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試合当日、僕らは会場の控室で始まるのを待っていた。


「緊張します……。何か、気を紛らわせるような話をしてくれませんか?」


僕も初めての試合は緊張した。サラはこれが初めての試合だからしょうがない。それにサラは退学が賭かっている。緊張を無くすのは無理な話だろう。


「じゃあ、今日当たる敵チームのおさらいでもしようか」


それでも何かしていないと不安だろうし、復習でもしていよう。


「リーダーのグラクさんを含めた四人チーム。主要属性を一人ずつで分け合う形の構成でしたよね?」


「うん。それで、特に気を付けるべきはグラクが使う火の魔法。僕と同じ三年生。つまり退学にならずに二年間耐え続けた功績は伊達じゃない。Eランク、いや下手したらⅮランク級の実力はあるかもしれない」


僕は初期の頃の彼しか知らないが、決して弱い魔法使いではなかった。サラはその話を聞いて、頭を傾けている。


「私、それを聞いて疑問に思っていたんです。そんな実力があるならなんで引き抜かれたりしないんだろうって……」


「僕も詳しくは知らないけど、話自体はあったらしい。でも、全部断ってFランクに留まり続けているみたいなんだ」


さらに、試合による昇級をわざと避けているような節さえあった。そんな彼らを見て、僕らの学年の間では、上に行くのを避けて新入生を退学にさせるのが好きだとか、そんな噂が流れていた。


「そんなことをして何の得があるんでしょう?」


「さあ。そんな深い事情は、嫌われている僕にまで回って来なかったよ」


グラクは僕に対する恨みがかなり深そうだった。そこから何か考えて行けば分かるかもしれないが、特に興味はない。


「それに、試合にはそんなこと関係ない。だからサラは精一杯するだけでいい。最初だし複雑なことは考えなくていいよ。ただできる事をやる。それが難しいんだけど、頑張ろう」


「はい」


そうして話していると、直ぐに時間はやってきた。






その場所に入った瞬間から、試合は始まる。開戦の合図などはない。試合を始めるよう係の人に促されて、僕らはそこに入った。


闘技場には、いくつか遮蔽物として岩が置かれている。だからまだ敵の姿は見えないが、すでにグラク達もいるだろう。人数の都合もあって僕らから仕掛けることはしないけど、いつでも動けるように準備だけしておく。


しばらく様子を見ていると、相手側からグラク達が堂々と歩いてくるのが見えた。どういうつもりだ。


「おいレン。始める前に少し話そうぜ。……まあそっちは姿を見せなくてもいい。俺が一方的に言いたいことを言わせてもらうだけだ」


四人で集まって、中央からそう呼びかけるグラクに、他意があるようには見えなかった。


「俺はよお。上に行くべき人間と、下にいるべき人間がいると思ってる。才能の差異による区別。それはなくてはないものだからな。……だが、お前はこっち側の人間のくせしてのうのうと上に行きやがった。俺は心底憎かったよ。これを嫉妬と言ってもらっても構わないが、俺はお前をぶっ倒すこのチャンスに感謝してるんだぜ」


その言葉に僕は我慢できなくなった。一つだけ、許せないことがある。


「僕が、何の努力もせずにAランクまで上がったと思ってるのか? そんなわけないだろ? 僕が一番努力した。それだけは胸を張って言える。……だから、今回もお前に負けない」


「うるせえ!行くぞお前ら」


僕が姿を見せたから、グラク達から魔法が飛んでくる。主要四属性の一般的な攻撃に使う魔法だ。それを見て、僕はサラに指示を出す。


「作戦通りに……」


「はい!」


返事をした後、サラは空間魔法を発動する。まずは敵の分断。空間魔法による攻撃は初めが大事だ。絶対に予測がつかない一回目。そこで勝負を決める必要がある。だから、まずは逃げる必要があった。


