19
試合の次の日、僕はレイラ先生の研究室を訪ねていた。ここに来た理由は、とあることを聞きたかったからだ。
「レイラ先生、研究の進捗はどうですか?」
部屋に入れてもらってすぐ、雑談としてそう聞いた。優秀なレイラ先生が研究に詰まるところなんて想像がつかないから、どうせ聞かなくても答えは分かってる。
「お前のおかげで順調だよ。なあレン、今すぐこの学校の生徒を辞めて私の助手にならないか? 今なら一生養っていく契約をしてやっても良いぞ」
「冗談ですよね?」
「半分は冗談だ」
半分は本気だったんだ。正直この先生が怖い。
「それより、お前たちのチームが初戦を勝利で飾っていたじゃないか。私も見たよ。おめでとう」
「ありがとうございます。でも、僕は二つ目のチームですから。サラにこそ、その言葉を送ってあげてください」
「もちろんだとも。次に会った時に言うつもりだった。想像を超える活躍だったとな」
今レイラ先生は、想像を超えた活躍だったと言った。なら、ある程度活躍することは想定していたということになる。僕はレイラ先生にサラの魔法の事を話したことはない。だから、レイラ先生の中でサラはまだ魔法の使えない子ということになっているはずだ。
僕が手を加えたことを考慮しても、大活躍を想像しているというのはどう考えてもおかしいのだ。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
僕は、ずっと気になっていたことがある。
初めてフィアやサラと話した日、レイラ先生とフィアの会話の中に、驚いた点があった。
レイラ先生がフィアを気に掛けるのは、上司から何か言われているからというのもあると、そう言っていたところだ。
フィアの才能を今日見させてもらったが、退学にするのは勿体ない。そう思うのも納得がいく凄い才能だった。王女という立場を踏まえても、彼女一人、もしくはノエルも同じくらいの才能だと言うのなら二人。その二人の退学を学校側が阻止したがるのは納得できる。レイラ先生に退学をどうにかするよう依頼したのだろうことも想像がついた。
でもそれなら――
「サラの事を、どうして気に掛けてあげていたんですか? あなたは退学する平凡な新入生を気にするような人じゃないはずです。退学の危機にある新入生の中で、サラだけを特別扱いした理由があるんじゃないですか?」
サラはあの時点では、平凡どころか落第級の女子生徒だった。それが何故、レイラ先生や、もしかしたら学校側でさえ気に掛けるような事態になるのか僕には理解出来なかった。
質問を聞いて、レイラ先生はニヤリと笑った。
「やはりお前は賢い生徒だ。僅かな会話でそこまで理解してしまうとは思わなかったよ」
僕が何を聞きたいのか瞬時に理解して、レイラ先生はそう言った。答えを知っているのだろう。
「…………才能だよ。サラには特別な才能があることが分かっていた。だから、学校側は彼女を退学させないように私へ指導するよう命令した。ノエルやレフィアも含めてな」
僕にはその話を上手く理解することが出来なかった。というよりも、その話が本当ならいくつか噛み合わない点が出てくる。だから違和感で上手く整理出来なかったというのが正しい。
「本当にそうだったとしたら、学校側がサラに古代魔法の適性があると教えてあげればよかったじゃないですか。僕の言っていることは間違ってますか?」
「そうだな。お前の言うことは間違っていない。ただ、学校側がサラの才能の詳細を認識していればな」
話がややこしくなってきた。つまり、学校側はサラにとんでもない才能が眠っていることは知っていたけど、それが何かは知らなかったということなのか。
「レン。お前がこの学校に入学すると知らされた時、家に何が届いた?」
そう言われて思い出してみると、届いたのは確か青い手紙だ。その中に、入学を認めるということが書かれていた。突然の事だったので驚いたんだ。受験なんてものは全くしていない。急に、国から入学するよう知らせが飛んできた。
「青い手紙。それだけです」
