21
僕は、次の試合で戦う相手の調査に来ていた。ちょうど試合をするということだったので試合会場へ直接見に行ったのだ。
その結果、特に怖い点はなさそうだった。もちろん油断しているとか甘く見ているということはない。だが、あまりにもこちらの戦力が強すぎるというだけの話だ。
そして、試合が終わって帰ろうとしていた時のこと。
「レン? レンじゃないか……。久しぶり!」
そう声を掛けてきた男子生徒は、知っている顔だった。だから、少しからかってみようじゃないか。
「ごめん……誰だっけ?」
「ええ? 僕だ。クロムだよ」
浅黒い肌に小さい背丈。まさしく僕の知っているクロムだ。僕はクロと呼んでいる。彼は、僕にとって数少ない対等に話せる友人だった。
「からかっただけだよ。クロのことを忘れるわけないじゃないか?」
「焦った。しばらく見ない間に薄情な奴になったのかと思ったよ」
大きな仕草でリアクションを取るクロは全然前と変わっていない。陽気で面白い性格だから、一学年上だけど気楽に話す事が出来る。そういうところが好きだ。
「最近の調子はどう?」
「……相変わらずあの天才女に挑み続ける日々だよ。今はかなり負け越してるけど、十回に一回は意表を突けるようになったかな」
クロは悔しそうに言った。彼はこう見えてAランクチームのメンバーだ。この学校に6チームしかいないAランク。その一人なのだから間違いなく天才に決まっている。
そんなクロが天才だと、つまり自分より上だと認めている女子生徒がいるのだからAランク帯は魔境だ。そしてあんなことがなければ、僕も今頃そんなAランクに挑戦できていたはずだった。
今は気にしていないけど、最高峰の中でのさらに上澄み。それに挑むのを僕は楽しみにしていたのだ。クロの話を聞いて、早くランクを上げて行きたい。その思いが強くなった。
「まだ頑張ってるんだね。あの頃と同じように……」
「うん。というより、今頑張れているのはあの時のレンのおかげだよ。本当にあの出会いには感謝してるんだ」
僕らが出会ったのは一年程前、その時悩んでいたクロと、上のランクの情報を当事者から聞いてみたかった僕、偶然の出会いと利害の一致。それがこれ程仲良くなるなんて思いもしなかったよ。
「僕もだよ。何か利益があるとかじゃなくて、友人としてね」
その言葉を聞いてクロは明るく笑った。
「ははは。ありがとう。久しぶりに話せてやる気が貰えたよ」
それは僕のセリフだ。こんなにモチベーションが上がるとは思わなかった。今のチームは強い。最短でクロの元へまでたどり着いてやろう。
「あ、そういえば……なんでこの前の試合出てなかったんだ? 初めてレンのチームと試合が出来ると思ってたんだけど……」
あれ。何か勘違いしてるような気がする。まさか、前のチームから追い出されたことをクロは知らないのか。
「えっと、それはちょっと言いづらいんだけど……」
僕は、クロにすべての事情を話した。
「は? 追い出された? レンが?」
その反応は、見覚えのあるものだった。
「レンがあのチームの中心だったはずだ。僕だって敵チームのことくらい調べる。レンが追い出されるなんて道理に合わないじゃないか、それに、突然追い出すなんて仲間にすることじゃない」
レイラ先生と同じように僕を肯定してくれるクロの言葉が嬉しかった。
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
「当たり前だろ?僕は普通の意見を言ってるだけだ」
普通、なのかな。
「なあ、レンがいいなら僕たちのチームに来ない? 僕たちは今四人チームだから一人空きがある。セリスさんもレンなら認めてくれると思う」
セリスさんとはクロのチームのリーダーだ。純粋にそこまで僕を評価してくれているのがありがたかった。それに確定ではないとはいえAランクチームからの誘いだ。普通の人なら一瞬で了承するだろう。でも、僕は断らなければいけない。
「ごめん。ありがたいんだけど、僕はもうチームを作ったんだ。まだFランクなんだけどね……」
「あ、そうなのか。……それは残念だ。もっと早めに知れていればよかったな……」
冗談ではないことが、その落ち込みようから分かった。
「タイミングの問題じゃないんだ。もちろん今の仲間と進んでいきたいっていうのもあるけど、僕はクロと対等でいたいって思ってる。一方的な施しは受けないって決めてるから」
目指すべき高みであり、越えるべきライバルでもある。それくらいの大切さが僕の中であった。だから、そこは譲れないポイントだ。
「ははは。そうだな。僕だってレンからそう言われたら断るような気がする」
同じような気持ちでいてくれて良かった。
「僕はまた一から昇り詰めるよ。今度は誰にも文句を言わせないくらい圧倒的に」
「誰にも文句を言わせないか……そういえばレンは同期から嫌われてたな」
それは知ってたのか。今度は僕自身だって活躍できる。少しは評判も高くなるだろう。
「僕も注目して見ていよう。怖い後輩が上がってこないか。どうせすぐに僕のところまで来るだろうけどな」
「あまり待たせないようにはするよ。今度も強い仲間ばかりだしね」
そうして帰り道でしばらく話してから、僕らは別々の場所に帰った。
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