1.追放
国立魔法学校。そこは、僕が住んでいるラドレイヴ王国の魔法技術を発展させるために設立された教育機関だ。そして、方針は競争こそが人を最も成長させるというもので、生徒達を競わせて強さごとにランク分けする。トップに立っている者には大きな援助を、そして、底辺の落ちこぼれは退学。国がサポートしてるだけあってとても過酷な場所だ。
そんな場所で、僕はAランクのエリートチームのリーダーをやっている。そして、これからも全力で努力して上を目指していく……そのはずだった。なのに、チームメイトの一人が今僕に向ける目線は、これからも苦楽を共にする仲間へと向けるものではなかった。
「レン……今日限りでお前にはこのチームを抜けてもらう」
模擬戦が終わった後、一方的に言い渡されたその言葉に僕は案外驚いたりしなかった。何となく、僕を嫌っているかもしれないとは思っていたのだ。最近は衝突も多くなって、僕の意見も聞いてくれることが少なくなってきた。二年間かけてAランクまで昇り詰めたこのチームは、いつからか僕にとっての居場所ではなくなっていたのだ。それでも、一から自分で作り上げたチームから、こんな乱雑に言われたのはショックだった。四人だけのチームだけど、その分初めは結束力があって楽しくできていたはずだったから。
「それは……もう取り消せないのかな、レオン」
名前が若干似ているとかいうふざけた理由で初めに話しかけてきたレオン。あの頃からレオンは優秀な魔法使いだった。そして、僕が初めて誘ったメンバーだ。その頃を思い出した僕は、少しの希望に賭けてそう聞いた。今ならまだあの頃みたいにやり直せる。
しかし、僕の気持ちは届かなかった。何と勘違いしたのか、レオンは不敵に笑った。
「何を偉そうに言ってるんだ。これまで、温情でお前をこのチームに寄生させてやっていたんだぞ。感謝の言葉をもらってもいいくらいだ」
ああ、確かに僕はそんな風に言われている。優秀なやつらに寄生している口だけのリーダー。自覚はあった。魔力量の少ない僕は、あまり魔法を使うわけにはいかない。だから、指示を出したり、全体から様子を見たりして、リーダーとしての役割は果たしているつもりだった。でも、それは甘えだったのかもしれない。足を引っ張るつもりはなかったけど、レオンにもそう見えていたのが少し悲しい。
「僕がどうだったかはこの際置いておこう。でも、三人でやっていくのは流石に厳しいと思う。どう思ってるの?」
純粋な心配の気持ちから出た言葉だった。レオンだけじゃなくて、残りのメンバーである双子の姉妹にも顔を向ける。名前はフランとフレン。僕らの一個下の学年で入ってきた二人は、僕が見つけてきた逸材だ。僕らなんか比にもならない才能を持っていたけど、その才能を持て余していた二人には、アドバイスもたくさんした。息もぴったりで、二人の連携がこれまでチームを支えてきたのは確実だろう。その二人が、どう思っているのか。それを聞きたかった。
「二人にも話は通してある。優しい二人に縋るのはもう止めにしたらどうだ」
「違う!! ……僕は、素直に二人の気持ちが知りたいだけなんだ」
僕が二人の意見を聞かないと引き下がらないと見たのか、レオンがフランに答えるように目線で促す。大人しい妹のフレンを後ろに、フランが口を開いた。表情から何を言われるのかは予測できなかった。
「確かに、レンには誘ってもらった恩がある。でも、レンが今このチームに役立っているとは思えないわ。もうそろそろあたしたちも決心したの」
断言するその姿を見て、レオンは満足そうに笑っている。後輩からこんなことを言われて、僕は何のためにこのチームの為に頑張ってきたんだろうか。妹のフレンの方は、俯いて顔も見えない。
「それに人数のことももう調整してる。二、三人新しいメンバー候補がいる。お前はもういらないんだ」
なんで、そんなに簡単に人を切り捨てられるのだろうか。僕にそれを伝えてきたことなんてなかった。相談してくれたら、僕も何とかするように考えたのに。こんなの、僕を辞めさせたかったと言っているようなもんじゃないか。
「メンバーの過半数の署名があれば、リーダーだろうが強制的に除名するよう申請できる。自分から抜けてくれる方がありがたいが、俺達はどちらでもいい。期間は今日中にしてくれ」
淡々と言ってくるレオンに、僕がこれ以上食い下がることは出来なかった。もう、修復することは不可能だと、深く理解したからだ。
ああ、この二年間の努力が、こんなに一瞬で消えてしまうのか。僕が作ってきたチームが、こんなにも簡単に崩れ去っていってしまうのが悲しかった。でも、僕が見捨てられるのも仕方ない事なのかもしれない。僕の魔力量は一般の魔法使いに比べてもかなり少ない。だから派手なことは出来ないし、僕が寄生していると批判されることも少なくない。それによってこのチームが悪く評価されることもあるかもしれない。だから、派手な炎の魔法を使うレオンや、圧倒的な魔力量で圧殺するフラン。これからも王道を突き進むであろう三人の邪魔になるくらいなら、このチームがもっと上に行けるように、僕が抜けるのも仕方ない。それが客観的な事実なのかもしれない。
僕の諦める姿を見て、レオンはさらに満足そうだった。
「ふっ……俺達エリートはこれからも忙しい。もうそろそろ帰らせてもらう。無能のお前は、さっさと脱退申請をしてくるんだな。……いくぞ。フレン、フラン」
「ええ。わかったわ」
背中を向けて去っていくレオンに、フレンもフランもついていく。チームの別離を嫌でも分からされた。今は、ショックで何もしたくない。でも……それでも聞いておかなければならないことがあった。僕はレオンが去っていく方向に叫ぶ。
「レオン!! 君は、これからも上を目指すのか? チームをさらに強くしてくれるのか?」
これだけは聞かずにはいられなかった。僕が一から作ったチームをさらに強くするために、辞める。その理由がなければ、僕は正気ではいられない。これから、リーダーはレオンになるだろう。だから、覚悟を聞いておきたかった。
レオンは、僕がまだ声を掛けてくるとは思わなかったのか、虚を突かれたような表情をしている。その後、なぜか表情を曇らせて口を開いた。
「当たり前だ。俺達はSランクチームを目指す。無能を取り除いて、歴史に残るチームになる」
Sランクチーム、それは僕が目指した魔法学校でも伝説扱いされているランク。学校が作られて以来、一チームしか認められたことがない。間違いなく最高のランク。僕だって、これからも目指したかった。けど、もうその夢は断たれた。なら、応援するくらいしてもいいだろうか。でも、レオン達を見るとそのたびに今の苦しみを思い出すだろう。そうなるくらいなら、もうこの学校を去ってもいいかもしれない。相反する感情で、心の中がぐちゃぐちゃだ。諦めたくないという気持ちと、もうどうなってもいいという感情がぶつかり合って、僕はもう立ち上がることもできない。
レオン達は、もう何も言うことはないとばかりに部屋を出て行って、僕の目の前から消え失せた。彼らの前では、こんな状況になってもリーダーをしていた癖で、弱いところを見せられなかった。でも、いなくなったことで一気に悲しみが押し寄せてくる。
「感情のコントロールは上手い方だと思ってたんだけどなあ」
流れ落ちる涙が情けなくて、でも止まらなくて、僕はしばらくそこから動けなかった。
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