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不朽不滅

『フハハハハ、我が筋肉は不朽不滅なりぃーっ! 見よ、このキレ! このカットっ!! このアウトラインっ!!』


 ポージングを繰り返し、ツヤピカの肉体を誇示するキンドレィ。

 さしものミィヤも驚愕していた。


「嘘やろ! 吸血鬼でも余裕でアウトのダメージやったのに……っ!?」

『ふん、愚か者め。あのような攻撃はかゆいだけよ。婦女子のへなちょこパンチなぞ、痛くも熱くも』

「お黙りっ!!」


 低く身をかがめて踏み込み、アリアは全身のバネを解き放つ。

 キンドレィの両足の間に鋭い打撃が炸裂した。


『はおぅっ!? お……あ、が……!!』


 アリアは血を沸き立たせ、これまで以上の火力を放射した。

 高熱の爆炎がキンドレィの股間から脳天までを一直線に焼き払う。


『ぶあちゃあああああっ!? あつ、あつぅ、燃えりゅーっ!!!!』


 両断どころではなかった。

 腰から上を丸ごと焼失し、残されたのは両脚のみ。

 キンドレィは間違いなく死んでいた。


 だがしかし、蘇生は急速であった。

 

 恐るべき速度で欠損した身体が修復されていく。

 完全治癒までわずか数秒。驚くべき事に服まで直っている。


「そんな!? わたくしの最大火力ですのにっ!!」

『ハーッハッハッ、どんな怪我でもたちまちパンプアープッ!! だから言ったであろう、痛くも熱くもないと!』

「いや、めっちゃ痛そうやったし、熱い叫んどったで?」


 わざとらしい咳払いで突っ込みをスルーし、キンドレィはアリアに吠えた。


『にしても貴様ぁっ!! 紳士には決してしてはならぬことがあると知れっ!』

「は? してはならぬってどこにですの?」


 ()()に視線を投げられ、キンドレィはすくみ上がった。


『だああああっ、だから股間はやめろ、股間は!! 泣くぞ!!』

「――あなた自身の再生能力じゃありませんわね。肉体の損傷をトリガーに時間を巻き戻す高レベルの呪詛……悪魔に呪いをかけさせましたのね?」


 常識では考えられない完璧かつ瞬時の治癒。

 いや、あれは治ったのではない。()()()のだ。


『クックックッ……我が輩は最初から言っておるではないか。〝復活〟となぁっ!』


 悪魔と契約すればまるで神の奇跡のような事象を行なうことができる。

 むろん、高額な対価が必要だ。魂という対価が。


「阿呆な……んな取り引きで復活しても意味ないやろ! 魂がなくなればどの道、死んでまうはずや!」

『フハハハ、もっと柔軟な発想を心がけるがいい、毛玉よ。悪魔にとって魂は通貨に過ぎん。よってわざわざ己の魂を使う必要はないのだ。支払う魂は他から奪えばいいのだよ、我がスキルによってなぁっ!!』


 スキルの主眼は魂の奪取であり、屍鬼化は副作用に過ぎないらしい。

 キンドレィの全身が油を塗ったようにてらてら光る。スキル発動の予兆のようだ。


『では見せてやろう、ドレイン――』

「――させませんわっ!!」


 とっさに放った拳は空を切った。

 のみならずキンドレィは信じがたい身軽さを見せ、アリアの背後を取った。

 

『フッ、愚かな脳筋女め! 教訓を叩き込んでくれるっ!』

 

