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 こうなる気はしていた。サラ一人の魔法で全員倒せるのが最善だとは思っていたけど、相手チームを調べる段階で、サラの魔力切れが先に訪れてしまうかもしれないとは考えていた。


 そうなった時、チームのメンバーが二人しかいない以上僕が戦う必要があった。魔力量が少ないので、正面から一対一で戦えば必ず負けてしまう僕が。


 前のチームでは、そんな状況に絶対ならないように作戦を立てて、実際に僕が戦うことはなかった。でも、それではいけないことも分かっていた。間違いなくそれはチームの弱点になり得るし、何より僕がその状況を許せなかった。


 だから、なんとか魔力量の低さをカバーしなければならない。それはずっと思っていたことだった。




 ボロボロの体を引きずりながらも現れたグラクの目は、何故か一層強くこちらを睨んでいた。どこからその力が湧き出てくるんだ。


「ははははは。とんでもない魔法があったもんだ。どんな原理かは知らねえが、俺の魔法が自分に帰ってくるとは。笑うしかねえよ……」


 すぐそこで息を整えているサラの魔力が、既に切れていることを知ったのだろう。グラクは笑いながら話し始める。僕の欠陥を知っている以上、脅威はもうないと考えているに違いない。


「今度の寄生先も極上の天才だなレン。一年目でこんな魔法が使えるなんて間違いなく化け物だ。全くこの学園に相応しい生徒だよ…………。そして、俺はそんな奴らが大嫌いだ。才能があるというだけで他人を踏み潰していって、他人の事など気にしちゃいない。簡単に蹴散らされていく奴らの事なんか考えたこともないんだろ?」


「そ、そんなことはありません」


 立っているだけで精一杯のサラが答えるが、それを全くグラクは聞いていない。僕が思うに、誰かに尋ねているというより、自分に対して言っているような、そんな独白のような言葉だった。


「だけど、それはまだ許せた。……許せなかったのはレン、お前だよ。才能もねえ癖に上に登っていくお前を見ていると、俺が努力不足だと言われているような気分だった。そんな惨めな奴の気持ちを考えたことあるか?」


 それが、グラクが僕を異常に憎む理由。そして、大半の僕を嫌う生徒の声だったのだろう。だけど――


「最初に言ったよね? 僕はどうしても上に行きたかった。だから必死に努力した。それが全てだよ。君は諦めて自分を肯定していく道を選んだ。違いはそれだけだ」


 グラクがどうしてFランクに留まり続けるのか、今の会話で分かった。それは、諦めだったのだろう。上に登れば負ける。それが分かっていたから、勝てるところでずっと居たかった。弱いカテゴリだとしても、負けるよりはましだと。才能のない奴らの中では一番だと、自分を肯定したかったのだろう。


 誰だって、先がどうなるかは分からない。努力が報われないのが怖い。それでも、僕にはどうしても叶えたい願いがあった。その違いだ。


「それは正しいんだろうよ。だが、今そこの天才は魔力切れ。お前ももうほとんど残っていないんじゃないか? この恨みは晴らさせてもらう。お前に勝つことでな……」


 そうしてもう一度グラクは魔法を放とうとしている。絶体絶命。外野の観客からはそう見えているかもしれない。




 この学園の試合に置いて、魔法を補助する道具の使用は禁止されていない。杖を使ってイメージを補強したり生成範囲を伸ばしたりする人は、偶にいたりする。


 だから、僕はずっと探し続けていた。魔力の少なさをどうにかする道具を。最初に考えたのは、魔力を何とか外から持ってくることは出来ないのかという事だ。だが、それが難しいことは調べていくと直ぐに分かった。人によって魔力の性質というものは違う。それが適性に影響したりすることからも明らかだった。


 そこで考えたのは、僕の魔力をどこかに保存することは出来ないのかという事だ。魔力を保存して貯蓄することが出来れば、一気に消費することで魔力問題を解決できる。果たしてその発想は、正解だった。見つけるのに時間はかかったが、最近ようやくそれを手に入れる事が出来た。


