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 あの後、しばらく経ってから最後の力を振り絞って、僕は自分の手で脱退申請を終わらせた。これだけは自分の手でやらなければいけないと思った。そして、その後寮の自室へと、ふらふらの足で帰った。


 この学校の生徒は基本的に全員寮で暮らしている。しかし、そこには格差がある。僕が今一人部屋でいられているのは、Aランクとしての権利の残り香のようなものだ。Aランクの部屋はとても豪華で、シャワー室も広い。ベッドもフカフカ。部屋の面積も広い。文句のつけようがない住処だ。でも、僕はもうAランクではない。一週間後には部屋を追い出されて、余っている人と二人部屋になるだろう。このような格差が、学校にはたくさん存在する。もちろん魔法の技術を発展させることが第一の目的だけど、中にはこの特権の為に頑張っている人もいるだろう。


 僕としては、今は一人部屋であることが本当に好都合だった。最後に堪能させてもらおう。体を洗って、すぐに眠った。






 次の日の朝、目覚めても気分は晴れず、どうにもやる気が出ない。授業をサボるのは別にいい。この学校では結果を出しさえすれば一度も授業に出なくても卒業できる。でも、その結果を出すためにチームを組んで戦わなければならないということが問題だ。まだ今後どうするか悩み中だから、このまま強制的に退学になるのは嫌だ。今の状況で何もしなければ、一月後には退学になるだろう。まずはあの人に相談しよう。そう思い立って部屋を出た。まだ足は重い。けれど行動しなければ、変なことをずっと考えて狂いそうだ。




 向かったのはとある先生の研究室だ。僕がこの学校に来てまだ最初の方にお世話になった人で、それからも偶に会いに行ったりして交友が続いていた。僕が今頼れる人は、この人くらいしかいない。


「レイラ先生? いますか?」


 扉をノックしてから呼び掛けると、中から足音が聞こえてくる。よかった。いたようだ。


「なんだお前か……こんな朝早くから何の用だ?」


 中から出てきたのは、だらしない服を着ている女性。この人が僕がお世話になっているレイラ先生だ。すでにおばさんと言ってもいい年齢に差し掛かっているのに、魔法の研究一筋で熱が冷めるどころか年々意欲が上がっている。本当にすごいと思う。


「おはようございます。とりあえず中に入れてください。ここで話すような事じゃないので……」


「……そうだな。授業まではまだ時間がある。入ってくれ」


 優しい人だ。何となく僕の心情を察して、そのまま招き入れてくれた。来るのは久しぶりだが、なんらかの資材が転がっていたりとこの部屋は前と変わっていないな。レイラ先生はいつもしていたように、僕を綺麗なスペースまで誘導して、続きを促す。


「で、何かあったのか?」


 真っ直ぐにこちらを見つめてそう聞かれたので、僕もまっすぐ目を見て答える。


「チームを追い出されて全て失ってしまいまして……僕はもう、どうしていいか分からなくなりました」


 相当驚いたのだろう。数秒、レイラ先生は放心状態になっていた。そりゃ驚くだろう。チームを自分から抜ける例は意外とあるものだけど、古株のメンバーが追い出されるなんてことは上位のチームではそうそうない。


 その理由は、チームが連帯責任というところにある。僕も初めは驚いたが、この学校に個人の成績というものは存在しない。昔はあったらしいが今は廃止されて、チームのランクがそのまま自分の成績ということになる。だから、実力が違いすぎるチームにはまず所属できない。途中で一気に実力が離れるということもあるかもしれないけど、連携面を考えるとそのまま行くことの方が多い。まあ、僕は不思議な立場にあったから、例外かもしれないけど。


「僕らのチームはそこそこ有名で、もともとの悪評もあって誰もチームに入れてくれることはないだろうから……このまま退学でもいいかなとも思ってます」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 レイラ先生はそう言って、近くにおいてある飲み物を手に取って飲んだ。それから、一呼吸ついてから、口を開いた。


