ペルスケンとプロセルピナ 絵画における女性美の典型
ルーベンスの「ペルスケン」
ロセッティの「プロセルピナ」
ふたつの絵画について書いた文章です。
テーマは、典型としての女性美です。
03.09記 女性美の2つの典型
ビジュアル的に理想の女性像というものを考えてみたとき、実在する女性以外をその対象としたほうが、私の場合心にしっくりする。
美は様々な態様を取るし、それが感情に投影する場合も、またしかりである。
が、自分の趣味というものを論じるのであれば、何らかの典型は必要であるかと思う。私はその典型として、ここで絵画をあげる。
「ペルスケン」は、画家ルーベンスの2番目の妻、エレーヌ・フールマンをモデルとしている。
ルーベンスは53歳のときに、16歳の彼女と結婚する。
彼女は豊満な姿態を好んだルーベンスにとって、理想的な女性であったと考えられ、 画家の最晩年10年の創作の源泉ともなり、彼女をモデルとした多くの 絵画が残されている。
「ペルスケン」は、中でも最も有名な絵画で、多くの 弟子を使って工房的に創作を行ったルーベンスが、この絵画はプライベートに自らのみが描き、遺言により、妻に残された。
つまり、生前、公開はしなかった 、 ということのようである。
少女というべき年齢で、ルーベンスの妻となったエレーヌであるが、この絵画が結婚初期の、あどけなさが残る年代のものであったとしたら、私が、強く心惹かれることはなかったであろう。
制作年からいって、この絵画が描かれた時、エレーヌ は24歳。
その女性美は完成されたものとなっている(プライベートの場で描かれたという 事情 もあってか、制作年については、1635-1640年と5年の幅をもたせる 資料もあり。むしろこちらが主か。その場合、エレーヌの年齢は21-26歳となるが、そうであっても10代ではない)。
そしてルーベンス同様、タイプとしてはこのような姿態を好む私にとって、 この「ペルスケン」は、理想の女性美を思い描く際の、ひとつの典型である。
「プロセルピナ」は、ロセッティの絵画であり、モデルは友人ウィリアム・モリスの妻、 ジェーン。
ただし、ロセッティが最初にこの女性を見出した時点では、ジェーン は独身であった。彼女は背が高く痩身で、容貌の上でもその時代(19世紀半ば過ぎ:英国)に美人と分類されたわけでもなかった。
しかし、ロセッティは、彼女に、自らが持つ理想の女性美を見出した。
ジェーンは、彼をその代表画家とする、ラファエル前派の美の女神となったのである。
前述の「ペルスケン」を美の典型とするなら、「プロセルピナ」は、相当に異なるタイプである。
しかし、典型はひとつより複数あったほうが、考えが重層的になり、よりよい。
私とて「ペルスケン」タイプの女性のみが 最高と思っているわけではない。
「プロセルピナ」から感じるものは静謐な美。高貴な美。ということになろうか。
ただ、実在のジェーンは、決して上流階級に属する女性ではなかった(ロセッティ、モリス は富裕層の出身であった)。
また彼女の写真は、これまで数葉しか見ていないが 「プロセルピナ」のモデルということを念頭におくと、「あれっ」という感想をもってしまった。
そこから、あのような絵画を描くというところが画家の想像力 ということであろう。
エレーヌ・フールマンについても、現実のエレーヌは、絵画に描かれているエレーヌとは かなり異なっている、という説もあるようだ。
そうであるならば、ルーベンスは 、その現実の姿から、想像により、愛と美の典型を描いたということになる。
現実はともあれ、今、残るのは「ペルスケン」と「プロセルピナ」
私にとって女性美の2つの典型である。それでいい。