確かにおかしいシステムだとは思っていた。どんな選び方をしているのか。想像すらできない。
「そうだ。その青い手紙だ。それが国民の子供へ、この学校に入学が許可されている証として配られる。一切の詳細を語らずにな。私の時もそうだった」
「選考基準を、レイラ先生は知っているんですか?」
「私も詳しくは知らん。だが、魔法の才能を計って、それが一定以上の子供に配っているということは知っている。というより、サラの件を頼まれた時に知らされた」
それはつまり、入学した生徒たちは全員どのくらいの才能があるか計られているということになる。
「それは……信じ難い話ですね」
「信じ難い? お前自身がサラの才能を開花させたことで、その事実を証明したじゃないか」
そうだ。僕の疑問はそれで矛盾がなくなる。その通りだ。
「怖くなってきました。それが本当なら、入学した時点で退学になりそうだと分かっている生徒もいるってことじゃないですか」
才能という曖昧なものが、きっちり数値として分かっているのなら、それほど残酷なことはない。
「それは違う。断じて間違っていると言おう。この学校に入学できる時点で、落第だと言われるほど魔法に向いていない生徒はいない。要は才能を見つけられるほど努力できるかどうか。それも見ているというだけだ。お前は物事をマイナスに考えすぎている。それこそお前がAランクまで登った事が、何よりの証明だろう」
あ、確かにそうだ。そう思うと、サラたちは例外だとしても退学した生徒の中にも凄まじい才能を秘めた魔法使いがいたのかもしれない。
「凄く思考がすっきりしました」
「学校側も高レベルな競争を望んでいるということだ。そういう面では、やはりお前の才能をこそ私は高く評価しているよ」
「魔法に対する適性の話ですか?」
昨日の試合で実感した。自分も強くなれると。今度はリーダーとしてではなく、一人の魔法使いとして。でも、まだまだ始まったばかりで、それに魔法石に保存する魔力も有限だ。属性の制限がない事をレイラ先生は評価しているのだろうと思った。
「違う。それだけではない」
僕がピンと来ていないのを見て、レイラ先生は呆れていた。
「……お前は、本当に自分のことになると盲目になるな。一つ一つ説明してやろう……。私は、お前の発想にこそ感心しているんだ。例えば、昨日の水魔法の使い方。風魔法と組み合わせて使うとは、見事だったよ」
「ありがとうございます。でもとっさに思い付いただけですし、それにあんなの初見殺しですよ」
「二度は通じないだろうな。だが、他の魔法で同じようなことは出来るんじゃないか?」
レイラ先生の言う通り、アイデアだけなら無限に湧いてくるだろう。無限の組み合わせがあるんだから、それくらい出来ないといけない。
「それが僕の強みでしょうから、色々考えることは出来ます」
「そうだろう。……で、ここからが本題だ。今言ったことが本当ならお前は、相手が撃ってきたとっておきの魔法を、真似するどころか他の魔法と組み合わせて改良して返す事すら出来る。違うか?」
考えたことがなかった。それは出来るかもしれない。
「まあ余程制御が難しかったら別だが、相手の魔法を発展させる発想がお前の中にあるのは、前のチームの仲間が証明している。それはつまり、他人の才能を開花させる才能を持っているということだ」
レイラ先生が言いたいことは、この学校が才能の集まる場所で、僕がその才能を発展させることが出来るということか。
「この学校の制度がチーム制なこともあって、お前が最も有能な生徒だと私は断言しよう」
とびきり優秀なレイラ先生にそう言ってもらえたことが、僕はうれしかった。
「ありがとうございます。レイラ先生への恩がまた増えましたね」
「私は言いたいことを言っているだけだがな。まあ恩を感じているなら卒業後私の助手になれ。それだけが私の望みだ」
冗談で言っているのか本気なのかこの人は分からない。その後もレイラ先生といくつか話して、研究室から帰った。
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