「それは本当なのか? 私に嘘をついているんじゃないだろうな」


「こんな嘘をつく意味があると思います?」


 しばらく信じられないといった様子で、レイラ先生は呆然としていた。僕に呆れてしまっただろうか。


「それは、なんというか……残念なことをしたな」


 やはり、レイラ先生もそう思うのか。Aランクは実質最高ランクだ。そんなところから一気に転落するような生徒は、相当の無能に決まっている。


「僕は、どうしたらよかったんでしょうか」


 目を伏せて吐き出すように聞いた。こんな後悔みたいなことを言いに来るつもりはなかったのに、勝手に胸の奥から湧き出て、それを止めることが出来ない。本当に僕は情けない男だ。


 少し怖かったけど、目線を上げてレイラ先生の方を見ると、彼女は何を言っているのか分からないというような顔をしている。何を考えているのだろう。


「レン、お前何か勘違いしてないか? 私はお前が残念だとは思っていない。お前を手放した奴らが、残念なことをしたと言いたかったんだ」


「え? どういうことですか?」


「まさか、気付いてないのか? 私は、お前をこの学校の生徒で一番高く評価しているよ。助手にしたいくらいだ。だからこうやって特別扱いしているわけだしな」


 言っている意味が分からない。僕のどこにそんな優秀な部分があるのか。もしそうだったとしたら、追い出されるような事にはなっていないだろうに。まさか慰めてくれているのかな。あのレイラ先生がそんなことをするとは思えないけど。


「む、また変な方向に考えて行ってるな。それはお前の悪い癖だぞ。自分のことになると途端に盲目になりすぎる。まず、私がお世辞を言うような人間に見えるか?」


 こういうところでは何故か察しがいい人だ。確かに、授業でははっきりと物事を言うタイプだったし、仲良くなった今では性格もお世辞を言う人じゃないとは思ってる。でも、僕が魔法使いとして優秀だとは思えない。魔力量は絶対的な指標だ。そこが欠けている僕は、間違いなく欠陥魔法使いにしか成り得ない。


「……信じられません」


「お前と接したことがある先生方は皆評価しているというのに……。本当に、お前の元チームメイトは残念なことをした。…………まあそのことはいい。お前の性格もよく知っている。今は信じられないだろう。……だが、このまま退学になってしまうのは見逃せない」


 レイラ先生の優しい言葉が嬉しかった。心の傷がゆっくりと修復されていくような、そんな感覚だ。レイラ先生にはこういうところがある。普段からはっきりとした態度で嘘を付かない。だから衝突することはよくあるけど、言葉が素直に突き刺さる。こういう生き方には素直に憧がれる。


そのレイラ先生が退学を惜しんでくれるのが本当に嬉しい。でも、状況はかなり苦しいと思う。


「そういってくれるのは本当に嬉しいです。でも、かなり難しくないですか? 僕みたいな人を入れてくれるチームなんてないと思いますよ。どうしたらいいんでしょう」


僕の言葉を聞いて、レイラ先生はニヤリと笑う。


「ふふ。そこらへんの状況を詳しくは知らんが、チームの当てならある」


驚いた。生徒の事情を気にするような人ではないと思っていたのに。大体レイラ先生は研究の方に力を入れたいから授業の方も簡単なもので、多くの人が受講するけど生徒との距離はそれほど近くなかったはずだ。


「騙して連れて来たりはしないですよね」


「もちろんだとも。しかも才能は極上だ。期待しておいてもいいぞ」


そんな人がいるなら、僕なんかと組んでくれるとは思わない。さらに、レイラ先生は魔法についてはかなり厳しい。その先生が極上というのだから、その才能は本物なのだろう。


「今日の私の授業が終わった後の時間に、もう一度ここに来い。そこで顔合わせとしよう」


「ええ……そんな早くにですか?」


「当たり前だ。お前もそうだが、あいつらにも時間がない。早急にするべきだ」


どうなるかは分からない。でも、少し気分が上向きになったのは確かだ。最初にここに来て、本当に良かった。


ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。

最初のざまぁ展開までは毎秒投稿を予定しています。

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