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「フレン……構えろ。来るぞ!」
レオンさんに注意されて、私はようやく意識を試合に向けることが出来た。Aランクのリーグ戦。今期の私たちの第一試合。そんな大事な試合だというのに私はいまいち集中することが出来ないでいた。
その理由の一つが、この試合に対する不安だった。新しいメンバーを一人加えて挑むこの試合。私たちは気合を入れて練習していたのだけれど、あまり噛み合わなかった。何度しても上手くいかないので、レオンさんはそのことに怒ってしまった。作戦もろくに考えず、そのままいつも通りに行こうとしか私は言われていない。どうなってしまうのでしょうか。悪い予感がして仕方がなかった。
早速敵チームの一人が攻め込んでくる。おそらく撹乱目的だ。Aランクともなると生成のスピードが段違いに早い。調べておいた情報からするとあの人の適性属性は雷。早く対処しないと一気にやられる。
でも、こちらもここまでは読み通り。詰め寄ってきた相手に向けて、何発もの火の玉が飛んでいく。私は着弾していくところを見ていたけど、命中はしていなかった。相手が後ろに退避していくのが爆風に紛れて見えた。今は遮蔽物の裏で仲間の元へ戻っているでしょう。
「あたしが時間を稼ぐから、フレンはなんとか隙を作って。いつも通りやれば勝てるわ」
私にそう声を掛けてくるのは姉様だ。先程の姉様の魔法は良いタイミングだったと思う。調子も悪くはないみたいで良かった。
常人離れした魔力量と生成速度。そしてそれを生かした相手魔力量を減らすための牽制と守備。それがこれまでやってきた姉様の役割だ。時にはそのまま一気に押し切れてしまうこともあるくらいに姉様の才能は凄い。
対して私の役目は隙を作ること。つまり相手の守備を崩すことだ。魔法の試合においても人数有利というものは圧倒的なアドバンテージを作り出す。遠くから一人を戦闘不能状態に追い込んだり、相手チームの要を封じ込む。それが私の才能を生かせる場所だった。
そしてもう一人。ついほんの少し前までは指示を飛ばすリーダーがいた。的確な指示と視野の広さ。さらに魔法知識の深さで、私たちのチームをまとめる役目だった。今は、レオンさんが新しい作戦を決めるまで適当にその役目を新しく入った人に与えている。でも、その実力は雲泥の差だ。
「ごめんレオン。一人抜けた! そっちでフォローして!」
こうしてトラブルが起きる原因も、リーダーがいなくなったからだと思う。
「おい! 指示をしっかりしろ! 今のはお前が原因だぞ! ……ちっ。あの無能だって出来てたってのに……」
「ごめん……」
試合中にも関わらず新入りを怒鳴るレオンさんの姿が私は見ていられなかった。前はこんなことなかったのに。
レオンさんは怒声を発しながら、素早くフォローに回る。こうしたことも、最後の詰めを任されたレオンさんの役目だった。しかし、相手もさすがのAランク。なかなか思い通りに行動してくれない。レオンさんの方なら崩せると踏んだのか、そこを一点突破するつもりのようだった。
今は姉様がなんとか踏ん張って魔法の打ち合いで拮抗出来ているけど、私が自由に行動しているから人数不利ではある。いつ崩れてしまうか分からない。急がないと。
「フレン! 早くしてくれ……俺ももう持ちそうにない」
焦っているレオンさんを見て、私は即座に魔法を使用する。
『座標確定』 『範囲確定』 『属性――光』 『生成』
それは私がリーダに教えてもらった稀属性の魔法。これを遠距離から当てて流れをこっちに戻す。
『ベクトル確定』
心の中での詠唱が終わり、私の魔法が飛んでいく。細長く尖った光は、レオンさんが相手している一人に命中するはずだった。
「ふはははは。来ると分かっているものを躱せぬ道理はなし。こちらがお前たちのチームを調べていないとでも思ったか?」
「ありえない。光だぞ! 躱せるはずが……」
