗では僕には当たらない。威力が低すぎて余裕で避けられる。やはり今のサラの弱点はそこだろう。自分で攻撃をすることが出来ない。よほど至近距離か、隙を作らないと一人で敵を倒せない。そこをどうするか。サラはこれから考えて行かなければならないだろう。


 次は僕が攻撃する。


『座標確定』『範囲確定』『属性――水』『生成』『氷結』


 氷の弾丸をいくつも作り、放つ。小さい弾一つ一つの威力が絶大だ。


 それを見て、もう一度防ごうとサラが魔法を使おうとする。


「今度は、当てます」


 自分の攻撃では当たらないことを認識して、僕の攻撃を使う気なのだろう。その判断は間違っていない。


 でも、何度もその手にはかからない。それに、僕だって空間魔法を使えるから、対処法は考えているんだ。


『属性――影』『操作』


「あれ? なんで……」


 サラは魔法が発動しないことに驚いているだろう。僕がしたのは単純なことだ。サラが飛ばそうとした範囲の影を範囲の外まで伸ばす。ただそれだけ。


 空間魔法の制限は、空間内の物に干渉できないことだ。だから得意の座標交換の際、範囲を切り取る時に指定した座標を物体が跨っていると発動できない。それは空間内の物体を切ってしまう事になるから。


 例えば、地中を急に繰りぬいたりすることは、地面が続いている場所では出来ない。それを僕は知っていた。サラに適性があると知ってから、空間魔法の研究は欠かしていない。だから、これはおそらく僕以外に知っている人はいないだろう。


 影でも成り立つのかは微妙な所だったけど、上手くいってよかった。そのまま僕の氷の魔法がサラに直撃する。


 吹き飛んでいったサラはそのまま戦闘不能。僕の勝利だ。




 しばらくサラを休ませてから、僕らは帰り道を歩いていた。


「やっぱりレンさんは凄いです。全然、耐える事さえできませんでした」


 それは、相性の問題だと思う。僕がサラの魔法を知り尽くしているから、対策も分かっただけのことだ。


「でも楽しかったです。綺麗な魔法を見れましたから。それに、私にとってレンさんは最高の魔法使いだから、勝てるわけないとは思ってました」


その言葉を聞いて、安堵した。サラだけじゃなくて、フィアもそうだと思うけど、僕に対して憧れを抱いている節がある。それは嬉しいことだけど、もし僕が負けたり苦戦したりするとその時、サラたちの成長が止まってしまうかもと思ってしまう。それは限界が僕だとサラたちが決めているからだ。


その為、僕もサラたちに負けないようずっと強い姿を彼女たちの前で見せつける必要がある。そんな時が来るかどうかは分からないけど。


僕も自分がどのくらいの魔法使いなのか理解してきた。魔法石を手に入れた僕は、ロイドさんとの闘いも正直余裕があった。負けるイメージがなかなか付かないのだ。


「喜んでくれたなら良かったよ。これはサラの為のお祝いだったからね」


そうしてサラのお祝いは終わった。僕としては意外な形だったけど、サラが満足してくれていそうだったので良かった。




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