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 次の日、サラとの練習を終えて僕らはとある場所に向かって歩いていた。ここまでの間に、昨日聞いた事情はそのまま話した。そして、サラがどこまで考えているのか知りたかった。


「僕はそんな話をされたんだけど、サラはレフィアがどうしてチームに入らないか知ってたの?」


「なんとなくは、察していました。レフィアさんの話は学年中で飛び交っていましたから。それと、同居してるってどういうことですか? そんな話聞いてないんですけど……」


 そこに食いつくのか。なんだかサラが怖い。


「いや、別に変なことはしてないから、落ち着いて」


「そうですね。私にレンさんを縛る権利なんてないですから…………。気にしないでください」


 一人で勝手に落ち込み始めた。僕にはよく分からない。


 それにしても、ノエルとレフィアの関係は分かったが、レフィアとサラの関係は今でもよく分かっていない。レイラ先生の元で、一緒に面倒を見てもらっていたのは分かるけど、そこからは全く知らない。


「サラにとって、レフィアはどんな存在なの?」


 思い切って聞いてみると、サラは不思議な表情になった。


「一言で言い切るのは難しいです。最初の方、まだ話をしたことがない頃は憧れでした。遠くから見ていても、レフィアさんは凄い魔法使いでしたから。私もあんな風に魔法を使いたい。そう思ってました」


「今は違うのかい?」


「今はもっと複雑な気持ちです。まだレンさんに出会う前の私は必死でした。レイラ先生に気にしてもらえるようになって、いろいろな方法で魔法を使えないか試すんです。一度も成功はしませんでしたけど……。その頃にはレフィアさんと知り合っていてアドバイスも貰いました」


 こう聞くと単純なように見える。普通に姉妹弟子のような感じだったんじゃないだろうか。


「それで仲良くなったと」


「仲が良いかどうかは私にも分かりません。でもそうやって努力している私を見て、レフィアさんは無意識に羨ましがっていたと思います。それはその時の表情だけで簡単にわかりました。だから、私は彼女に魔法の道を進んで欲しい。私と同じように魔法を好きで、その楽しさを知っているでしょうから……。それと、少しの悔しさもあったかもしれません。だってあんな才能があるのに、魔法をもう使わないなんて言うんですから」


 これがサラのレフィアに対する気持ち。レフィアにはサラが、なんのしがらみもなく魔法を探求できる人に見えていたのかもしれない。どちらが辛い境遇なのかを僕に比べることは出来ない。


「僕も同じ気持ちだよ。だから、聞いて欲しいことがあるんだ」


 そして僕は考えていたことを話した。今から見に行く対戦表。そこに乗っている相手との試合を、レフィアを魅了するような、そんな素晴らしいものにしようと。


「それが一番の解決方法だと思う。サラはいいかな? 僕らの退学を賭けた戦いなんだけど、こんなことに利用して」


「良いも何もないですよ……私だって同じ気持ちでしたから。それに、レフィアさんに私の魔法を見せるのが楽しみです」


 笑顔でそう答えてくれる。サラが仲間になってくれて、本当に良かった。




 試合が行われる会場は、寮や授業を行われる教室、また練習室からも少し離れたところにある。そしてその会場はとんでもなく巨大な建物だ。外から中は見えないけど、中にはいくつも試合をするための部屋があって、観客席まで用意されている。戦う領域との間には透明な特別製の壁が貼られていて危険性はない。


上位のランクの試合は毎試合がほとんど満員になるくらい人気だ。そのくらい見ていて面白い。僕も見学するのが好きだった。


この学校全体で見ればチーム数は多いし、試合は毎日やっている。今も、どこかのチームが戦っているだろう。外からでも、少し歓声が聞こえる。Aランクの有名なチームが戦っているのかもしれない。