空間の交換による場所移動。それによって僕たちは、グラク達の前から瞬時に姿を消して魔法を避ける。


「どこに行った?」


案の定僕らを見失って、探し始めた。だが、四人は固まって移動している。言葉は荒々しいが行動は堅実気味なようだ。


「僕が撹乱するから、危なかったら救助頼む」


「分かりました。まだまだ魔力量はあります」


空間魔法は強力なだけあって魔力消費が激しい。逐一の報告がありがたい。


僕だけが姿を現して、魔法を放つ。このくらいなら僕の魔力量でもまだ大丈夫だ。


『座標確定』『範囲確定』『属性――火』『生成』『ベクトル確定』


二、三発撃ち込んだ音で、相手にも気付かれる。


「そっちか。相殺しろ!」


「了解」


グラグの仲間が使う水の魔法で、容易く迎え撃たれて僕の魔法が相殺される。ただ想定内だ。こんな魔法でやられるような相手じゃないとは分かっている。


「サラ、もう一度お願い」


僕が言う前に、サラはすでに準備を終えていた。また、僕らはグラク達の前から消える。


「またか、なんだありゃ…………」


そしてまた、僕のみが顔を出して魔法を打つ。


「くそっ……小賢しい。二手に分かれて挟むぞ」


ようやく思い通りに動いてくれた。僕たちはグラクと別れた二人組を狙い撃つ。


「準備は出来てる?」


「いつでも行けます!」


その返事を聞いて、僕は先ほどと同じように魔法を二発放つ。


『座標確定』『範囲確定』『属性――火』『生成』『ベクトル確定』


それを見て、狙った二人が相殺しようとする。


「その程度で殺れると思ったか?」


そうして相殺の為に魔法を使った瞬間。サラの魔法によって僕の放った火の玉が消える。


「何? 消えた?」


次の瞬間、敵が警戒していない後方から火の玉が飛び出す。


「上手くいきました」


サラの成功宣言とともに、僕が使った火の玉が炸裂する。


「は?」


戸惑っている間に、二人はあっけなく戦闘不能だ。残りはグラクを含む二人。


そして、僕の魔法の音を聞きつけてグラク達がやってくる。


「ちょこまかと動きやがって…………これで終わりだ」


その魔法で決めてくることは分かっていた。グラクが前に手をかざして、来るのは大質量の火の魔法。さっきの僕の魔法とは違って、炸裂させることが目的ではなく焼き尽くす為。そんな殺傷性の高い魔法だ。


もちろん育成学校を謳っている以上、この学校の低ランクで殺傷性の著しく高い魔法は使用禁止だが、そのギリギリラインをグラクは長年低ランクにいたから分かっている。


つまりFランクではありえないほどの火力を持つ魔法ということだ。


「落ち着いてサラ。することはさっきと同じだから」


僕はサラの肩に手を置いて支える。同じとは言っても、空間の範囲が広くなる以上難易度は上がる。それに、焦りもするだろう。失敗したら僕たちは丸焦げだ。


「行けます。私はレンさんが信じてくれるなら、勇気が無限に湧いてきますから」


その表情は自信に満ち溢れていて、僕も誇らしくなった。


「俺が退学させてやる。目障りなんだよお前は!」


放たれた魔法は、凄いスピードで僕らに直進する。サラは、焦りをもう表に出していなかった。


空間魔法が発動して、これまで見た中で最大の空間が歪む。そして、グラク達の上に魔法を返した。


「は?何が起こった?」


消え失せた自分の魔法に理解が及ばないようで、グラクは驚愕を隠しきれていない。これは決まったかもしれない。


そのままグラク自身の魔法が地面を抉る。予想通りの高威力だ。


「はあ、はあ…………魔力がほとんど無くなりました。……やれましたかね?」


サラは既にやり切った様子だった。あれほどの空間魔法となると魔力消費も激しい。仕方ないだろう。けど――


「まだ、終わってないと思う」


僕は、魔法が当たる瞬間をよく見るようにしている。それは勘違いしてはいけない所だからだ。そして今回、僕はグラクを仲間が突き飛ばすのが見えた。咄嗟に気付いてグラクを助けようとしたのだろう。巻き込めたかは五分五分くらいだ。


そして予想は当たって、魔法によって出来た煙の中から、その男は現れた。



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