16
初めて魔法を使った時のことを、私は忘れられない。王族として、前々から教師に座学で習っていたから、実践も何となく出来る気はしていたわ。
教師に見守られながら、王城のとある一室でのこと。
「『座標――確定』『範囲――確定』『属性――水』『生成』」
思った通りに余裕で使うことが出来た。制御の難しさなんて、微塵も感じなかったわ。それでも、達成感と成功の喜びはあったのを覚えているの。
「さすがこの国の王女様。素晴らしい才能をお持ちのようで……」
私に媚びへつらう教師の内心なんて、その時にはもう理解していた。だから、いつもはそんな誉め言葉でも少し不快だったわ。
でも、その時の私にはそんなこと全く気にならなかった。ただ、この魔法でどのように工夫すればいいか。どうすれば父親に振り向いてもらえるくらいの才能を示せるか。ただそれだけだったの。
果たしてその為の才覚は十二分にあったわ。頭の中に勝手に思い浮かんでくる使い方。例えるなら天の啓示のように、ぱっと降りてきた。
「『氷結』」
生成した水が瞬く間に凍る。私はそれを、砕いて破裂させた。部屋に散らばる氷の残骸を見て、成功を悟ったわ。
「そ、そんなことまでもう出来るんですね」
教師の怯えたような表情と、少しの怒り。この時、私は嫉妬という感情を知ったわ。でも、上手くいったことが嬉しくて、これで父親に認めてもらえる。なんて場違いなことだけ考えていたの。結局その日の成果ウキウキで報告したら、化け物を見るような目で見られただけなんだけどね。
「なんでこんなこと今更思い出したのかな」
レン達の試合が始まる直前、彼らの姿が少しだけ見えて緊張している様子だったからかもしれない。
「どうしたのフィア? もしかして……フィアまで緊張してるの?」
こちらをからかうような表情で見てくるノエル。いつもこの調子なんだから、私にとっては話しやすいというか、接しやすくて楽だわ。
「うるさいわね。いいでしょ別に」
「ふふふ、そうだね。…………あ、もう始まりそうだよ。あの人、何してるのかな?」
レン達とは逆側から、堂々と相手が歩いている。私も結構試合観戦もしてきたけど、そんなことをする人はあまり見たことがないわ。何が目的なのかしら。
「うーん。何か話してるみたいだけど、聞こえないね」
そうして様子を見ていると、すぐに局面は動いたわ。レンが姿を現して、そして魔法で集中砲火される。私はレンが上級生という事しか知らないけど、どうにかするのだろうとは思っていたの。
見逃さないようにじっくりと集中する。すると、空間の歪みが見えた。レンのいる場所がブレて見えて、次の瞬間にレンの姿が消え失せる。
「何あれ? 分かる?」
ノエルは私なんかよりずっと魔法に詳しい。それはこの学校の理事長の娘というのもあるし、小さいころからこの学校で試合をよく見学していたみたいだから、知識面が深いのだと思う。
でも、そんなノエルでもよく分からなかったようだった。
「私も見たことないと思う。何だろ……」
そうしていても試合は進む。消えたはずのレンがそこらかしこから現れて牽制の魔法を放っているのが見える。今のところ、状態は拮抗していると思う。
そしてしばらくそんな風に時間が進んでいって、とうとう焦れったくなってきて相手が動き出す。私もわかるわ。ああいう小細工を見ていると吹っ飛ばしたくなるのよね。
二手に分かれて挟む作戦のようで、それをレンたちも素早く察していた。一方を待っていたとばかりに攻撃する。
今度は、さっきのレンが消えていたように、レンの放った火の魔法が消えて、相手の後ろに現れる。もちろん意表を突かれて直撃していたわ。
そのままもう一方の方にも接敵していく。まだわからないけど、作戦通りなら順調なのでしょう。相手のリーダーが魔法を放った後、緊張しながら見ていて、私には何となくわかったことがある。
「多分、さっきのやつとかも含めて、サラが何かしているんだと思うの」
相手の切り札だろう魔法に向かって集中しているサラを見ていると、そう思えた。
「なんでそう思うの?」
「それは……何となくよ」
こういうところで、私は言語化するのが苦手だわ。それをノエルは笑う。
「何となくね…………やっぱりフィアは面白いなあ」
恥ずかしいけど、何となくとしか言えないのだからしょうがないじゃない。まあ、いつもの事なので放って置いて、私は試合を見守る。
サラの顔を真っ直ぐ見るのは久しぶりかもしれない。初めに会った時は、ただの平凡な生徒にしか見えなかったわ。レイラ先生も何がしたかったのか分からなかった。でも今、私にとっては少し特別な相手だ。
一度顔を合わせてから、サラの事を知っていくにつれて私は自分が揺らいでいることに気付いてしまうの。才能がないのに必死で努力して、それでいて魔法に対する憧れ。そんな姿を見ていると、私が才能に甘えているような、そんなサラに対しての負い目がずっと消えなかったわ。
だから、ずっとその努力が実って欲しいと思っていた。そうすれば未練が消えるような、そんな気持ちだったの。
私の予想通りに、サラが小さく詠唱を口ずさむのが見えた。
「…………凄い」
そう呟いたのは私だったかノエルだったか。敵のリーダーの魔法は、確実に弱い魔法ではなかったわ。質量、速さ。殺傷力。全て高水準だったように思う。でも、サラはそれを全て消して、相手に返したの。
その姿は、間違いなく特別な魔法使いだった。
「良かったわねサラ。あなたは特別よ」
安心と喜びと、何より、その楽しそう顔が羨ましかった。