その言葉は私よりも先に、間近で見ていたレオンさんの口から出た。私も信じられない。こんな事今までなかった。見てから避けるなんて事は不可能だ。つまり、私の魔法が発動する前にどこにくるか読み切っていたということになる。そんなことが可能なのでしょうか。
そして、流れは一気に相手に渡ることになる。
「これで一人っと……」
気付いたら奇襲されていて、後ろで新入りの人が倒れていた。いつの間に。姉様の包囲を気付かれずに突破するなんてあり得ない。
そうは思っても、現実逃避している暇はない。私は急いで、もう一度魔法を使おうと準備する。
「この距離なら僕の方が早い。もう無駄だよ。後……レンはどこに行ったの? もしかして僕たちを舐めて欠場? そんなことある?」
そうして、私に魔法が飛んでくる。早すぎて何の属性かも分からなかった。
大きな歓声の音が聞こえてくると共に、私の意識が暗闇に落ちていくのを感じる。こんなことになっても考えるのは、もしリーダーがいてくれたのならまだ立て直せたんじゃないか。なんて無責任なことだった。
私はフレン。臆病者のフレン。
いつも、私は自分で何かを決めることが出来ない。レオンさんにリーダーの話をされた時も、本当は反対したかったけどそう言うのが怖かったから、姉様に全てを委ねた。リーダーなら許してくれるなんて馬鹿なことを考えて。
結果的に起こった事は、私の想像を超えて決定的な別離だった。リーダーが私達のチームの核だったから、すぐに変化は現れた。練習は上手くいかないし、私はレオンさんがさらに怖くなった。
リーダに帰ってきて欲しい。そんなことを思って訪ねた時の事が、ずっと夢に出てくる。リーダーはもう立ち直って、それでいてすでに私たちとは別の方向を向いていた。その事がどうしても認められなかった。だからあんなことを言ってしまったのだ。
間違いなく、誰が見てもこちらが悪いのにリーダーを責めて、そして反論されて私はどう答える事も出来なかった。無様で、みっともない。本当に役立たずだったのは私だ。
「フレン、起きた?」
姉様の姿が見えたことで、私は自分の意識が回復したことを認識した。
「試合は惨敗だったわ。あたしもレオンもあの後一瞬でやられた。やっぱりAランクは厳しいわね……。反省会をするから、歩けるくらいに回復したらいつもの場所に来てね」
「分かりました……」
私に必要事項を伝えて、姉様は足早に去っていった。姉様も悔しかったのでしょう。表情は辛そうだった。そして、姉様が部屋を出て行ってすぐの事だ。
「俺たちは無能を追い出して強くなっているはずだ! こんなところで躓くはずがない! 今回は新入りを上手く組み込めていなかったからだろう!」
レオンさんが部屋の外で怒っているのが聞こえる。話し相手は姉様だと思う。もう動けるけど、怖いからここでレオンさんが鎮まるまで待っていよう。
そこからしばらく経って、私も部屋を出て約束の場所に向かう。試合会場に併設されている保健室。そこが私の寝かされていた場所だ。
入口近くまでたどり着くと、嫌でも張り紙が目に入った。私たちのチームの場所に、負けたことを示す黒星が見える。負け。それ自体は初めてではないけど、こんな惨敗は中々経験したことが無かった。どうなっていくのでしょうか。先行きが不安なこともあって、私は元気になれる気がしない。
そういえば、リーダーが新しいチームを作ったと言っていたような気がする。そんなことを思って探すと、やはりFランクの試合予定表にレン、とリーダーの名前が書かれているのを見つける。試合日程は近い。この日なら私は何の予定もない。
良いことを考えた。レオンさんたちも連れてリーダーの試合を見に行こう。外から客観的に見ると、レオンさんもまた考えが違ってくるかもしれない。そして考え直してくれたなら、謝罪してもらってリーダーに戻ってきてもらおう。
それが、今の私に出来る最善だと信じて疑わなかった事を、私は後々後悔することになる。
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