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「ありがとうレン。私に大切なことを気付かせてくれて」
ロイドさんが吹っ切れたようにそう言うのを見て、安心したよ。試合後、彼が思い悩んでいることはすぐにわかった。戦ったからというのもあるけど、それでも見たことがあるような表情をしていたから、僕はそれを解決してあげたかった。これからも楽しんで魔法を使って欲しい。そう思ったのだ
「いえ、僕は当然のことを言っただけですから……」
僕の言葉に、ロイドさんはにこやかに笑う。うん。良かった。
それにしても、ロイドさんの仲間の二人はハイレベルだ。見ているだけでその強さが分かる。
二人とも今は膠着状態みたいだけど、ちょっとフィアの方が気になる。一対一なら、フィアは今の段階でかなりの強さを誇るはずだ。抑え込まれているのは少し驚いた。やはり体の大きいダンクさんは守備面で高い実力を持っているようだ。
「ロイドさんのあの土の魔法。ダンクさんも使っているようですけど……凄い硬いですね」
「あれは私がダンクの魔法を教えてもらう形で覚えたんだ。もちろんあっちの方が生成速度も速くて耐久面も高い」
僕がサラの魔法を真似たように、同じチームで適性が被っている人がいたら共有する場合が偶にある。実際強い魔法は二人で覚えた方が使い道も増えるし便利だ。
しかし、言っている通りダンクさんの方が守備的で、ロイドさんは戦い方が万能型なところもあって攻撃的だったのか。なるほど。完成度の高いと思っていたロイドさんの土壁よりも、確かにあっちの方が堅そうだった。
今も、フィアの水魔法を余裕で防いでいる。魔力消費の大きい大魔法を、惜しげもなく使ってくるフィアに対抗できているのは凄い。
「守ってばかりいないで、そっちも攻めてきなさいよ」
いつもサラのおかげで直撃することが多い為、こうやって防がれる状況に慣れていないのだろう。イライラしているのがよく分かる。それがあっちの目的だとは分かっているだろうけど、気持ちよく撃たせてくれないのが嫌なのは僕も経験がある。
「悪いが、これが俺の役割だからな。……そっちのリーダーさんは動かないようだし、ヒューラが終わらせるまでは持たせるよ」
僕の話が出たようで、フィアがこっちを向いた。笑顔で手を振っておこう。これで僕の考えていることは分かっただろう。頑張ってくれっていう僕の応援が届いていると思う。
「しょうがないわね。レンも期待しているみたいだし、魔力切れまで付き合ってあげる」
間違いなくフィアの方が魔力が多いことを、僕は知っている。フィアは規格外だから、普通の魔法使い十人と戦っても先に魔力が切れるのは相手の方だろう。そのくらいの量だ。そして、それは本人もわかっているらしいけど、魔力切れまでこのまま続かせる道を僕はフィアに選んでほしくない。
どんな戦いをするのか、しばらく見守っていよう。
「『生成』『氷結』」
先に動いたのはやはりフィアだ。氷の槍をいくつも作って、それを操作する。そして、四方から一気にそれをダンクさん目掛けて放出した。
鋭いフィアの魔法に、焦ることなくダンクさんは対処した。
「『生成』」
土の壁を、器用に槍が向かってくる場所だけに設置して防ぐ。ロイドさんの魔法に比べると格段に使い方が上手い。魔力量を抑えて小さい壁で的確に防ぐ。経験と制御の才能。そして冷静に対処する胆力が必要な技術だ。
「鬱陶しい……」
基本的にフィアには工夫することを教えていない。作戦は僕が考えているし、それで勝ててきたから。
そして今後も要らないと思ってる。長所を伸ばしていくべきであって、フィアの長所は小細工をすることではない。
こうした防御特化の人をどう突破するのか。楽しみだ。
「考えても仕方ない。強行突破するわ!」
フィアはもう一度、さっきの氷の槍を生成し始める。今度はさっきよりもさらに多く、魔力量の多いフィアにしかこんな事はしようと思わないだろう。試しでこんな量を用意するんだから。
しかし一気に発射した氷の槍に、やはりダンクさんが焦った様子は無かった。
「ふん。甘い」
氷の槍はまたもや土の壁に阻まれて、一つたりとて通さない。そして、ダンクさんはその後の追撃する隙さえも与えてくれなかった。やはり彼も一流の魔法使いだ。
「くっ、やっぱりだめなのね。でも、諦めるわけにはいかないわ」
次も何とかしようと足掻き続けるフィアを見て、僕は決意した。少しアドバイスしよう。今が丁度いい。
「すいませんロイドさん。少し行ってきます」
「ああ。私にそれを阻む権利はないよ」
僕は、フィアの方まで言って声を掛ける。
「フィア。少し話を聞いて」
ダンクさんはあくまで防御に専念するようで、僕が近づいても何かするということはなかった。
「何? まだ私は一人で戦える。レンの助けは必要ないわ」
フィアは不服そうな顔をする。僕が助けに来たと思ったのだろう。でも違う。勿体ないと思っていたし、フィアが全力で戦うために必要なことだ。
「違う違う。フィアに一つだけ言わなければならないことがあったのを忘れてたんだ」
「言わなければならないこと?」
怪訝そうな顔をするフィア。僕は前から思っていたことを言った。
「フィアはもっと全力で魔法を使っていいんだよ。僕の真似をする必要はないし、サラたちに気を使って合わせやすいようにしなくていい。フィアらしい魔法が僕は見たいから」
「私らしい魔法…………」
フィアは考え込んでいる。きっと、僕の言葉を理解しようと頭を回転させているのだろう。でも、もっと簡単なことなんだ。
Fランクで戦っていた時、僕はサラとフィアで連携して攻撃することを求めた。それに、Fランクの規定上威力を抑える必要があったのだ。そして何より、僕が魔力を節約しているのを見て、フィアは同じように節約することが正しいと思ってしまっている。
だから全力で魔法を撃てていない。今も、一つに集中せず、何とか上手く当てようと数を増やすなんて不毛なことに必死になっていた。
フィアの才能はそっちの方向じゃない。
僕はまた離れて、少し様子を見ている。
「私は、魔法をこう使いたい。これが楽しいから……」
表情を明るくさせたフィアに、先ほどの難しい様子は無かった。
「『座標確定』『範囲確定』『属性――水』『生成』」
作り出すのはまた氷の槍。でもさっきとは違う。その大きさは先ほどの何十倍にも及ぶ。魔力を贅沢に使った強力で、無慈悲な力だ。
それをさらに魔力を賭けて、全力で放つ。スピードも先ほどの比ではない。間違いなくこれまで見た中で最高なフィアの魔法。僕はこれが見たかった。ゴリ押しでいい。フィアにはそれだけで勝てるだけの力が眠ってる。
「『生成』」
そんな大魔法に、さすがに驚いたダンクさんもフルパワーで防ぎにかかる。先ほどよりも本気の土の壁。高く聳え立つその堅牢な壁に、フィアの全力が叩き込まれる。一瞬の均衡の後に、軍配はフィアに傾く。
「さっきまでのは全力じゃなかったのか……」
焦ったダンクさんは避けようとするが、出来るはずもない。防御を貫いたフィアの氷槍が、凄まじいスピードでダンクさんに迫って突き刺さる。
「不覚だったか。すまんヒューラ。俺もダウンだ……」
そのままダンクさんは戦闘不能になった。
「…………爽快だったわ。これがやっぱり私には向いてるわよね」
フィアが僕に向かって終わったことを知らせるように手を振る。そんなことをしなくてもきちんと見てたよ。
そうしてフィア対ダンクさんの戦いは終わった。
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