 その保存できる物質こそが魔法石だ。ポケットに入れて持ち込んでいた魔法石を手に握る。貯めていた魔力は、大魔法を数十発撃っても無くならないだろう。


「死ね。レン」


 先程と同じような火の魔法。大質量の炎が僕に向かって飛んでくる。それに向かって僕は迎え撃つ。


『座標確定』『範囲確定』『属性――水』『生成』


 同じくらいの水の大魔法を使って、相殺する。こんな魔法の撃ち合い。どう考えてもFランククラスの戦いではない。


「何が起こった?お前にこんな大魔法を撃てるはずが…………」


 グラクは予想外の事実に驚愕している。相殺されたことがよほどショックだったのだろう。だが、僕に勝ちたいという思いが上回ったようで、直ぐに体勢を立て直す。


「まあ今のが最後の足搔きだろう。……これで最後だ」


 僕の水魔法が一気に蒸発したせいで、視界は悪い。グラクは薄っすらとしか僕が見えていないだろう。そこに向かって魔法を放とうとする。


 だが、そうはさせない。


『座標確定』『範囲確定』『属性――風』『生成』


 風を起こして水蒸気をグラクの方へ飛ばす。そして、それがグラクを囲んだところで、僕はもう一度魔法をかける。


 客席で、レフィアは見ているだろうか。


『属性――水』『氷結』


 水の温度を一気に下げて、グラクごと凍らせる。氷柱の中に囚われたグラクはたちまち身動きが取れなくなって、低温の空間でそのまま思考する力さえ奪う。それが僕の作戦だった。


 これでようやく終わり。そう思った瞬間の事だ。


「俺は、負けねえ! 『座標――確定』『範囲――確定』『属性――火』『生成』」


 動くことすら出来ないはずなのに、グラクは詠唱を始める。詠唱をわざわざ唱えるということは、いつもの魔法を使うわけではないということだろう。何より、どこに生成するつもりだ。周りは氷で覆われていて、生成できる隙間なんてないはずなのに。


 驚いた一瞬の隙に、グラクの魔法が発動する。


「うおおあ!!」


 生成した場所は、なんと口の中だった。小さな隙間から吐き出された火の魔法で、氷が溶ける。


 もう一度凍らせようとしたがもう遅かった。グラクはフラフラの足で、水の空間を抜ける。既にあちらも魔力切れが近くなっているだろうが、警戒していてさっきの手はもう通用しないだろう。


「はあ、はあ…………仕切り直しだ」


 フラフラになりながらも僕を睨んでくるグラクを見て、僕はなんだか楽しくなってきてしまった。これまで後方から指示を出したり、作戦を考えたり、小さな魔法で援護したり、そんなことしかしてこなかった僕にとって、これは初めての魔法による一対一の真剣勝負だ。


 魔法とアイディアのぶつけ合いがこんなに楽しいものだったなんて、思わなかった。こちらの魔力はまだまだある。だから負けることはもうないだろう。それでもこの高揚が抑えられない。


『属性――影』『生成』 『属性――雷』『生成』

『属性――木』『生成』 『属性――鋼』『生成』


 これまでたくさんの属性の魔法が使われている姿を見てきて、ただそれが羨ましかった。僕だって使えるのに、魔力量による制限で自由に使うことが出来ない。そのストレスが、無意識に溜まっていたのかもしれない。


「は? 適性のない属性をそんなに早く生成できるはずがねえ。それに、別属性を同時使用だと? そんな高等技術、お前にできるはずが……」


 その疑問に対して、正直に答えた。


「僕は適性や制御に関係なく、魔法を失敗したことがない」


 もしかしたら、全ての属性に適性があるのかもしれない。魔力量、僕の欠陥はそこだけ。しかしそれが致命的だった。どれだけの属性に適性があっても、強力な使い方なら魔力量が必要だ。逆に言うとそこを解決してしまえば、僕は魔法使いとしてかなり高レベルにあるだろう。それこそSランクに至るほどに。だからこそ目指し続けた。挫けたくなかった。


『ベクトル確定』


僕の魔法が一気にグラクの元へと飛んでいく。その速さは躱せるようなものじゃない。直撃してグラクが吹き飛んでいった。後ろの壁にぶつかってそのまま気絶する。


そうして、僕らのチームでの初めての試合は、勝利に終わった。


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