「ようやく着きましたね。どこで見れるんですか?」


 試合がどこで誰と行われるか見るために、僕らはここまで来ていた。


「入ったら最初にある部屋だよ。とりあえず行こう」


扉を開けて中に入る。そこには先に進む通路と、壁には大きな張り紙がある。


「左の張り紙が上位のランクの対戦表と結果。右が下位のランクのものだね。これから何度も見に行くことになると思うから、よく覚えておいて」


「はい。それで私たちは…………」


もちろん僕たちは新しく作ったチームだからFランク。つまり右端の方にあるだろう。


「ありました。えっと、対戦相手のリーダーの名前は――」


基本的にリーダーの名前だけがチームの名前として記載される。そのリーダーが知っている人だと情報的に有利だと思ったけど、この時期のFランクとなると新入生が多くを占めていて知っている人の確率は低いだろう。そう思っていた。


「グラクさん?だと思います。知ってますか?」


予想は外れて、グラクという名に僕は覚えがあった。それも最悪な方向で。そして、僕がそれをサラに言おうとした瞬間だ。


「レン、奇遇だなあ。俺だ……グラクだよ。覚えてるか? ……まあ、天下のAランク様は俺ごときのことは覚えてないか。……ってあれ?今はFランクだったか?」


最後に嘲笑しながら、嫌みったらしく声を掛けてきたこの男がグラク。僕と同じ三年生だ。グラクはきっと僕が追い出されたことを試合相手を見ることで知ったのだろう。そして、僕にわざわざ嫌味を言う為に待っていたというわけか。


「わざわざ僕を待っているなんて暇な奴だ」


僕の返しにグラクは顔を赤くする。


「ちっ……エリートぶるのはいいがお前ももう俺達と同じFランクだ! 寄生先から捨てられた無能が偉ぶってんじゃねえ」


「レンさんは無能なんかじゃ……」


僕への悪口にサラが反応する。サラは優しいな。その気持ちだけで僕は嬉しかった。


「サラ……いいんだ。言わせておけば」


そんなやり取りを見て、グラクはニヤリと笑った。


「おい。お前が新しいレンの寄生先か? 善意で忠告しておいてやるが、こいつは辞めといた方がいいぞ。なんたって欠陥魔法使いのくせして他人に擦り寄るのだけは上手いチームの癌みたいなもんだからな」


サラは、ついに我慢が限界に達して言い返す。


「あなたに何が分かるんですか? 私はレンさんを信用しています。何を言われても、仲間だから見捨てたりはしません」


「くはは。信用してると来たか。こいつの何を信用してるんだ? 魔法を数発撃つだけでぶっ倒れちまう軟弱さか?」


これ以上聞いているとサラも手が出るかもしれない。それは避ける必要がある。とっとと追い払おう。


「グラク。君だって万年Fランクだし、人の心配をしている場合じゃないだろ? お互い試合の準備もあるはずだ」


「ああそうだな。次の相手は楽そうだって仲間に伝える仕事を忘れてたぜ。じゃあなレン。逃げんじゃねえぞ」


散々煽って満足したのか、僕の言葉に苦い思いをしたのか、グラクは立ち去っていった。


「なんで止めるんですか? あんな奴私の魔法で飛ばしてやれば良かったじゃないですか」


「魔法での戦闘は試合や練習場以外では原則禁止だ。それに、試合前にサラの魔法を晒す必要もない。どうせ戦うのなら公式の場で倒せばいいじゃないか」


「確かにそうですけど…………。レンさんがあんな言われ方しているのを黙って見てられません」


困ったなあ。言ってくれるのはありがたいけど、僕を嫌っている人は多い。特に、僕と同じ年に入った奴らは嫉妬心も凄まじい。こういう事はこれからも起こり得るだろう。だから、その度にトラブルになってしまっては困る。


「僕もあいつらとの試合ではあれを使う。そうなると、ちょっとは見る目も変わってくると思うから、そこまでの我慢だよ」


そうなって欲しいという願望も含めてそう伝える。


「むう……分かりました。そこまでは我慢します」


まだ不満気だけど、一応は治まってくれて良かった。


「よし。じゃあ試合に向けて、作戦のおさらいをしながら帰ろうか」


そうして帰り道を歩き始めた。

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