 対応する間もなく胴をつかまれ、アリアはキンドレィの頭越しに投げられた。


『バロン・ヘル・スープレックス!!』


 だぁんっと床が鳴った。

 後頭部が激しく打ち付けられ、アリアは意識を失いそうになる。

 キンドレィは悠々と立ち上がり、勝ち誇った。


『もはや貴様の動きはばっちりしっかり掌握済みである! あのように雑な攻撃を仕掛けるなぞ、自殺行為も同然と知れ!!』


 どうやらキンドレィはアリアの技を見る為にあえて無防備に攻撃を受けていたらしい。打たれ強く、ダメージからも即座に復活できるからこその戦法だ。


「くっ、生意気な手管を……筋肉ダルマのくせに!」

『減らず口もそこまでよ!! 喰らえ、バロン・ストンピング・スコール!!!!』


 踏みつける蹴りが豪雨のようにアリアへ降り注ぐ。

 身体を丸めて必死にガードするが、防ぎきれるものではない。

 最後に強烈な前蹴りを叩き込まれ、アリアは床を転がった。

 数秒間呼吸が止まり、四肢も痺れしまう。


「……わ、わたくしを足蹴にしましたわね! この支払いは高くつきますわよ……!!」


 舌鋒以上に鋭い眼差し。アリアの心は折れていないのだ。

 しかし現実の不利は明らかであった。キンドレィはアリアの意地を鼻で嘲笑った。


『残念ながら支払うのは貴様らの方だ。みんなまとめてごっそりと魂を奪い、我が輩に忠実な屍鬼(ゾンビ)にしてやろう!!』

「姫様ーっ!!」


 我を忘れてキンドレィに飛びかかるフェリナ。

 だが、武器すらもたない少女が脅威になるはずもない。


「やめてやめてっ! 姫様をいじめないで!!」

『ふむふむ、幼女の身で健気ではあるが……邪魔であーるっ!!』


 小柄なフェリナは呆気なくキンドレィに振り払われてしまった。

 宙を飛び、彼女はバルドの足下に叩き付けられた。


「あうっ!!」

「フェリナっ!! くっ、このっ、よくも……っ!」


 アリアはまだ手足の自由が利かない。

 歯を食いしばり、上体を起すだけで精一杯だった。


「あ……ああ、ひっ、ひやぁああああーっ!!」


 我に返ったのか、バルドは悲鳴を上げて走り出した。

 周囲の避難民達を突き飛ばし、こけつまろびつ礼拝堂の反対側――教会の裏口へ向っている。


『ムリムラムダぁっ!! 我がスキルの有効半径はたっぷり五㎞! 逃れることなど不能不可っ!!』

「ぐっ! お、おやめなさいっ!!」

『フハハハハ、聞けぬな! そおれ、強奪吸魂波(ドレイン・ウェーブ)!!』


 ふぬぅと力を込めてポージング。

 スキルが発動し、おぞましく青黒い波紋がキンドレィを中心に広がる!

 礼拝堂の端まで行ったところでバルドは波に追いつかれた。


「ぎゃああああああーっ!! ああ、あうあああっ!?」


 脚がもつれ、バルドはひざまずく。

 肌が土気色になり、苦しげに喉をかきむしる。


『あおオオ、オおオオあアアー!』


 眼窩が落ちくぼみ、声が獣じみた濁りを帯びていく。

 めきめきと乱杭歯が伸び、指先がドス黒く染まる。


『オオ……オオオ、アガアアア……ッ!』


 ゆっくりと振り向いたモノはもう人間ではなかった。

 理性は消え失せ、脳髄を支配するのは極限の飢えだけ。

 バルドは、屍鬼と化してしまった。


「うわあああっ!?」

「屍鬼だ、バルドの奴、屍鬼にされまった!!」


 恐怖に震える避難民達。

 キンドレィとバルドに挟まれ、彼らはちょうどフェリナを中心に寄り集まる形になっていた。どちらにも逃げられず、互いに身を寄せ合うしかない。


 だが、一番愕然としていたのは当のキンドレィであった。


『んなっ、屍鬼になったのはたったの一人だと!? 何故、他の奴らは無事なのだ!?』

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の人たちは屍鬼にならない……ということは?
[一言] キンドレィ強ッ!!!w どうやって勝てばいいんや!?w 最後の展開に鍵がありそうですが……?
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